夢を見せる魔法   作:二次創作しか知らないフリーレン

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エルフの少女を拾う

 精気を簡易的に回収した妾は、魔力反応を頼りに北門を目指してのんびり歩く。

 まだ距離が遠いので焦ることはないが、立場的にジョージたちも同行することになった。

 

 やがて妾は門の前に到着して目を凝らして遠くを見ると、傷だらけで焦った表情のエルフの女性を確認する。

 さらに背後から攻撃魔法っぽい何かが次々と飛んできていて、まさに絶体絶命の危機と言えた。

 

「放ってはおけぬな」

 

 このままでは、妾が管理している街に被害が出てしまう。

 それと見殺しにすると人間たちの印象も悪くなるため、断じて放置はできない。

 

 そして先頭の一人と後方の三人は豆粒サイズでしか見えないが、自分の魔法は魔力の感知範囲が有効射程距離だ。

 ゆえにこの程度なら、余裕で届くのである。

 

「取りあえず、眠ってもらうぞ。《夢を見せる魔法》」

 

 そう言った瞬間、こちらに向かって走ってきていた四人は意識を失い、バタバタと地面に倒れ込んだ。

 

 距離が遠ざかるほど効果が下がるが、妾は魔力量だけなら最上位といえる。

 まあ運良く格上と遭遇していないだけの可能性もあるけれど、特に問題なく眠りに落ちたので良しとしておく。

 

 

 

 そして、外から衝撃を受ければ普通は目覚める。

 だが今は人間たちの決まり事を守る必要はなく、そのようなセーフティーは全て取っ払っているし、そう簡単には解除はさせない。

 

 四人の意識を繋げて夢の世界を創造し、いくつかの縛りを設ける。

 取りあえず処理が終わったので息を吐き、後ろをついてきている冒険者パーティーと、門番たちに振り向かずに声をかけた。

 

「お主らは、向こうの四人の回収を頼む。

 病院のベッドにでも寝かせておけば良い。

 その間に妾は、事情を聞いておこう」

「おう、わかった! リリーちゃんも気をつけてな!」

 

 ジョージが元気良く返事をしたので、妾は取りあえず近くの岩に腰かけて大きく息を吐く。

 そして意識を集中して、自らが創造した夢の世界を覗き込んだ。

 

 そこは薔薇の花が咲き乱れる、美しい庭園だった。

 春の暖かな日差しが降り注ぎ、中央には大きな丸型のテーブルが設置されており、周囲には椅子が五つ並んでいる。

 

 既に客人が集まっていて、幼いエルフが一人、そして角の生えた魔族の男性が三人座っていた。

 

 この世界の時間の流れは止めているが、最後に妾が席についたことで動き出す。

 

「こっ、ここは一体! 何処なんだ!?」

「くそっ! 体が動かん!」

「どういうことだ! 魔法も使えんぞ!」

 

 案の定、彼らは大声を出して騒ぎ始めた。

 このような行動は予想済みで慣れているため、妾はあらかじめ用意していた紅茶を一口飲む。

 

 そして落ち着いて話を聞くために、呑気に説明を始める。

 

「ここは夢の世界じゃ。ちとわけあって、お前たちを呼ばせてもらった」

「お前の仕業か! すぐに解除しろ!」

「そこの魔族! 我々の同族だろ!

 このエルフを殺すのを手伝え!」

 

 この反応も予想はしていたが呆れてしまい、妾は大きな溜息を吐く。

 そして埒が明かないため、やかましく騒ぎ立てる魔族の口を封じる。

 

 彼らは皆青い顔をして、口を開こうとモゴモゴしている。

 だが縫いつけた唇は微動だにせず、慌てるばかりだ。

 しかし口がなくても鼻で呼吸ができるし、そもそも夢の世界なので死んでも平気である。

 

 

 

 妾は憂鬱になった気分を変えようと、また一口紅茶を飲む。

 すると残る一人の、エルフの子供が話しかけてきた。

 

「お前は魔族だろう? 何故私を助け……いや、本当に助けたのか?」

 

 彼女は強気な発言ではあるが、若干顔色が悪くて少し震えている。

 夢の中なので魔力を感知できなくても、妾のほうが格上だと本能的に理解しているのだろう。

 

 しかし今のところは戦う気はないし、できれば穏便に済ませたいと思っている。

 

「妾は助けたつもりはない。

 人間たちに被害が出そうじゃったので、強引に止めただけじゃ」

 

 逃げているエルフの後ろから、攻撃魔法が撃たれているに見えた。

 放っておくと飼っている人間たちに被害が出るため、夢を見せる魔法で全員を眠らせたのだ。

 

 なので全ては己の利益を守るためで、彼女を助けるとう善意からの行動ではない。

 

「では何が目的だ? 魔族が私を捕まえて、どうする気だ?」

 

 確かに相手が魔族なら、そういう発想になるかと納得する。

 しかし説明が面倒なので、どうしたものかと頬をかいて少しだけ考えた。

 

「どうもせぬ。一通り事情を聞いたあとに、解放するつもりじゃ」

 

 エルフを殺すのは人間の決まり事に反するため、町長としての評価が下がる。

 事情を聞いたあとにはさっさと自由にして、何処かに行ってもらうのが一番だ。

 

「その言葉を信じろと?」

「信じて欲しいとは思っておらぬ。ただ、妾がそうするだけじゃ」

 

 別に彼女が信じようと信じまいと、どうでもいいことだ。

 ただ目の前のエルフを妾が助けたと、周囲の人間たちが知っていれば良かった。

 

 そのことを告げると、彼女は驚いたような顔をした。

 次に真剣な表情に変わって考え込み、再びこちらに視線を向ける。

 

「私の故郷は魔族に襲われ、仲間も大勢殺された」

「妾も魔族であることに変わりはない。ただ、少し特殊なだけじゃ」

 

 魔族は人間を騙したり、襲って殺すことに何の躊躇もない。そして、それは妾も同じだ。

 

 しかし精気を吸い取れば欲求は満たせるので、わざわざ殺す必要はない。

 逆に信頼を得て生かしておけば、定期的に提供してくれるのだ。

 

 それはとても都合が良くて楽なので、誰が見ても理想的な町長を何百年も務めているのである。

 

 だが別にそんな妾も、人を殺していないわけではない。

 妖艶に笑いながら、子供のエルフにそのことを伝える。

 

「ちなみに妾は、毎日人間を大勢殺しておるぞ」

「何だと!?」

「うむ、人間は毎日無数の子種を吐き捨てるじゃろう?

 次世代の命が宿っておるのに、何と勿体ないことか」

 

 人間たちの子種は、体外に出たら死は避けられない。

 あとは内に残したままでも長くは生きられないため、勿体ない精神でこっそり妾が吸い殺している。

 

 そのことを彼女に伝えると、エルフの少女は納得しても何とも複雑な表情をしていた。

 雰囲気的に恐らくは十年そこそこしか生きていないだろうし、まだ性の知識は知らなかったかなと考えつつ、一向に冷たくならない紅茶に再び口をつける。

 

「とにかく、妾は魔族じゃが異端中の異端じゃ。

 人間を害する気は毛頭ないわ。……今のところはな」

 

 この先はわからないが、人間牧場は大量の精気を吸い取ることができる。

 わざわざ戦って殺す必要もなく、逆に守ったり向こうから提供してくれるので、命の危険もなく楽でいい。

 

 ただし信頼関係を築くために理想の統治者として振る舞う必要があるが、魔族は人間を騙すのが得意だ。

 それらしく演じたり知識や技術を理解して修得するぐらい、妾にとっては容易いことだった。

 

 

 

 夢の世界は現実よりも遥かに速く時間が流れていて、妾が止めない限りは外ではほんの一瞬の間に起きた出来事になる。

 

 なのでエルフの少女が長考しても問題はなく、妾は紅茶だけでなく新しくクッキーも創造して、それを齧りながらのんびりと待つ。

 

 

 

 やがて考えたがまとまったのか、彼女は大きく溜息を吐く。

 そして相変わらずモゴモゴしている三人組の魔族に視線を向けて、忌々しそうな表情を浮かべる。

 

 少なくとも彼らと比べれば、妾はまだマシだと割り切ったようだ。

 

「人間の街で暮らしている魔族がいると、噂になっていた」

「ほう、エルフの里にも伝わっておったか」

「ああ、確か名前はリリーだったか?」

「うむ、妾で間違いないな」

 

 他にリリーという名前で、人間と暮らしている魔族がいれば別だ。

 しかしこの辺りでは妾以外には聞いたことがないし、流石に六百年も生きてれば噂が広まってもおかしくはなかった。

 

 そんなことを考えていると、ふと彼女の名前を聞いてないことを思い出す。

 

「そう言えば、お主の名は何と言う?」

「……ゼーリエだ」

 

 彼女との付き合いがどうなるかはわからないが、エルフは魔族と同じで長命な種族だと聞いている。

 たまに顔を合わせる可能性はあるので、名前を思い出せるに越したことはない。

 

「それでリリー。奴らはどうするんだ?」

 

 現時点でのゼーリエへの害意はないと伝わったようで、今度は魔族三人組の処遇を尋ねてきた。

 別に隠すこともないので、正直に答える。

 

「洗脳……いや、改心させる」

 

 最初は洗脳と行っていたが、人間たちのイメージ的に改心と呼称したほうが良いと判断した。

 するとゼーリエは失笑しつつ、続きを話してくる。

 

「魔族が悔い改めるとでも?」

「思うておらぬ。じゃから、妾が改心させてやるのじゃ」

 

 妾が魔族らしいかはともかく、残虐な笑みを浮かべてはっきりと告げたことで、ゼーリエは驚いて息を呑んだ。

 

「意識改革が成されるまで、夢の世界からは出られぬ呪いをかける」

 

 今後、人間のことを学んで食肉衝動を精気を吸うことで代用できるようになるまで、彼らは永遠に目覚めることはない。

 

 第二、第三の妾になれとは言わないが、妾という異端の魔族が生まれたのだ。

 他の者も感情や思考のリミッターをぶっ壊すか上書きすれば、納得はできなくても理解は可能である。

 

「妾以外の魔族も人間と一緒に暮らしておるし、まあ何とかなるじゃろう」

「本当か!?」

 

 ゼーリエだけでなく他の魔族も驚愕の表情を浮かべているが、今の発言は事実だ。

 

 一緒に暮らしても早々問題は起きないと判断して、夢の世界から外に出した。

 今のところは精気を吸うことで人肉と同じような満足感や多幸感を得られていて、魔族の本能を抑制することに成功している。

 

「まあ、たまに精気を吸いすぎてゲッソリしておるが。

 性的に食われる人間は皆幸せそうじゃし、死者は出ておらん。

 問題はあるまい。……多分な」

「……多分?」

 

 ゼーリエはジト目で妾に疑いの視線を向けてくるが、命の危機になったら強制的に眠らせているおかげで、今のところは死者は出ていない。

 魔力と同じように精気も感知できるため、これ以上はヤベエなというのも何となくわかるのだ。

 

 しかし相変わらず、信じて大丈夫かなこの魔族と顔に出ているため、妾はコホンと咳払いをする。

 

「ちなみに妾の次に強いのは、クヴァールじゃぞ。

 彼も今では、人間と仲良くやっておる」

「……はぁ!?」

 

 あの魔族だけ、魔力量が桁違いだった。

 しかし素質はあっても、妾から見ればまだまだ若造だ。

 なお他はどんぐりの背比べなので、順列をつけることはない。

 

 

 

 とにかくこの発言に、ゼーリエだけでなく魔族の三人組も揃って唖然としていた。

 彼がうちに来る前はそれなりに名前が知られていたというのは、本当のようだ。

 

 取りあえず話題そらしに成功し、エルフの少女はガックリと肩を落として口を開く。

 

「リリー。お前は異端だが人間ではなく、やはり魔族だ。

 これまでの言動から、それが良くわかった」

 

 妾は魔族なのは間違いはなく、根っこの性格は何も変わっていなかった。

 しかし必要に迫られれば人間を殺すのは躊躇いはないが、それは向こうも同じだろう。

 

 結局、境界線を決めるのは各々の判断に委ねられており、妾はそういうのは正直どうでも良かった。

 

「では、ゼーリエは妾を殺すか?」

 

 ゼーリエが妾を殺す気なら、街には置いておけない。

 妾は人間牧場の経営を止める気はないので、彼女は追放処分にする。

 

 それでも人道的な配慮を行い、凶悪な魔族から助けたという結果は残るので何の問題もなかった。

 

 ゼーリエは、妾をどうするかをはっきり答える。

 

「リリーは魔族だが、善い魔族だ。

 だから、殺さない」

「はて、善い魔族とは何じゃ?」

 

 良くわからないが、これに関してはゼーリエもわかっていないようだ。

 そもそも善い魔族の例が妾以外にはいないため、説明が難しいらしい。

 

 現時点では生かしておいたほうが、人間やエルフにとっての利益が大きい。

 なので今のところは殺さないだけで、不要になったらサックリ殺ると判断した。

 

 だが妾とゼーリエの魔力は、天と地の差がある。

 十年そこそこしか生きてないエルフの幼女に、まだまだ負けるつもりはない。

 

 それはそれとして、魔族の三人は暴れる可能性があるため更生施設送りだ。

 改心するまでは夢の世界から出られないが、こっちも人道に則って気長に経過を見守るのだった。

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