夢を見せる魔法   作:二次創作しか知らないフリーレン

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魔王がやって来た

 さらに新たな問題は他にもあって、妾の周囲の人間たちが魔族とは共存できるのではと勘違いし始める。

 あっちを立てればこっちが立たずと言うべきか、どうにも上手くいかないものだ。

 

「妾も魔族じゃし、ややこしいのう」

 

 腕を組んで天井を見ながら考えて、やがて思いつきを口に出す。

 

「改心済みの魔族を、今後は夢魔属と呼称するか」

 

 こうすれば人を騙して食べるのは魔族で、精気を吸うほうが夢魔族だと区別できる。

 

 妾が良い案だと満足そうに頷いていると、執務室の扉が開いてクヴァールがノックもなしに来客二名を連れて入ってきた。

 

「すまない。ノックをするべきだったか?」

「構わん。妾とお主の仲じゃ」

 

 他の者なら叱りつけるが、クヴァールとは付き合いが長く気安い仲だ。

 それに余程の急ぎの用なのも、雰囲気的に容易に察することができる。

 

「それにしても、穏やかではないのう」

 

 やれやれと呆れて溜息を吐き、クヴァールと来客二名に視線を向ける。

 

 いつもは冷静な彼が、やけに剣呑な雰囲気になっていた。

 ちなみに、何故かゼーリエも後ろを歩いている。彼女はとても楽しそうな顔をしているので、多分だが部外者だろう。

 

(恐らく、来客二名は大魔族じゃな。

 妾には劣るが女王として、真面目に対応せねばなるまい)

 

 魔力量から考えて、来客は両方とも大魔族だ。

 そして片方は友好的だが、もう片方は明らかに警戒している。

 

「悪いが、場所を変えさせてもらうぞ」

 

 妾は戦闘は苦手なので、決裂すると非常に困るのだ。

 ゆえに万が一に備えて先手を打つべく、さっさと魔法を発動させる。

 

「《夢を見せる魔法》」

 

 周囲の景色が一変し、花盛りの庭園に強制的に移動した。

 実際には妾を除くこの場の全員を眠らせて、夢の世界に招待したのだ。

 

 まあ細かいことはどうでもいいし、これで安全マージンを確保できたので良しとしておく。

 先に四人に椅子に座ってもらい、妾は細かい仕様を設定してから最後に着席し、彼らに声をかける。

 

「何か必要な物があれば、用立てしよう」

「では、紅茶を」

 

 来客のうちの一人が、にこやかな笑顔で頼んできた。

 妾はついでとばかりに人数分の紅茶を、彼らの前に創造して大きな息を吐く。

 

「しかし、客が来るとは聞いていなかったぞ。

 すまぬが、誰か教えてくれぬか?」

 

 妾のことは知っているだろうし、そっちは割愛する。

 それに夢の世界なので、堅苦しくなく気楽にいきたい。

 

 すぐに先程とは違う来客が、堂々とした様子で紹介してくる。

 

「私はシュラハトだ。そして、こちらに御わす方は魔王様である」

「ほう、それまた大物が来たものじゃ」

 

 こちらも紅茶に口をつけながら表向きは平静を装い、内心でヤベーことになったなと驚く。

 

 ちなみに部外者のゼーリエはテーブルに頬杖をついて、妾が円卓の中央に創造した茶菓子のクッキーを勝手に食べている。

 話に混ざる気はないようで、興味津々といった表情で成り行きを見守っていた。

 

 魔王だとわかっても妾がのんびりしているからか、シュラハトが怪訝な顔する。

 

「魔王様に平伏さないのか?」

「何故じゃ? 魔力は妾のほうが上じゃったぞ?

 ならば平伏すのは、お主たちのほうではないか?」

 

 先ほど感じた限りでは、魔力は妾のほうが圧倒的に上だ。

 純粋な魔族は人間を怖がらせないために抑制などしないので、多分だがアレが全力だろう。

 

 そしてこっちは精気を吸うほどに魔力が増加するため、現時点でゾウとアリぐらいの差があった。

 

 ゆえに、平伏すとしたら逆だ。

 もっとも妾は女王を辞めて、魔王になる気は毛頭ない。

 

「それそれとして、一体何をしに来たのじゃ?

 妾も暇ではないぞ」

 

 現実ではペッタンペッタンとハンコを押しているが、マルチタスクを要求されるので仕事の速度は落ちている。

 今は護衛やメイドが彼らの体をベッドに運んで寝かせようとしていて、まあ正直に言えばさっさと要件を話せだ。

 

 

 

 現時点で魔王の情報はあまり揃っていないが、シュラハトのことは知っている。確か千年先まで見通す魔法を使えるらしい。

 そんな彼らがわざわざ来たということは、相当重大な要件があるのは間違いなかった。

 

 夢の世界の妾が紅茶を飲みながら続きを待っていると、やがて魔王が口を開く。

 

「突然だがリリー、新しい魔王になって欲しい」

「嫌じゃ」

 

 魔王直々に後継者に指名されたが、速攻で断らせてもらう。

 現在は自国を治めるのに精一杯だし、これ以上手を広げられない。

 

 それに魔族のリーダーになっても、労力の割に見返りが少なかった。

 骨折り損のくたびれ儲けなど嫌だし、これ以上仕事が増えるのはマジ勘弁だ。

 

「ほら! 魔王様! だから断られるって言ったじゃないですか!

 残念ですが、この予知はどう足掻いても覆りません!」

「ううむ、しかしだな!

 リリーが新たな魔王になれば、魔族の繁栄と人類との共存に──」

 

 シュラハトと魔王が、何やら相談している。

 妾の内心としては、要件が終わったならさっさと帰ってくれないかなだ。

 

 幸いなのは夢の世界で何年過ぎようと、現実では殆ど時間が経っていないことだろう。

 しかしあまり長々と話し合う気はないので、クッキーに手を伸ばしながらはっきりと伝える。

 

「魔王になっては、せっかく築いた人間との信頼関係が崩壊しかねん。

 そして人道的な配慮として、魔族といえど交渉の使者は見逃してやろう。

 じゃが、何度来られても妾は継ぐ気はないぞ」

 

 魔王たちは国民を殺していないし、わざわざ話し合いに来たのだ。

 無抵抗な者を殺すと、人間たちの反感を買う。

 

 魔族とは目的のためには平気で騙すが、ここは見逃すのが良いだろう。

 そもそも妾は別に戦いたくはないのだけど、紅茶を飲んで一息ついたゼーリエが妖艶な笑みを浮かべて話に入ってきた。

 

「見逃すのはわかるが、改心させないのか?」

「うちの国民として迎え入れるつもりなら、改心させる。

 じゃが魔王と幹部を抱え込むとなると、相当な厄ネタじゃぞ」

「それもそうか」

 

 魔族たちのリーダーである魔王と参謀が、敵である人間たちの国に行って寝返るとか最悪、リリー女王国は絶対に許さないとブチ切れる可能性があった。

 

「まあ、魔族は基本的に個人主義じゃ。

 実際には、そこまで恨まれはせんじゃろうが」

 

 それでも魔王が治めていた国は、間違いなく大荒れになる。

 下手をすれば滅亡してもおかしくなかった。

 

「じゃがリリー女王国は、間違いなく面倒に巻き込まれるのう」

 

 魔王は北、妾は中央だ。

 しかしリリー女王国の領地は年々恐ろしい速度で拡大を続けていて、暴れ回る魔族から逃げ出した難民が我が国に押し寄せてきている。

 

「魔王不在となれば魔族の暴走に歯止めがかからず、被害を受けた国々や町村から難民が大発生する。

 放ってはおけぬし保護に奔走することになるが、……頭が痛いのう」

 

 なので妾にとっては抑え役である魔王がいてくれたほうが、都合がいいのだ。

 別に現時点でリリー女王国と敵対しているわけではないし、中立の立場で居てくれるだけでもありがたかった。

 

「しかし、仕事が増えたらますます休日が遠のいてしまう」

 

 国民から捧げられる最高級の精気を吸う日々は、確かに妾が望んでいた未来だ。

 けれど人間たちの視点で言えば、いくらステーキが好きでもそればかり食べていると飽きが来る。

 

 妾もたまには目についた男を適当に誘って、脂っこくて体に悪いジャンクフードのように美味しくいただきたい。

 

 だがここ最近の女王は激務であり、城下町を散策する時間がなかなか取れなかった。

 

「とにかく用は済んだのじゃ。お前たちは、さっさと国に帰れ」

 

 妾は魔王にならないとはっきり断ったし、これで終わりだと魔法を解除しようとする。

 だがその前に、彼らが真面目な顔をして待ったをかける。

 

「待ってくれ。国に帰る前に、私たちに人間のことを教えて欲しい」

「……正気か?」

 

 オブラートに包んでいるが、直訳すると改心したいと言っているのだ。

 面倒に巻き込まれるのは嫌だと断ったばかりなのに、魔王から頼まれるとは思わなかった。

 

 妾はどうしたものかと腕を組んで考えて、やがて結論を出す。

 

「改心すれば、人を殺すことに多少は躊躇するか」

 

 改心したとしても根っこが魔族なので、俺は正気に戻ったと人を躊躇いなく殺す可能性もある。

 あくまでも精気は人肉の代用品であり、必要がなくなっただけなのだ。

 

 感情や理解度も個人差があるし、自国では人間への乱暴狼藉は断固とした措置を取るが、彼らが国に戻ったとは知らぬ存ぜぬである。

 

 だが少しでもブレーキがかけられるなら、改心させる意味はあった。

 

「わかった。改心させよう。

 じゃがその前に、しばらく戻れぬと国に手紙を出しておけ」

 

 改心させるのは容易いし、大した負担にもならない。

 断って魔王たちとの関係が悪化するほうが、自国にとって不利益になるだろう。

 

 だが妾があっさり承諾すると、質問が飛んでくる。

 

「何故手紙を?」

「罪の意識に耐えかね、自殺しようとするからじゃ。

 夢の世界である程度は薄まるが、現実に戻ったあとも時々思い出すからのう。

 ゆえにしばらくは、経過を見る必要があるのじゃ」

 

 魔族によって個人差があるが、暴走や発狂して自殺しようとする者も多い。

 なのでリリー女王国には心を病んだ人間や、改心したばかりの魔族たちのために、精神病院が建てられている。

 

 魔王とシュラハトにも、しばらくは入院生活を送ってもらう。

 

「改心前の感情が希薄な魔族には、まだわからぬじゃろう。

 取りあえず、そういうものじゃと理解しておけ」

「わかった。それと──」

 

 まだあるのかと若干うんざりしつつも、妾は魔王の言葉に耳を傾ける。

 

「今後はリリー女王国に宣戦布告し、血気盛んな魔族の軍隊を定期的に送り込む。

 最初は強く当たるから、あとは流れで処理して欲しい」

「……わけがわからぬぞ」

 

 意味不明すぎて、頭を抱えたくなってきた。

 夢の中とはいえ現実と同じように引きつった笑みを浮かべる妾に、魔王が淡々と説明を続ける。

 

「人類と魔族は共存できる。この国ならな」

「妾は自分のためにやっておるだけじゃ。

 人間と共存する気など、毛頭ないぞ」

 

 人類と仲良くしたほうが利益が大きいのだ。

 なので襲いかかってくる魔族を改心して囲い込み、女王として国を興して統治している。

 

 共存や世界平和、魔族の繁栄などという崇高な目的のために動いている気は全くない。

 

「それでも彼らの未来を、キミに託したい」

 

 だが人間たちが渇望する理想の女王を演じる妾としては、魔王の頼みを断るわけにはいかなかった。

 

「はぁ~……面倒じゃのう。

 事前に教えてくれるだけまだマシじゃし、魔族を改心させれば人間たちの支持率も上がるが、……ううむ」

 

 女王の支持率が上がれば、国の統治もしやすくなる。

 詳しい情報も魔王から伝われば戦略も立てやすいし、いきなり戦争を吹っかけられて自国民に犠牲が出るよりはマシだ。

 

「ふむ、魔族だけでなく人間のガス抜きも必要か」

 

 人間は二人なら争いだし、三人以上になれば派閥ができる生き物だ。

 定期的に戦わせてストレス発散も必要かと考えると、妾に利益のある提案な気がしてきた。

 

 ゆえにママエアロと納得して、何とも重い溜息を吐く。

 

「改心した魔族のことまで、責任を持たぬぞ」

「構わない。

 これで少なくとも、千年先の未来までは魔族の繁栄が約束されたんだ」

 

 どうせシュラハトが予知したのだろうし、責任を取らずに好きにして良いと言うなら、いつも通りに己の利益を優先するだけだ。

 

 その後も色々と、意見のすり合わせなどを行う。

 なお我関せずを貫いていたクヴァールとゼーリエにも、逃さんお前だけはと恨みを込めた視線を送って、知恵を出させるのだった。

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