暗澹たる戦場に旭光を 作:Zanna di Liquirizia
「ここが僕たちの鎮守府?」
僕たちは、大本営直属の艦娘たちの護衛を受けながら、輸送船に乗ってこれから僕たちの鎮守府になる、まあ、何というべきか、色々グレーな火山島に来ている。最近出来たばかりの火山島と聞いていた割に、かなり大きな島だったようで、植物はあまり生えていないが、入り組んでいて高低差のある海岸が、複雑な地形を形成している。
その中で入江になっている場所に、鎮守府の基地が建てられるらしく、僕たちが乗っている輸送船以外にも、いくつか船が停泊している。
『そのようだ。島であるが故に、ある程度は戦闘が激化することもあるだろうが……まぁ、何とかなるか』
……大丈夫かなぁ。
『安心したまえ、これでも戦争にゃある程度慣れている。指揮は勝手が分からんが、まァこれから覚えていけば良いか。……それと』
話を区切り、白朱鷺――提督がこの部屋の端に視線を向けた気がして僕もそちらに目線を向ける。部屋の端には、虚ろな目で虚空を見つめる軽巡洋艦――由良と、それを庇うようにこちらを睨みつける戦艦――金剛の姿があった。
『彼女らは一体なんだ?』
「提督、聞いてなかったの?」
『いいや、そういう訳じゃない。何故ここに居るのかは知っているが、事情は知らん。そういう訳だから村雨、聞き出してこい。それか警戒を解いてこい』
「ちょ、ちょっと提督、さすがの村雨でもあんなに睨まれちゃ無理ですって!」
『警戒心さえ解けりゃいい。俺はああいうカウンセリングは苦手なんだ。どうしても強引なやり口になっちまうんでなァ』
「頑張って村雨、僕と提督はここで傍観してるから」
村雨はいい反応するなあ。……ああは言ったものの、僕も金剛と由良から事情を聞き出すつもりだし、夕立には春雨の看病を任せてる、提督と白露はこの後基地の建設予定地に視察に向かう予定で、僕以外には村雨しかできる人は居ないからね。
『ま、精々頑張っておくれ。……それと白露』
「そろそろかな。白朱鷺――じゃなくて提督、だったね、そろそろ行こっか」
『そういう訳だから時雨、この船は任せる』
「行ってらっしゃい。僕と村雨は金剛と由良に話を聞いておくよ」
……さて、提督と白露が基地の建設予定地の視察に向かった事だし、早速二人と話をしよう。
「村雨、由良をお願い」
「はぁ、やるしかないのよね……」
金剛は、今の今まで一言も発さず、僕たちを睨みつけていたが、白露と提督が視察に向かったことで、多少緊張を緩めたようだ。それで今は、警戒というよりはどちらかというと怪訝な表情をしている。
「hey……may I ask question?……時雨たちは、誰と話をしてるデース?」
「めいあすく……えっと、誰って言っても、僕たちの提督だけど……」
「提督……?What do you mean?ここには私たちと、白露と時雨に村雨だけしかなかったデース……時雨には何が見えているデース?」
……?そもそも提督自身の肉体は無いのだから、姿は見えなくても当然――ってそうか、提督の声は僕たちにしか聞こえてない、つまり金剛には提督の声が聞こえていないんだ。……これは失敗だったな、金剛の僕たちへの不信感を強めだけだった。
「全く時雨ったら、金剛さんには提督の声は聞こえていないんでしょ?忘れちゃ駄目よ」
「ああ、そういえば……うっかり忘れてたよ。まあ、そんなことは良いから、聞きたいことがあるんだ」
「hey, 時雨?これはそんなことで済ませる問題じゃないデス。OKey?」
「わ、わかったよ。……それで、聞きたいことなんだけど、金剛と由良はどうしてここに来たのかな?……まあ、その警戒様からまともな事情じゃないってことは分かるさ。言える範囲だけでいい」
由良は焦点の合わない虚ろな目をしている。金剛は目に見えて周囲の
ただ単に左遷先がこの岸城島であったとか、ましてや戦力がたったの駆逐艦5隻のまま前線に送るわけには行かないからだとか、そんな簡単な話じゃないのは分かっている。
「hmm……そういうことじゃ無いデース……well, all right. それで、何故ここにでしたか、それなら簡単な事デス。以前の提督に怪我を負わせてしまった、ただそれだけのことデース。do you understand?」
「なるほど……それじゃあ前の提督を叩きのめした後、親和派に保護されたってわけだね。由良も同じ鎮守府出身?」
「umm, 私も彼女を救助した憲兵に話を聞いただけなので、詳しくは分かりませんが、どうやら以前所属していた鎮守府の憲兵たちに暴行受けたデース。……That's completely outrageous, isn't it?」
暴行を受けた……春雨と同じ感じか、全く胸糞悪い話だよ。どうやら金剛は事情が異なるようだけど……結果的に左遷されてここに居る以上、どうにも酷い事情があるようだし、僕たちは日本海軍の反対派が隠し通そうとする秘密そのものだから……元帥は、僕たちを反対派を潰す切り札にでもするつもりなのかな?
「僕のところもそんな感じ……と言っても、酷いことをされたのは春雨だけで、それも捕まってからだけどね」
「I get it. 私のところと事情は似通っているようデスネ。hmm……それにしても、由良は大丈夫でショウカ、いえ、確実に大丈夫ではないでしょうケド、どれくらいしたら、出撃出来るようになるデース?」
どうなんだろう。村雨が必死に呼びかけているのに、何の反応も示さないのを見るとなんだか違和感を感じるけど……どうにも、ただ酷い扱いを受けたってだけじゃないような気がする。
まあ、あの様を見るに、到底出撃は出来なさそうだね。
「umm……変な感じデース。由良はなんだか、考え事をしていて、頭の中がそればっかりになっているような……hmm, 言語化が難しいケド……とにかく違和感がある、ような……」
「僕も同じだよ。ただ……」
「ただ?what's the matter?」
「由良は、どうにも意識ははっきりしているように見える。なんて言うか、こう……意図的に無視しているような……」
「……警戒していて、話をしたくないから、という可能性は……」
「そうかもしれないけど……なんか引っかかるんだよね」
僕たちは話にけりをつけて、由良に目を向けた。……気のせいかもしれないけど由良をみた瞬間、由良は肩を震わせた……ような気がする。
「金剛、今のは……」
「ええ、私たちの会話が聞こえていたようデース」
「それじゃあそうだね……村雨、頼みごとがあるんだけど、いいかな」
「無茶な頼み事は無理よ?」
「それは分かってるよ。簡単な事さ、由良を見ていてくれたら良いんだ」
「……それぐらいなら、良いんだけど」
「さぁて、一番乗り!……じゃあないけど、基地の建設予定地に着いたわけだけど、まだ枠組みだけみたいだね。そりゃそうか、輸送船団も島に着いたばかりだし」
『しかしまァ、随分と大規模な基地になりそうだな』
「確かにね……まあでも、海域防衛だけがあたしたちの仕事じゃないんだし、こんなもんなんじゃない?一応泊地でもあるしね」
『ああそうか、泊地でもあったか』
まあ泊地と言っても、それは国民やウザったい政治家共を誤魔化すための方便でしかないけども。確か海軍が深海棲艦に奪われた領海を奪取するための第一歩として、遠洋に泊地を建設するとかなんとか……全く、提督も面白いことを考えるよね。……まあ、何も間違ったことは言っていないから、うん。
それはそうと、本土との連絡はどうするんだろうか。通信手段には宛があるらしいけど、本土とこの島は随分離れているし、間に島もない。何とかなると言っていたから信じてみるけど、ちょっと心配だな。
「許可は貰ってるし、ちょっと島の散策でもしてみようかな」
『草木も少ない今が丁度いいか、そうしよう。手始めに海岸沿いに行こうか』
「良いじゃん。手帳とか持ってる?」
『あるわけ無いだろう。適当に覚えればいいさ』
「それもそうか、よーし散策だ〜!」
『程々で帰還するぞ』
『とは言ったものの、何もないな』
「うん、面白味も何もない」
『さっさと頂上に登っちまうか。白露、Changeだ』
「オッケー、全速力で行ってよね!」
抱えられてあの馬鹿げた速度を体験したことはあるけど、自分の身体で、というのは初めてだ。というか、自分の身体の主導権を白朱鷺――じゃなかった、提督に渡したのも今回が初めてだ。
まあそんなことはどうでも良くて、この島、面積は大凡70平方k㎡の楕円形、そり立った岸に大凡220度ほど囲まれていて、北西には石柱節理にぐるっと囲まれた入江が、南西には真っ黒な砂浜があって、島の中央北東側には、目算3200m程度の成層火山と、その南西に目算2300m程度の成層火山があって、まあ勿論活火山だった。火山の南側の麓には崩落したとみられる大空洞があって、したには海水と思しき池があった。舐めてみたけどかなり塩っ辛く、地熱の影響か50℃くらいの温泉だった。
まあ、何というか、この島に軍事基地が建設されなくて、尚且つ本土とこの島の間では深海棲艦の脅威がないとかだったら、一大観光地になってもおかしくないようなくらいには良さげな場所があった。
ともかく、島を散策してわかったことは、南西と北西以外に深海棲艦に上陸出来る場所はなく、基本はその二箇所の哨戒を行えば良いだろうけど、問題は日本南方海域と九州・沖縄海域に面しているということ。九州・沖縄海域はまだしも、問題は日本南方海域は攻めあぐねていて、進出は困難なこと。九州・沖縄海域も遠洋に行くと敵艦隊が強力になるけど今のところはそこまで問題じゃない。
『随分と防衛し甲斐のありそうな島じゃねェか、えぇ?』
「それはそうかもだけど、南方海域は強力な深海棲艦が出現しやすい。提督、日本国の復旧管轄領域には目を通した?」
『ああ勿論、確か通称“南方戦棲姫”だったか?ソイツが尋常じゃないくらい強力だって話だったな』
「そう、過去に一度だけソロモン海に出現した深海棲艦で、日本海軍が命名した深海棲艦の中では、3隻目の姫級だね」
『交戦記録は?』
「第一次ソロモン沖攻略戦で一度のみ。砲撃戦、航空戦に参加した艦娘は元帥傘下の主力艦隊と護衛艦隊、
『なるほど、ソロモン海の深海棲艦の総力は分かるのか?』
「南方戦棲姫が初めて出現した第一次ソロモン沖攻略戦以降、あたしたち日本海軍は海域の攻略に慎重になって、南方海域に踏み入らなくなったから、あまり詳しくは分からないんだ」
『賢明だな。それ以上無理に侵攻したとて、無駄死にが出るだけだろう』
第一次ソロモン沖攻略戦で惨敗を喫したことにより、今までに解放してきた南太平洋の内、ほぼ全てを損失、何とか通信を回復させたオセアニア諸国との通信が途絶えてしまった。
「せっかく東南アジアとの合同作戦まで組んだってのに、大敗を喫して資材も領海も大量の損失が出ちゃってさ、国内でも批判が凄かったんだよね。……まあ、かく言うあたしも哨戒には参加……というか酷使されたからね。よく覚えてるよ」
『それ以来、海外との接触や交信は無いのか?』
「うーんと、確か日本海やオホーツク海の方では、ロシアや中国、朝鮮の艦隊と遭遇することがあるらしいね。その時はちょっとした情報交換だけして別れるらしいけど……あたしたちは太平洋側だったしなぁ、基本的に他国の艦隊とは遭遇しなかったんだよなぁ」
というか基本は近海の哨戒かサルベージ目的の遠征でしか出撃しないからなぁ……あんまり遠洋には行かないし、これから出撃する海域も基本的に東海海域か島の近辺だけだし、まぁ他国の艦隊との遭遇は殆ど無いだろうし、あたしたちには関係ない話だけどね。
『南方の警戒は勿論、哨戒も行うつもりが……生憎それが出来るだけの人数が居ない。どうしたものか』
「建造か引き揚げで頭数を増やすしかないね。……まあ、どっちとも時間がかかるけど」
『引き揚げ?』
「そういえば言ってなかったね。引き揚げってのは、深海棲艦を撃沈したときに稀に艦娘が出てくる……で良いのかな?まあ、そんな感じの現象だね。詳しいことは鎮守府の建設が終わってから纏めて説明するね」
『懇切丁寧な説明を求める』
「あはは……ま、まあ、これでも6年間も秘書艦をやり続けてきたん……だからね!安心して説明を受けてよね!」
『……期待はしない』
「なんでさっ!?……はあ、まあ良いや、そろそろ帰ろっか」
『そうだな……今何時だ』
「13時34分だね、お昼の時間は過ぎちゃったか」
もう見るところは無いだろうし、さっさと帰って、昼拵えだね。
「時雨、調子はどう?」
「あ、白露に提督も、帰ってきたんだ。遅かったね、どうだった?」
『上々、基地の建設は遠分終わりそうにないが、島の散策はした』
「そう、どんな感じだった?」
『新しく出来たばかりの火山島にしては、随分と変わった島だったな。頭目から見ても分かる通り、高い崖に囲まれていて、陥没や石柱節理が随分と目立つ。地質調査によれば成層火山の筈なんだがな……」
「何かあったの?」
提督が言葉を濁す。何か気になることがあったっけ?確かに成層火山にしては変な地形の島だったけど、そのくらいじゃないっけ?
『いや、何でも……ああいや、強いて言うならば、どうにも火星の火山のようだと思ってな。ただそれだけだ』
「火星の……?」
『ああ、火星のオリンポス山を縮小させたような地形をしていた。地球にはプレートテクトニクスがあるはずなんだがな……』
「白露、プレートテクトニクスって知ってるかい?」
「あたしに聞かないでよ。……確かプレートが移動することだったような気がする」
それを聞くんならプレートテクトニクスって言った提督に聞いてほしいよ。あたしだってそんな博識なわけじゃないんだしさ。
『whatever, どうせ後々話さにゃならんものだ。まぁ……それより時雨、金剛と由良の様子はどうだ?』
「えっと、金剛はまあ、あまり問題はないね。だけど由良は……村雨が頑張ってくれたけど、うんともすんとも言わないままだね」
「ありゃ、まだ心を開かない感じ?……まあそりゃそうか。暴行を受けたんだから、ねぇ」
『ま、何にせよ時間が解決してくれるさ』
「あ、そうそう、金剛なんだけど、由良との直接的な関わりはないらしい。どうにも――」
そう簡単に心を許すわけないか。……由良は多分、人間不信になっている。あたしだってそうだった。また人のために戦えると思った矢先、その期待を裏切るかのように栄光も崇高な目的も、ましてや現状を鑑みて対策を取ろうともせず、危機的状況に陥っている事すら理解しようとせず、腑抜けた現状に甘んじるような……そんなものを見せられた挙句、自分自身もその醜い欲望の慰め者にされるだなんて、正気で居たら到底耐えられるものではない。
由良も、そんな状況下で無気力になってしまったのだろう。
――本当にそうだろうか?
提督は言っていた。慰め者にされていたら、あれほど我々に怯えもせず、ただ無関心で居られるのだろうか。あたしも不思議には思った。あたしは恨みを、憎しみを募らせた。だけど、由良はあたしとは違って、艦娘としての役目さえも果たすことが出来ず、この世の全てに絶望し、心を失ってしまった、だから無気力になってしまったんじゃないか。
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ただの邪推かもしれない。ただ自分とは違う反応だっただけだってのに、気にしすぎただけかもしれない。
だけど、警戒するに越したことはない。あたしたち――大半は提督のお陰だけど――が軽視派に与する
だから提督はあたしに、由良を我々の側に取り込んで、軽視派に有利を取るつもりだと言った。
『なるほど、由良の元いた鎮守府は分かるか?』
「ああ、それは分かってるよ。長崎の福江島基地らしい」
福江島基地は確か、九州西方海上の哨戒を主とする小規模な基地だったはず。
『長崎……確か大規模な海軍基地のある県だったな。福江島基地は軽視派の傘下にあるのか?』
「それがどうにも中立、というか無所属って立場を貫いているらしいよ」
「ふぅん……まあ、建前だけならどうとでも言えるからね」
暴行を受けたって情報だけじゃ、よく分からないな。他に情報があると良いんだけど……。
「それじゃあ金剛はどうだったの?」
「金剛は元の提督に怪我を負わせたんだって。つまり、そういうことをされそうだった子を提督から守ろうとして、左遷されたらしい」
「その子はどうなったの?」
「金剛が拘束される際の証言で保護されて、今は大本営で任に就いてるってさ」
「そ、なら良いや。……それにしても、海軍は欲望に忠実な奴が多いよねぇ……」
『そうでなきゃ問題など起こさんだろう。それよりも、由良は今どこに居る?』
提督は由良に直接話を聞くつもりか。……これで提督と対面してどんな反応をするのかで、色々と分かるかもね。
「この船の客室に居るよ。……提督、あんな様子じゃ、とことんやらないと口を開かないよ」
『何も拷問をする訳じゃない。ただ少し、話を聞きに行くだけだ』
「はあ……あまり無理はさせないであげてよ」
『なぁに、心配は要らん。もし話さんかったとして、身ぶり手ぶりで対話すりゃあ良いだけさ。……さぁ白露、Changeだ』
「いいよ、すぐに終わらせよっか」
『すぐに終わらせるとは言ったけどさあ、どうするつもりなのさ』
「由良が何故話さないのか、見当はついている」
「そう?じゃあ提督に全部任せちゃおっかな』
「まぁ待て、お前にもやってもらいたいことがある」
あたしにやってほしいこと?なんだろ、提督と由良の仲介役とか?……まあ、それは後で聞けばいいか。
それよりも由良だよ。提督が言っていたように、酷い暴行――そもそも暴行の時点で酷いだのなんだのと程度に違いなんてないけど――を受けたのなら、あれほど何の反応も示さないでいられるのかと。
『……提督』
「どうした?」
『由良の事なんだけど、もしかしたら――』
『「暴行なんか受けていなかったんじゃないか」』
『――!』
提督も気づいていたのか、いやそもそも由良の反応云々を言い出したのは提督だ。気づいていなきゃおかしい。……いや、それよりも、これで疑惑が確信に変わった。由良は暴行何て受けていない。
……というか、春雨ちとあたしの身体を診たのは提督なんだし、提督が由良が暴行を受けたのかどうか、しっかりと確認をしていないわけがないんだから。
「その話は後にして、ひとまず客室に着いたわけだ、さっさと入ろうか」
『……そうだね』
「由良、入るぞ」
案外提督は、律儀にノックをしてから由良の居る客室に入った。
……それにしても。
『随分と警戒されてるね』
「仕方ないさ。……さて、由良」
提督が呼びかけても、由良は大きな反応
「はぁ、仕方ない。白露、電子機器の類がないか探れるか」
『分かってる。……あった、由良の髪留めに何かある』
なるほど、あたしにやってほしいことってのはこれのことか。……多分、形状からして、恐らくは盗聴器の類だろうか。
「……さて、盗聴器はジャミングした。これで好きに話せるな」
「……!」
これでも喋らない?……何か話せない事情でもあるのか?……一体どうしてだ。
「hmm, まだるっこしい話は後にして、まずは自己紹介だ。俺は
提督が名乗った後、悩むように目を瞬かせ、何とか振り絞ったような声で。
「……ぅ、ぁ」
掠れて、まともに聞き取れないほど小さな声を発した。
「やっと声が聞けた。なぜ喋らないのかも、確信に至った」
随分と言い出しにくそうに、怒気を含んだ雰囲気を隠すこともなく曝け出して。
「初めて顔を合わしたときから、何となくそうなんじゃないかとは思っていたんだが――」
随分と苛立った表情を浮かべて、そして提督に似合わないくらいに重々しく、言葉を綴った。
「――お前、舌が無いだろう?」
Tips―
復旧管轄領域
世界各地に深海棲艦が出現し、日本国が軍を設立した際に海域防衛及び失った海域を取り戻すために制定したもの。
之を制定した際には、もうすでに他国との通信が途絶え、防衛に手一杯だった為、この名称は海域防衛に関連した言葉を適当に並べただけのものとなっている。
日本軍
再軍備した際には、議員や国民から多くの批判が集まったが、海域防衛の現状を全国民に知らしめ、批判する声を黙らせた。
憲法第九条に、陸海空軍その他の戦力は、これを所持しない、交戦権の否定があるものの、これらの存在を防衛力とし、戦力ではないということ。憲法第九条の最解釈により、之は交戦権でなく、平和を守るための至極基本的な防衛権であるものとした。