暗澹たる戦場に旭光を 作:Zanna di Liquirizia
「取引と、行こうじゃァないか……なァ?」
……喋った?……いや、それよりもその言葉は誰に言ってるんだろう。
まさか……僕?
「……取引?」
もし僕に取引を持ち掛けたとして、そんなことを話している暇なんて無いはずなんだけど……
それに、失礼かもしれないけど――そもそも人かどうかは分からないけど――こんな、ところどころ人の原型が残ってはいるけど、それでも肉塊みたいな姿をしてるのによく喋れるな――って、脱線してしまった……いやそれよりも、取引の内容だ。
取引なんて、そんなことをしてる暇なんかないと思うんだけど―――
――あれ、なんか…変な感覚が……いや、世界ってこんなに灰色だっけ……?
いやいや、そんなはずは…っ!
……ぁ?…何かがおかしい……よう、な……いや…そんなことよりも、取引の事について話さないと……。
「……取引っていうのは…一体、どんな内容のものなのかな?……内容によっては引き受けるけど」
僕がそう言うと、"ソレ"は一瞬驚いたような表情になった……ような気がする…のかな?……まあいいかな……そんなことは。
「……驚いた。懐疑的な視線だったというのに、ここまであっさり承諾しかねないとはな」
「それは……一体どういう」
すると目の前の"ソレ"はハッとしたような表情を浮かべ――表情?……そんなもの、今の今まで何で分かってたんだろう…というか、失礼かもしれないけど。
「あなた?…は、人…なの?」
「……人か?だなんて、随分と失礼な物言いじゃねェか?……いや、それよか…取引についてだったな。……それについては、おまえの望むこと、その手伝いくらいはしてやろう」
僕の望むこと……それは――憲兵から逃げ出すこと?……違う、そんなことはどうでもいい。
僕の望み、そんなこと、決まっているじゃないか。
「僕の仲間――いや家族を、助けてほしい。……どんな代償でも払うから」
するとソレ"は、ニヤリと笑ったように見せかけ、僕の眼を真っ直ぐと見つめた。
「よくぞ言った。だが代償なんざどうでもいいのさ…これは取引だ。悪魔の契約なんざ物々しいモンじゃァない。……そうだな、勿体振る必要も無い、さっさと俺の要求を述べよう。……俺の要求は――お前の体を寄こせ」
「体を……?一体何に使う気なの?」
体……命を代償にするものなのかもしれないし、だとしても、受けない理由がない。全くの好条件じゃないか。
僕の命一つでみんなを救けられるならば、この命程度、安いもんだ。
「――その思想はいけないな。……hmm,しかし、すまないな。言い方が悪かった。寄こせと言ったが、正確には魂の
魂の宿主……つまり一つの体で2つの魂を共有するって事……眉唾ものだけど、妙に信用できる物言いというか、少し焦ってる様にも見えるような……。
「……時間は幾らでもあるのだから、じっくりと悩んでも構わないぞ……?……まぁ、俺はその限りじゃないが。」
「今、何か言った気が……まあ、いいか。……それよりも、取引は受ける。それで僕は一体何をすればいいのかな?――あっ……そうだ!時間!」
それを聞いた"ソレ"は――ちょっとややこしいな――頭にクエスチョンマークを浮かべながら、悩むかのように視線を右往左往させているようだったけど、少しすると合点がいったかのように頷き、再びこちらを見据え直した。
「眉唾モノかもしれねェが、辺りを見てみろ。……彩度って言い方があっているかは知らんが、色が落ち切っているだろう?これが原因だ。お前らは同じところを繰り返し歩いていたのもこれのせいだな。……まぁ、どちらも俺が作り出した空間だがな……とどのつまり時が止まってるワケだ」
……いや、いやいや…時が止まってるって、そんなバカな……ま、まあ…確かにいつまで経っても後ろにいる憲兵が襲ってこないけども……流石にそんな訳……すごい真剣な声色だったけど、まさか本当に……?
「……疑いの目を向けるのはいいが、実際時は止まってるし、世界から彩度は落ちている。これは紛れもない事実だ――っと、ずいぶんと脱線してしまったな。お前が宿主になるために、特別な方法と取る訳じゃない。」
「――俺の手を取れ。それとも……このまま死んじまうかい?」
……何度でも言ってやるけど、そんなものは端から決まってる。
僕はみんなを
「もちろん。生きて、そしてみんなを
突如として酷い立ち眩みに襲われて、咄嗟に目を閉じてみれば、次の瞬間には艦娘たちが居て良いはずのない、水面の下――見上げれば先ほども見た様な金属のような物が錆びついて綻びた状態で散乱している――そんな様子の海底が見える、摩訶不思議な光景が広がっていた。
そして、目の前には、髪が先端になるにつれて白くなっていること、眼の色が違うことを除けば、僕と瓜二つの少女が立っていた。
お前は人はだとか、能力が暴発してたとか、色々とゴタゴタは有ったが、取引も無事に結べて、んで持ってここがどこだか一瞬わからなくなったが、
しかしまァ……やはりというべきか、コイツに似通った姿になったようで、どうせ、恐らく当分の間はこの身体のままだろうな。
「今のその体って、君の本当の姿なの……?」
「…いぃや?…たまたま目の前にお誂え向きの身体が有ったから、適当な程に複製しただけだが……それがどうかしたか?」
「お誂え向き……それは僕の対する皮肉かな?」
……?皮肉だ?…さてはコイツ、お誂え向きを皮肉の意と捉えたのか?
「何を勘違いしてるかは知らねェが、別に皮肉のつもりで言った訳じゃねェよ。……まァなんだ、これからも、ちと長い関係になることは間違いない。……なら、誤解やいざこざはない方がいいだろう?」
「まぁ、そうだね。…皮肉のつもりじゃなかったのなら、こちらの勝手な勘違いだったみたいだし……」
「…いや良ぃさ、気にすることはない。元はといえば、こちらがややこしい事を言ったのが原因だ」
「そう、かな……そうかも」
……さて、肉体の主導権はコイツであって、俺には無い。
だからと言って口頭ではあれど、
……だが取引からして、手伝うと言った以上、内容を共有せねば、できる事も出来なくなる――それに、元々
……まァどうせどっかでピンピンしてるだろ。
それはともかく……これからどうすっかね……グリニアだろうとDarkSectorの時期にタイムスリップしたとしても、どこにも当てなんざねぇからなァ……あの追手らしき奴らは格好からして自衛隊――いや、一昔前…って程度でもねぇが、大戦中の日本軍かねぇコリャ……ご丁寧に旭日旗の柄?まで入れちゃって……。
……Hmm,妙に懐かしさを抱いてような気がするが、まァ良い……それはそうと、なんでこんなガキが海の上に浮いてる情景なんだ……?普通、未練や心残り、思い出やトラウマだったりと、強烈な体験をした空間のの光景のはずなんだが……流石に記憶のない奴とか胎児には入ったことがねェからわからないが……海上、ねぇ…海難事故にでも遭ったのか?
「お前、海難事故にでも遭ったか?」
「それは……一体どういった質問なのかな……?まぁ、いいけど。……海難事故…というよりは、沈没……?というか……どうにも説明がしづらいな」
沈没ゥ……?何だそりゃ、船舶かなんかなら分かるが、まるっきり人の姿をしてんじゃねぇか。……あぁいや、一応
しかしまぁ……
「軍艦かなんかだったりするのかねぇ……?ついでにだが、自己紹介をしていなかったが、お前の名前は?」
「ついで……?確かにお互いに名乗ってなかったけど…そういうのは、自分から名乗るのが定石なんじゃないのかな?」
……確かに?
「それもそうだな。俺の名前は
「白朱鷺…聞いたことの無い名前だね。姓?それとも名?というか、それだけ?」
「あぁ、今はそれだけだ。それと、白朱鷺は姓だな。……名前も知りたけりゃ、後々好感度を上げてからもう一度聞くんだな」
……なんか不満げな顔つき。…何でなんだ?
「ふーん……僕は時雨。白露型駆逐艦の時雨だよ。どのくらいか、期間はわからないけど、これからよろしくね」
「あぁ、よろしく頼む」
この変な食うについて説明されても、あまり理解できなかったけど、この変な空間の遠い所が徐々に崩れていって…身体動かせなくなっていって、ついに足元にまで崩壊が進んできて、さっきまでいた森の中に戻っていた…けど、依然として時間は進まないし、モノクロの世界のままで……そして、自分の体が、自分の意志と関係なく動いている。
そのことにビックリして、白朱鷺と名乗った彼女――いや、あくまでも僕の身体の複製なのだから性別はわからないけど、見てくれから引用して"彼女"と呼称することにしよう――にどういうことなのかを聞こうとして口を開いたはずだったのだが……口を開こうとしても声は出ず、ただ思考の中に木霊するだけ……だが、不思議と返事は返ってきた。
「……面白いだろう?…これは」
依然時が止まって、モノクロの世界で、僕の口が勝手に動き、言葉を発した。
「言わんとすることは、おおよそ理解できる。……Telepathyとでも言えばいいのか、そう思えば伝わる……そういうモンだ」
『そうなのか……ッてことは心が読めるってことは……まって、無駄に思考してたのがバレちゃうってこと!?』
「いぃや?……言いたいことは区別できる。それ以外は分からんよ」
『そうなら良いんだけど……っと、そうだ。…身体が動かないけど、これはいったい……』
「肉体を借りた。……ただそれだけだ」
……さっきから思ってたけど、反応が淡白だなぁ……まあ、変に突っかかってくるよりはやりやすいけど、それでも少しは反応がある方が気持ち的にも少しは良いんだけど――みたいなことを考えていると、急に身体が引っ張られる感覚に、外に意識を戻してみると、見慣れた色彩の戻った彩色豊かな世界き戻っていて、目の前には、どうやら目標が急に視界から消えたことに戸惑ったように顔を右往左往させる3人の憲兵の姿が……
ってあれ?……さっきまでこの憲兵達、僕の後ろにいなかったっけ……いつの間に前に行ったんだろうか。
「三者三様に困惑している様だが――」
前にいる憲兵に駆け寄り飛びかかったと思ったら、3人いる憲兵のうち、1人の頭を蹴り飛ばし、そのまま姿勢を変えて残った二人の憲兵の頭をそれぞれ片手で掴んで――
「――残念、不正解だ。…正解はァ、俺が後ろに回り込んだのさ」
その頭を、人間離れした腕力で叩き潰していた。
金属のような物……イッタイナンダロウナー。
7/20に、少し遅れたお伊勢参りに行きまして、外宮に向かう途中に夕立?に追われまして、いやはや、雷まで落ちるものですからビックリしましたよ