暗澹たる戦場に旭光を 作:Zanna di Liquirizia
―――はっ……?
……いけない、思わず素っ頓狂な声が出てしまった――いや……これはもう、そんな声が出ても仕方ないだろう……人の死は、僕たち艦娘や、深海棲艦が沈んでゆくところを、間近にでも見てきたんだから、嫌でも慣れてしまった……けど、こんなに一瞬で人が死ぬなんて、見たことはもちろんのこと、聞いたこともない。
……そう、一瞬だ。
音が過ぎ去るよりも速いかのように錯覚するほどの速度、手際の良さ……自分の体だからこそ、何とか目が追いついたけど、傍から見ればどれだけの速度かなんて、想像もつかない。
「……お前、案外驚かないんだな、今みたいな、Grotesqueなモンを見ても……いや、声色が然程変わらねェだけか」
『……白朱鷺、君って奴は、何でもお見通しなのかな?…まあ、うん、そうだね……こういうの、慣れちゃってさ』
「慣れた……ねェ…心底疲れた声出しやがって。俺の役に立つ間は、死んでくれるなよ」
心配してくれてるのかな……まあ、あまり気にすることでもないかな?……どうせ僕たちは、ただの、一時的な協力関係に過ぎないんだから。
それより、白露たちはどこに居るんだろうか……憲兵に見つかって逸れてからと言うもの、妖精さんに頼んで、通信機で呼びかけても、何の音沙汰も無いから……
「適当にそこら辺をふらついて、お前の仲間…?姉妹――でも探すとしようか」
『――いや……少し、気になっているところがあるんだ……一先ず、そこに寄って行って欲しい――嫌な予感がするんだ』
「――嫌な予感、ねェ……あい分かった、そう言うならば、信じるぞ。契約を交わした以上、あまり、約束事を破りたくはない」
白朱鷺って、約束事に結構、誠実なんだね――
『ってそうだ……白朱鷺、元々できるかもしれないけど、僕たちの身体は、意識すれば、水面に立てるから、そのことを覚えておいてほしい』
「水面ね……然らば、向かうべきは海か?」
『そうだね、海にいたら、少しまずいかもしれない』
そう……僕たちは、兵器であり、軍艦であり……――そして、人で有るんだから。
……ありがとう
……さて、海に行くのは良いが、嫌な予感ってのが気掛かりだな……それに、水面に立てることに、自分が軍艦である……ってことは、気味悪がられて人間扱いされ無かったのかねェ……色々と芳しくない事はあるが、気にしてる暇があったら突っ走ったほうが手早く済ませれる。
それに、海に何かしらの脅威が居るやもしれん、その姉妹とやらが死んじまったらァ困るんでな、戦えるように気を張っておくとしようか……。
「眼ェ、回さんように、その瞼キッチリ閉じておけよォ?」
『……眼?……まあ、いいけど――』
『時雨ェ!海ってどっちだァ!?」
『分からないでそんなに格好つけてたの!?――って速っ、ええと……そのまま2時の方向……かな?」
何故疑問形なんだ?……せめてハッキリしておくれよ――まァ良い、手っ取り早く
『白朱鷺?……そんなに急ぐくらいなら、さっきみたいにときを止めれば良いんじゃないかな?』
「……無理だ。……さっきのでほとんど消耗した、アレはあと12時程度は経たんと使えんよ」
『……そういうものなんだ』
『そういうモンだ――っと、ツベコベ言ってる間に着いたぞ、どこを探せばいい?……水上か、海底か。一様に海と言っても、海は広大だ、その中から一人か二人を虱潰しに探すなんざ、Time limitがあるだろうにそんなこと、している暇はなかろう?」
実際、一口に海といっても、広すぎて話にならん……少しは候補を絞れるのならばいいんだが――と言っても、結局は虱潰しに探すことになりそうだ――その上、海流にでも乗ってしまえば、どこに流れてしまうか、見当もつかない。
『……まあ、そうだね、早く見つけないと……深海棲艦が来ちゃうかもしれないから――』
「深海棲艦?……何だそりゃ」
深海棲艦、ねェ……聞いたことがないな、それは複数の呼称か――まァ、そうなんだろうな、深海棲艦、深海に棲む艦、漢字を分けたとて、訳がわからんな――だとしたら厄介だ、今の俺には手間取るだろう。
『深海棲艦は、僕たちの……人類の敵、みたいなものだね』
人類の敵、ということは――だったら、不味いな……探している
あまりこのようなことはしたことがないが――まァそもそも、同意をとって身体の制御権を得たことなんてほとんど無いのだから、身体の制御権の一部を本人に譲渡したことなんざ、試したこともない――無論、自分のことは自分が一番わかっているはずなのだから、こういうことはあまり言いたくはないが、時雨は自分たちのことを兵器だと言っていた――どうにも無意識のうちに口にしていたようだが――のだから、その力を、存分に活かしてもらおうか。
「時雨、お前の身体の制御権の一部を渡す。電探か通信機でも使って、お前の姉妹に呼び掛けてくれ、深海棲艦が逆探知でよってくるかもしれんが、それに関しては心配は要らん」
『分かったよ。妖精さん、よろしくね』
妖精さん……?傍から見れば、強いStressで頭がおかしくなったと考える妥当か……だが妖精とやらは、このはっきりと見える、このふよふよと浮いている手のひらSizeの奴のことか。
俺も探しはするが、いくらなんでも限度がある、適当に至るところを周って――!
「……時雨、お前の姉妹とやらは、アレか?」
――そう言って、その方向に指で指し示してやった。
「時雨、お前の姉妹とやらは、アレか?」
――そう言って、白朱鷺が指差した方向には、数体の深海棲艦と、水面に漂う、金糸のような長い髪が浮かんでいた。
『――夕立っ?……まさかっ!?』
まさかそんなわけ、そう思って、間に合わないかもしれないと、そうも考えてしまう、そんなことを考えている暇があるのなら、どうにか行動に移したほうが良いはずだけど、今は白朱鷺が僕の身体を動かしている……夕立は白朱鷺に任せ言われた通り、電探と、通信機で深海棲艦を誘導することに注力するしかない、か。
「あそこに居るのがお前の姉妹の一人で確定か……どうしたものか」
『僕が、通信機で深海棲艦おびき寄せる、だから、どうにかしてほしい、任せたよ』
あの力は使えないとか何とか言っていたけれど、やっぱり心配は要らないかもしれない、こんな心強い人が僕たちの提督だったら――
「あぁ?……なんだコレ、小口径の主砲……か?どう使えや良いんだ?」
『――て……あ、いや……白朱鷺、それは、妖精さんが装填してくれていると思うから、撃とうと思って主砲に命令すると、多分、撃てると思う、かな……』
「命令ィ?……まァいいや、これは後々使えるようになればいい、それよりもどうにかしてお前の妹とやらをかっぱらってくる、なんとかしてみせるさ」
『分かったよ、通信機とかで、何とか向こうの通信に――てっ、提督!……急に速度を出さないでっ……』
「……提督?お、おぉ……?悪いな、だが急かねばいかん時だろうに、そんな悠長なことを言っている場合じゃないだろう。――っと、Nice catch,だな。遠目でなく、この距離で見て、お前の姉妹であっているか?さて、適当にそこら辺の陸地に寝かせるか…」
合ってる、夕立だ。僕が間違えるはずがない、僕の妹を間違えるはずがない。夕立は……うん、まだ息がある、念の為、胸骨圧迫とかをして……ああいや、息がある人にそれをするのはいけないんだっけ。
「時雨、Changeだ。お前が呼びかけてやれ、赤の他人の俺がやってもどうにもならんだろうからな」
『そうだね、そうさせてもらうよ――夕立、大丈夫かい?深海棲艦に襲われていたようだけど、沈みかけていたから、目を覚ましてくれるといいんだけど……』
「情緒が不安定か……?まァいい、このままでも死にはせんよ。……ただ、濡れ鼠になって体が冷えている。今の季節が何かは知らねェが、このままだと低体温症になるぞ……一先ず、俺の羽織ものでも被せる――前に……服、脱がせるぞ。服が濡れたまんまじゃァ、いくら厚着をしても意味がねェ……が、俺がやるのも忍びない、お前が、抱きつきながら脱がせてくれ」
『――それは……!急がないと、ええと、抱きついて?脱がすんだったかな?』
「Exactly,人肌で温めるんだ。さっさとしたほうが良い」
『そういえば、深海棲艦は――』
「深海棲艦だァ?……あぁ、あの禍々しい奴、切り飛ばした」
切り飛ばした……?ああ、あのどこから出したか分からない刀で……かな?それにしても、とんでもない早業だ。多分、艦娘の出せる速力を上回っていると思うけど……動きが、僕達とは違ったから、多分、元から水上を動けるんだろう。艤装に依存した方法なら、艤装の喫水線まで沈んでいるはずなのに、僕の足は、水面に接触しているだけで、波に揺られていた。海を、まるでただの地面かのように水面に立っているから、多分、そのはずだ。
……そういえば、主導権を交代する必要があるんだっけ……交代の仕方は分からないけど、まあ、白朱鷺が何とかするだろうし、人肌で、だったかな、服を脱ぐ必要はあるんだろうか。脱がせる必要はあるけれど――!
「交代するのなら言ってよ。ビックリしたじゃないか」
『hum,Changeだとは言ったはずだが……聞き逃したわけじゃねェか、ahh,なるほどねェ、交代するその時に言えと、そういうことか……ほォらharry up, harry up!』
「急かさないでよ、白朱鷺。焦って手が滑ったら、どう責任を取るつもりなのさ」
『責任だァ?……Huh,急かされとけ、いくら早かろうが損はない。それどころか遅れちまったら
まったく、怖いことを言ってくれちゃって……まあ、僕も、手を滑らす気は毛頭ないけど……。それにしても、急に交代するのはビックリするからやめてほしいかな……まあ、本人は先に言ったつもりらしいから、白朱鷺は、少し言葉足らずなところがあるんだろうか――それにしても、白朱鷺の性別はどっちなんだろうか。
さっき、俺がやるのも忍びない、そう言ってたっけ……今の白朱鷺の声は、口調が違うだけで、僕と同じ声だから、どっちかは分からないけど、白朱鷺の一人称は俺だし、忍びないとも言ってたから、どちらかと言えば男性、何かな?……初めて会ったときは、声が潰れていて、良く分からなかったけど、声は、多分低かったから、どちらかと言うと、男の人……なのかな……。
でも、忍びない、って言っていたのは、単に姉妹だからって言う気遣いかもしれないから、男の人とは限らないのかな――っとこれで良し……じゃあ、無いよね。……お腹のあたりに、砲撃を受けた傷がある、それに、夕立がほとんど沈みかけていたから、重傷なことに間違いはない。
「本当に、良く夕立を見つけれたね……僕一人じゃ、ここに来ることも出来なかったかもしれないから……」
『まァ、間違いなく、追手に捕まっていただろうな。……それはそうと、コイツの名前は、夕立で会っているか?』
「うん、そうだね。夕立で、会っているよ」
その通り、白朱鷺と出会うことが無かったら、あそこで、間違いなく憲兵に捕まっていたはずだ。その点でも、今も、白朱鷺が居なきゃだめだったかもしれない。……もっと疑り深くなるべきなんだろうけど、どこか、白朱鷺に安心感を抱くようになってきた。
さっきも、提督って言ってしまったし……。
『Hmm,夕立、ねェ……髪色は違うが、時雨と良く似ている。流石は姉妹だな、眼の色は――あぁ、そうだ。瞳孔をCheckしておかねばな。時雨、懐中電灯か探照灯、どちらでも良い、あるか』
「探照灯があるけど、それでどうするのかな?」
『人間の目って言うものは、昏睡状態だと、光にまともに反応しないこともある、今から、雑ではあるが、それを確認する、まァ、あくまでも一応だがな……以上だ。何か質問は?』
「……白朱鷺、それは、僕がするの?」
探照灯の調整はできるけど、いくらなんでも、目に直接光を当てたら、失明するかもしれない。そこも、何とかするんだろうか。
『光量の調整は俺に任せろ。なぁに、失敗なんざある訳が無い』
「……えっと、それは、主導権を渡すってことで良いのかい?」
『その通り』
違和感はある。もちろん、体が動かせなくなる損失感も、
それでも、この感覚にも、少し、慣れてきた気がする。……一瞬、目の前が白飛びするような感覚も、何故かは分からないけど、少しずつ、短くなっている。これも馴れなのかもしれない。
『それにしても、光量を調整するって、どうするんだい?』
「簡単だ。人間の皮膚ってのは、あぁいや、人間に限ったことじゃァねェが、ある程度光を通す。それは知っているな?」
『えっと、知ってはいるけど、それがどうしたのさ』
確かに、指先とかに光を当てると、多少は光を通すけど、でも、そんなもので光を調節できるとは思わないけど、あの変な力を使って、何とかするのかな……でも、確か、あと半日以上はこの力は使えないとかと何とか、そんなことを言っていたから、どうするんだろう……。
「さぁて……今からオペを行う、とでも言ったら、格好が付くか?……まぁそんな戯れ言はどうでも良い、探照灯を展開してくれ。……さて、目の調子は……」
少し戯れも交えながら、夕立の眉を指で抑え、展開した探照灯を近づける白朱鷺……は、一体何をしているんだい!?……僕の指が広がって、探照灯を覆うように伸びていって……まさか、さっき話したのはこれのこと……?そんな強引な方法で光量を調節するとは、思っても見なかった。
「別に何の異常も無い。ただのEmeraldGreenの綺麗な眼だな。Huh?これは……」
『白朱鷺?……何かあったのかい?』
「あぁいや、何も心配するようなことでもない。……ただ、少し、瞳孔がピクリとでも動いた気がしてね、そろそろ目を覚ましても良い頃合いだと、そう思ってな」
『――!夕立が起きるんだね。……ふぅ…………良かった』
夕立が目を覚ます……そう聞いて、僕の緊張が解けたことを感じ取ったのか……白朱鷺が一瞬、探照灯の調節を解いてしまった。
「……うぅ、眩し……ぅ、あ、時雨?――じゃない。……だれ、っぽい……?」
みんなの心のなかに、艦娘は居るんやで……やから、ここの時雨の口調が違っていても、何ら問題は無いんや……。