『こちら異世界、応答願います』 作:調味料
実験記録No.一八六四
記録者 マーク・トゥウェイン
記録内容 音声データ
「あー、現在時、UTC2200。気温は12度、湿度は計器が壊れた為不明。体感としては七〇を超えている。……天気は大荒れだ」
【ガタガタと揺れる音】
「まもなくこのラボも呑み込まれる。私はここでただ一人実験と記録をし続けている」
【三秒間無音、ため息】
「自分でそうしたいと選んだ事だからな。やり切るさ。……だが通信局のケーブルが想定より早くに極地型ストームによって早く切断されてしまったのは想定外だった」
【キーを叩く音、画面の起動音】
「実験記録のNo.五九九からこの記録は何処にも届いていないだろうな。ラボから送信は出来たとてこの電離圏嵐の中では中継地なしにそっちまでは届かない」
【雷鳴、風の音】
「電離圏プラズマは……増加を続けている。窒素はどこに消えている? くそッ……こんな、これじゃあマクロデータすらかき消される」
【ひときわ大きいノイズ。甲高い警報音が鳴る】
【椅子が軋む音、三十秒間ガタガタという音が続く】
「──すまない、少し席を外していた。確認してきたんだが……私は誰に向かって謝っているんだ」
【七秒間無言】
「……いや、いい。報告は続ける。悪い報告だ。外の観測アンテナのシャフトが折れた。これ以降気温すら記録が出来なくなる。外に一歩でも出れば身体は嵐の中を加速した飛翔物に砕かれ赤い霧になるだろう」
【ボタンを押し込む音、舌打ち】
「こんな記録なんざ残しても、届けられないんじゃあここで死ぬデータだ。アーカイブを残そうにもデータロガーもすぐにストームで何百ものスクラップになる」
【小さなうめき声】
「あぁ……くそ。こんな、意味のないために残ったんじゃない。俺は……俺は……」
【五秒間無音、すすり泣く音】
「なぁ、本当に誰もいないのか? 誰も受信できないのか? このストームのデータを。俺のデータを。──いや」
「
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
「再試行、アーク座標確認、アンテナ、プラス三十度。深度変更、周波数をプラス七十一へ変更。送信……」
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
「再試行。五番トランスミッター、サーチ。出力増幅、予備電力から複数回路へコール、送信」
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
「再度呼び出し。ランプは……点灯してる。よし、いいぞ、運が向いてきた。第二サイロの気温維持装置を停止、成功。電源をCentralへ。チャージ、ブロック零コンマ八秒。座標呼び出し……移送。送信」
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
「スモーク外縁部の出力十五%カット。座標変更、Nプラス五十、送信……」
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
「……再試行」
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
【▶︎ データ送信先が見つかりません】
「誰か……くそっ……」
「誰もいないのか……? この暗闇の先には。私だけなのか? 宇宙を彷徨うだけ?」
「あぁ……ぁぁ」
▶︎次のデータを記録しますか?[Y/N]
【▶︎ データ送信先が見つかりました】
【記録情報〈No.599〜1864〉を転送します】
【追加、ファイル名(逡ー荳也阜縺九i譚・縺溷菅縺ク)を転送中……】
『ミスター、どうされましたか』
『ミスター、泣かないでください。どこか痛いのですか?』
『こちら《表示不可》です。データを受信しました』
『わたしはここにいますよ、ミスター。ミスター?』
『これを届ければいいのですね。そうすれば悲しくはないですか? ひとりで泣いてはいけませんよミスター』