地平線の果てまでも見える広大な大地に人間の背丈を遥かに超える木々達。それらはジルバとリゼフのこれまでの常識をことごとく覆していく。
壁に囲まれた世界のさらにその下、糞溜で生活していた彼らにとってこの世界はどう見えているのか。
「すっげーな! これが壁外かよ。広すぎてなんもねーな!」
「すごいな……でも巨人っていうのは見えないな」
前を行く先輩兵に付いていくように馬を走らせる二人は乗馬の経験はもちろんない。
だが訓練されつくした馬と、地下で立体機動を使いこなしていた二人はまだそこまでスピードは出せないものの、不自由なく乗りこなせるようにはなっていた。
「前方に10メートル級巨人出現! かかれぇっ!!」
前方でその声が上がったかと思うと単調的に起こる地鳴りが二人を襲う。既に前の兵士たちは隊列を崩していて、立体機動で空を舞っている。
だが木々に遮られ二人はまだその姿を拝むことが出来ない。
「巨人……どんなやつだろうな!?」
「いつでも戦える準備をしておいたほうが良い」
ジルバとリゼフもブレードを抜き、片手で手綱を握った状態で馬を進める。
木々を越え、戦闘に加わろうとする二人。
だが――――
「な、なんだコイツ……」
「リゼフ、構えろ行くぞ」
「うぁああああああ!! 助けてぐでっ――――」
巨人は二人の想像を凌駕した。
だがそれも仕方ない。彼らには巨人を見たこともない、知識もないのだから。
巨人たちがウォール・マリアを破壊し、シガンシナ区へと侵攻し、二人の故郷を、住む家を破壊したことも知らない。
能面のようなその顔、そして固定された表情。
うつろとした目は大きく見開かれ、幼さの残る笑みを浮かべたまま人間を食らうその姿に二人は面食らう。
生殖器の無い裸体で人々を粉砕しながら『巨人』は調査兵団を食らう。食らう。食らう。
調査兵団の兵士たちは次々ととびかかって行くもののそのほとんどが踏まれ、握り潰され、食われている。
彼らもまた、巨人との戦闘は知識にしかない。
実際の戦闘に参加した兵士のほとんどは死んでいるからだ。
「こっちにもう一匹いるぞぉぉっ!! 逃げろーーっ!!」
「逃げてもどうにもならないっ! かかれっ! 倒すのだー!」
「無理だっ! うわっ! うわあああぁ――――」
もはや指揮官など存在しない。
どうやら巨人の群れが襲ってきたらしく、前方も後方も戦闘状態だった。
確かにどこにも逃げ場はない。逃げたとしてもここは壁外、巨人のテリトリーだ。
「ジルバッ! どうする!?」
「やるしかないだろ、皆が右方の巨人に集中しているから俺たちは左方だ確か弱点は『うなじ』だと聞いた、俺がやるからお前は足を切って止めてくれ」
「わかった!」
リゼフはトリガーを引き、アンカーを巨人の脛に指すと、一気に加速し巨人の元へと飛ぶ。
この二人の技術は地上一般のものとは違い、独自の動きをする。
彼らの技術の真髄にあるのは『翻弄』、地下で追ってを振り切るために、縦横無尽、予想外の動きができるように鍛えてあった。
リゼフは掴もうと伸ばした巨人の手をかいくぐり、もう一方のアンカーを足の裏に刺す。
そして一瞬、速度を落とし、カーブに入ったところで加速する。
大きな弧を描き、リゼフは右膝の裏の肉をそぎ落とす。
超硬質ブレードを使うの初めてだったが、彼らは地下で培った観察眼で命を落としていった仲間たちがどのような攻撃をしていたか見ていた。
右ひざをガクンと地に着いた巨人は立ち上がろうと、地面を両手で抑え、力を入れる。
「ジルバッ、今だ!」
「ああ!」
ジルバはトリガーを引き、肩口にアンカーを深く刺すと、リゼフをも上回る超加速で巨人の首へと迫る。
だが巨人はそれを待っていたかのように、ジルバの目の前に、右手を構える。
「ジルバ!」
リゼフが叫ぶ。
ジルバは体をひねり、腕を体に巻き付け、刃のついたコマのように高速回転しながら、巨人の指を切り裂いて大きく上空へ舞い上がる。
そしてもう片方のアンカーをうなじに刺すと空中で加速し、うなじにブレードを這わす。
一メートルほどの肉塊をそぎ落とし、ジルバはすぐに巨人から離れる。
「やったか?」
うなじを削がれた巨人はその場に崩れ、蒸気を吹き出す。
「なんだこれ!?」
「逃げろ!」
すぐにジルバとリゼフは馬の近くの木にアンカーを飛ばし、馬上に着地する。
「はぁ、はぁ、やったん……だよな?」
「多分な。 でも他が終わってない」
よく見ると、他の兵士たちは次々と屍になっていた。
班員たちもよく見れば半数まで減っている。
班長のミハエルが指示を飛ばしている者の、やはり思った通りには行かないようで命を落としていく。
二人の次の目標は班員を救うことだ。