麟佳さん家の竜姫事情   作:麟佳さん

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レーヴァテインとナルガクルガって素早くて格好良くてお似合いだと思う麟佳さんです。


白い疾風は魔剣の側に

「ふぅ、やってくれるわね・・。」

草原で息をつき、剣を構えるレーヴァテイン。彼女が対峙しているのは・・・。

「グオォォォオ!!」

空気を震わす咆哮をあげるのは、巨大な体躯を持ち灰と黒の毛に覆われた豹のような獣。しかしその前足には滑空するための飛膜を持ち、節には巨大な刃を備えていた。滑空しているのを見ると竜にも見えるかもしれない。頭だけでレーヴァ身長の半分以上あり、その爪や牙は容易く相手を切り裂くだろう。体と同じ位長い尻尾は鞭のようにしなり、獲物を追い詰める。竜の眼は相手の命を射抜かんと見据え赤い光を放っている。全身が凶器とも言える相手にレーヴァは果敢に立ち向かう。

「グルルルル・・ギャオ!」

竜が飛び上がり体を反転させながら尻尾を地面に叩きつける。身軽な動きたがターゲットとの距離は離れている。しかし強靭な筋肉と風を巻き込む尻尾の毛によって衝撃波が生み出され、大地を削りながら飛んで来る。レーヴァは横に飛び退いてこれを回避するが、竜は既に次の攻撃に移っていた。叩きつけた尻尾を横に薙ぎ払う事で横向きの衝撃波を放つ。

「横は無理・・なら上!」

一段目を横に回避した後、すぐさま跳躍し二段目の衝撃波を回避する。そして上空から反撃しようとしたレーヴァに陰が落ちる。

「何・・あぐっ!?」

レーヴァに襲いかかったのは竜の尻尾にある棘の雨だった。この棘は一段目の衝撃波を放つ直前、レーヴァの死角から上空に放たれていた。これだけの段階を踏んだ攻撃が繰り出せる程の知性をこの竜を持っている。バランスを崩し落下するレーヴァ。その身体が地面に激突する前に竜はその口で捕らえ、そのまま強靭な顎で噛み砕く・・・。

事はせずそのまま下ろし、じっとレーヴァを見つめていた。その目には敵意も捕食者としての意思も無く、傷ついた彼女を心配しているようだった。

「・・はぁ、あなたの勝ちよ『ナル』。強くなったわね。」

「クゥ♪」

先ほどまでの咆哮からは想像出来ない優しい声をあげた竜、『ナル』はその大きな頭をレーヴァに擦り付け甘えていた。

「こらこら、嬉しいのはわかるけど止めなさい。ちょっと怪我してるんだから。」

そう言いながら、レーヴァは優しくナルの頭を抱えるように撫でる。そのようすは母と甘える娘のようだ。

「レーヴァさん大丈夫ですか!?直ぐに治療を…!」

「ありがとーミストル。あー、とうとう負けちゃった。まだまだ負けるつもりは無かったのに。」

「ナルさんとっても強くなりましたね。驚きました…。」

「ナル、最後のアレ。オティヌスに教えてもらったでしょ?」

「グルル~」

「やっぱり…。良くできてたじゃん。そのうちナルに全く勝てなくなるのかな…。あなたはもう一人でも生きていけるのね。」

「ガゥ!?キュウウ…」

一人立ちの話題が出たとたん嬉しそうだったナルはしょんぼりとうつむいてしまう。恐ろしい風貌たが、中身は甘えん坊の女の子なのだ。

「大丈夫よナル。私が生きてる限りはいてあげる。私が見つけたもの、あなたが居なくなる時まで面倒見るわ。」

異界で「白疾風・ナルガクルガ」と呼ばれるこの竜がレーヴァの元に来たのは数年前。この大きなナルがまだ抱えられる程の大きさだった頃である。

 

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ある満月の日

レーヴァはいつもより遅い時間まで森で寝ていた。涼しく優しい風は眠るにはうってつけだ。しかし遅くまでいると真面目なロンゴミアント辺りからお小言が飛んでくる。そろそろ撤収しようと木を降りた時、

「キュー…」

「…何、鳴き声?」

聞きなれない小さな鳴き声。興味が引かれたレーヴァは声の方向に歩を進める。そして見つけたものは胴体は黒く頭や尻尾辺りが白い毛で覆われた猫?のような生き物だった。その毛は月明かりに照らされてとても綺麗だった。辺りに卵の殻があるところを見るに、産まれてまだ間もない様だ。そしてその猫はレーヴァテインを見るとおぼつかない足取りで歩きだし近づいてきた。

「ナニコレ、猫?でもなんか腕が変だし…。ひょっとしてムササビみたいに飛べるの?」

そうして観察していると猫?はレーヴァテインの足元まできて頭を擦り付けていた。そしてあることに気づいたときレーヴァは申し訳なく思いながらも小さな体を軽く蹴り、猫?を引き離した。

「キュゥ!?」

「私はあなたのお母さんじゃない…。近寄らないで…。」

猫?は悲しそうに声を上げるがそれを無視し、背を向けてレーヴァは家に帰っていった。

 

夜が過ぎレーヴァも猫の事を忘れようとしていた頃。家の裏手の花壇にあるベンチで昼寝をしていたとき。

「キュー!」

聞き覚えのある声に飛び起きるレーヴァテイン。そこには森で見放したはずの猫が居た。

「あんた何でここに!?まさか、私の匂いを追ってきたの?」

「あの…レーヴァさん。その子は一体…?」

ちょうど花の手入れからで戻ってきたミストルティンと出くわしてしまう。これでは無理やり引き剥がして追い払うところは見せられない。観念して事情を話す。

「なるほど、そんな事が…。レーヴァさん、この子が居た近くに他の卵や巣のような物はありましたか?」

「そうね…見覚えがないわ。この子だけだった。」

「ということは何かが原因で巣から離れてしまって、親もそれに気付かずに…。ど、どうしましょう…?」

二人の心配もよそに猫?は甘えた声をだしレーヴァに体を擦り付け、とてもよくご機嫌だ。

「レーヴァさん…何とか育てられないでしょうか?このまま見捨てるのは…。」

「でもこんな猫知らないし。そもそも新種かも…。」

「キュウ?」

「…はぁ。面倒が増えるの嫌なんだけど、こんなに頼られたらなぁ…。よし、あなたの名前は『ナル』よ。」

「ナル…ですか?」

「この子を初めて見たとき月に照されて綺麗だったの。ルナは安直過ぎるから反転させてナル。よろしくね、ナル。」

「キュー♪」

「レーヴァさん、ナルさんを少し見せて頂けますか?」

「えぇ、構わないけど何を見るの?」

「性別が気になって。ふむふむ…ナルさんは女の子みたいですね。」

「へぇ~。この毛並みなら綺麗な女の子になるのかな?楽しみね。」

それからレーヴァとナルの共同生活が始まった。

マスターを始め、隊のみんなに事情を話すと快く受け入れてくれた。ナルはレーヴァの行く先に朝から晩までトコトコと歩き着いていく。食事は試行錯誤の結果、肉が主食とわかったので何とかなった。日中、夜問わずレーヴァに寄り添い、眠る時も一緒だ。

 

そして月日が経ち。

「ナル、ずいぶん大きくなったわね。」

「ガウ!」

レーヴァより少し大きい体に成長したナル。弱々しかった四肢は大地を捉え、腕の刃は刃物と変わり無い。

「そろそろ自分で狩りを出来るようにならないとね。そうね…あなたなら牙で噛みついたり、尻尾を叩きつけたり。腕で切り裂いてもいいわね。ナル、尻尾を振り回せる?」

「ガウ…。」

試行錯誤しながらナルは尻尾を振るが威力のある一撃はなかなか出ない。その様子にレーヴァは頭を悩ませる。

「う~ん、見本が無いから難しいのね。誰も見てないわよね?」

そう言ったレーヴァは両手を地面に着いて四足歩行で歩き出す。動物の歩き方をイメージしながら自分の体に落とし込む。ナルはその様子を不思議そうに見ながらレーヴァの周りを歩いている。それを見ながらレーヴァは四足での動きを持ち前のセンスで体得する。

「ありがとう、ナルのお陰でよくわかったわ。よし、歩きや走りはこれでいい。後は尻尾をどう動かすか…。尻尾の重分心は後ろよね。左右のどちらかに体重をかけて勢いつけて…ほっ!っとと。これであってるのかな?」

それを見ていたナルも見様見真似で尻尾を動かす。しばらく練習していると。

「ガァウ!!」

風を切る音と共に尻尾はしなり、近くにあった岩に命中し表面を少し欠けさせる。

「おぉ~、やるじゃん。それだけの威力なら大丈夫ね。」

「ガウ~♪」

誉め言葉と共にナルの頭をポンポンと叩くレーヴァ。ナルも上手く出来た事が嬉しいようだ。

「練習すれば他の攻撃もできるはずだから、もっと練習しなさいよ?さて次はコレか。確かめて無かったけど切れ味は・・ッ!!、少し鈍いけどナルのパワーなら切れるわね。」

ナルの腕の刃に指を押し当てるとしっかり刃物としての役割を果たしていた。意図せず大切なレーヴァに怪我をさせてしまったナルは心配そうに覗き込んでいる。

「ガウ!?クゥ~・・・。」

「何よ?私が勝手にやっただけだからあなたは悪くないし、そんなに大きな傷じゃないから大丈夫。ちょっと待っててよ、コレを教えるには道具が要るわ。」

 

傷付けてしまった自責にかられながらも一人待つナル。しばらくして戻って来たレーヴァは二本の小刀を持っていた。

「コレを使って見本を見せるわ。確か向こうに野生の動物がいるはず・・。」

「グルグル~」

「えっ?乗れって?大丈夫?」

レーヴァに促して背中に乗せて歩くナル。その動きはレーヴァを気遣いとても安定し、レーヴァの重さを感じさせない。

「凄い…まだ私より少し大きいだけなのに。もっと大きくなったらあなたに運んでもらおっかな。」

そうしているうちに森林にたどり着く。そこには鹿や狐。もう少し歩いた平原に牛や馬もいる。広大な土地に多くの動物がいるこの土地はナルの食事処としては十分過ぎる広さだ。

「さてと、あの鹿を狙おうかな?見てて、ナル。気付かれないように声は出さずに音も小さく、気配を消して近づくの…。」

四つん這いで右手に刀を逆手で持ち少しずつ近づくレーヴァ。戦闘時の技術を最大限に活かし、気配無く鹿との距離を詰めていく。そしてある射程距離になったところで四肢に力をいれて飛び出す…。

「…ふん!」

突然現れたレーヴァに対応できず、鹿は斬撃を受け絶命する。ナルはその様子を見落とし無く観察していた。

歩き方を、気配の消し方を、飛びかかる力の入れ方を、腕に持つ刃の振り方を。

「ざっとこんなものね。出来そう、ナル?」

「ギャウ!」

元気よく頷くナル。それを見て安心したレーヴァはナルと共に次の獲物を探しに向かう。しかしその後二時間程経過したがナルの狩りは上手くいかない。初めは気配を消しきれずバレてしまい、次は気配こそ消せたものの飛びかかる時の殺気で気づかれた。そうして練習を繰り返していたが後少しのところで取り逃してしまう。

「グゥゥ・・・。」

「大丈夫、少しずつ良くなってる。でも今日はここまでね、もう暗いわ。」

しょんぼりするナルを慰めるレーヴァ。日が落ち始め森には光が差し込まなくなっていく。

とぼとぼとした足取りでナルは家に向かう。その道すがら、近くに獲物を見つけたナルはレーヴァの服を咥えて、もう一度挑戦したいと懇願する。

「はぁ…いいわ、最後のチャンスよ?」

レーヴァの期待に応えるべく獲物を見据えるナル。その動きは今までのどれよりも研ぎ澄まされたものだった。

(この暗さでしっかり獲物を見据えてる。黒い毛も闇に紛れてる。もしかして…ナルは夜の方が得意なの?)

川辺で休む二匹の獲物を見据えるナルの瞳に紅の閃光が宿る。音もなく飛び出したナルは赤い軌跡を残しながら飛びかかり手本を見せたレーヴァの様に一匹目を切り裂いた。もう一匹はその様子に驚いていたがすぐさま走り出す。しかし、ナルの血と肉体に宿る本能がレーヴァの予想を越える動きをする。ナルは素早い動きで先回りするように跳躍し、降下しながら尻尾を叩き付けたのだ。そうして息絶えたのを確認して、噛みついて肉を引き裂き口に運んでいく。

「グルル…。」

「一瞬で両方仕留めるなんて。これがナルの実力…。末恐ろしいわね。」

「ガウ~!!」

肉をある程度食べ終えたところで、誉めて誉めてと言わんばかりにレーヴァに飛びかかるナル。先程までの捕食者では無く、もとの甘えん坊に戻っていた。獲物に食らいついていたため舌には血が残っておりレーヴァの顔や服が赤くなっていく。

「もう、血の付いた舌で舐めないでよ。皆がびっくりするでしょ?でも、凄いわねナル。これなら一人でも大丈夫。」

「ギャウゥ~♪」

「全く、一人立ちはまだまだみたい。」

 

それから更に月日が経ち・・

ナルは馬車よりも大きな体に成長していた。狩りは昼夜問わずやってのけ、腕の刃はレーヴァや隊の皆に手入れされて鉄も切り裂く業物となっていた。尻尾は長く、柔軟性を持ちさまざまな攻撃も出せるようになった。大きな体は背中にレーヴァを乗せて空を飛べる程である。

ある日、異族との戦闘中にレーヴァが敵に囲まれた際のこと。他の仲間も離れており増援はすぐに来ない状況。

「全くうじゃうじゃと…。めんどくさい…。」

「ギシャァァ!」

レーヴァに斬り掛かろうとした異族だったが、その間を何かが降り注ぐ。

「グギャアア!?」

「これは、棘?」

「グオオオオオ!!!」

咆哮と共に空から巨大な物体が降ってくる。その着地に巻き込まれた異族は押し潰され、動かなくなる。そしてそれはレーヴァの側に近づきながら尻尾を凪ぎ払って敵を吹き飛ばした。

「えっ?ナル!?どうしてここに来たの?それに、さっきの棘はあなたなの?」

「グルル…!」

これまでは異族が襲来した際は安全のためナルは留守番をさせていた。しかし戦闘の後、傷ついて戻ってくる皆を見ていたナルは皆を守りたい一心で隠れて特訓していたのだ。そして今回、とうとう戦線に駆けつけた。

「もう守ってあげるだけのあなたじゃ無いのね。ナル、あなたの強さを見せて。」

「ガァウ!!」

そこからのナルはまさに一騎当千。戦場を跳び回りながら刃や尻尾で異族を倒していく。そしてレーヴァを驚かせたのは。

「グゥ・・ギャウ!!」

飛び上がり尻尾を叩きつけると巨大な衝撃波を放ち、纏めて敵を吹き飛ばす。直撃したものは勿論、掠っただけでダメージを受けている。この脅威に異族達の視線が集まるが、それはもう一つの脅威を完璧に隠してしまう。巨体で暴れるナルの素早い動きの僅かな隙を埋めるように母親がサポートに入る。まさに一心同体、以心伝心の連携で窮地を脱してみせた。数分たてば戦場には二人だけが残され、周辺は屍ばかりが転がっている。その帰り道。レーヴァはナルの大きな背中に寝そべっていた。温かさと柔らかさを持つその背中はレーヴァのお気に入りの一つだ。

「ありがとう、ナル。貴方がいなかったら駄目かも。娘のようなあなたに助けられるなんて、とても嬉しいわ」

「ガウガウ♪」

「娘が立派に育つのってこんな気持ちなのかな・・。まぁ悪くはないかな♪ そうだ、皆。私ナルと先に帰ってるから。後ヨロシク~。」

そう言うと姿勢を整えて、ナルの首辺りを抱きしめる。

「大丈夫、ナル?飛べる?」

「グァウ!」

一吠えした後、ナルはその脚力で空に向かって飛び上がる。そして上空で腕の飛膜を開き、風にのって進んで行く。

「ふぅ~、やっぱりナルに乗って飛ぶのは気持ちいいわね。帰ったら一緒にお昼寝しましょ。」

「クゥ~♪」

 

ナルはいつも拠点の横にある大きな小屋で眠っている。体が大きくなってから建てられた小屋はナルが快適に過ごせる程度の広さがある。小屋に戻ったレーヴァはナルから降りて、ナルの首によりかかるように体を預ける。ナルはレーヴァに前足を添えて抱えるようにしている。

「暖かくてサラサラ・・あなたはいつも気持ちいいわね。」

「グゥ~。」

「昔は抱きかかえて寝てたのに、今は逆に抱えられるのね。寂しいけど、あんなに強く育ってくれたならいいかなぁ。」

「ギャウ♪」

少女と竜の夜は静かに過ぎていく。

きっと明日も大きな甘えん坊がレーヴァのそばに居るのだろう。

 

そうしてナルが一人前になってしばらく経った頃。私室でのんびりと暇を潰していたレーヴァのもとに、何かを企んでいそうな顔をしながらオティヌスがやって来た。

「レーヴァ。あって欲しい人がいるんだけど、時間ある?」

「大丈夫、特に予定ないし。」

「良かった~♪ 大丈夫だって、入っていいよ。」

促されて、一人の少女が入ってくる。身長は150cmに満たない程。髪は膝裏辺りまであり、根本が黒で肩を過ぎた辺りで灰色に変化している。

見覚えの無い顔に思わずレーヴァは戸惑う。

「あなたは誰なの?」

その言葉を聞いた瞬間、少女は表情を曇らせる。何か落胆した様子だ。

「レーヴァ、もっとよく見てよ。きっと分かるから。」

「もっと…見る…。」

見覚えの無い顔で観察を放棄していたが、見ればおかしい事ばかりだ。

まず服を着ていない。いや正確にはボタンを着けていない半袖の白シャツを羽織っているがおそらく誰かから渡された物だろう。細く凹凸の少ないスリムな体で露出している部分を見れば所々毛で覆われ、手足の先は黒の鱗や毛を纏い、鋭い爪を持っていた。また手首から肘にかけて、小さな黒い刃が出ている。腰の辺りには髪に紛れて、身長と同じくらい長い尻尾もあった。それらの要素はレーヴァに一つの名前を想起させる。

「もしかしてあなた・・ナルなの?」

曇っていた顔は晴れ渡り、嬉しいのかレーヴァに飛び付き頬擦りしていた。

「ほんとにナルなのね。オティヌス・・あんたまた変な薬作ったでしょ?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた♪知り合いとあれこれやってみた結果、獣を人に変化させる薬が出来たのさ~♪あっ、ちゃんと元に戻る事も出来るよ。」

「どこを目指してるのよあんたは。ところでナル。あなた話せるの?」

「あ゙・・がう・・うう・・えぇあ・・」

「まだ話せないみたいなんだよねー。でも、話してる事は理解してるみたいだから練習すればいつか話せるようになるはずだよ。」

「そうなの?ねぇ、ナルは私とお話したい?もしそうなら、私が教えるわ。」

「アタシも手伝うよ♪ 」

この言葉にナルは大きく頷いて答える。その日から暇を見つけてはナルの勉強会が行われていた。レーヴァ以外の面々も勉強に参加してコツコツ練習する。本人のやる気もあってか少しずつ人の発音が出来るようになっていく。服もそのままではいけないので特注で作ってもらった。身軽で闇にとけるナルをイメージして、和の国の「忍装束」をモチーフにした服を身に纏い、腕の刃は防塵布をまいて事故を防ぐようにした。人と竜の姿を状況にあわせて切り替えて生活し、レーヴァと森を走ったり、人の姿でも戦えるように稽古をしている風景がよく見られた。只、体が小さくなってしまったため、人の姿ではレーヴァを背中に乗せられない事だけが不満だそうだ。

そんなにある日のこと。

「レーヴァ、ナルが言いたい事があるんだって。」

「本当?ナル、どうしたの?」

ナルの上達に興味津々のレーヴァ、ナルは緊張しつつも言葉を発した。

「…おかあ…さん。」

「えっ?」

思わぬ言葉に固まるレーヴァ。思考を取り戻した時、仕組んだであろうオティヌスを睨む。しかしオティヌスは両手を振って否定する。

「待って待って、私じゃないよ!?絵本を使って言葉を教えてた時にナルがお母さんの絵を指差して「レーヴァ」って言ったんだよ、本当だよ!?」

「嘘…。あんなことしたのに…。」

「お…かあ…さん?ご・…えん…なさい…。」

潤んだ瞳でレーヴァを見るナル。いけない事をしたと思い、千切れそうな言葉を必死に紡ぎ謝罪していた。

「違う、違うのナル。ちょっと嬉しくって。ありがとう。」

「う…れ、しい♪」

尻尾をパタパタと振りながら跳び回るナル、その姿からはもともと竜であったことは想像出来ない。

「これからも頑張ろう、ナル。」

「が…んば、る…!」

 

月日は更に流れ、成長したナルは言葉もしっかり覚え、丁寧な麗人に育っていた。擬人化したときの身長も急成長し、レーヴァを軽く越える180ば程まで伸びた。

「お母さん、お茶が入りました。」

「ありがとナル。…うん、今日も上手に淹れられたわね。」

「はい、ミストルティンさんやロンゴミアントさんの指導のお陰です。あの、お母さん…。」

「はいはい、頭下げて。…いつまでも甘えん坊ね。」

「ありがとうございます♪ 」

椅子に座るレーヴァの側に膝立ちになって頭を撫でてもらうナル。彼女にとってこの瞬間が何よりも幸福な時間だ。

 

また擬人化での戦闘では

「はっ、ふん!」

「せいっ、やぁあ!!」

練習用の木刀を振るうレーヴァに対して腕の刃や尻尾、四肢を用いた格闘で攻めるナル。ナルの鱗に覆われた手足は生半可な攻撃ではびくともしない。人の体ではあるが竜の頃のパワーも引き継いでいるので、しなやかな手足から繰り出す打撃は容易く岩を砕く。その上レーヴァ以上の脚力で高速移動し死角に潜り込んでからの攻撃を得意としている。しかし、異族を相手にする際は基本的に竜の姿で相手するため、人型での戦いはまだ経験値不足で勝率は低い。しかし彼女の成長の早さなら勝ち越すのも時間も問題だろう。

「隙あり…。」

「まだまだ!」

レーヴァがナルの背後に回り込み後ろから斬りかかるが、ナルは尻尾に這えていた棘を投げつける。それはレーヴァに向かうものの木刀に弾かれる。しかし、空いた体にナルの尻尾が巻き付く。

「嘘っ、きゃあ!?」

「てぇいっ!」

尻尾で掴んだレーヴァを体を捻って投げ飛ばし、それを追うように飛び掛かるナル。体が地面につく前にレーヴァにのし掛かり腕の刃で首を斬りつけようとする。

が、鱗の無いナルのお腹には木刀が突きつけられていた。

「ううっ、もう少しだったのに。お母さんは強いですね。 」

「ナルだってもう一人前よ。そんじょそこらの強さなら敵わないし。それにしても、まさか棘で気を引いて尻尾で持ち上げるなんて・・・。もう一度持ち上げて見てくれる?他にも出来る事があるならやって見せてよ。」

ナルは長い尻尾でレーヴァの胴体を捕らえ持ち上げる。身長差があるためレーヴァは足が着かなくなり宙に浮く。

「この様な感じです。もっと強く絞めることも、振り回したり叩きつけたりも出来ます。胴体だけでなく首を絞めたり、足に持ち直して吊り下げたりも…。」

「凄いけど、どうしてそんな事を?対人戦ならあなたの高速格闘で大抵は封殺出来るのに。」

「それは、相手を痛めつけるためです。じわじわと苦しめて、蹂躙して…最後は竜になって食い殺します。」

「怖いわね、そういう趣味だったの?」

「あっ、それは趣味じゃ無くてですね!?あのっ、お母さん達を虐める人は許せなくて…。」

「分かってる。ナルは皆を守りたくって強くなったものね。仲間が傷つくのを許せない優しい娘って知ってる。はぁ、気を抜いたら疲れたわ…。」

「ごめんなさい!?私がやり過ぎたせいで…。家まで運ぶので背中に乗ってください。」

「じゃあお言葉に甘えようかな。よろしく。」

「はい、任せて下さい!あの、お母さん。迷惑でなければ今日の夜、一緒に寝ても・・・。」

「構わないわ、あなたなら歓迎よ。」

夜、レーヴァの布団に入るナル。身長はナルの方が大きいはずなのだが決まってレーヴァの胸元に頭を置く。胸に擦りつくナルに呆れながらもレーヴァは頭を撫でてやる。

「まったく…胸に抱き着いて、いつまで子供なの?」

「私はいつまでもお母さんの娘です。竜の姿では抱いてくれないので人の姿はとっても便利です♪」

「人でもあなたの方が体大きいんだけど?」

「こんなの誤差です。お母さんの胸は柔らかくて気持ちいいんです。むにゅむにゅ~♪」

添い寝するだけなら問題は無いものの時々距離が近すぎる事がある。しかしそんな時に使える魔法の言葉がある

「めんどくさいなぁ。そんなことするナルとは寝たくない。」

「えっ……?」

ナルの動きが止まり、どんどん青ざめていく。以前にも同様の事でレーヴァの琴線に触れた際に、しばらく添い寝を拒否することがあった。母親のレーヴァに嫌われたと思い体調を崩すほど落ち込んでしまったのだ。その後再び添い寝を許可されたことで立ち直ったがナルにとっては今もトラウマである。

「そんな…お母さんに嫌われる…。やだぁぁぁあぁ!?」

レーヴァに背中を向けてバタバタするナル。いつもの淑女然とした姿はかけらもなく、幼い子供のようだった。あまりにもいたたまれないので、レーヴァは助け船を出す。

「ナル、許してほしい?あることをしてくれたら許してあげる。」

「はいぃ、私に出来る事ならば何でも!」

「じゃあ、ナルの胸に抱かれて寝たいなぁ。」

「それでいいのですか?ほかにもっと・・。」

「何か文句あるの?」

「いえ!?…あの、これでいいでしょうか?私、胸ありませんから痛くないですか?」

「いいえ。むしろあなたの鼓動が良く聞こえるわ。これならゆっくり眠れそう。おやすみ、ナル。」

「おやすみなさい、お母さん。」

ナルに抱きかかえられて眠りにつくレーヴァ。ナルからは見えないが、彼女の顔はうれしさで綻んでいたそうだ。

 

 

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