冒険に脳を焼かれたスグリ(旧題もしも幼スグリがアデクと出会っていたら) 作:すぺしうむ
スグリに必要なものって導いてくれる人なんやなって
ポケットモンスター、縮めてポケモン。
不思議な不思議な生き物。
そんなポケモン人間が華やかに暮らす大地方...ではなく、
都会といった言葉からはかけ離れたような小さな集落、キタカミの里。
のどかといえば聞こえはいいけど、ロマンも冒険もへったくれもないような場所である。
俺はそこで産まれ育った。
幼いころに両親は病気で死亡したため、現在は祖父母と姉と俺の4人で生活している。
キタカミの里の人たちはみんな優しい。
顔や服装は怖いけど里の人たち相手には温和な態度で接してくれる。
一年に一回お祭りもあるし、不便ではあるけどそれがどうというわけじゃない。
嘘、ちょっとだけ不満はある。
おにさまのこと悪く言って、俺が会いに行こうとしたらすっごい剣幕で怒られる。
姉ちゃんのことも...ちょっと苦手...なのかな。わからない。
でも俺がなんか言うたびに怖い顔と拳骨でおとなしくさせるのは嫌いだ。
朱夏が俺たちを包み込む季節。
軒先でオタチと涼んでいると、玄関のほうから男性の野太い声が聞こえる。
「ごめんください」
体がコイキングみたいに跳ねる。
里の人じゃない、初めて聞いた声。
この時間、家には俺だけしかいない。
オタチを抱え、重たい足を玄関前まで進めた。
「は、はい」
「おお、すまんなあ。ちと道に迷ってしまってなあ。悪いが案内を頼めんか?」
「えと、あ、」
「いやあ、孫にはスマホロトムかC-ギアを持てと言われとるんだがなあ」
「ん、ん、ち、ちず」
「ん?ああ、すまんな。北に行きたいんだが」
目印になるようなものが少なすぎて、迷ってしまったんだろうか。
このまま、方角だけ言ってとっとと帰ってもらおう。
...いや、やっぱだめだ。なんかモヤモヤする。
怖いけど、案内しよう。
「ついてきて、ください」
「ありがとう、少年。...そういえば名前を言ってなかったな。ワシはアデク。君は?」
「...スグリ」
どこかで聞いた名前だが、忘れた。
胸に抱えたオタチに地図を持ってもらい、アデクという男を先導する。
大体の道や時短の方法なんかもわかってる。
30分ほど歩いた後、大体の道まで案内したところで
「ここからさき、森をまっすぐ行けば開けた道に出るべ」
「ああ、ありがとう。...スグリ、出会いついでになんだ。少し話でもしていかんか?」
「え?」
思わぬ提案だ。
早く帰りたいんだが、向こうは手ごろな岩場に腰を下ろす。
断りたいが、断れば何をされるかわからない。
「う、うん」
隣に腰を落とし、オタチを盾にする。
「ワシはこう見えてもとある地方のチャンピオンをしとってなあ」
「チャ、チャンピオン!?すごい!」
「とはいっても、今は後任も見つけゆっくり隠居に旅としゃれこんでいるのだが」
野太い声く大きな声が二人しかいない空間に響く。
焔のような髪をたなびかせアデクさんは聞いた。
「君の夢はなんだ?」
「夢...」
おにさまのことがあたまによぎる。
「おにさまと仲良くしたい」
「おにさま?」
アデクさんにトモッコの伝承を教える。
大体の説明が終わった後、もう一度俺の目をまっすぐ見た後
「いい夢だ。ああ、叶うといいな。...だが、それに囚われすぎてはいかんぞ。ワシは過去に強さや夢に魅了され、己を失うような若者を何人も見てきた。だからこそだ。何かあればすぐに立ち止まり、振り返りなさい。進むだけが人生ではないぞ」
「...よくわからねえ」
「はは、そうか。まあ、いつかわかる時が来る」
「ねえ、アデクさん。おれも話さしていい?」
俺には父さんがいない。
でも隣に座るその人の大きな肩が、今は父のように思えた。
「ん?」
「里の人たち、おにさまのこと悪く言う。会いに行くたびに俺のこと叱りつけてくる。姉ちゃんもゲンコツしてくる」
自分でも気が付かないほど、無意識にたどたどしく言葉が溢れる。
「うち、親いなくて。姉ちゃんが親代わりなんだけど、なんか、苦手じゃ。嫌いとかじゃなくて、俺のこと押さえつけてくるのがイヤで。やめてって言ってもやめてくんねえ」
「そうか」
アデクさんは、俺の言葉反芻しているのか、少し考え
「家族が許してくれるのなら、旅に出るのもよいかもしれんな」
「旅?」
「ああ。キタカミの里だけがすべてではない。己を知り、世界を知り、もう一度姉と向き合うといい。ワシも冒険を始めたのは君と何ら変わらんような年のころだ」
「冒険」
「強くなれ、スグリ。肉体がという意味でなく、大きな器と見識を持てる男にな」
「うん!」
別れの挨拶を済ませ、アデクさんの背中が消えるまで見送る。
今まで勇気が出なかったけど、少しだけ上を見て歩けるかもしれない。