冒険に脳を焼かれたスグリ(旧題もしも幼スグリがアデクと出会っていたら) 作:すぺしうむ
パルデアでの旅も残すところあと三日。
ここまでくると如何せん心寂しくなってしまう。
それに、何か、モヤモヤしたのが。
「アオイ」
自分でも気付かず声が出る。
「おれ、今アオイって言った?」
いやそんなはずない。
今日は天気がいいし、空が青いって言いたかったんだ。
それしかない。
そこらへんにあった石を適当に木にぶつける。
『ロトロトロトロト...!』
「え?」
スマホロトムから着信。
ドキリと効果音がつくほどの勢いで体が跳ねる。
俺の携帯番号を知っているのは、今のところアオイだけ。
着信を確認するとやっぱりアオイと書かれている。
心臓が高鳴り、うまく体が動かない。
おそるおそる電話に出ると
「も、もしもし」
『もしもしスグリ。今時間大丈夫?』
「うん。全然大丈夫」
『私の友達のポケモンの体の調子があんまりよくなくて。スグリなら何かいい薬とか知ってないかなって』
「...わかった。できるかわかんねえけど、やってみる」
『ありがとー。私今カラフシティ近くの砂漠にいるから。座標を送るね』
「おう。すぐ行くから待っといてほしいべ」
受け取った座標をもとにイキリンコタクシーで空を飛ぶ。
俺、ポケモンが大変な時になんでこんなに嬉しいんだろ。
嬉しいと思っている心無い自分がなんだか嫌になってしまう。
...
.....
.......
アオイに送ってもらった座標まで行くと。
「スグリー、こっちこっち」
岩場の穴のような場所の近くにこっちに向か会って声をかける人を見つける。
ボールからオオタチを出し、心なしかいつもより急ぎ足で、靴の中に入る砂なんかお構いなしでザクザクと進む。
「ごめん、遅れた」
「ううん。こっちこそ急に呼びつけてゴメンね。この穴の中で休んでるんだけど」
穴をくぐると、中には男性がいた。
俺よりも体が大きく顔だちも端正で人当たりもよさそうな。
俺が勝てる部分が見つからない。
「そいつが、力になってくれるかもしれない友達か」
「紹介するね。私の友達のペパー」
彼氏って言わなくてよかった。
「は、初めましてスグリです。それでそのポケモンっていうのは」
「こいつだよ」
壮年のおじさんのような顔の犬ポケモン。
たしかオラチフの進化系だったはず。
見たところ目立った外傷もない様子。
だとすると内臓に問題があるんだろうか。
オオタチが心配そうにマフィティフの体を撫でる。
「説明すると長いちゃんなんだが...」
とことのあらましを聞く。
謎のポケモンから受けた傷とそれを直すためのひでんスパイス。
...そういえば前にガラルで似たようなものをもらった記憶が。
「ざっとこんな具合だ。残るひでんスパイスはあと一つなんだが、今日ので治ってる気がしなくてな」
「んん-。治るかわかんねえけどやれることはやってみるべ」
以前、路銀稼ぎのためにガラルの孤島にある道場でした手伝いを思い出す。
たしか、乾燥させた巨大なキノコの破片とちからのねっこ、オボンの実を、ばんのうごなと一緒に飲ませるものだったはず。
キノコの破片とオボンの実、ばんのうごなは鞄の中にあるので、残りはちからのねっこ。
「アオイかペパーくん。ちからのねっこさ持ってねえか?」
持っていないなら最悪買いに行けばいい話だけど。
「私、持ってる。これ」
「あんがと。ちょっとまっててほしいべ」
本当はひでんスパイスも入れてみたいけど、変な反応を起こすのが怖い。
なのでここは自分ができるなりのせい一杯をしよう。
マフィティフの目を一瞥し、両ほほを軽くたたく。
「相棒が大変だってんなら、見過ごせねえよなあ」
髪をかき上げ、鞄の中のボウルとすり棒を取り出す。
たしか、順番がキノコの破片にオボンの実をすりつぶす。
次にちからのねっこを沸騰したお湯で5分ほど加熱して、それもすりつぶす。
最後にそれにばんのうごなを混ぜ合わせれば
「一応完成だ」
あとはこれをマフィティフに飲ませるんだが、
「ペパーくん。飲ませてあげてほしい。おれがやるより、きみのほうがマフィティフも喜ぶべ」
「わかった」
正直効果があるかどうかは半信半疑。
あってラッキー。なくて当然。
ペパーくんがマフィティフに薬を飲ませる。
「どうだ?マフィティフ」
すると、
「た、たった!」
ぎこちない足取りではあるが、マフィティフが立つ。
ペパーの手をぺろぺろとなめ、鳴き声を発した。
ただ、まだ体に不調があるのか、大きな動きはできず寝ころんでいた方が楽な様子だ。
今は体が回復しただけでもよしとしよう。
「ごめん。まだちょっと足りなさそうだ」
「いや。あんだけ弱ってたマフィティフが立って俺の手を舐めてくれた。十分ちゃんだぜ」
「これをあともう一回作れば、マフィティフも治るんじゃないかな?」
「言い辛いけど、それは無理なんだ。使った材料が貴重過ぎて、今から取ってくるってなると軽く一年半はかかると思う。特にキノコは採れる時期も乾燥のさせ方も特殊で」
「それをおれたちに。...ごめん、おれはあんたのことを疑ってた」
「こんな状況なら仕方ねえ」
「...またなにかあれば連絡するよ」
とりあえず、これ以上ここにいても俺にできることはなさそうなので、最後にマフィティフの頭を撫で
「早く良くなれよ」
バウっと薬を飲ませる前とは少し違う、生気のある返事が返ってきた。
...
.....
.......
砂漠をぶらぶらと歩き、途中でトレーナーを見つけては勝負を挑む。
結果は重畳。
今のパーティも形になってきた。
あとはこれを全部ぶつけるだけ。
...先ほどのマフィティフのことがつい頭をよぎる。
今まで危険な目にあってきたけど、なんとか生き残ってきた。
となりで元気に走るオオタチが、同じ目にあえば俺はどう思うだろうか。
「完治させてあげたかったなあ」
正直に言うと、アオイにいいところを見せたかった部分もある。
でもそれ以上にマフィティフに元気になってほしかった。
オオタチの頭をなでながらふと考える。
もっとできることはなかっただろうか。
つけられる知識はなかったのか。
「...それも含めて世界を見ねえと。な、オオタチ!」
キュイっといつもの返事が返ってくる。
実家に帰る前に、今できることはなんだろうか。
キノコの破片:みんなあつめたあれを乾燥させたやつ。余った破片を道場の裏ボスに気に入られたからもらった。
蛇足:マフィティフをマフティフと記載して大変申し訳ございませんでした。