冒険に脳を焼かれたスグリ(旧題もしも幼スグリがアデクと出会っていたら) 作:すぺしうむ
エリアゼロ、潜入当日。
昨日は色んな感情がごちゃ混ぜになり、よく眠れなかった。
具体的に言うなら興奮30、不安20、感動50。
ゼロゲート前、とくに警備や見張りの人はいない。
レンガ造りのトンネルの前に設置してる金網のシャッターを開け、いざ第一歩。
「はっや、もう来てんじゃん」
「うわ、これはその違うんです!」
思わず顔を撮られないように隠してしまった。
でも、よくよく考えてみると聞いたことがある声である。
「ボタン。驚かすなよ」
「そっちが勝手に驚いただけやん」
「...ごめん。なんか悪いことしてるって考えると、臆病風が吹いて」
気を取り直し、レンガ造りのトンネルを抜ける。
その先には、近未来的な造形の研究所のような建物が見える。
ちょっとテンションが上がり、小走りで建物の前まで来てしまった。
「こ、これがゼロゲート。わやかっこいいべ」
プシューっと大きな音を立て、ゼロゲートの扉が開く。
SF映画の悪の組織みたいだ。
さっきの臆病風がすべて興奮の嵐で吹き飛ばされた。
「へへ、おれ1番!」
建物の中に入ると、かろうじて見える程度の明るさだった。
見えないほどではないけど、移動には不便である。
昔姉ちゃんが電球を勝ってくるのを忘れて、この明るさで夜を越したことがあった。
「はしゃぎすぎ。...暗」
「ライトつけていい?」
「お願い。上に電球みたいなのは見えるから、多分点く筈だと思うけど」
リュックのわきに着けてあるライトを起動し、あたりを照らす。
スロープがあったので、二人でそこを上りコントロールパネルを探すが。
「どれだ?」
見つからない。
さっきから地面をくまなく探しているんだが。
「これだよ。なんで地面ばっか探してんの」
ボタンがすぐそこにあったのを見つけてくれた。
なんだ、普通にあるのか、ちょっと残念。
「スパイ映画とかだと、下のスイッチとかで出てくるから」
「欠陥でしょ、そんなの。診てるから、ちょっと待ってて」
カタカタとなれた手つきでキーボードを触り、謎の文字列を打ち込んでいく。
映画でよく見るハッカーが敵のアクセスに侵入するやつだ。
これだよ、俺が求めていたのは。
「わやかっこいい!すげぇ!」
「はいはい、ありがと。...省電力になってるから、今切り替えるね」
ボタンが画面を触っている間は暇なので、そこらへんを散策しようとしたとき。
玄関ドアがまたしてもプシューっと開いた。
スパイ映画のテンションでつい物陰に身を隠してしまった。
「ここがゼロゲート。にしても暗い」
ネモだな。脅かしてやろう。
「へへへ、ここでお前はお陀仏さ」
近くに来たタイミングで悪役のような登場ムーブ。
しかし、思いのほかネモは怖がりのようで。
「イヤ、不審者!」
「ちょ、違う。おれだべ」
「...スグリ、何やってるの?」
「ビックリさせようかと」
シラーっとした目で見られた。
明らかに好感度が下がっている。
「パルデアのチャンピオンクラスともあろう人が、か弱い女の子を?」
どの口が言っているのだろうか。
キミもチャンピオンクラスだし、か弱いからかけ離れているよ。
「か弱い?」
疑問符を浮かべたら、ほっぺたを軽くつねられる。
「次はしないようにね?」
「
両ほほを抓られながら、うりうりと動かされる。
痛くはないが、むず痒い。
そんなときに今度はペパーとアオイが入ってきた。
「おわ、なんかくら」
ネモの両手が俺の頬から解放される。
「やほ、アオイ。強いポケモンがわんさかいるって聞かせられてさ」
「すげーポケモンがいるって聞いたら秒できた。学校では小うるさいけど頼りになりそうだな」
「おー?戦るか!?」
俺も会話に混ぜてもらおう。
「へぇー。ネモって学校では小うるさいんだ。なんか以外だべ」
「スグリに相手してもらおうか?」
「これが終わったらね。おれもあの時より強くなったから!」
オホンとペパーが咳払いする。
「スグは俺たちより冒険について詳しいってんで誘った。回復についてはこいつに頼め」
「よろしく」
「...というか暗いよ!?すげーポケモンどこにいるの!?」
とネモが天井に向かって吠えた瞬間、上の電気が輝きを取り戻す。
こんな短時間で終わらせるなんてさすがだな。
「ついた」
「なんで?」
「終わったか、ボタン?」
上で作業してるであろうボタンに声をかける。
肩を少し動かしながら、降りてきた。
「すげーんだよ。カタカタッターンってさ」
「...なんかオートで省電力モードになってたっぽいから、ハッキングして解除」
「あー、イーブイバッグがもふもふの」
「もふ?えと、名前ボタン」
なんだかぎこちないな。
前に言っていた隠者と陽者というやつだろうか。
「話すのははじめまして。私ネモ。クラスは1-A。機械得意なんだね!ポケモン勝負は好き?」
「うぐ、ぐいぐいくるし」
としれっと俺を前にして防御しようとしてる。
バリアか何かなのだろうか。
「ハイテクに強いやつ。校長に紹介してもらった。アオイの助けになるって聞いたら秒できた」
「冒険とかガラじゃないけど。アオイに借返さなきゃ。約束は果たす」
「意外と硬派な奴。改めて俺はペパーだ。好きなものはマフィティフと料理で」
と言いかけた時、アナウンスのような機械的な音声が広がる。
近未来的な仕掛けにワクワクしてしまった。
『生体認証確認中。生体認証確認中』
『ハロー、アオイ。待っていたぞ。優秀な仲間を集めてきてたようだな』
「いや、どちら様なん?」
「俺の父ちゃん...多分」
多分という言葉にひっかかりを覚えるが、今はいい。
この人がペパーの親父さんなのか。
「え?フトゥー博士?この人が?」
『学籍番号805C001ネモ。学籍番号803B121ボタン。ブルーベリー学園学籍番号805A103スグリ。来てくれて感謝する』
「なんでおれの学校バレてるの?」
「博士!お会いできて光栄です!まだ会えてないですけど」
「えと、うちらのこと話したん?」
「んなわけあるかよ」
思い思いの声をすべて無視し、博士は続ける。
『キミたちにはパルデアの大穴に入ってきてほしい。右手に見えるエレベーターから下の部屋に降りられる』
エレベーターが博士の声と共に開いた。
ワクワクが止まらない、筈なのに何かが心の中でモヤモヤとたまる。
「あのさ、父ちゃん!」
『...先へと進んでくれ』
ペパーが寂しそうな顔でうつむく。
カチンときた。
「博士、ペパーは!?」
と言いかけた時
「いいよ、スグ」
止められてしまった。
なんだかやるせない。
「仲、悪いん?」
「うーん」
「まあ、行こうぜ。言ってても仕方ねえし」
ペパーが皆を先導し、先にエレベーターへと進んでいった。
背中に哀愁がある。
「ペパー、大丈夫?」
アオイが心配で声をかけた。
俺も気が気じゃない。
『生体認証オールクリア。降下ゲート開放』
「わー、自動ドアだー」
「いや、遠隔で操作されてるっぽい」
「ハ、ハイテクじゃ」
『ここから外はエリアゼロ、上空だ。アオイ、ミライドンは連れてきているな』
「もちろん!」
『ここまで一緒に冒険してくれてありがとう。ミライドンのライド技を使えば、エリアゼロへと降りられるだろう』
え、こっからポケモンで降りるの?
なんかすごい機械が運んでくれるとかじゃなくて?
「え?エレベーターとか無いん?ってかミライドン、飛べんの!?」
ボタンも同じことを思っていた。
一応何かあってもいいようにファイアローを連れてきているけど、いけるのかこれは。
『下に着いたら連絡する。無事を祈っているよ』
「強引な奴」
「エリアゼロのポケモン楽しみ。早く降りようよ!」
「...あの子、怖いとかないんか?」
一番にネモ、二番にボタン。
それぞれと続いていく。
「一応とりポケモン連れてきてよかったべ」
「...俺たちもいくか」
「そうだね」
あと数歩で上空というところまで、移動。
アオイがボールから、ミライドンを出した。
しかし、アギャアとおびえたような声を出す。
「どうしたんだろ」
「フンっ。高くてビビってんだろ」
ペパーがミライドンに飛び乗る。
「そっかそっか。みんなでとべば、怖くないよ!」
後ろにネモが乗った。
その理論は破綻しているだろ。
まあ、おれもさっさとのってしまおう。
「へへ、なーんか。いいな、これ」
またがると、案外すべすべしている肌触りだ。
「意味わからん」
ボタンが最後尾に乗った。
イーブイのモフモフの背中を感じる。
限界が来たのか、ミライドンがシャッター近くまでよろよろと進んでしまった。
「...のれ!」
ペパーが手を伸ばし、乗ろうとするアオイの手をつかんだ。
突如、ミライドンが頭の羽を広げ、大空を舞う。
今までのタクシーやそらでの旅とはまた違う味わいがある。
未開の地、エリアゼロへ一行は歩みを進めた。