冒険に脳を焼かれたスグリ(旧題もしも幼スグリがアデクと出会っていたら) 作:すぺしうむ
目の前の光景について、一言だけ言うなら「りんごみたい」。
差し出されたのがカジッチュだから?
確かにそれもあるが、今は違う。
ボタンの朱よりも赤い肌が、秋の実りを彷彿とさせる。
「お、おれは」
ふうっと一旦息を吐き、気持ちを落ち着けさせる。
しかし脈動する心臓と沸騰しそうな頭がそれを許してくれない。
「...」
何も言えない。
言っても言葉になる気がしない。
アオイのことが気がかりではある。
いつだって、俺の光になってくれた。
でも、おれは...
「おれさ、アオイが」
言いかけた時、ボタンに制止された。
目元が涙を流す準備をしている。
「...知ってる。好きなんでしょ」
ボタンがボールを引っ込めようとしている。
だから、その手を優しく包み込む。
離れないように、零れ落ちないように。
「でも、今日一日のデ、デートでボタンが見せてくれた拗ねた顔、困った顔、そんで笑った顔。すっげえめんこくて、もっと見たいって思った」
ボールを受け取り、中からカジッチュを出す。
うん、やっぱり今のボタンそっくりだな。
「おれ、もっとボタンのこと知りたいし一緒にいたい。色んなところにも行きたい」
赤い頬を涙という蜜が伝っていく。
一度決壊したそれは、見たこともないほど溢れていく。
「だから、貰う。絶対返さねえ!」
「...最初からそう言えし」
「ニヘヘ。泣いてる顔も初めて見たかも」
「見んな」
そう言って、俺の胸に飛び込んできた。
少し前かがみになっているせいか、こっちからは毛髪しか見えない。
細腕を俺の背まで回りこませ、抱き着いてくる。
俺もボタンと同じように正面から抱きしめ返す。
感じたことのない熱さが俺たちの顔を上気させた。
「あったかい」
「ブラッキーに、よく湯たんぽ代わりにされてる」
「普通逆でしょ。...うらやま」
「え?」
「...もうちょっとこうしてていい?」
「おう。気のすむまでな」
会話こそないが、されど居心地の悪さもない。
妙な安心感と満足感がある。
数分経った頃には充足したのか、離れていった。
少し名残惜しい。
「...なんかついてるけど」
俺の襟元を指さしてきた。
かっこつかないのは嫌なので必死で探す。
「え?どこ」
と続きを言おうとしたとき、頬にやわらかい感触。
やわらかいが、暖かいような少し湿っているような。
すぐ近くにはボタンの顔がある。
今、もしかして、あれをしたのか?
「え、ボタ、その、もしかして」
「んー?なんやろね」
「なんでとぼけるべ!?今、キ...ス」
「かもね」
さっきとは一転した飄々とした態度でごまかしてきた。
これも見たことない、いたずらっ子みたいな顔。
「じゃあ、夜も遅いし送ってよ」
「お、送ります」
ライドポケモンを出し、ボタンを学生寮の近辺まで送迎した。
何度も後ろに乗せた。それこそ、ジム中は毎日。
前とは違う部分といえば、今は背中から伝わる抱き着かれている温もりだろう。
...
.....
.......
寮前まで到着し、ボールにポケモンをしまう。
夜闇の中で俺にとっての一番特別な人が輝いて見えた。
だから、これは輝きに誘られたからで、仕方ないんだ。
ボタンの頬に口づけをした。
バっとこちらを向き、顔を真っ赤にさせている。
「あの、えと、したくなって」
「あ、そう。じゃあ、えと、うち帰るから」
「うん。またな」
「...うん」
遠くなっていくボタンの背を見送る。
え?俺キスしたの?頬とはいえキスしたの?うそ?
さっきの自分の行動が不可解すぎる。
どうして急にきざな男みたいなことをしたんだろうか。
「おれも帰っか」
といっても今日はホテルなんだけど。
ボールからカジッチュを出して、ひとしきり撫でる。
「強くなろうな」
...そういえば、競りでみついりりんごが売られていたような。
明日にでもカラフシティを覗いてみようか。
カジッチュをボールにしまい、ホテルに向かおうとしたとき。
「...ちょっといい?」
謎の男女5人組に声をかけられた。
思わずヌメルゴンが入っているボールを構えてしまった。
「あ、違うよ。野盗とかじゃなくて」
大柄の女性がこっちをいさめてきた。
はて?この人、どこかで見たような気が。
「キミに伝えたいことがあってさ」
クラブみたいな頭の男性が提案してくる。
うーん、今のところただの怪しい人たちだけど。
「ふむ、警戒されているでござるな。それも致し方なし」
そんな口調の人が現代にいるのか。
侍みたいな話し方だな。
「あの、もしかしてボタンの知り合い...ですか?」
「そう、マジボス...じゃない。あの子の友達みたいな」
「もう単刀直入に伝えた方がよくない?」
白髪のお坊ちゃんみたいな人。
傍らに爺やとかがいそう。
「俺らが何を言いたいかっていうとだな。...ボタンを泣かすんじゃねえぞ」
「メロコ殿早いでござるよ。まあ、右に同じ。あの方をよろしくお願いいたします」
「あの子いいこだから。僕からもよろしくね」
「...言いたいこと全部言うなよ。まあ、仲良くやれば?」
「えと、気を悪くしたらごめんね?でも、あの子は恩人だからさ。どうしてもお節介焼きたくなって」
情報が全く持って完結しないけど、とりあえずは。
「わかってる。ボタンは...その、か、彼女だから。泣かせねえべ」
それを聞くと、安心したのか。
向こうは口々に「だからわざわざ」「でも、どんなやつか」などと話している。
一通り話すと終ったのか、こっちを見て。
「じゃあ、マジボスを頼んだぞ」
「メロコ殿、そこはボタンでござる」
「うっせえ!」
とだけ言い残し、解散していった。
なんだったんだろうか。
カミツオロチがなんでいないんだって思っていた方、お待たせ。
だからアオキさんに報告してオーブをもらう必要があったんですね。
カミツオロチ、お前船のれ。
右ひじからWi-Fiが出る呪いをかけました。
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