冒険に脳を焼かれたスグリ(旧題もしも幼スグリがアデクと出会っていたら)   作:すぺしうむ

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閑話 -旅に出たばかりの時-

 

これは俺が家を出てばっかりのころ。

コツコツお小遣いをためて、旅に出てすぐの話。

 

初めてカロスに行ったとき、俺はすぐに後悔した。

一人でテントを張る大変さ。料理をすることの難しさ。

バトルでも大負けし、有り金が徐々に減っていく毎日。

夜に泣かない日はなかった。

 

その日は季節一番の大雨の日だった。

ぐしょぐしょになりながらもなんとか休めそうな洞窟を見つけたので、ひとまず休憩。

濡れた服を着替え、周囲を見渡す。

 

「火、起こさなきゃ」

 

しかし周りには使えそうな材木も見つからない。

失敗続きの自分に嫌気がさす。

ただ泣くことしかできない。

脳裏に浮かぶのは、いつも俺の前に立って俺を守ってくれてたあの人。

 

「うう、姉ちゃん。グスッ」

 

どれだけ自分の姉が偉大だったかが身に占めてわかる。

それと同時に俺が姉ちゃんに甘えて生きていたことも。

タオルで全身をぬぐいつつ、涙を手で払う。

 

「しっかりしねえと」

 

溢れてくる涙をごまかすために両ほほを叩く。

痛いけど、情けなく泣いてるよりはマシだ。

っと後ろからか細い声が聞こえてくる。

 

「な、なんだべ!」

 

ゆっくり振り返ると、洞窟の暗闇の中に何かがうごめいている。

恐る恐る近づいてみると、

 

「ヌ、ヌメラ」

 

がよく見るとケガを負っている。

小さい体でこちらを威嚇してくるが、見ていられない。

 

「えっと、確かここに。あった」

 

何かあった時のために購入しておいた、かいふくのくすりを取り出す。

 

「じっとしてて」

 

と言いかけた時、とびかかり腕にかみつかれる。

幼体とは言え、ポケモンはポケモン。

痛いことに変わりはない。

 

「いった!待てってば!」

 

体で押さえつけ、無理やりかいふくのくすりを使う。

傷が癒えたことでこちらに敵意はないと判断したのか、嚙む力がだんだんと弱まっていく。

 

「噛むの、やめてくれんのか?」

 

噛み跡を見てみると、痛々しい歯形が残っているが出血はしていない。

腰を下ろし、ヌメラに視線を向ける。

外の雨と響く雷鳴。

寂しさのあまりひとりでに語りだしてしまった。

 

「おれさ。家出て、一人で冒険してんだ。強くなりてえから」

 

何も言わずこちらを見続ける。

 

「でもダメだ。今まで姉ちゃんに頼ってばっかだったから、何やってもうまくいかねえ。お前、家族さどうしたべ?」

 

首がないためか顔全体を横に振る。

大体の意思は伝わった。

 

「そっか」

 

小さな体を動かし、俺の隣へと移動してきた。

撫でてみるとぬめぬめしているが、不思議と不快には感じない。

 

「なあ、おれ強くなれっかなあ」

 

一度視線を落とし、考える。

これからどうしていけばいいのか。

本当に生きていけるのか。

ふと目の前に気配を感じたので、視線を上げると。

ヌメラが口にスーパーボールを咥え、俺の前に立っていた。

捕まえろってことだろうか。

ボールを受けとり、ぬめぬめしている額に軽く当てる。

特に抵抗もなく、ゲットできた。

 

「これからよろしくな」

 

と洞窟の入口のほうから足音が聞こえてくる。

 

「いやー、参った。こんなに降ってくるとは。んん、先客がいたかな?これは失礼」

 

「え、あ。別に、その」

 

「...ふむ。少年が火も起こさず、ポツンと一人。ひょってとして家出ですかな?」

 

ジロジロと大柄で毛深い男。

リングマを思い出す。

そんな印象の男がこちらに近づいてくる。

 

「いや、家出じゃ、ねえです。旅、してて。でも火、起こせねえで」

 

「ほほう。見たところ10代初めといったところなのに、勇敢だ。となると仕方ありませんなあ。マグカルゴ、お願いしますよ」

 

以前に図鑑で見たことがある。

たしかマグマッグの進化系だった。

男性は鞄から枯れ木のようなものを取り出し、慣れた手つきで地面に置く。

マグカルゴはそれに火をつける。

じめじめして薄暗かった洞窟が一瞬で明るくなった。

 

「あ、あり、ありがとごじゃます」

 

口をもごもごと動かし礼を伝える。

 

「いえ、勇敢な冒険者への手向けですぞ。ほっほっほ」

 

濡れたタオルを取り出し、炎に近づける。

 

「一つお聞きしても?」

 

「ひゃ、はい。なんでしょ」

 

「いえ。旅を始めてどれほどなのかと」

 

「...まだ9日ぐらいです」

 

「これはまた、ずいぶんと最近だ。もしや旅についての知識もない?」

 

黙ってうなづく。

 

「ほっほっほ。大胆なお方だ。しかし、その年齢の方をなにもせず放置というのも寝覚めが悪いものです」

 

男性は鞄をごそごそとあさり

 

「このノートを。拙い字ではありますが、旅に必要な知識はまとめてあります」

 

表紙が若干傷んでおり、少し泥がついている。

中を開いてみると、野営やもしも手ごわい野生ポケモンに出会った場合の対処法が細かに記載されていた。

 

「こっこれ、いいんですけ!?」

 

「ええ。私には、もう必要ありませんので。それに」

 

魔法瓶からコップに飲み物を注ぎこちらに差し出してくる。

 

「今度は私が授ける番ですからな。人とはすべてにおいて弱いものです。だからこそ、先達が知恵と勇気を与えなければならない」

 

飲み物を受けとり、ずずっと口に運ぶ。

ほんのり優しい味わいが体に響く。

 

「お茶じゃ」

 

「ほほう。これはシンオウに伝わるものなのですが、もしやその生まれで?」

 

「キタカミの里から、来ました」

 

「これまたずいぶんと遠いところから。確かトモッコの伝説が有名だった場所ですな。それで、旅の目的は?」

 

「...おれ、姉ちゃんいるんですけど、なんか苦手で。里のみんなも、おれが鬼さまに会いに行ったら叱りつけてくるし。それでアデクさんって人に相談したら、旅に出たらええんでねえかって

それで」

 

「ふむ」

 

「でも一番は、今の情けない自分、変えてえ」

 

「そうですか、そうですか。いやはや、ご立派だ」

 

男性は一度立ち上がり洞窟の外を見ると。

 

「もう少し雨は続きそうですな。少し眠られてはいかがかな?」

 

「いや別に」

 

「ほほほ。瞼が少し下がってきていますぞ。疲れは旅の大敵。休めるときには休まねば。毛布はありますかな?」

 

正直、暖を取ったことによってすごく眠い。

鞄から毛布を取り出す。

幸い少し湿っている程度で、なんとか眠れそうだ。

 

「あ、あります。おやすみなさい」

 

「ええ。ごゆるりと」

 

 

 

 

...

.....

.......

 

 

 

 

 

体を揺さぶられて、目が覚める。

思ったよりも深く眠りに入ってしまったようだ。

 

「よく眠れたようですな」

 

「おあようごぜます」

 

「外が晴れたもので。私はそろそろ出発しようと思いましてな」

 

「ほ、ほんとじゃ」

 

「では。ボンボヤージュ。良い旅を」

 

「あ、あの名前聞いてもいいですけ?」

 

「...名乗るほどの人間ではありませんよ。では」

 

そういって男性は去っていった。

俺も荷物を整理し、古びたノートを鞄にしまい込む。

 

「...うし」

 

ようやく一歩踏み出せたかもしれない

 





現在のスグリパーティ

オオタチ
ルカリオ
ヌメルゴン
????
空席
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