ビヨンドザアイドルマスター   作:ゆきのこ

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ユメノツヅキ

 

 

 

「すみません、わざわざこちらまでご足労頂きありがとうございます。星河ひとみの担当プロデューサーの廣井真斗ですよろしくお願い致します」

「いえ、こちらこそ本日はよろしくお願い致します。苺プロの社長の斉藤ミヤコと申します」

 

 

 金曜日の夕方。846プロ事務所の応接室にて真斗とミヤコは互いに挨拶をし、名刺を交換する。

 

 

「どうぞ、お座りください」

「はい、失礼します」

 

 

 名刺交換後、真斗はミヤコをソファに促し、彼女は一言入れ座る。続いて真斗も席へ腰を下ろした。

 

 

「すみません、本来であればこちらから御社の事務所へ伺うべきだったのに」

「いえ、全然気にしてはいませよ。それで彼女は?」

 

 

(むしろその申し出はありがたかった。余計な詮索されたくはないから言わないけど)

 

 

 もしひとみ達を招き入れ、アイの子供たちと鉢合わせになってしまう事を考えるとミヤコは震えが止まらかった。

 

 

「重ね重ね申し訳ありません。先程最寄駅に着いたと連絡があったのでもう暫くお待ちを」

「ではその間に契約内容についてご説明頂けますか?」

「はい、勿論です。ではこちらの書類に沿ってご説明させていただきます」

 

 

 ミヤコは真斗に手渡された資料に目を通しながら彼の説明を受けた。

 

 

(なるほど、大手事務所の系列だからかしら。こちらが弱小事務所だとし 下に見ず、事後承諾じゃなく事前に許可取りしてきた事からも分かるけどちゃんとしてるわね。書類の内容や説明からこちらへ最大限に配慮が見て取れる)

 

 

 契約内容の概要としては

 

 ・乙(846プロ)は甲(苺プロ)所属のタレントーーアイへの最大限の敬意を持って取り扱い、それを乙所属のタレント星河ひとみに遵守させることを誓う。

 ・甲側からいつでも訴えればすぐに本契約を打ち切り、速やかにアイの真似をすることを辞めさせる事が出来る。これは甲だけでなく、アイの血縁関係にある者、及び書類上血縁関係にある者による異議申し立てに置いても同様の処置を行う。

 ・甲及び甲所属のアイの名誉が著しく傷つけられたと判断された場合、甲の立てた弁護士と相談ののち違約金を支払うこととする。

 ・肖像パブリシティ権使用料、商標権使用料の金額は甲と相談ののち決定される。

 

 他にも細かい事はあるものの大きく分ければその四つだ。

 

 

「以上が契約内容の概要ですが、ご質問はありますか?」

「そうですねこの貴社が名誉毀損に該当した場合の話なのですがーーー「ごめーん! 一回家に帰ったせいで電車が遅れて間に合わなかった!」……アイ?」

 

 

 バンと応接間のドアが勢いよく開かれ、少女が中に入ってくる。

 少女の方へ顔を向けたミヤコは一目見て思わず呟くがすぐに首を振って否定した。

 

 

「あ、斉藤ミヤコさん……ですよね? 初めまして(・・・・・)! 星河ひとみです! よろしくお願いしまーす」

「え、ええよろしくお願いね星河さん」

 

 

 それからひとみを混え、質疑応答へと移っていった。

 質疑応答が進んでいく中で、チラチラと横目でミヤコはひとみを観察する。

 

 

 (声はーーー似てないわね。当たり前だけど。けど短髪な事と声以外は生まれ変わりってくらい似てる。顔立ちも、口調も、ふとした時に見せる仕草もアイそっくり)

 

 

 じっとするのが苦手で肩を左右に揺らしたり、その殆どがお手本のような笑顔だが一瞬ぼんやりとどこか遠くを見つめることがある瞳はミヤコにとってのアイそのものだった。

 

 

「他に質問はありますか?」

「いえ、これ以上は特にありません」

「そうですか。では何もなければ本日は解散となりますがいかが致しましょう」

「ええ、問題ないです」

「では契約の締結の是非はまた後日ーーー」

「ちょっと待って」

「なんだよひとみ」

 

 

 解散の流れになろうとしていたが、ひとみがそれに割って入る。

 

 

「そんな堅苦しい会話をしてすぐ解散なんて勿体無いよ。世間話でもしようよ。そう思いません? あ……ミヤコさん」

「そうね。わたしもひとみさん達のこともっと知りたいわ」

 

 

(いけない、いけない。名前呼び間違えるところだった。少しでも契約取り付けて貰えるように失礼はしないようにしないと)

 

 

 ーーーーーーー

 

 

「じゃあひとみさんは廣井さんにスカウトされて846プロに?」

「そうなんですよ、プロデューサーが一目惚れしたーって街中で突然告白してきたんです」

「まあ大胆」

「こらひとみ、堂々と嘘つくんじゃない。斉藤さんも、今のはひとみの冗談ですからね?」

「まあ、冗談だったんですか? ひとみさん可愛いからあながち間違いでもないかと思ったのに」

「……冗談なの分かってるのに揶揄ってますよね?」

「あら、そんなつもりはなかったのだけど」

 

 

 少し世間話をしてすぐ三人は仲良くなっていた。

 コミュニケーションが苦手という訳でもない三人だ。そうなるのは必然だった。

 

 

「ミヤコさんって凄く肌綺麗ですよね。どんな手入れしてるんですか? 何の化粧品使ってるか知りたいです!」

「そうねーこれといって特別な手入れとかはしないわよ? 女子中高生が使ってる道具よりは多少高価なものは使っているけれど例えばーーー」

「うっひゃー、高ーい。化粧水だけでーーー円なんてとても手が出せないですよ!」

「なら予備の物幾つか取り繕ってプレゼントしましょうか?」

「いいんですかー!? ありがとうございまーす!」

「こらひとみ。少しは遠慮というものをだな……」

 

 

 何でも素直に受け取るひとみを真斗は注意する。

 

 

「いいんですよ廣井さん。今度これより高くて効果のある物買い揃えようと思っていたから」

「ええーそれじゃあわたしへのプレゼント、ミヤコさんのお下がりってことなの? ひどーい!」

「ふふ、ごめんなさいね」

 

 

 そんな人が人なら亀裂の走りそうな会話も二人は不快になる事はなかった。

 それから1時間がすぎ、ミヤコがそろそろ自分の事務所に戻る時間となったのでお開きとなる。

 

 

「最後に一つお二人に聞いていい?」

「何でしょう?」

「二人が目指す先は? どんなものかしら」

「自分は、自分の担当アイドルをーーーひとみと一緒にドームの舞台に立つことです」

「ドームはみんなの憧れの舞台だものね」

「はい」

 

 

 それだけは真斗にとってずっと変わらぬ想いだった。

 

 

「ひとみさんは? ひとみさんも廣井さんと同じ目標?」

「わたしはアイドルとして具体的にこうなりたいとか、何処を目指したいとかそういう事は考えたことがありません」

「そう、正直ね。まあひとみさんくらいの年齢なら不思議なことでもなーーー「ですが」」

 

 

 ミヤコは途中で会話を遮られるが、その事に突っ掛かりを覚える事はなくひとみの次の言葉を待つ。

 

 

「みんなの夢だって言うドーム。そんな舞台に立って目の前に広がる景色やファンのみんなの想いを一身受け取った先に芽生えるものが何なのかーーーそれをわたしは知りたい。これだけははっきりと言えます」

 

 

 それだけはひとみにとって紛れもない本心だった。

 

 

 

(ああ……ダメだわこれ。いけないのに、許してはならないのにーーーこの子がドームに立つことを心から望んでいる自分がいるの)

 

 

 

 それに加え、ミヤコには生前、常に煙に巻いて見えなかったアイの本心とひとみの心が重なって語りかけてきている。そんな想いにも彼女は駆られていてーーー

 

 

 

(ごめんなさいルビー、アクア、それに壱護。手酷い裏切りなのは分かってる。それでもわたしはこの子の、星河ひとみの助けになりたい)

 

 

 この裏切りは親子の縁を切られて当然の行為だとミヤコは理解している。それでもこの湧き出るものを彼女には止められなかった。

 

 

「ひとみさん……これは不躾なお願いなのだけどもし良かったら聞いてもらえないかしら? もし聞いてくれたら契約書にサインしてもいいわ」

「ーーー何ですか?」

「少しだけあなたのことをアイさんだと思って抱きしめてもいいかしら」

「ーーー分かりました。わたしはアイじゃないけど、ミヤコさんの要望に沿ってとびっきりの(アイ)で応えるね」

 

 

 

 ミヤコは他の3人に比べ星野アイに対しての執着は薄い。だからもっと冷静な判断が出来ると思っていた。

 

 

(むしろ薄いからなのかしら。関わりがあまりなかったからこそひとみさんとアイさんを簡単に重ねてしまう)

 

 

 ミヤコは万歳のポーズで待っているひとみに抱きつく。

 

 

「わわっ、ミヤコさん突然抱きついてきてどうしたの? ひょっとして赤ちゃん返りでもした? おっぱい飲む?」

「アイさんは赤ちゃん返りなんて難しい言葉使わないわよ……」

「そうなの? いやー、私の頭の良さが溢れ出ちゃってたかぁ。反省反省っ!」

 

 

 (それ以外は今の私への返しを含めて完璧だったけど)

 

 

 

 今のあっけからんと能天気な口調で話しながら自分の頭をポンポンと軽く叩いて反省する仕草なんて、本物のアイ以上にアイだとミヤコは思ったぐらいだった。

 

 

「それじゃあ、後日書類にサインをしてまた伺わせて頂きます」

「分かりました。本日は本当にありがとうございました」

「ミヤコさん、暇が出来たらいつでも事務所遊びに来てよ。いつでも歓迎するから」

「そうね、機会があったら是非」

 

 

 アイモードを解いたひとみに敬語は使わないで良いとミヤコが言ってきたので彼女はタメ口でミヤコにそう言う。

 

 

(そうは言ったもののあまり顔を合わせない方がいいわよね。いつバレるか分からないし)

 

 

 アクアは聡い。ルビーだって鈍感だがテレビっ子だ。遅かれ早かれバレるだろうとはいえ、自分からその機会を与えることはないだろうとミヤコは考える。

 ミヤコは事務所に戻り、再度契約書に目を通し、自著と印鑑を押して書類を金庫に入れ保管する。

 そして週末に書類を846プロに提出、契約が締結となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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