直線での走りに脳みそコンガリ焼かれたわ……
短いけれど許し亭許して。
トレーナーとして担当を持つようにとは言われたものの、今はまだ冬。新入生の入学にはまだまだ時間がかかる。担当のいない普通のトレーナーであれば過去のレース分析やシニア級の春G1の展開予想とかをするのだろうが、私はちょっとどころではないズルができてしまう。
理事長秘書であるたづなさんに用意してもらったのは、新入生の名簿だ。簡単なプロフィールくらいしか書かれていないそれは本来我々トレーナーが行うスカウトの参考にはまずならない。そう、『私以外のトレーナー』ならば。
「ふむ……」
本当に。本当に俺のこの眼は何なのだろう。直接はおろかテレビの画面越しにも彼女たちの能力が分かるというだけでも非常識なのに、写真ですら『その写真が撮影された当時のウマ娘の能力』が把握できてしまう。
まだ入学前、これから本格化を迎えようとしている彼女たちのステータスは当然低いが、それでも彼女たちは地元での天才だ。同世代のウマ娘と比較しても頭一つ抜けている。一般ウマ娘がGやGプラスくらいの値しかない所にいきなりFやFプラス、場合によってはEクラスの値の子すらいる。
(トリプルティアラを獲ったメジロラモーヌの妹、メジロアルダン。多くの名バを輩出してきたサクラ一門のサクラチヨノオー、ヤエノムテキやディクタストライカ、ブラッキーエールにバンブーメモリー……今年も才能の塊がゴロゴロしているな)
パタリ、と名簿を閉じる。名簿と見ながら気になる事をノートPCにメモしていたが、変な姿勢だったせいか若干首が痛かった。
彼女たちの中から担当を見つけなければいけない。いや、それ以前にスカウトを申し込んだ所で受けてもらえるかすら怪しかった。
冷静に考えてみれば当然だ。トレーナー不足が叫ばれているトレセン学園ではあるが、それでもウマ娘との人数比に目をつぶればそれなりの数のトレーナーが在籍してはいるのだ、
では自分がトレセン学園に入学したウマ娘だとして、ある程度実績のあるトレーナーと、今年サブトレーナーから卒業したばかりの新人トレーナー。指導を受けるならどちらの方が良いか? よっぽどのことが無い限り実績のあるトレーナーを選ぶのは自明の理で、その当然の理に従えば、このままだと自分の未来はいくら声をかけども断られ、レースでの負けが込んで「もうトレーナーだったら誰でも良い!」と焦りに焦った子と契約を結ぶ事になる。
うん、どれだけ楽観的な人間でもこの後の展開は明るいとは言えないだろう。
あるいは、普通のトレーナーはこんな風に実績を積んでいくのかもしれない。何人ものウマ娘たちの挫折と涙、時には自身の過ちを経験として、次こそは、次こそは、と。そうやって彼女たちと向き合い、ただひたすらに高め合ったその先に、G1レースの1着という栄誉が贈られるのだろう。
だとしたら自分はどうだろうか? この眼はどこまでも残酷だ。どんなに折れない心を持つウマ娘だったとしても、冷徹に「これ以上の伸びしろは無い」と告げてくるだろう。
それを俺は担当となったウマ娘に告げられるのだろうか。「ここが君の限界だ」と、ある種の死刑宣告を告げられるのだろうか。
ノートPCの電源を落とす。担当を持たない新人だからこそ味わえる定時退勤の贅沢に、今は甘える事にした。
※※※※※
3月にもなれば流石に暖かくなってくる。日本海側はまだ雪に悩まされるらしいが、少なくとも東京では朝晩の冷え込みはともかく日中はコートを手放せるようになった。
トレセン学園からは全国からウマ娘がやってくる。となると引越しやら何やらで、早い子は3月中には寮に入る子もいる。
「じゃあ行くよ、せーのっ!」
「段差あるよ、気を付けてー」
軽々と重めの荷物を運ぶウマ娘の引越し業者を横目に見ながら歩く。今年もこの季節が来たかーなんて頭の片隅で考えて、次の瞬間年寄りかよと脳内でツッコむ。
出会いと別れの季節。
既に旅立った卒業生と、3月をもって学園を去る事を決めた幾人かの生徒。彼女たちが去った事で空いた部屋に、夢と希望に満ち満ちた新入生たちが入ってくる。
何の気なしに新入生たちと桜並木を眺めていると、ふと1人のウマ娘が目に入った。
随分と背が高い。ひと目見て思ったのはそんな事だった。他の新入生と比べて頭ひとつとまでは言わないが、明らかに一回りは大きい。いつもの癖でつい目を凝らして彼女のステータスを見ようとして、こちらの方ーー校舎側ーーに歩いてくる彼女とバッチリ目が合った。
「あ……」
「あら……?」
瞬間、自分の行動を振り返って血の気が引いた。誰がどう見ても女子高生を盗み見る成人男性の図である。社会的死にまっしぐらだ。
「どうかされましたか?」
「あぁすまない、つい目がいってしまって……ってそうじゃなくって……」
何か言おうとしても全てドツボにハマる気しかしない。
「そのバッジを見れば分かりますよ、トレセン学園のトレーナーさん、なんですよね?」
「あぁ。とは言ってもまだ新人だけれど。私は阿久薬と言います」
「あらあらご丁寧に。私はスーパークリークって言います」
その場は手続きがあると言う事で彼女ーースーパークリークは去っていき、俺は俺でこれ以上その場にいるのも居た堪れなかったから大人しくトレーナー室に戻った。
俺の眼はウマ娘の能力を見抜く事はできても、未来を見通す類の超能力は持っていない。だから、少なくとも俺はその時、スーパークリークとどんな3年間を歩むかなんて全く分からなかったし、そもそも彼女が俺の担当になるとも思いもしていなかったんだ。
……クリークの方は、直感にナニか来るものがあったらしい。ずっと後になって教えてもらったのだけれども。
拙作について、1話しか投稿していないにもかかわらず多くのお気に入り登録に加えて感想、評価もいただき嬉しく思います。
別作品の連載中なので不定期更新になる可能性もありますが、可能な限り毎週更新を心がけていきますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。