いつか大河に至るその日まで   作:とある物書きMr.R

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 お待たせしました。待たせた割に内容が薄いかもしれませんが、お楽しみください。


予感  〜春のトレセン学園はブラック顔負け〜

 トレセン学園の3月はそれはもう忙しい。

 

 まず単純に年度末であること。生徒たちの卒業や入学準備だけでなく、新人職員のための資料を用意したり、あるいは離職する職員から引継ぎを受けたり。おそらく今の季節、日本中で見られているような光景がある。

 

 普通にそれでも忙しいのだが、事前準備を始めなきゃなぁとなる2月にはダートのG1である川崎記念やフェブラリーステークス、本格的に慌ただしくなる3月からはトゥインクルシリーズで春のG1戦線が始まる。春シニア3冠の大阪杯やスピード自慢のスプリンターたちが鎬を削る高松宮記念があり、そうなると必然的にG1の栄光を掴みに行くウマ娘とそのトレーナーはレースに向けての最後の追い込みだったり各種申請書類の作成だったりと大わらわになる。

 

 そしてそれに追い打ちをかけるかのように、3月にはファン感謝祭が執り行われる。いや、感謝祭自体の開催は大いに賛成なんだが、なぜよりにもよって3月にしたのか、これが分からない。出し物が射的とかお化け屋敷とか、食べ物が絡まない系列だったら各種物品の調達や場所の確保くらいで済むのだが、これが喫茶店とか焼きそばといった食品系の模擬店になると、保健所への届け出に始まり食材や食器の調達、場所の確保といった諸々の業務が発生し、多くの職員がエナドリを燃料に動くロボットになる。

 

 ……これはあくまで先輩トレーナーから聞いた話なため、担当すらいない俺にとってはまだ縁のない事ではある。まぁ下っ端の運命として各部署の手伝いに駆り出されているのだが。

 

 

「工具一式ってどこだっけー?」

「あ、それ今使ってる! ちょっと待っててー!」

「今やきそばの試作は反則でしょ! あぁもうお腹空いてきた!」

「本番でもよろしくね?」

 

 

 校内の至る所から聞こえてくる生徒たちの声。準備に勤しむ子、ちょっと離れて見守る子。

 しかし彼女たちはおおよそ3通りに分類される。

 まず準備として工具を振るったり物資を運搬している生徒。彼女たちは基本的にこの後のレースに出場しない子たちだ。昨年の暮れから今年の2月にかけて行われた未勝利戦を含む様々なレースで結果を残し、それでいて3、4月には特に出場予定のレースがないからこそ、こうしてケガの可能性が僅かとはいえ存在する事前準備を行える。

 そんな子たちと、ちょっと離れて見守る子の中でも一部の子が、今在籍している生徒の中で余裕がある子だろう。ちょっと離れている子は、3、4月にレースを控えている、万が一にもケガをするわけにはいかない生徒たちだ。

 

 

「おぉ、すごいすごーい!」

 

 

 こうやって明るい声を出せる子は、レースに向けた準備をほぼ完成させ、その上で気持ちにも余裕がある、つまりは勝ちの可能性が高いウマ娘だ。実際俺の眼で見てもかなり高いステータスを誇っている。

 対照的に複雑そうな顔をしている子たちは、余裕はないがせめて祭りの気分だけでも味わいたかった。そんなタイプだろう。直接告げるような事はしないが、前者のウマ娘と比較して浮かない顔をしている生徒たちのステータスはおおよそ低い。レース当日にトラブルでも起きない限り彼女たちの勝ちの目はないだろう。

 

 そして、この場に姿を見せないウマ娘もいる。

 勝つか負けるかギリギリのライン上、今この瞬間もトレーニングをする事を選んだ子たちだ。

 彼女たちの努力を否定はしない。だが、その努力がそのまま勝利に直結するほど、トゥインクルシリーズは優しい場所でもなかった。

 

 

「……クソッ」

 

 

 感傷、いや、同情だろうか? 俺が?

担当も持たない新人風情が何を生意気な事考えているのだろうか。第一、俺が過去にしてきた事を考えれば今こうしてのんきにしている事は許されないというのに。

 ……いけない。たぶん俺は今ろくでもない顔をしている。少なくともイベントに心躍らせている生徒たちに見せるべきじゃない。

 ちょうどいい事に俺には仕事という大義名分がある。必要な物品を取りに行くついでに顔でも洗ってこようと回れ右をした途端、見覚えのある生徒と目が合った。

 

 

「あら、確か……阿久薬トレーナー、でしたっけ?」

 

 

 この時の俺はどんな顔をしていたのだろう? 生徒に見せられないような顔をしていたのを何とかしようとしていたら、薄い縁ではあるが知り合いに出会ってしまった。

 単純に言うと、気まずい。これに尽きた。

 

 

「あ、あぁ。君は確か……スーパークリーク、で合っていたよね?」

「はい、スーパークリークです」

 

 

 ニコニコと笑みを浮かべる彼女に、私はどう映っているのだろう。……いや、普通に考えてちょっと前にはじめましてをした相手くらいか。

 と、いつもの癖で彼女のステータスを視た私は、割と衝撃を受けていた。

 スピード・スタミナが共にEクラス。根性こそFクラスだが、パワーや賢さといったステータスもFプラスはある。新入生の中でも上澄みと言って差し支えないだろう。

 

 

「えーと、どうさされましたか?」

「あ、あぁいやすまない。君は何組かなと思い出そうとしていてね」

 

 

 危ない危ない。先ほどから随分と行動が怪しい人になっている。彼女には申し訳ないが、ここは退かせてもらおう。

 

 

「っと、そういえば先輩に呼ばれていたんだった。それではスーパークリークさん、感謝祭、楽しんでね」

「あ……」

 

 

 逃げるように彼女に背を向けようとして、袖が引っ張られる感覚に動きが止まる。

 

 

「えっと、何か?」

「その、もし阿久薬トレーナーさえ良ければ、感謝祭のお勧めとか教えていただければなと思いまして……」

「なるほど」

 

 

 賢い選択だ。新人とはいえ俺は新入生よりはここでの経験を積んでいる。お勧めスポットを教えたりくらいは可能だった。

 とはいえ今の私は仕事中の身である事も事実。そもそも運ばなければいけない荷物を取りに倉庫に行かなければいけないのだ。

 

 

「歩きながらで良ければどう?」

「……はい!」

 

 

 この後学園各所を彼女と回りながら見どころを教えて過ごした。

 

 

 ※※※※※

 

 

「わざわざお時間をいただきありがとうございました~」

「いや、こちらとしても気分転換になったよ。ありがとう」

「……もしかしてお仕事の邪魔をしてしまいましたか?」

「いやいや、そんなことないぞ!?」

 

 

 言葉選びに失敗してしまいスーパークリークの耳がへにょんと垂れてしまった。ウマ娘の喜怒哀楽は顔以上に耳や尻尾に現れる。そもそも彼女は正式にはまだ入学前の子なのだ、こちらの都合を察してくれる洞察力は凄いと思うが、そんな子に気遣われるというのは大人としていささか情けない。

 

 

「気にしないで大丈夫だよ。今は特に担当している子がいる訳でもないし、そこまで忙しいって事もないから」

「だったら良いのですが……」

 

 

 うーん信じられていない。まぁ当然か、大した付き合いもない新人トレーナーの言葉なんて信用されなくて当然なまである。

 とはいってもすぐに提示できる実績があるはずもなく……いや、こればかりはどうしようもないか。

 

 

「まぁこんな新人の言う事が信じられないのは当然だよな。だから君が入学してから、君の目で私を判断してくれ」

 

 

 担当を持つようにとは言われているもののそう簡単に契約を結べるはずもないのは学園側も重々把握している。だからこそ新人トレーナーの多くは年度当初は新入生の自主トレを監督する教官をやったりしてこれはというウマ娘をチェックするのだ。

 当然俺も教官をやるつもりだ。トレーナー独自のトレーニングプランがある担当ウマ娘の育成とは違い、教官に求められるのはトレーニングの基礎的な部分だ。経験はあった方が良いが、新人でも務まる。たまにふらりと現れるベテラントレーナー(才能の原石を探しに来る。新人の心は折れる)から得られる知識やベテランならではの相マ眼を学べるのもありがたい。有望な新入生はまず間違いなく持っていかれるけど。……いや目の前の子も超有望な新入生やんけ。どうしよう。

 

 

「まぁ! それはこれからがとても楽しみになりました」

「もっともこの学園には優秀で実績のあるトレーナーが多く在籍しているから、色々な人に話を聞く、というのも手だけどね」

「はい。アドバイスありがとうございました」

「それじゃあ俺はこの辺で」

「はい」

 

 

 ぺこりと頭を下げるスーパークリークに見送られてその場は解散になった。

 

 

 ※※※※※

 

 

 ウマ娘の事については現代科学をもってしても良く分からない事が多い。ウマソウルとかその最たるものだ。「運命的なものを感じる」って何だ。しかもそれが通るのか。

 ……まぁいい。とにかく、一部のウマ娘は時として常道や定番をすっ飛ばして行動する事があるのだ。

 

 

「阿久薬トレーナー、少しよろしいでしょうか?」

「今の俺は教官だよ」

「では契約を結べばいいんですね?」

「そうはならんやろ……いや、理屈の上では成り立つけどさ」

 

 

 5月。新入生たちの基礎トレを指導する教官になっていた俺は、スーパークリークから契約を持ちかけられていた。

 なんで?




 スーパークリークの秘密(なお自分から言ってる)……勘が鋭い。

 そこに作者の絶対オリトレをおぎゃらせるという鋼の意志をブレンドして……
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