いつか大河に至るその日まで   作:とある物書きMr.R

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昨日(1/20)の中山で3連単700万超えとかいう大波乱が起きたので初投稿です。


兆し 〜あるいは自覚〜

 5月。

 入学から1月が過ぎ、学園で迷子になる生徒がほぼ0になる頃。俺は練習場で新入生たちの指導をしながら頭の片隅で1人のウマ娘の事を考えていた。

 

 

『阿久薬トレーナー、少しよろしいでしょうか?』

『今の俺は教官だよ』

『では契約を結べばいいんですね?』

 

 

 スーパークリーク。思えば初めて会った時から妙に縁があったような気がする。

とはいえ。とはいえだ。経験もないトレーナーとも呼べないような男に自らの運命を委ねようってほど破天荒な子には見えない。彼女なりの思惑……って表現するのは失礼か。彼女なりの考えがあるのだろう。それが俺にはさっぱり分からないだけで。

 

 

「よし、今日はここまでにしよう!」

「各自クールダウンはしっかりとするように」

「体調に変化のある者はどんな些細なことでも報告しろよ!」

 

 

 俺も、俺以外の教官も声を張り上げながら目も凝らす。中央に来るような優秀なウマ娘であっても、焦りを筆頭に様々な要因で身体が出す危険信号に気が付かない、あるいは意図的に無視する事がある。運が良ければ本当に何も無かったり、あるいは何かが起こる前に適切な処置を受ける事ができるだろう。

 では運が悪ければ? それは脚部故障という四字熟語になってウマ娘に返ってくる、選手生命が終わるかもしれない最悪の状況だ。更に加えるならその故障がレース中に発生したらどうなるだろうか? バ群の中を走っていたウマ娘が突然転倒した時、時速60キロ近いスピードで走っている彼女たちは急には止まれないし、避けようとして他のウマ娘にぶつかって転倒が連鎖する……なんて事になったら選手生命どころか生き物としての生命が絶たれる可能性すらある。

 そんな最悪を起こさせないためにも俺たち教官やトレーナーは目を光らせる。歩き方に不自然な点はないか? 顔色は悪くないか? どこかを庇ったりはしていないか?

 俺たち全員の目が節穴だったとは思いたくないが、少なくとも今回は誰も故障を起こした者はいなかった。

 

 

「あの子がスーパークリークか……」

「デビュー前、なんだよな? ジュニア級って言われても信じるぞ……?」

「高等部の新入生らしいが……現時点でも凄い仕上がりだ。この上まだ伸びるとなると、3冠だって狙えるかもしれん」

 

 

 周囲のトレーナーの声は大方スーパークリークの事でいっぱいだ。まぁ当然だろう。新入生の中で、誰がクラシック3冠に最も近いかと訊かれたら、誰だってスーパークリークの名前を挙げるだろう。

 ストレッチをしたり、水分補給をしたり、スポーツタオルで汗をぬぐったりとそれぞれの方法でトレーニング終わりのルーティーンを行うウマ娘たちを眺めていると、ふと視線を感じた。

 

 そしてほとんど無意識に視線の元を探し……にこにこ顔のスーパークリークと目が合った。

 

 

「ホワッ」

 

 

 思わず変な声が出てしまったが許してほしい。期待の新星な上にそもそも(どういう訳かは知らないが)美形ぞろいのウマ娘に見つめられて平静を保てるほどの女性耐性は俺には無いんだ。

 

 彼女も今回の合同トレーニングに参加していたのは知っていた。ランニングや基礎トレをしていたのも。

 見れば見るほど、彼女は強いウマ娘だという事を実感させられる。それはこの眼で見た数値的な意味だけじゃない。トレーニング中、あるいはその終了後に見て分かる差になるのだ。

 

 スタートのタイミングが同じでもゴールする時に差が出る。走る時に出せるスピードが違うからだ。

 スタミナが豊富にある子とそうでないウマ娘がトレーニングすれば、終了時の疲労の度合いではっきり分かるだろう。

バ群から抜け出す時や、不意の接触時にはパワーがモノを言う。シンプルに弱い方が弾かれるのだ。

 レース終盤の粘りに必要になってくるのが根性だ。2,000メートル近く――それも上り坂や下り坂もあるのだ!――走った後、ゴール前の最後の直線でどれだけスパートをかけられるかが勝利を左右する事もある。

 レースでフィジカルが大事なのは当然の事だが、では賢さが必要ないのかと問われれば大抵のトレーナーが否定するだろう。スタートからゴールまで先頭を走り続ければ良いじゃない! と考えてそれを実行できるだけの脚質適正とフィジカルがあれば話は別だが、ほとんど全てのウマ娘は走りながらレース展開を考える。では思考能力が足りないとどうなるか? 場合によっては掛かりと呼ばれる暴走状態になって無駄にスタミナを消費し、まず間違いなく惨敗するだろう。

 

 無論、この他にも当日のターフの状態や枠順、走るレースコースにもよるのだが、大抵はこの5つの要件が勝利への鍵になる。そして、現段階においてスーパークリークは、根性以外の全てにおいて、新入生の中でも抜きんでて優れていると表現するしかなかった。根性にしても同級生と比較すれば上位になるだろう。

 周囲にいるトレーナーたちが彼女を見る目は、ただの新入生に向けるものではない。将来有望なウマ娘に対して、自分だったらどう育てるか、そしてその暁に何を成し遂げるかを見る目だった。……これは今後が大変そうだ。

 

 あぁ認めようとも。俺はスーパークリークというウマ娘が、気になって仕方なくなっていたのだった。

 

 

 ※※※※※

 

 

 さてどうしたものか。

 スーパークリークというウマ娘が気になる。無論一人のトレーナーとしてだが。

 彼女はどんな走りをするのだろうか。視たところ中距離から長距離を走れるようだし、集団前方につける先行策が彼女に合うだろう。

 そうなると彼女のトレーナーになる者は彼女をどう指導すべきだろうか。

 極端な話になってしまうが、先行策を取るのであればスピードとスタミナを重点的に鍛えて、残りの3つについては合間を見て伸ばす、という方向になるだろう。集団の前方を取るためのスピードと、そのスピードを維持し続けるためのスタミナでゴリ押す。実現できれば単純ながらもそれ故に付け入る隙のない作戦になる。……脳内で誰かがバクシンと叫んだ気がしたがきっと気のせいだろう。

 それ以前にどうやったら彼女と契約ができるのだろうか? 以前はどういう訳か彼女から契約の話を持ち掛けられることがあったが、アレは感謝祭を案内してくれた職員(つまりは俺だ)がたまたまトレーナーだったからそういう話をしただけかもしれない。しかし彼女も学園内に優秀で経験豊富なトレーナーが多く在籍していることはもう分かっただろう。彼女はG1のタイトルをも獲れる逸材だ。優秀なトレーナーであるほど彼女の素質に気が付くだろうし、彼女にとってもその方が良いだろう。

 

 ……その方が良いのは分かっている。そんな事言われるまでもない。未熟な俺は、今は経験を積むのが優先。担当に重賞を取らせるのをまず目標にしろとまず大抵の先輩方は言うだろう。

 

 それでも、だ。

 

 

「何とかしたいなぁ……」

 

 

 新人が有望なウマ娘をかっさらう。先輩方からしたら面白くはないだろうなぁ……

ベテランから睨まれるとか『組織』だったらもって7日の命だろう。運が良ければその日の内に死ねるかもしれないが。世の中には死ぬより恐ろしい事があるのだ。ソースは俺である。

かといって彼女を諦めるという気にもなれない。そもそもこの学園のスクールモットーは『唯一抜きんでて並ぶものなし』だ。ウマ娘たちが1着を取るために(ルールの範囲内で)あらゆる手を使うんだから、彼女たちを応援するトレーナーだって(法の範囲内で)持てる手段はすべて使うのが礼儀だろう。

 

 よし決めた。今度の選抜レース、彼女が何着かとか関係なくゴール後に真っ先に声をかけよう。

 

 

 ※※※※※

 

 

 選抜レース。トレセン学園主催で行われるチームに加入していない新入生限定のレースだ。1年に4回行われ、新入生が本格化を迎えているか確かめるのが本来の目的だ。もっとも先輩方に話を聞く限りウマ娘もトレーナーも勧誘の場というのがメインの目的になっているらしい。

 考えてもみれば当然か。ウマ娘のステータスが大きく伸びるのは本格化を迎えてからだ。本格化が早く訪れた子は、遅い子に比べて長い期間効率よくトレーニングを行える。ライバルに差を付けられる。

 トゥインクルシリーズを駆け抜けた数多の優駿たちも、最初に走ったのは多分このレースだろう。コースの外周に設けられている客席には未来のスターを見つけるべく多くのトレーナーや報道陣が駆けつけ、また来年や再来年のライバルの情報を得ようとする上級生たちの姿も多く見られる。

 

 そんな人混みに紛れるようにして、俺もスタートを待つウマ娘たちを見つめていた。




この二次をあげてから前作のウマ娘×逃走中クロスがちょい伸びたの嬉しい……
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