スキマ妖怪が幻想郷からくるそうですよ?   作:山岩 木空

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はじめまして、山岩 木空というしがない読み専です。
諸々の諸事情により書いてみましたがやっつけですが、お楽しみいただければ僥倖です
ガールズラブ、残酷な描写、アンチ・ヘイトは念のため


プロローグ

「それじゃあ、藍。私は暫く眠るわ、その間のことは任せるから、よろしくね」

「御意」

 

 

 妙齢の女性が二人、明らかな上下関係を見せた会話を交わしている。命じる方は、特徴的なドアノブカバーのような被り物に中国の導師のような装いで口元を扇子で覆い隠している。細められた眼差しで、足元にいる存在を見下しているが、そこに侮蔑の色は見られない。

 恭しく傅くは、獣の耳を模したような被り物にこれまた同じような装い。何よりの特徴としては、その後ろには艶やかな毛並みの獣の尻尾が生え揃うこと。恐らく頭部の耳も本物なのだろう。その正体は全国に名を轟かす大妖怪、九尾の狐である。その力は悪名通り高いものだが、それを従えている目の前の女性は、いったいどれほどの力を持ち合わせているのだろうか。分かることはどちらも恐ろしい程に美しく、妖しい美貌を携えた女性だと即座に見て取れることだ。

 

 

 おやすみなさい、と一言告げて、主であろう女性ーー八雲紫(やくもゆかり)ーーは、自らの寝室へと足を踏み入れ、ぱたんと襖を閉める。従者であろう女性の目がなくなったのを皮切りに、先ほどまでの威厳はどこへやら、眠たげな様子を隠そうともせずに、大きく開いた口を手で覆い隠し、目尻に涙を貯める、

 そのまま扇子を二本の指で軽くつまみ無造作に指を離す。しかし、それが畳に落ちることはない。畳へと触れる刹那、その落下地点の空間に切れ目が入る。瞳のような開き方をしたその空間は、何故か両端を可愛らしくリボンで結ばれている。だが中は無数の目玉が蠢くという可愛げの欠片もない有様だった。バランスが取れているような、取れていないような、微妙なところだ。

 

 

 この空間は「スキマ」と呼ばれる、この扇子を落とした女性が有する「境界を操る程度の能力」により生み出された不可思議な空間だ。その実態は八雲紫しか知らないし、八雲紫以外に干渉することも出来ない。異空間のようなもの、と捉えられている。またその能力自体にも謎は多い。

 

 

「……ん。今季も疲れたわね、この結界を維持するための妖力の定期的な消費は、いかに私でも慣れないもの。しかしこれも、私が愛すべき全ての幻想のため、必要な浪費というもの。文句などありはしない」

 

 

 眠たげな瞳のまま、誰もいない寝室にてそうひとりごちる。彼女のいるこの世界は、名を幻想郷といい、遥か昔に世界の一部を結界で囲み、切り離した異世界である。その目的は科学に淘汰される幻想の保護。愛すべき妖魔神仏の最後の寄り場所としての機能を持っている。その世界を創り出したのが主にこの八雲紫であり、この世界を管理する「妖怪の賢者」などとも呼ばれている。

 

 

「さて、また長い長い、冬眠にーーー?」

 

 

 くん、と背を伸ばし、硬い体を軽くほぐす。そのまま目の前に敷かれた布団に目をやると、その布団の上、見覚えのない手紙が一つ、添えるように置いてあることに気がついた。

 自らの従者である九尾の狐ーーー八雲藍ーーーの仕業かとも思ったが、あれらが何も告げなかったということは、これは彼女の仕業ではなく全くの外的要因により置かれたものだと推測できる。となるといったい何者の仕業なのか。即座に数十通りの予測を立てるも、そのどれもがありえそうで、またありえないような確率。

 しかしまあ、中を見ればわかるかと思い、そのまま手紙を手に取った。そのまま不用心に開けることなどせず、その手紙の「中と外の境界」を弄り、開けずして中を伺った。

 

 

【悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我等の箱庭に来られたし】

 

 

「……少年”少女”、ねぇ。ふふ、そんな呼称で呼ばれるのは久しぶりかもしれないわね。外の世界なら、まだまだ通用する美貌だとは自負しているけれど。……んー」

 

 

 開封することなく中を覗き見て文章を伺い、そこにあった一文に少し心を喜びが満たした。妖怪として長く生きたため、既に少女など通り越した年齢であるために。

 それはそれとして、箱庭に来られたし、とはどういうことか。文面から察するに何かの招待状であり、おそらくだがそこへと招く術式がこの手紙を開封することで起動するのだろう。外には未だここ幻想郷とは別の異世界があり、自らがそこに気づかず、しかしあちらには気付かれ、誘われたということだろうか? はたまた過去に対面した、「少し隣の世界」を移動する不思議な能力者のように、他の世界に干渉できる者の仕業かーーー予測は立てども、答えは不明。

 結論として、今取れる選択肢は二つだ。

 

 

 まず第一に「この手紙を開けて箱庭とやらへ飛ぶ」こと。

 

 第二に「手紙のことは忘れて眠る」ことだ。

 普通に考えれば前者を取る必要は全くない。この幻想郷を捨ててよそへ行く気もない上、何かの罠である可能性すらある。故に後者を選んで然るべし、なのだが。

 

 

「……開けて、みようかしら」

 

 

 指を手紙の開封口にあて、カリカリと開けようとするポーズを取る。

 何故なのだろう。こんな、真実かもわからない招待状に、何が待ち受けているかもわからないものに、もしかしたら二度と戻れなくなるかもしれない可能性すらあるというのに、応じようとしているのは。 

 考えれば、答えは明白。

 

 

「もしかしたら、この先にはまだ見ぬ幻想があり、私の救いを、幻想郷への逃避を望む何かが……いるかもしれない、ものねぇ」

 

 

 我ながら甘く、危なっかしい思想ではあると自覚している。若く未熟な思想、大妖怪である自分にはまるで相応しくないもの。しかし、行動原理は昔から『コレ』なのだ。

 虐げられし幻想を護り、失われそうな幻想を集め、神を、魔を、仏を、妖を、集い、暮らさせる。……人も、その中に含むものはいるが、価値のないものは強者の餌にしかならない。だがそれは、その他幻想にも当てはまる。

 幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは優しく、残酷な理で……それを誰よりも重んじているのが、八雲紫というだけのこと。良し、と胃を決した彼女は掌を上に向けた。するとその真上に先ほどのようにスキマが開き、落としたばかりの扇子が舞い戻る。足をくるりと反対へ向け、閉めた襖を再び開けた。

 

 

「……? 紫様、いかがなされましたか? 冬眠する前に何か、やり残したことでも」

「少し、姿を消すわ。藍」

 

 

 相手の言葉を途中で遮り、そのまま端的に要件を告げた。その途端、少しだけ困惑したような表情を浮かべたものの、次の瞬間にはいつも通りの従者としての顔でそこにいた。

 

 

「ーーー紫様の御心のままに。今しばらくは結界の維持も博麗に任せれば容易でしょう。万が一ともなれば、私と橙でどうとでもしてみせます」

「ん、そう。話が早くて助かるわね。結界の維持のための妖力が足りなければ、寝室の木箱の中のものを使いなさい。それでも難しいほど私が長く離れたなら、幽々子たちでも頼りなさい。……もっとも、彼女が簡単に応じてくれるかはわからないけれども」

 

 

 淡々と、物分りの良い従者に自分がいなくなった後の事後処理の仕方、引き継ぎの方法などを告げて、この八雲紫が唯一、というほどではないが、友人と呼べるような相手の名前を出す。果たして彼女はいかに自分の頼みといえ、素直に聞いてくれるだろうか。また何かしら無理難題を吹っかけられそうだ。そんなものは竹林の姫だけで充分だと言うのに。

 相変わらず臣下の礼を崩すことなく、発する言葉に黙して了承の意を示す従者に、口元が綻ぶのを感じる。しかしそれも手に持つ扇子で覆い隠し、まるでそんなことは当たり前だと言わんばかりの態度で接する。

 

 ーーー妖怪という種は、恐れられなければいけない。その恐怖こそ、妖怪を存在させるエネルギー。大妖怪と呼ばれる彼女ももちろん多分の例に漏れず、その在り方を「胡散臭さ」というフィルターで覆うことにより、「理解出来ない」という恐れを相手に抱かせている。

 一部ならば、理解されても良いだろう。長い付き合いの友だっている。しかし多くのものに恐れられなくなること、それだけは避けねばならない。それは、自身の消滅を。ひいては、幻想郷の消滅にも、繋がる危険性を秘めているのだからーーー

 

 

 しゃん、と扇子を優雅に閉じる。

 

 

「はてさて、『神隠しの主犯』などと称された私が神隠しに合う。ふふ、それはそれは滑稽で、面白い冗句。今回の主犯はいったい何処へ私を連れていってくれるのかしらーーー?」

 

 

 頭を垂れる従者の前で、取り出した手紙を開封する。内容は先ほど見たものと変わることなく、いかにも外の世界の機械で書いたような、固い書体であった。

 

 

【悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我等の箱庭に来られたし】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー捨てるだなんて、とんでもない。むしろ私は、箱庭にて淘汰される幻想を、魔を、神を、人を、妖を、仏を。救うために、参るのだから」

 

 

 いつものように(・・・・・・・)、その場からかき消えた。




マイページやタグの方にも書きましたが不定期更新です。
しかもかなり長期になるかと思われます。ちょっとした時間に書いたりはしますが……もし続きを楽しみにしてくれる方が出て来られましたら、先に謝罪をば。申し訳ありません。
それと、基本的にその時の気持ちで書きたい作品が変わる可能性が非常に高いため、こちらを放置して新作を投稿、などということもありまえます。予めご了承ください。
それと感想、指摘、批評など、いつでも募集しております。

では、また次回
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