しかしはじまりの鍵括弧が太く見えるのは仕様なのでしょうか。
『「』これが太く見えます。『」』これは普通なのですが。
眩く染まる視界の中、次に目に映ったのは大自然だった。広大な木々と、その向こうには巨大な円形の何かが大量に在り、地平の彼方には天へと立ち上る光の柱が一つ。幻想郷に負けず劣らずの奇妙奇天烈さに、思わずほうと息を吐いた。
そしてチラリと横を見れば、3人の少年少女たち。
金髪に、外の世界の機械を頭につけ、快活な笑顔を浮かべる少年。
清楚な衣服に身を包んだ、艶やかな黒蜜のような長髪を赤いリボンで結んだ少女。
その腕に三毛猫を抱いたショートヘアの、どこか不思議な雰囲気を出す少女。ほんの少しだけ少年と思ったなどということはない。
三者三様の反応を見せながら、自身を含めた4人は落ちてゆく。そう、落ちているのだ。
高度を目算しても、およそ4000mは超えているだろう。妖怪ならば飛べばいいが、そうでない彼らは耐えられるのだろうか。おそらくあの手紙に呼び出されたご同輩なのだろうが。
そう思いながらも特に気にはせずふわりと浮かび、落下地点の湖に落ちる前に地面へと降り立った。着水する直前であったし、他の3人が盛大に飛沫をあげたので
見えぬよう、小さく開いたスキマから愛用の傘を取り出して開く。せっかく水に浸からずに済んだのだ、飛沫といえど浴びたくはない。そのまま降りかかる飛沫をバラバラと傘で弾き、3人が湖からあがるまで見届けた。
「オイオイオイ、いきなり呼び出された場所が空中でしかもそのまま垂直落下のウォータースライダーってのはどういうこったぁ? 悪ふざけにも程があんだろオイ」
「まったくだわ! せっかくの服が台無しよ! ……ああ、もう。せめて水を落とさないと」
「……んっ。三毛猫、大丈夫?」
片手に持った扇子で口元を覆う何時ものポーズを取りながら、少し離れた場所で繰り広げられる少年たちの会話に耳を傾ける。こちらとの距離は10mもないほどなので、あちらからもこちらが目視できる距離にある。そして彼らの喋り方から、大凡の性格は掴んだ。
少しばかり言葉を交わした後、金髪の少年と高飛車な少女がこちらを見た。三毛猫の少女も横目でこちらを見ているのがわかる。どうやら警戒されているらしい。もっとも、空を飛ぶところ位は見られたとしても問題はない。なんであれば恐怖のためのスパイスになる位だ。快楽的な笑みと疑惑の眼差し、興味の態度を前に、こちらもニコリと笑いながら応える。
「よーう美人さん? あんたもさっき一緒に落ちてた奴だよな。健全な一男子としちゃあ美人さんの連絡先でも教えてくれっと嬉しいんだが?」
「破廉恥なことを言わないで頂戴。……でも、何故貴女は濡れていないのかしら? 私たちが湖からあがるよりも先にそこにいたようだし……」
獰猛そうな少年と、高貴な印象の少女がこちらに詰め寄る。三毛猫の少女は横目で一瞥をくれただけで、すぐに水を払う作業へと戻る。やはりと言えば当然だが、疑問に思うものだろう。手紙の内容から察するに彼らにも少なからず異能が、自身に当てはめるならば「境界を操る程度の能力」と便宜的に呼称しているもののような力があるということだろうが、話す意味も義務もない。
扇子をいつもの位置に持っていき、笑顔の仮面を嵌めた。言外に、話す気はないのだと態度で示して。
それで納得した訳ではないだろうがこちらの意図を察したのか、金髪の少年は好戦的な笑みを浮かべたまま引き下がる旨の発言をし、その通りに引き下がった。少女の方は見てわかる通りに不満げで、マナーが、淑女が、と愚痴るように付け加えてきたものの、すぐに諦めたらしい。
三毛猫と少女は双方、水を払い終えたらしく満足げだ。
水も既に降り注ぐのを止めている中、傘を折りたたみ、それを持った手を後ろへとやりながら目を細めた。
一方、少し離れた草むらの中、必死に思考を巡らせている存在がいた。
(……うっわー。見事に問題児さまばかりお揃いになられましたねぇ。異世界って問題児さましかいないのデスか? 野蛮で凶暴で獰猛な殿方に、扱いの難しそうな方と何を考えてるか掴めない少女2人。それになんですか、あの金髪の不思議ウーマン様は? 飛行して、傘をどこからともなく取り出してと、地味ながらに得体が知れません)
頭頂部の
ちょんちょん。
肩が後ろから叩かれた。
(ーーーッ!?)
戦慄。次いで汗が嫌な量、吹き出た。
箱庭の貴族と呼ばれたウサギである彼女は自慢ではないが、この箱庭においてかなりの高位に位置する程度の能力は有していると自負している。そんな自分に気配も、臭いも、音すらも悟られることなく近づける。それだけでこの相手の技量の高さがうかがえる。
すわ、魔王かと危機感と共に後ろを確認しようと半身を後ろへと振り向かせる。ここには異世界からの招待者たちがいる。最悪、彼らを守りながらでもーーーとそこまで考えたところで思考は止まる。
何故ならそこにあったのは、空間の裂け目から生えた、一本の手だったのだから。
「ギニャアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?!?!?」
少し離れた草むらの中から品のない叫び声がする。そのまま背中に回した手をスキマからそっと引き抜いて、そちらへと視線を向ける。少年少女もそれに合わせるように顔を向けると、そこには頭を抱えたままブルブルと震える一人の女性。頭頂部には人ではあり得ない耳が二つ。そのボンテージのような格好もあり、まるで賭博場のバニーのような印象を一同に与える。
「お、お化け……っ!! おば、お化けは、お化けはダメなのデスヨ……!! この世界はファンタジーやメルヘンなので修羅神仏人妖はあれどお化けは、お化けは適用外……っ!!」
なんだあのウサギ。超情けねぇ。いじり倒したい。
これは金髪ヘッドホンの感想だが、その場にいた少年少女は概ねこのような感想を抱いた。……無論、少年少女と銘打ったからには、そこに金髪日傘の妖怪は含まれていない。彼女だけは愉快と言わんばかりにくすくすと上品に笑い、その脳内では月の兎との関連の有無を吟味していた。無論ここが異世界と思しき場所である以上、関連は薄いと見るべきとわかってはいるのだが。
頭を抱えたうさ耳の震えが収まり、ちらりと周囲を一瞥。慌てたような表情が垣間見えるも、即座に立ち上がり居住まいを正しこほんと咳払いを一つした。頬がほんのりと赤く見えたのは、きっと彼らの見間違いではないだろう。
「え、えー……っと。ようこそおいでくださいました、異界よりのお客人様! ワタシは皆様の案内役であり、皆様をこの世界へと招きしホストでもあります。どうか親しみを込めて『黒ウサギ』とお呼びください」
先ほどとは打って変わり、礼儀正しく丁寧な振る舞いを見せる黒ウサギなる女性。それを見るに「なるほど。この奇妙な異界の案内役であるのだな」と頷かせる風格があるのだろう。その広げた手からほんの少し見えるカンニングペーパーのようなものが見えず、また黒ウサギの目がそちらへ向いていなければだが。
おそらくは彼女の中では初対面の相手に一発ビシッと決めたつもりなのだろうが、ここに集うは世界が認めし問題児たち。全員が気付き、嘲笑に近い行動を取らされてしまっていた。そんなことにも気付かず、黒ウサギは呼び出したホストの責任か、話を続けていく。
ーーーなるほど。八雲紫はいつものように扇子で口元を隠し、感情を感じさせない瞳で黒ウサギを見据えた。黒ウサギがそれに反応し、ほんの少しの恐怖を感じつつ目を逸らすも八雲紫にとっては大したことではない。目は開いているが、ものを視るよりは脳を巡らせる方に集中していたためである。
どうやらこの世界、『箱庭』なる名のようだが、ここも幻想郷のようにありとあらゆる幻想が集う場であるらしい。話の最中に密かに『近と遠の境界』を弄り、箱庭の数カ所を見て回ったが、竜に始まり獣人、吸血鬼、神に妖精といったものたちが確認できていた。その中には人間も確認できており、ますます幻想郷との類似を感じられる。
そしてここ箱庭では、『ギフトゲーム』という、幻想郷で言う『スペルカードルール』のようなものが法として認知されているらしい。幻想郷のスペルカードルールは強制はされども絶対ではないが、ギフトゲームは完全に管理する存在がいるらしく、それは強制され、また絶対のようだ。まるで牧場のようね、などと素知らぬ顔で思った。
最後に、金髪ヘッドフォンの少年が『この世界は面白いか』という質問を投げかけ、それに黒ウサギが肯定したところで説明は終了した。一息つき、後ろ手でカンニングペーパーを隠す黒ウサギに思わず笑みが抑えきれない。
さて。ここで一つ、八雲紫が彼らを観察して分かったことがある。
金髪ヘッドフォンの少年は今の発言からも分かるように、快楽主義で刹那的な生き方を好む傾向にあると見える。またその潜在能力は人間にしては凄まじいの一言に尽き、幻想郷に存在する一勢力のどれかと個人で対等に渡り合えるのではないかと思わされるものがある。実際のところ、それは八雲紫が許さず、また幻想郷が何をもってしても彼を排除するだろうが。扱う上では用法と用量を守って正しく運用すれば良い駒となるであろう。
次に、いかにも高貴であるといった具合の少女。発言からも察せられるが、おそらく富裕層の人間だろう。髪色と服装からして比較的、現代の日本人に近いが、何処か旧態依然としており、戦後間もなくといったところと推察される。彼女もまた、秘めた力は悪くないだろう。扱ううえでも、彼女のようなタイプはツボを押さえれば比較的容易に動かせる。
最後に、スリーブレスな服装で三毛猫を抱えた少女。寡黙なため、発言はこの中ではもっとも少ない。また時折、その抱えた三毛猫と会話をしているように見受けられる点から、彼女は猫または動物全般と意思の疎通が行えると推察される。寡黙なのはその力により動物しか相手がいないせいか、はたまた生来のものか。推し量ることしか出来ないが、そこまで外れてはいないだろう。人との関わりに飢えているであろう彼女は、場合によっては富裕層の彼女よりも扱いやすいだろう。
「さて、皆様からの質問等がないのでしたら、黒ウサギめがここで一つギフトゲームをしたいと思っておりますが?」
ぐるり、と横並びになった問題児4人組を順に見やりながら黒ウサギが確認を取る。歓迎のレクリエーションのつもりか、簡単なギフトゲームを行い、この世界に慣れてほしいとのこと。数秒待ち、特に何もないと判断した黒ウサギが「では」と始めようとしたところ、スッと一つの扇子が昇る。一同の視線がそこへ集まる。しゃんと開いたそれを口元へ下げ、八雲紫はにっこりと微笑んだ。
「……何か質問でも? そういえば貴女様は終始聞き手に徹しておりましたね。これは失礼。不公平デス。というわけで質問でしたら遠慮なさらず、どうぞどうぞ」
「質問ではないのだけれど。一つ、忘れていたものですから」
無邪気そうな顔に、跳ねるような声。露骨なまでに『無害』を主張するその行為は、その場にいた全員に不信感を植え付けた。さて何が飛び出すのか、一同が彼女の一挙手一投足に注目している中、何気なくつぶやかれた。
「自己紹介、しましょう?」
自己紹介をしない。
これも全部ドン・サウザンドってやつの仕業なんだ(名推理)
ところで箱庭における「幽霊」ってどんなものなのでしょうか。あまり長く続けるつもりがないのでそう原作を読み込んでいません。
この作品は原作1巻分で終える予定です。