シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
全てを喰らう粘魔は端的に言えば恐ろしい程飢えていた。
息を潜め、己を構成する為の餌となり得る強い気配を発する獣や人を狩り喰らう……粘魔の思考は終始それに完結しているし、今もこれからも変わることは一切ない。
そしてその過程で一筋縄ではいかない障害が生まれることも意に介すことはない。今回は久方ぶりの障害だった、喰らい模倣した脆い部分を的確に砕かれ、人の身を取り触れるだけで消し飛ぶ絶死の一撃を繰り出しても障害は己を殺さんと向かってきた。
粘魔は障害によって凍り鈍っていく自らを客観的に見て人を喰らったことで得た微かな知性を持って「詰み」と判断した。本来ならここで終わり。粘魔は完全に氷の牢獄に閉じ込められて終わる筈だった。
――――――――ナンダコノケハイハ。
その寸前でここからほど近い場所で己が今まで狙ってきた獲物の数倍、億倍程も濃密な気配を発するナニカが唐突に出現したことを粘魔は敏感に察知した。
「詰み」と判断していた知性は一気に食欲に塗り潰され強引に氷の牢獄を粉砕し突き刺さる物体もそれを握っているつい数十秒前までは餌だった肉も一切無視して気配のする方へ猛進する。
気配の正体はユニークモンスター、「夜襲のリュカオーン」と呼ばれる最強の狼だった。
◇◇◇◇
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
「うぉぉおおおおおおおおおおっ!!!?!」
待った待った待った待った!!!?なんかえげつないナニカが近づいてる!?ゲームの中でこんな……
というかこの感覚、ジークヴルムやウェザエモンに近い……あ、
「へぶらっしゃ!!!!!?」
「ビャッコ!!?」
痛ってえ地面に思いっきり顔面からスライディングした……HPもちょっと削れた……というか待った、その声は。
「サンラク!!?何お前なんでここにいんの!?」
「そりゃこっちのセリフだっつーの!」
「え、え?ビャッコ、さん?」
サイガ-0まで居るじゃん……え?じゃあ何?例の待ち合わせ相手ってお前だったの?1回死んだのかな?
というかそれどころじゃないな、状況確認……!
「すまん簡潔に状況教えてくれ」
「今の状況はよく分からんがつい数秒前までの状況なら分かる、SF-Zooがリュカオーンの出現パターンを把握して例のシナリオの発生条件を外道鉛筆から入手、ウッキウキで俺達との交渉を撤廃するとか言いながらリュカオーンに襲撃をかけに来た」
「ごめん待って何言ってんのシナリオ発生条件を外道鉛筆が喋った?」
「クリティカル100回って言ってな」
あっふーーーん。あの外道流石だな?
サンラクは確かにクリティカル100回とは言った、だがそれに追加して「
見た限りじゃリュカオーン相手に複数人で殴りかかってるようだし、あれにはヴォーパル魂が感じられない。
確かにヴォーパル魂云々は喋っていないな、そも「ヴォーパル魂見せたらシナリオ発生しました」なんて口が裂けても言えん、何言ってんだこいつで片付けられるだろうしな。
大方あの外道のことだ、俺達から聞き齧った断片的な情報をそれっぽく繋げて一本釣りでもしたんだろう。まんまと釣れたSF-Zooは可哀想だが交渉撤廃とまで言った以上はそこまで気にする必要は……いや待て、これでシナリオ発生しなかったらこれまで以上に詰められるんじゃないか?クソが。
「色々状況は飲み込めたけどさ。サンラクと、あーーーー、サイガ-0さんはSF-Zooがリュカオーンに勝てると思う?」
「うーーん……さっきまでの感じならいけるかもしれない、とは思ったけど……多分無理だな、ですよねレイ氏?」
「はい…恐らく、SF-Zooでは、無理、かと」
目の前で繰り広げられるSF-Zooとリュカオーン、そしてコピー野郎の三つ巴の戦いを観察しながらサンラクとサイガ-0はそう断言した。
◇◇◇◇
アニマリアは途中までの拍子抜けすら覚える呆気なさをか殴り捨てて焦燥感に駆られていた。
(カーケスカブ……!?集団なら出てくることがないから油断していた、まさかリュカオーンにまで喰いついてくるなんて……!!)
シャングリラ・フロンティアに息づく全ての生物の生態を調べ尽くさんと日夜フィールドワークや検証に勤しむSF-Zooであるが、もちろんそのクランを構成するクランメンバーの中にも少数ながらスライムやゴーレムなどの謂わば色物を調査する者達がいる。そして彼らの調査の結果カーケスカブにはある性質があることが判明していた。
ーーーーーカーケスカブは強いモンスターやプレイヤーを積極的に攻撃する。
モンスターとしては当たり前の行動とも言える、だがカーケスカブはその攻撃性が以上なほどに高かった。そして困ったことに現状かなり厄介な性質がもう1つ存在していた、それ即ち「行動阻害系デバフの耐性」である。
今回のパーティーメンバーは全員ヘイトを買い、動きを止めるデバッファーによる完全無力化を行うというコンセプト、結論として恐ろしく噛み合わせが悪いのだ。生半可なデバフなどでは歯が立たず漏れなく捕食されるのだが……
「けどまぁ、私がいるのが運の尽きね。【
あらゆる生物に対して30秒間の行動不能を与える自らのユニークウェポン、「冥府の鍵杖」の固有呪術。この呪術はカーケスカブの耐性を貫通して行動不能状態を付与する。リュカオーン相手に使えなかったのが心残りではあるが仕方ない、今のデバフ量でも十分動きは阻害できているのだ。
「さぁリュカオーンちゃん、あなたの毛並みはどんな感じなのかしら?」
そう言いながらアニマリアは好奇心の押さえを解き放ちリュカーンの元へと向かう、カーケスカブは動きを止めた、他のメンバーが対処してくれるだろう。そもそも攻撃力の高さに反比例してあまりに貧弱なHPが弱点なのだ、30秒も動きを止めればあっさり片がつくだろう。
故にこそ、アニマリアは一瞬気がつくのに遅れた。世の全てを覆い隠す夜の帝王の力の一端に。
この場にいる人間どころか全てのシャングリラ・フロンティアをプレイする人間よりも早く
「そうだ、そうだよ…………
サンラクの脳内で確定情報と推測が組み上げられ仮説が生み出されていく。
確定情報、夜襲のリュカオーンは影と一体化し、影から分身を作り出す。
推測、夜襲のリュカオーンは厳密には影ではなく夜闇と一体化することができる。
確定情報、夜闇とは地面の影ではなく、空間の「暗さ」そのものである。
確定情報、サンラクの身に呪いが刻まれた時の戦闘時リュカオーンが放った最後の攻撃の際リュカオーンは分身を出していなかった。
ーーーーー仮説。
あの攻撃は「不可視の噛み付き」ではなく。
「不可視状態の
そしてその発動条件とは月光という光源すらも消え、星光という照らすには光量の足りない暗闇がトリガーだとすれば。
夜闇と完全に同化した分身による不意打ちだとすれば。
「戦闘中に天気の確認をしろってか……!」
サンラクは「夜襲のリュカオーン」という名前の真実に辿り着いた。
夜襲という名前の意味は「夜」に「襲」いかかってくるから「夜襲」なのではない。
「夜」
サンラクがそれに気づいたのとほぼ同じタイミングでビャッコもあることに気づいた。
(コピー野郎の動きが止まった……さっきサイガ-0は生物に対して行動不能状態を付与するって言ってたが……
ビャッコの脳裏にこれまでの短いながらも行われた戦闘から得られた確定情報とそこから生まれた推測が組み合わさり仮説が生み出されていく。
確定情報、コピー野郎には少なくとも凍結は有効だった。だが何故かこちらに向かっている時は凍結が全く効いていないような挙動を見せた。
推測、腕やら何やらを落とすたび見せた怯みモーション、あれは「コピー野郎」を構成する物質が減ったことに対する忌避感的なもの。
確定情報、己を構成する物質がなくなった場合基本的には何も残らない。
推測、厳密にはあのコピー野郎という「個体」には実体が存在していない。
……………………仮説。
コピー野郎は取り込んだものがあって初めて実体を持つ生物として扱われる。厳密にはゴーストやらの実体がないタイプであり……そのトリガーはコピーしたリソースが尽きること。
(俺の攻撃は間違いなくコピー野郎のリソースを削ってた、つまりはこの仮説が正しければ今のあいつは……)
「【
サンラクとビャッコが限りなく近い正解に辿り着いたのと同時にアニマリアに「夜」と「喰」が同時に襲いかかった。
【朗報】アニマリア氏生存【実質死刑宣告】
【悲報】原作よりも酷いことが確定している模様、ひとくちおやつかもうスライムかなんなのかよくわからん奴に取り込まれるかどっちから選んでね