シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
(レイ氏の腕が逝った!!このクソ狼が!!!分身を俺に押し付けてメインアタッカーを本気で潰しにかかったか!!!!)
サンラクは心の中でリュカオーンに対して呪詛を吐きつつもなお冷静に状況を把握するべく脳をフル回転させていた。
エムルによる【マナ・シェイカー】という超限定的状況下でしか効果を望めない魔法がリュカオーンに効くことを看破し、その上でヘイトを全て管理しきっていたにも関わらず最も物理的火力を発揮するメインアタッカーを潰しにかかったという知能の高さに辟易としながら攻撃を避け、弾き捌いていく。
(レイ氏の「とっておき」の条件は達成済み……後は何か1つでも歯車が噛み合えば、噛み合ってくれれば……!)
具体的にはそう、もう1つの戦場で大立ち回りを決めているであろう上裸の狐面という名の歯車。そして待ち望んでいた歯車がやって来るなり叫ぶ。
「やって欲しいことと情報だけ言え!!!!」
その言葉にニヤリと笑いサンラクは叫び返した。
「3分稼ぎ切ってくれ!俺もレイ氏も秋津茜も特大の爆弾がある!!それとエムルの魔法が有効打!そっちに行かせる!あと上で雲払いしてる朱雀がそろそろ
◇◇◇◇
「3分ね、了解…………ッ!?」
入れ替わった瞬間俺の顔面を狙った腕の振り抜きを慌てて回避した次の瞬間には避けた先に向かって影の槍が伸びてきていた。咄嗟にパリィ……げっ、
俺とサンラクがスイッチし、他のメンバーが素早く後方に下がった瞬間恐ろしい速度でこちらにヘイトを定め襲いかかってきたという判断の速さも驚かされるが攻撃の組み立てが凄まじくやりづらい。ディレイかどうかの判断がつきにくのもそうだが時折槍を出すときのモーションらしき動きをしながら噛みついてきたりもする、直前まで判断がつかないだけでもかなりやりづらいというのにそれに加えて一撃一撃が即死級……!
何より展開途中で妨害にあったせいで金龍が手元にない、赫竜があるだけまだマシだと思うか……!
「五鍵直後の縦連みたいなウザさァ!!!」
思わず今現在の状況下で与えられるストレスと同レベル帯の「音ゲーの譜面で出てこられたらウザいやつ」を口走る、ちなみに現状のトップティアは「ソフランしながら高速ノーツを降らしてくる」、だ。マジでレーンごとに低速と高速を分けるのだけは勘弁してほしかった、あれを攻略するのに何十人の勇者と時間が散って行ったのやら……尚そのオチはバグだったとかいうやるせなさも込みのど畜生ムーブな、あれを攻略したときの感動を無情にもロルバされた上で修正後その譜面をやってみたところ特に何の認識難や反応速度を求められることもない凡譜面になっていた時悲しみは加速した。
「………ッコさん!ビャッコさん!!前!!!!」
「んぇ?んぇぇぇぇぇえい!!!!」」
虚無感を叩きつけられる悲しみの過去に思いを馳せてしまっていた。目の前から迫り来る大顎に気付かないとは……オルトが声をかけてくれなきゃ間違いなく死んでいた。集中力が切れてきてる、まさかこんな大物とぶつかるとは思ってなかった上に暫くエナドリ断ちをしようと思って飲んでこなかったのがここで響いてくるとは……トゥナイトが欲しい、いや今すぐ摂取するという意味ではバックドラフトが1番か?ないものねだりしても仕方ないが。
(朱雀がそろそろエネルギー切れ……なんとなく暗闇が例の透明分身のトリガーになってるのは予想がつく、それを物理的に突破してるのか。その術が無くなれば最後難易度は恐らく鬼のように跳ね上がる、後残りは……1分40秒、いや32秒ってところか?)
長い。それに加えてバフスキルのリキャストが終わってないのがあまりにも辛い……純粋なステータスでここまで耐え凌いでるのは奇跡と言って差し支えないのでは?
「心の火を鎮め己の河川を御する……!俺の今までを以って!お前を見切ってみせる!!!」
己の経験を信じ抜け、あの超速即死抜刀術を思い出せ、あの超広範囲氷結攻撃のオンパレードを、純粋なステータス差を叩きつけてくる狼共を思い出せ。理不尽なノーツを捌いた日々を、剣を交えたあの道場も。
こんな諸々の攻撃性能を到底正気と思えないレベルで盛ったまっくろおばけみたいなカラーリングしたやつに比べりゃ……ごめん嘘、割とこいつ人生の中で上位帯に入る程度には理不尽だわ。
「前脚の振り抜きはブラフ!地面からの槍は予備動作から!」
前脚に怯むな、槍は予備動作がある。お前の本命はこっちだな?
「ちょっと前からお前の攻撃妙に単調だったわバレバレだっつーの!」
ディレイが極端に減っていた、分身と本物を入れ替えれるのはSF-Zooが見せてくれたから知っている。何食わぬ顔で入れ替わって何かしら仕掛けてくるつもりだったんだろうが甘いと言わざるを得ない。
だからこうする。
「王位龍装……【神居】!!!」
黒衣武装から叩きに叩き上げたこのスキルはもはやただのカウンタースキルではない、相手の攻撃に確定で自動的に反撃を入れスローダウン効果を付与するとかいう割と破格なスペックへと進化したのだ。唯一欠点があるとするならば魔法攻撃には無力といったところか。
背後から迫り来る爪が黄金の鱗に覆われた腕の幻影に阻まれ、そのまま組み伏せられる。さぁ喰らえ、数時間の戦闘で十分練り上げられてるぞ。
「
龍気を纏った赫い刀身を思い切り振り抜く、ザンッ、と音を立てて右目を切り裂いた。
「ガルルルルァァァァァァァァァァァァ!!?」
「流石に目を吹っ飛ばされちゃ多少は怯むよなぁ……!オルト!!!!」
「これを!!」
「最高に気が利く相棒だよオメーは全く!」
いつの間に回収していたのやら、というかいつの間に俺の肩から降りていたのやら。オルトが俺に金龍を放り投げてきた。ノールックでそれを握りしめゲージを確認、いける……残り1分を確実に稼ぎ切るのみだ!
「覇兎、【覇天、却火ァ】!!!」
金龍が暴れ狂う赫竜を抑え付け翼で覆い混じり合う。金色に輝く刃に赫い波紋が乗り、全てを灼き斬らんと白熱した。
「狐面の人!!助太刀しますわ!!」
「エムルちゃん!?…………わかった、俺がメイン火力を担当するから妨害を頼んだ。肩に乗っててくれ、オルト!暫く待機してろ!攻撃回避に専念!」
「心得ました!」
オルトの代わりにエムルちゃんが俺の肩に乗る、うーん……やはり慣れた重みではないからか違和感を感じる。まぁ言っても仕方ない。
「マッハレッグ!遮那王憑き……
カーケスカブには意味をなさなかったが故に切らなかったバフスキル2つを使い潰し、
「分身尻尾来る!本体左前脚跳ぶよ!分身の方お願い!」
「【マジック・チェーン】!!」
有効打になるとかならないとかは問題じゃない、1秒でも動きを止められるのであればそれは立派な対策になる。リュカオーンにも拘束自体が通用することは文字通り身を持ってSF-Zooが証明してくれた。
遮那王憑きの効果によって天狗の如き動きを可能とした俺の身体が宙を舞いながら本体の左前脚を避けつつ着地、分身の尻尾をエムルちゃんが止めてくれたことにより猶予が出来たと言える、オルト同様素晴らしいオプションパーツだ、まぁオルトの方が良いが。
リュカオーンがわざわざご丁寧に用意してくれた足場を起点に更に跳ぶ、空中にいる俺に向かって容赦無く振り抜いてくる前脚の攻撃は瞬間瞬間を刻む視界では遅いように感じられる。刀なんて何度振ってきたと思ってやがる、空中だろうが楽に振るえる……そんなすっとろい攻撃じゃ尚更な。振るわれた俺程度一撃で消し飛ばせるであろう火力を伴った腕を経験則のみでノールック回避し放たれた影の槍を捌いていく、パターンは割れてる、予備動作も見切った。最小の動きで最大の効果を発揮しろ。
「喰らえや……
効果はシンプル、突き攻撃に対して1度限りだがダメージボーナスを付与するというもの。だがこいつはリキャストの短さという利点ともう1つ限定的な追加効果が存在する。それこそ「狼系モンスターへの更なる追加ダメージ」だ……お誂え向きだが今は最高にありがたい、お前の顔面串刺しにしてやるよ!!!!
両手で刀を握り締め全力を込めて突きを放つ……手応えがはある、が、
横の元分身から放たれる濃厚な死の気配、どうする?避けられないことはないがジリ貧になる可能性がある、見切り……駄目だ、入れ替わり択がある以上今の詰みかけた状況下じゃ事態を悪化させる要因になりかねない。
ならどうする?他人に頼ればいいんだよ!!……あ、兎か。
「エムルちゃん!!!!!!」
「はいなぁっ!!【マジック・チェーン】!!」
大口を開けて俺とエムルちゃんを噛み砕かんと迫るリュカオーンに向けて放たれた魔力で構成された鎖がリュカオーンの脚に纏わりつき一瞬だが隙が生まれた、そしてそれこそが俺の待っていた機会……!
「喰らえや勝利への一撃ィ……ヴィクトリア・スマァァァァァッシュ!!!!!!」
なお効果は特になんの変哲もないクリティカル率アップとダメージ増加効果だ!ただし相手の体力が低い、つまり勝利に近づいている時にこのスキルを発動した場合更に追加ダメージが発生するぞ!ちなみにこのスキルで敵を倒した場合はどうやら敵が爆発四散するらしい、特撮かな?
赤と青のエフェクトを撒き散らしながら振り抜いた全力の拳はリュカオーンの眉間を確実に打ち抜き
◇◇◇◇
「腕、が…………っ!!!」
集中力を切らしかけていた、対処に手一杯だったのにサンラクの方へほんの少しでも意識を向けてしまっていた。胸中で渦巻く秋津茜に対する敵対心などなど……結果としてサイガ-0は片腕を欠損することとなった。
「レイ氏!!大丈夫か!!?」
「サンラクさん、すみま、せん……!私が不甲斐ない、ばかりに……!!」
「あぁいやそこは大丈夫死ぬほど火力貢献してもらってるし……ところで、例の特大花火は撃てそう?」
「正直、かなり厳しい、です。本来両手、で、運用するスキルなの、で。…………でも」
わかっている、わかっている。自身の持つ最大火力を出すスキルはタメも後隙も大きい上両手で握り締めないと狙いがまともに安定しないことを。だがその上でサイガ-0は宣言した。
「私は、やれます」
それはサンラクにとって十分すぎるほどの答えだった。
「オッケー、分かった。今あそこで跳ね回ってるバカに3分時間稼がせてるからそれでちょっとでもスタミナとか必要な準備整えてからだ……あとは、透明分身」
間も無く上空を飛ぶ真紅の機械仕掛けの鳥のエネルギーが尽きる。そうなれば月が翳り不可視の分身が暴れ始める、それが最大にして最悪の懸念点。
何より本体に必殺の一撃を当てることこそが絶対条件であり、万が一にも分身による妨害を喰らって仕舞えば最後勝ちの目は無くなると言ってもいい。
今求められているのは確実に本体のみが攻撃を仕掛けてくる行動の誘発である。更にそこで問題となっていく点はリュカオーンの目まぐるしく変動するヘイト管理であろう。
サンラクが考えるリュカオーンの基本ヘイト優先度は「リュカオーンに有効打が与えられるか否か」であるがこれは細かな相違点はあれど概ね模範解答である。
SF-Zooとの戦闘時ではタンクよりも自らを拘束せしめた後衛を、先程まではメイン火力を務めるサイガ-0を、そして今は【マナ・シェイカー】による攻撃を仕掛けてくるエムルを積極的に狙うというあまりにも合理的かつ有効すぎる仕様にサンラクは思わず舌打ちする。
上空を飛行し暗雲を切り払う朱雀に残された時間はちょうどビャッコに指定した時間から凡そ1分後に尽きる。そこで試合が終わるわけではないが、少なくとも透明分身の解禁は事態をプラスにひっくり返すことはない。
であるならばどうするか。サンラクは既に回答を導き出していた。
「エムル、ビャッコの所へ援護しに行ってくれ。……えーと、これ命令は普通に喋ればいいのか……」
「はいな!……誰と話してるんですわ?」
「お空の鳥さん」
「サンラクサン……そんな、頭が……」
――――――――振り落とすぞこの野郎。
凄まじく自然に毒を吐いたエムルに向かってそんなことを思い、一体誰に似たんだと過去を振り返えると
「いいか朱雀、就寝前に一仕事頼む。俺が合図したタイミングで…………」
◇◇◇◇
そしてビャッコに指定した3分が経過し、合流したビャッコに簡単に作戦概要を説明した。
「――――――――全ての用意は整った。さぁ、ここが正念場だ!!エムル、ビャッコ!タイミング合わせろよ!」
「はいなっ!」
「任せろ!!」
「サンラクさん、いけます!」
「オッケー……よっしゃ来いリュカオーン!」
多分少なくとも後1、2話でリュカオーンは蹴りつけて章末入るよ。
次回更新予定は来週の土曜日か日曜日です、早く投稿したら全力で褒めてください定期テストしんどいです
Q.リュカオーンのヘイト仕様上どう考えてもビャッコ無視してレイ氏を完全に潰しにかかるだろうにわざわざ分身まで狙ってきたのはなーぜなーぜ?
A.ビャッコの