シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
「ビャッコ、仕事が終わったところ悪いが最後にもう一仕事頼まれてくれ」
「ぶっちゃけリソースなんて8割尽きてるんだが……まぁ、任せろ」
何もリソースが8割方尽きたってだけで完全になくなったわけでは無い、覇天却火による大技も残っているし白雪の狼槍の最後のとっておきの
「――――――――全ての用意は整った。さぁ、ここが正念場だ!!エムル、ビャッコ!タイミング合わせろよ!」
「はいなっ!」
「任せろ!!」
「サンラクさん、いけます!」
「オッケー……よっしゃ行くぞリュカオーン!」
サンラクの号令と共に俺が最速で突っ込んでいく。課せられた役目はサイガ-0の奥の手を確実にリュカオーンに叩き込む為の足止め、その先鋒および二の矢だ。
正直鉄砲玉として突っ込ませた人間をさらに使い潰そうとしているあたり割と外道臭が漂うがこんな少人数なんだからもうここは仕方ないとしか言えない、任された役目をしっかりと全うするのみだ。
「…………来たな【朱雀】……!」
つい先程までリュカオーンの透明分身を食い止めていた規格外戦術機鳥【朱雀】が灼熱の流星と化して急降下しリュカオーンへの特攻を試みる。恐らく残存のエネルギーはほんの少しだろうにその全てを掻き集め腹部に格納されていた長大なブレードを展開、翼を折り畳みブースターのみで加速し紅蓮纏う尾羽が轟音を立てながら大気を焼き尽くす。
狙いはいくら物理攻撃がほぼ有効打でないリュカオーンであっても「生物」という原型を保つ限り機動力の大半を担う脚を穿ち抜く。まぁ十中八九ではあるものの当然リュカオーンが真上から轟音と共に接近してくる朱雀に気づかないわけもなく、狙われたと感じたのであろう後脚を蹴り上げることで迎撃せんと力を込め……
「朱雀の迎撃を行うところまではサンラクの読み通り」
残念だったなリュカオーン、こっちはなりふり構っていられないんだ……全員の切り札を
「「
「【
「マナ・シェイカー!!」
「我は混沌を手繰る者…………!」
ヘイト基準は既に割れてる、お前へ有効打になりうる攻撃を行えるやつに対してのヘイト優先度が高いんだろ?だがそれは裏を返せば
まず第一に正面切って突っ込む俺が【朱雀】が狙う脚と対になる後脚を吹き飛ばそうと切り札を切った。
第二に俺の少し後ろに立つサンラクが奴が抱えているという切り札を切り、第三に斜め後方に待機していたエムルちゃんが更に左前脚に攻撃を加えた。
そして第四、後方に陣取ったサイガ-0が切り札発動の為の詠唱に入った。
5つの脅威を一気に叩きつける、わかっていてもどうしようもなくてそれでいて何かアクションを起こしても殺到する切り札の連続こそが「詰み」なのだ。リュカオーン、お前の全体攻撃はもう間に合わないことを理解しているか?仮に俺を落としても後から叩きつけられる第二第三、第四の切り札への対処は?
確実に何か一つはお前に当たる。だからこそお前の取れる行動はたった1つだ。
「来るか……透明分身!!」
朱雀が払い続けた暗雲がこんな時に立ち込め月光が翳る。即ち分身が闇夜に溶け消えその姿が不可視のものとなる。
俺達の5枚の手札は既に切った、ここから透明分身への対処は不可能であり……
「頼んだぞ秋津茜……!」
俺はそう願いながら燃え盛る紅蓮の溶岩を迸らせた金色の刀身をスライディングしながら全力でリュカオーンの右前脚へと振り抜いた。
◇◇◇◇
人間どう頑張ってもやらねばならぬ時というものは確かに存在し、避けようと思っても避けられぬものである。
例えば全国大会の決勝でリレーのバトンがアンカーたる己に託される時であったり、受けの硬いデッキに対して帽子の中に入った鳥で殴りデッキトップの3枚のうちに切り札が入っていることを祈る時であったり、そして今この瞬間であったり。
「シークルゥさん! やりますよ、大仕事ですっ!!」
「エムルやオルトがヴォーパル魂を張っている中、拙者が怖気付くなど親父殿に顔向けできんで御座る!」
なんの偶然かシャングリラ・フロンティアで再会したゲームの先達。交友と呼べる程の関係ですらないが、彼らが困難に打ち勝たんとするその手助けが出来るのであれば、したいと思うのが秋津茜にとっての人情というものだ。
話には聞いていたリュカオーンの不可視の攻撃、その弱点は「光」であるという。
――――恐らく本体の身動きが止められた以上、奴は分身を用いた打開を狙うはずだ。というかそうであってほしい。
「燃えてきましたよ……!」
あの時サンラクは恐らくシークルゥの戦力を以て透明分身を食い止めて欲しいという考えのもと秋津茜に話しただろうから。それに関しては何も文句はない、そもそも秋津茜が今この場にいる理由はベルセルク・オンライン・パッションというシャングリラ・フロンティアとは違う
首につけた
「本当に足音しか聞こえない……見えないけど、いますっ!」
「秋津茜殿! 拙者は何時でも出陣できるに御座る!」
「もう出陣自体はしてるんじゃないですかね? まぁいいや、行きますよ!!」
秋津茜は己の顔を覆う……ビャッコとも因縁深いかの黄金の龍に刻み込まれた「
左眼を交差点として十字に刻まれた大きな紅い模様が秋津茜の表情が変化するにつられて歪む。
「刃隠心得、奥義!」
この魔法忍法は極めて珍しいことに、プレイヤーの
職業「忍者」の獲得における最終段階、見習い忍者達の師匠として様々な修行クエストを課す「隠居忍者カスミ」が卒業していく新米忍者達に餞別として与えてくれる忍術の記された秘伝書。
プレイヤー間では「リセマラ不可の忍術ガチャ」などと揶揄される最後のクエスト報酬に於いて秋津茜が引き当てた「
そしてゲームを始めて一月も経っていない秋津茜が遭遇したドラゴンはただの一体のみ。
「すぅぅぅぅ……【
それなりの時間をかけ頑張って覚えた手の動きを完遂し出す必要のない大声と共に放たれた夜襲のリュカオーンに並ぶ七つの最強種が一角、「天覇のジークヴルム」のブレスの見てくれのみが模倣された、炎を軽く通り越して最早ビームと呼んだ方が適切な大熱波が暗い夜空を切り裂いて煌々たる光で周囲一帯を照らし上げた。
天覇のジークヴルムが放つブレスは炎にあらず、されど強烈な光は威力が落ちどもその光量に不足なし。
本家本元のブレスが城塞すらも軽々と倒壊させることを鑑みれば、秋津茜の口の前に展開された陣から放たれるそれは大樹と爪楊枝ほどの差がある。だが黄金の竜王が放つ太陽の代理たりうる程の高熱に及ばなくとも、この場限定で光量を引き上げることはできる。
「ぁぁぁぁ……あっ、ごめんなさいぃ――─っ!!」
「ピィイ!?」
途切れかけた声は急降下を敢行する朱雀の翼にブレスが掠ったことへの謝罪によって再び勢いを取り戻す。そして既に分身への本命、片刃の剣を持つ兎は駆け出していた。
「拙者の心眼、確かに見抜いたで御座る!」
夜明けまではまだ時間がある、だが秋津茜の放った模倣
「刮目せよ! 我が【タケノミカヅチ】を!!」
抜き放たれた刃が向かう先は分身ではなくシークルゥの足元。地面に突き立った刃から可視化された力を示すポリゴンが流し込まれ、次の瞬間シークルゥの目の前まで迫った分身の前に幾本もの「竹」が土と草を押し除け壁となって分身の進撃を食い止め、そして貫いた。
「ううむ、一撃でまやかしの狼を消すには至らぬで御座るか……」
「ケホコホッ……シークルゥさん、前々から思ってたんですけど、なんで刀を地面に刺すと、竹が生えるんですか……?」
「修行の成果に御座る」
果たして自分も修行すれば水晶や竹を生やせるようになるのだろうか。
口からドラゴンブレスを放つことが出来る自称初心者は、リュカオーンとの決着をつけるべく戦う先達達の姿を見つめるのであった。
◇◇◇◇
「おおおおおおおおおおおおおッッッッらァァアァァァァァ!!!!」
今出せる最大限の力を込めて振り抜いた黄金の刃が赫い軌跡を描いてリュカオーンの脚を斬り飛ばした。どうせすぐ再生されるだろうが構いやしない、どうせまた吹き飛ぶ。
「秋津茜は、無事成功したみたいだな……!」
スライディングの勢いそのままリュカオーンの下を潜り抜けて後続達の邪魔にならない様にしつつチラっと夜にしては明るい方を……なんだありゃ、ロボゲーで見るビームか?つい最近あんな感じのビームを出せるゲームをやったからか余計別ゲー感が滲み出てやがる。
「あの夜の礼だ、受け取れ…………【
サンラクの声が向こうから聞こえた次の瞬間黄金のエフェクトが漆黒を喰い破り吹き飛ばした。
(【
ところで向こうでサンラクが吹き飛んで行ったがあれは大丈夫なのか?落下ダメージで死ぬなんてしょうもないことはしないとは思うが……って、待て。
俺やエムルちゃん、朱雀、そしてサンラクにより消し飛ばした顎や脚やらを急速に再生させているものの何故だか奴からは覚悟を決めたという気配が感じられない、今の奴から発せられる気迫は強者の敗北の覚悟じゃない……強者としてのプライドを以て勝利をもぎ取ろうとする執念!!
覇天却火……駄目だ!致命の天覇で元に戻ってる、そもそもこれじゃ火力が足りない!黒染矛双もだ、何とかして一撃を、奴を怯ませられるだけの一撃を――――――
「オルトォォォォォォォォォォ!!!!!」
「ビャッコさん!?!」
「
「ッ、【
俺がオルトに再構築を切らせなかった理由は2つある。1つはもし万が一にもサイガ-0に攻撃が及びそうになった場合壁を作ってほんの少しでも時間を稼いで欲しかったから。そしてもう1つは俺の二の矢の為。予めオルトには「二の矢」という合言葉を言い含めておいた、もしも合言葉を俺が発したのなら白雪の狼槍を俺に渡す様にと。
駆け出した俺の手元に槍が飛んでくる、それとほぼ同時、顎よりも再生を優先したのか少なくとも見てくれだけは再生した後脚を踏ん張りリュカオーンが跳んだ。
向かうはサイガ-0、他のメンバーは反動で動けずにいるしサイガ-0自身もう回避なんてできないだろう、やれるのは唯一俺のみ…………!!もう、これが本当に最後だ、ここで
「
最早狙ったのかと疑う程最高のタイミングでリキャストが上がった天覇宣言を起動、大地を踏み締めリュカオーンの上を取る。
◇◇◇◇
今俺が握りしめている
そしてこの2つとは別にサンラクのあのガントレットと同じ様に【
ここまで書けばとんだぶっ壊れ武器、今すぐ運営に修正案をメールで送りつけることも止むなしだが流石にそう美味い話があるわけもなく、ちゃんとした調整が施されていた。まず発動条件、槍の機構内部の
そして超過機構の内容が制圧に特化している関係上使用者たる俺もほんの数秒ではあるが行動不能を強いられる、外せば最後動けない俺は煮るなり焼くなりを待つだけの案山子になるってわけだ。ちなみに超過機構のテキストを読み込んでみると「使用者には甚大な冷気によるダメージと行動不能デバフが付与される」と書かれているので反動ダメージもあるんだろうな、調子に乗って溜め込んだチャージ分をブッパしたら武器と俺纏めて全部氷漬けになるか砕け散るんじゃないか?勿論周囲も派手に巻き込むことは請け合いだろう。そして最後、個人的にはこれが1番厄介だと思うのだが何と一度発動すると再使用可能なのは168時間後、つまり1週間後だ週一のお楽しみ大火力にしろってか。
総評としては諸々含めて紙一重の切り札であり鬼札である
人には絶対に今ここでやらなければいけない出来事というものが往々にしてあると言うのは誰から聞いた言葉だったか、兎にも角にも俺は頼まれたラストオーダーたる二の矢の役目をきっちりと果たすのみだ。正直どれ程の規模なのか想像がつかないので今溜め込んでる分のもの全て吐き出しても構わないかなとは思っているがそれでもしサイガ-0や他のメンバーを巻き込んで殺してしまったら悔やんでも悔やみきれない、取り敢えず勘ではあるが周囲の人間に被害が及ばないと思われる「出力85%」を叩き込む。1週間後まで再使用不能ではあるが1週間以内にまたこれを使う機会がそうそう訪れるとは思わない、というか身が持たない。
柄と刃の部分の接合部がスライドして甦機装としての権能を統括しているだろう核、あの日あの純白の地で死闘を繰り広げ討ち斃した
刀身と柄を繋ぐコード内部に浮かぶ結晶が今までとは異なる危険な光を発し始め万物を仕留めんとするかの如く光を強めていく。
リュカオーン、お前にはもうサイガ-0を堕とすこと以外抵抗する策はない。俺やエムルちゃんや朱雀が吹き飛ばした脚は見かけ倒しで実際のところ中身はスカスカなんだろ、跳躍のタメが長かったぞ?じゃあ俺を迎撃するってか?その治りきってない顎で俺を噛み砕けるのか?否、否だよ。
「その前に俺がお前を縫い止める!!」
跳躍速度も、上下関係も。圧倒的に俺の方が優位。
他の奴らが紡いだ、繋いだバトンと力は今リュカオーンを雁字搦めに縛り付けている。さあ、最後のバトンを手渡す前にピンチヒッターが入っちまったがアンカーにバトンを手渡すとしよう。
前菜はたっぷりと楽しんでくれたかリュカオーン?もうじきメインがお前の脳天に振り下ろされるだろうがその前に俺で満腹になんてなってくれるなよ?
「雪獄に沈みやがれ…………【
白狼が咆哮を伴って黒狼を穿ち、縫い止める。
・正式名称
数タイプある「機装」の中でもシンプルイズベストな破壊力特化の超排撃…に、凍結能力の暴走という本来デメリットになるであろうものを可能な限り対象へその凍結能力のベクトルを向けることで無理矢理攻撃性能へ押し上げた全く新しい超過機構。
白狼の
白雪の狼槍が本当の意味で成功していた場合相手への氷結効果と使用者の行動不能デバフがなくなりシンプルな装甲貫通と莫大なダメージボーナスのみになっていた。
要は白雪の狼槍の超過機構の効果は大ダメージ+装甲超貫通効果+対象の一時完全行動阻害+使用者にも行動不可と反動ダメージ。
次回決着