シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
シルヴィア・ゴールドバーグ、女性で20歳。アメリカにおける格ゲーを主戦場とするプロゲーマー達の中で最も強いのは誰か?と聞かれて誰よりも早く名前が上がる人物。
その名が初めて表舞台に姿を現したのは今から5年前……とある大会でのアマチュア部門でのことだった。
第1回戦、第2、準々決勝、準決勝、決勝……それら全てをノーダメージパーフェクトで勝利した後エキシビジョンマッチ突入、相手はプロゲーマーであったにも関わらず2ラウンドをともすれば虐殺とも呼べるような一方的展開で奪い取り勝利したなどという衝撃的デビューを果たしたのであった。
こんなあまりにも笑えない冗談のような
あまりにも衝撃的デビューを果たしたシルヴィア・ゴールドバーグに対してその場で大手プロゲーミングチーム「
「すまんカッツォ、今のはボスキャラの概要か何かだったりするのか?」
「大変信じ難いことに全て事実だよ」
「マジかよ、何だそのラスボス」
「ラスボスっていうよりはあれじゃない?作中無敗の強キャラみたいな」
「あぁ、わかる」
乱立しまくった死亡フラグで「あ、こいつ終わったな」と読者が思うにも関わらず堂々とそれを踏み越えてラスボスに少ないダメージを負わせて主人公の戦いに貢献する……言ってしまえば「主人公を食っちゃうタイプの強キャラ」な。しかもこの整った顔立ちに写真からでもわかる愛想の良さそうな表情、これあれですね、漫画で時折出てくる人気がヤバいタイプの強キャラですね。具体的には主人公にトリプルスコアあたりつけて人気投票1位になっちゃうタイプの強キャラ。
「他の3人も普通に強いんだけど、シルヴィア・ゴールドバーグが一等星なら彼らは皆二等星……いや、二.五等星と言わざるをえない……それくらいの人物なんだよね」
「ん、あれ?ちょっと待てよカッツォ。確かスターレインにはもう1人……」
そこでカッツォは苦虫を噛み潰した様な顔で頷き、もう1人の女性の写真データを指差してこう言った。
「そう、つい1年半前くらいまではそうだった。けどスターレインにはもう1人一等星……いや、北極星が加入したんだ」
最強は誰か?と聞かれたら真っ先に名前が上がるのはシルヴィア・ゴールドバーグだが、
その名が初めて公に出たのはつい2年ほど前に行われたスターレイン主催のファンミーティング、当時弱冠14歳であったランファンはスターレインメンバーとのエキシビションマッチにおいて並いるゴリマッチョを薙ぎ倒し、そしてシルヴィア・ゴールドバーグを相手に1ラウンドを奪い去り互角の戦いを繰り広げたのだ。ランファンはその場で「スターレイン」に勧誘、それを受諾。
加入当時少なからずあったアジア人差別をものともせずその全てを実力で黙らせ一流のトッププロゲーマーとして名を馳せることになった。
だが彼女が一等星……
ランファンの最大の武器はその
曰く「リアル・ヒーロー」、曰く「コミックから飛び出してきた本物」――――それが、
「そんな奴ら相手にして勝算ありとか抜かしたのかよカッツォ……」
「ほんとだよビャッコ君、プロのお墨付きだから割と大船に乗った気でいたけど泥舟どころか砂利で出来た船に乗せられた気分」
「実際すでに発売されたゲームだったら勝ち目なんてないと思うよ、うん。実際俺もシルヴィもランファンも何度か戦った経験はある……けど、ランファンはともかくシルヴィは1度引き分けに持ち込んだだけでそれ以外は全敗してるし」
けど、そう言って少し言葉を切ったカッツォは強い意志を込めた眼を俺たち全員に向けてこう言った。
――――今回に限っては、突破口がないわけでもないんだよ。
そう言いながらタブレット端末をテーブルから持ち上げて何やら操作を始める。次に端末をテーブルに置いた時表示されていたのは相手チームの顔写真ではなく派手なデザインの文字で飾り付けられたゲームのオフィシャルサイトだった。
「ギャラクシア・ヒーローズ:カオス……今秋全世界同時発売……まだ発売してないじゃねーか」
「このゲームの実機プレイ……という名目のエキシビション・チームマッチを明後日のGGCでやるんだよ」
「ギャラクシア……?これ、ギャラクシアレーベルの格ゲーか」
「ご明察だよビャッコ、ギャラクシアコミックに登場するヴィランやヒーローを作品問わず操作し対戦できるクロスオーバータイトルシリーズの最新作……そして、シャングリラ・フロンティアの開発元であるUESが技術提供した恐らく世界で2番目の「シャンフロ世代」タイトルってやつさ」
UES……ユートピアエンターテイメントソフトウェアか。
そしてシャングリラ・フロンティア、俺が今最も熱中しているゲームの名が出たことで一瞬動揺が走るが即座にそれを身の内に封じ込め大人しく話を聞く体勢を取り続ける……そして、カッツォの言う「勝算」とやらが何となく見えてきた。
「あのシャンフロと同じ技術が限定的とはいえ使われている、オーパーツレベルで技術が数世代先をいってるシャンフロに並ぶタイトル。アメリカの企業がアホみたいな大金を積んでUESと共同開発した米国ゲーム業界起死回生の一手と言ったところだけど……メーカーの復権の野望はこの際どうでもいいんだ、重要なのはこのゲームがギャラヒロの前作「ギャラクシア・ヒーローズ:バースト」とはほぼ別物と化した作品だということなんだよ」
「お前の言いたいことは概ね察したよカッツォ、シャンフロは……国外じゃプレイできない「おま国ゲー」、だからこそ……」
「銀金ちゃんやランちゃんみたいな外国人にとっては
全く未知のゲーム、だけど私達日本人にとっては
「そういうこと、俺達もあっちも「ギャラクシア・ヒーローズ:カオス」に触れるのは今日からだけど向こうはまずゲームシステムの把握と慣れから始めないといけない……けど、こっちはシャンフロをプレイした時間というアドバンテージを最大限生かせる。これが打倒全米一の各ゲーマー達に勝てる唯一の突破口ってわけ」
現状シャングリラ・フロンティアは日本国内でしかサービスを行っていない、つまるところ向こうはシステムからして未知のゲームを2日間で把握し調整しないといけないが、こちらはシャンフロをプレイしているというアドバンテージをフル活用してより深くゲームシステムを把握できる……なるほど、確かにワンチャンあると言えそうだ。
「だからこそ俺達3人ってことか」
「ウェザエモン戦を共にくぐり抜けた友人諸君ならプロゲーマーの代役として不足ないだろうからね」
そう言いながらオイカッツォ……いや、プロゲーマー魚臣 慧は不適な笑みを浮かべて改めて俺達にこう宣言した。
「じゃ、早速打倒スターレイン、打倒シルヴィア・ゴールドバーグ、打倒ランファンの作戦会議を始めようか」
◇◇◇◇
「とはいえシルヴィアの戦闘スタイルもランファンの戦闘スタイルも物凄くシンプルに説明できるんだよね」
「ほう」
「と言うと?」
「君ら2人だよ」
は?俺達2人?何言ってるんだお前。
いきなり指名された俺達が顔を見合わせ頭を捻っているとカッツォは恐ろしい程単純明快なシルヴィアとランファンのバトルスタイルの説明を始める。
「シルヴィアはテンションとプレイヤースキルが直結した高機動アタッカーで、ランファンはテンションとプレイヤースキルは勿論あるけどその本質は読みと直感を融合させたカウンター寄りのアタッカー……ほらな?サンラク、ビャッコ。お前ら2人とほぼ同じプレイスタイルだろ?」
「………………へぇ?」
「シルヴィアの代名詞とも呼べるミーティアス、ランファンの代名詞とも呼べるバッドテイル……あの2人は間違いなく明後日のエキシビジョンマッチでもこのキャラ達を使ってくる」
そう言ってカッツォがオフィシャルサイトのTOPページからキャラクター紹介画面へと飛ぶ、そしてそこから選択した2体のキャラは片方はともかくとしてもう片方は大層派手なキャラ、白いスーツに要所を防護する金色のアーマー、フルフェイスマスクには五芒星を形どったゴーグルを装着している為まるで星が顔にくっついてる様に見える。
「…………ミーティアス。宇宙創生に関わる超越存在「ギャラクセウス」によって流星の力を与えられた冴えないサラリーマン、か……なるほど確かに一等星」
「詳しいねビャッコ、もしかして愛読者?」
「割と好きなキャラだよ、まぁ1番好きなのはまた別にいるけどさ。そして……バッドテイル、か」
紫色のスーツの上に黒いアーマーが装着され、アーマー各部に青いラインが走っている。フルフェイスのマスクはキツネを模倣したものであり、大きく見開いた様な形で空いた目はまるで相対者を射殺す様な錯覚を覚える。
このキャラこそバッドテイル、ギャラクセウスの正の感情が込められた鎧を偶々とんでもない極悪人が着た結果正の感情が中途半端に反転して生まれたヒーローにしてヴィラン。それこそがこのバッドテイルだ。なるほど、まさか俺の1番好きなキャラと因縁があるキャラを使ってくるのか……うん。少し燃えてきた。
「問題はシルヴィアとランファンの2人が何番目と何番目に来るか、なんだよね……」
「ああ、本気で勝ちを狙いに来るなら先鋒に来るかもしれないけど、実機プレイである以上ある程度見せ場も要るから最後に来る可能性もあるってことね」
「まぁ無難に大トリなんじゃねーの? 」
俺もそう思う、理性では、頭の中ではそれはきっとそうなのだと判断を下す。だが直感がそれを否定した。
「…………いや、ランファンは兎も角として、シルヴィアは多分3、4番目だと思う」
「…………その理由を聞かせてくれるか?ビャッコ」
「向こうの……特にシルヴィアの心情的には訳のわからん3人が入ってる以上すぐ終わってしまうかもしれないと思うかもしれないだろ?俺ならそれは嫌だから、大トリじゃなくて中盤あたりで確実にカッツォと当たれる様にすると思う……あくまで直感だが」
「どう思うよペンシルゴン」
「…………無くはないね、というかビャッコ君の直感って結構な頻度で当たるじゃん?」
「確かにな……それも頭に入れた上でって感じだね。それじゃあ、他のマッチョ共のプレイスタイルとかは資料を後で送っておくからね」
俺はなんとなく嫌な予感を感じながらもそれを口にすることはなかった、今カッツォにとって何より重要なのはどうも因縁がありそうなシルヴィアとの対決、俺達のすべきことは雇い主の意向通りそのマッチアップを実現させることであるのだから……カッツォを消耗させることなく送り届けるという義務がある。
「じゃあまぁ、ちょっとそのギャラヒロとやらプレイさせてもらいますか……カッツォ、プレイ自体は出来る様になってるのか?」
「あぁ、個室に用意されてるハードの中にインストールされてるよ。勿論サーバーも既に開かれてるから問題なく対戦可能……ただし、このホテルに宿泊してるスターレインのチームとこっちの爆薬分隊は意図的にマッチングできない様になってるけどね」
向こうも宿泊してるのか、いやまぁ下手せずともスポーツ選手より稼いでるからな。納得いく。それじゃあ対戦できるのは……
「この5人で対戦できるって訳か」
サンラクがそう言う。誰かに……いや、夏目さんにわざと聞こえる様な声量で。マスク越しからでも奴の視線がどこに向いているのか分かる、大方夏目さんを見ているのだろう。
夏目さんの心情を察した上で尚コイツは挑発という選択肢を選んだのだ。こんなあからさまに年下2人、あまつさえ片割れはガスマスクなんて不審者でもう1人は有名とは言えモデル、本当に実力者で戦力足り得るのか。そう疑問に思っているんだろうな俺でもわかる。
馬鹿にされることは不快ではない、侮られることも別にどうとも思わない……が、たった1日ではあるがチームを組む訳で、その上でキチンと
「夏目ちゃんも含めて皆、大体何時くらいからログインするかな?」
「諸々込みで10時からがキリがいいんじゃない?」
「私もそれくらいにログインするつもりよ」
「…………俺はちょっと所用あるから10時ちょっと過ぎてからかな」
「……そんな遠まわしな駆け引きしなくても、10時から対戦しようぜって言えばいいのに」
バカだなカツオ野郎、これくらい敵対的な方がお互い燃えてくるだろう?
誰よりもヒーローらしい彼女が混沌の街に降り立つ時、それはきっと本当にコミックから飛び出してきたヒーローの様でーーーーーー
彼女はヒーローである以上、悪に負けることなどない。特に、己の宿敵に対しては。