シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
「ねぇこーくん、僕、言ったよね?今晩一緒にご飯食べようって」
「…………言われたな、確かに」
「じゃあさ……この置き手紙と1人分の冷しゃぶは何かな?」
「ごめん…………!ほんっとうに、ごめん……!!」
俺は現在恐らくウェザエモンやリュカオーン、白銀公その他諸々今まで含めたどんな強敵よりも恐ろしい
まぁ怒るに決まってるだろう、今朝のハプニングの謝罪込みで2人で食卓を囲もうと話していたのにいざ帰ってきてみたら当のやらかした男が消えて置き手紙と冷しゃぶ1人前のみ……駄目だ、俺がキョウ側なら刃傷沙汰になりかねない。
「確かに明々後日は大会だよ?確かにそうだね……けどそれはさ、僕らが行くタイミングに合わせても良かったんじゃないかい?」
「おっしゃる通りで……いやもうほんと、おっしゃる通りです……!!」
「僕、こーくんと食べる冷しゃぶ楽しみにしてたんだよ?いつも美味しい出来立てを作ってくれるからね。なのに帰ってきてみたら作り置きの冷しゃぶで……こーくんはいない。さて、僕は今何を持っているでしょう?」
「な、なんでしょうか……?」
「君の家の和室に飾ってある日本刀さ、一応手入れもちゃんとしてあるんだねぇ……錆も何もないや」
「待て、待ってくれキョウ俺が悪かった。だから帰ったら〜なんておっそろしいことは考えるんじゃない!!」
マジでヤバい、あの刀は確か爺ちゃんが趣味で集めた刀剣の中でも一際気に入って態々免許取ってまで保管と手入れを欠かさず、あまつさえ気が向いたら巻藁をぶった斬るのに使うやつだ……人体に向けたらどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ、間違いなく死ぬ。
「…………なんでどっかいっちゃったのさ」
「いや、だからそこの手紙に書いてあるだろ?大事なダチのどうしてもっていう頼みを……」
「僕より、大事なの?」
「――――――――…………」
キョウより大事なこと?そんなものあるのか?音ゲー……は、別ベクトルだ、いや、仮に同じ天秤にかけた場合例えどれだけ音ゲーを積まれようが俺はキョウを優先するだろう。カッツォの頼みとキョウの頼み、なら、俺はどっちを優先する――――?
「キョウ、あのな、いつもならお前の頼みを真っ先に叶えるし、叶えてやりたいとも思ってる」
「…………うん」
「だが今回ばかりは……許してくれ、どうも向こうも切羽詰まってるんだ、だから俺は今回だけこっちを優先した。けどお前のことを蔑ろにしてたことも事実だ、本当にごめん」
「…………うん」
「お詫びと言っちゃなんだが、お前の大会にひと段落ついたら何処かへ出かけよう。なんでも言うこと聞くしできることならなんでもやる」
「…………なんでも?」
「あぁ、何でも、だ」
「………………わかっ、た。じゃあ、楽しみにしてるよ。……おやすみ、こーくん」
「あぁ…………おやすみ、キョウ」
「いやぁ、ビャッコ君大変だったねー?」
電話を切って一息つき後ろを振り返るとそこには鉛筆、カッツォの姿があった……おいコラお前らギャラヒロはどうしたギャラヒロは。つかどこから聞いてやがったお前ら。
「いや、別に……ちょっと約束破っちまったから、その詫びというかなんというか。ていうかどこから聞いてたんだ?」
「大事なダチ辺りからだよビャッコ。いやーー…まさか俺のことをそんなふうに思ってくれていたとはねぇ」
「うるせ、建前だ建前…」
「約束ねぇ…ふーーん…………?女の子だったりするのかなそれは?」
「グイグイ来るなお前……まぁ、そうだよ」
そう答えるとコイツの笑みがさらに深まって……いや違う、ニヤニヤしてやがるこの野郎腹が立つ……絶対に今夜の対戦で当たったらグチャグチャに叩き潰してやるよ鉛筆。
そんな負の感情を沸々と闘志に変換しているとカッツォが少し気まずそうにこちらに声をかけてきた。
「あーー……もしかして、先に予定入ってたのに無理させちゃったか?」
「無理はして……ないとは言い切れねぇけど、こればっかりは俺の責任問題だ。お前に謝られる筋合いはないよ。ほら、俺もギャラヒロプレイするからさっさと出てけお前ら、それとも俺がプレイしてるの現実から眺めてるだけで満足か?」
「そんなわけないじゃん、私もさっさと部屋戻るよ」
「俺もだ、それじゃ後でな」
「おう」
2人が出て行ったのを確認して俺はクソデカフルダイブシステム……通称業務用の中に用意された座席部分に座り込み、上部からコードで接続されているVRゴーグルを付ける。
キョウには、悪いことをしたな。ほんと。今更ながら後悔の念が渦巻き鎌首をもたげて俺の首に噛みついてくる。電話越しのキョウの悲しげな声はともすればリュカオーンの牙や爪よりも俺のメンタルに傷を付け、ウェザエモンの天斉より深く俺を抉った。
(申し訳なかったな、本当に)
何故こんな憂鬱な気持ちでゲームをせねばならんのか、俺はそう思わざるを得なかったが言っても仕方がない、自分でやったことには自分でケリを付けるべきだ。まずは目先の……エキシビションマッチに向けての調整をしなきゃならない。
◇◇◇◇
「…………あじ、しないなぁ」
いつもの味付けの筈、いつものご飯の炊き加減の筈。付け合わせのキャベツの千切りもいつも通りこーくんが切った少し厚めの千切りだ……だというのに、僕は味を感じられない。
それでも食べねば腹が減る、明々後日の大会に向けての最後の最後の追い込みによりハードさを増す練習終わりは何か栄養を取らねば万全のコンディションを迎えることができないことを僕はちゃんと理解しているから。
「…………」
ふと、前の椅子を見る。そこには今日、いる筈だった人はいなくて。
グッと溢れそうになった熱い何かを堪えてご飯をかき込む、行儀が悪いぞと苦笑いしながら指摘してくる人は今は遠い場所にいる。
いつもならささやかな会話をしながら食べる食卓も1人だとやけに寂しくて、夏なのにやけに寒々しい……この寒々しさはきっとクーラーのせいではないんだと思う。
電話でこーくんは「今度2人で何処かへ出かけよう」と誘ってくれた、嬉しい。確かに嬉しい…けどさ、こーくん。僕は何処かへ出かけるよりも、2人で囲むご飯の場が1番好きなんだよ。
「僕のこと……嫌いになった、とかじゃ、ないよね?」
いや、それはない。絶対に……ない。
こーくんはそんなこと絶対に思わないのだから。けど、けど、けど――――もしかして、本当に?
「ッ違う!!そんな訳……!!」
自分の頭によぎった考えを即座に否定し椅子から立ち上がり、その拍子に箸が机から落ちる。カランと硬質な木が乾いた音を立てるのを聞いて慌てて正気に戻った僕はそれを拾い上げ、流し台で水をかけて布巾で拭きテーブルに戻って椅子にまた座った。
「………………」
箸で何枚か肉を挟み口に運んで冷しゃぶを放り込む、いつもの味付け、いつもの、いつもの、いつもの――――なのに、いつもいる1番大事な人だけがいない。
箸が止まる、視界が歪む。片目だけ戻って……その片方の視界もまた歪む。
(あぁ、僕、今泣いてるのか)
そう自覚してからは止められなかった。ポタポタと溢れ出てくる涙が止まらない、止めることができない。
「…………うっ、ふっ、うゔ……!!」
僕の泣く声だけが静かなダイニングに響いていた。
マジでキョウ側書いてて心が痛んだ、推しが…推しがぁ…
いや、聞いてください。サイコロの出目で展開決めようと思って出目に展開振り分けたんですよ。1から3の目はギャグテイスト、4は普通にストーリー進める、5なら小話を大量にぶち込んだやつ、で最後の6が今回の話だったんですけど…えぇ、まさかの10回振って10回全部6でしたよ。
乱数の女神お前やったな?