シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
◇
『あーーーっ!ミーティアスのコンボが入ったァーッ!』
「…………なんじゃそりゃ……」
なん、え?何今の?アムドラヴァ、いやカッツォが取った対応は完璧のそれだった。最善手であり最高でありこれ以上ないほどの模範解答だったはずだ。
空中から飛んできた蹴りを冷静にガードし接近を掴み攻撃をちらつかせることで許さない、そんな徹底した動きを取る中でミーティアスが取った大振りだが隙の大きい攻撃を安全をとってガードしようとして……そのガードがシステム的に成立する前にミーティアスが攻撃を叩き込んだ?
『いや、今の……まさかガードの隙間に差し込んだ? ははは、あれ本当に人間技なんですか? 来るとわかっててもあれをできる人はそうそういないでしょう……』
解説さん、あんたは何も間違っちゃいない。アレは……そう、人間の反応速度がどうとかの問題じゃない。
台本があるプロレスの試合のようなものであるならばまだしもそうではない、ぶっつけ本番でこれをやってやがるのだ。神業の類としか呼べない致命的すぎる一撃……無理だこれ、どう頑張ってもこの神業としか呼称できない一撃はこの時アムドラヴァの中身が誰であったとしても対処不能だろう。
『アムドラヴァが跳ね上げられていくゥ! そしてミーティアスのゲージはマックス! 来るか? 来るか……来たぁぁぁっ! ミーティアスの超必がぶっ込まれるぅ! KOォォォォォッ! 「
そこから先はもう目も当てられない。容赦無く叩き込まれるノーミスでの空中コンボが炸裂してアムドラヴァが一切抵抗できなくなったところを超必殺技を発動して飛び蹴りを……体力半分削ったのを寧ろ褒め称えるべきじゃないだろうか、とはいえそこからの圧倒っぷりは凄まじいものだが。「K vs Silvi」と題された動画を閉じて1度目を瞑る。
(これを相手に戦う……か。またとんでもないこと言ってきたなカッツォのやつ。それに……シルヴィアだけじゃない、こいつもいる)
目を開けて関連動画にあったそれをクリックしてその中身を閲覧する。
途中までは真っ当な戦い方、というかテンションに任せたサンラクやシルヴィアのようなテンションファイターのそれだったが……突如それが豹変した。
『ランファンが豹変したァーーーッ!その姿まさに獣ッ!あまりにも荒々しいコンボが今叩きこまれたァーッ!」
…………いや、今のは第六感と形容する他ないだろう。
確実に意表をついていたはずだぞ今の攻撃は。突如纏う空気が変わった、ノールックで己を貫かんとする木の根を握り締めて防ぎそれを持ったまま殴りかかった。そしてそのまま解説が言う通りあまりにも荒々しいコンボが叩きこまれる。
繋げるのも相当難しいだろうに、顔面を殴り付けもう片方の空いた手で首根っこを引っ掴み膝蹴りを2度、硬直したところを木の根を引きちぎって対戦相手であるユグドライアの背に刺してから地面に叩きつけ更にスタン……直感?直感で片付けていいのこれ?
『ユグドライアが踏みつけられッ、踏み潰されていく!!地面に埋められていく!抵抗など許さないと言わんばかりに徹底的!!そしてバッドテイルのゲージが溜まった!こうなったバッドテイルは止まらない!ヒーローの顔をかなぐり捨てた獣が超必殺技を発動したッ!!KOーーーッ!』
『普段のヒーロームーブを捨てると一転ヴィランの如き暴れ方を見せる……確かにこれはバッドテイルそのものと言いますか……』
『全米で誰よりもヒーローと言われる彼女は!!誰よりもヴィランにもなり得る!!全米最高!一等星と並ぶ
「…………テクニックだとかそういう次元じゃないなこれ、元々持ってる素質だとかそういうレベルだ」
つい半年前の世界大会の録画だそうだが……途中までは明らかに優勢だったのはランファンではなくその対戦相手たるユグドライア使いだった。1ラウンド目をユグドライアがあっさりと奪い、2ラウンド目を足掻いて足掻いて何とかランファンが奪い返し……第3ラウンド、体力比4:1でユグドライア有利だったところをランファンが豹変した。
試合通して「あぁ、咄嗟に反応する速度速いな」くらいだったのが突如「未来予知かな?」としか言えないレベルの反応速度と直感による先の先を奪い取るような動きでユグドライアを圧倒してみせた。なんというか……そう、俺の周りの人間が俺の動きが直感混じりと呼ぶことがあるが俺もこれは直感と呼ぶしかない。そんな動きで常時ジャストガードを弾き出しユグドライアの根による攻撃をへし折り、掴み取り防ぎきる。
最後のコンボに至ってはもう説明がつかない、何だあれ、理論値を当たり前のように叩き出してこられちゃどうにもならないだろう。根の位置、スタンと攻撃タイミング……どれか1つでもほんの少しズレるだけであれだけの結果は出せない。理想乱数出す為に何回再走したんですか?
ぶっつけ本番初見攻略?何言ってんだふざけるのも大概にしてくれ。
「こんな怪物相手にねぇ……?カッツォのやつ、随分と高い壁に手を伸ばすもんだ」
まぁ、気持ちはわからなくもない。俺だって超えたい壁は未だ高く、それでも諦めることなく手を伸ばし続けているのだから。
だから俺達のやるべき仕事はカッツォのやりたいことを……超えたい壁に挑めるようにすること。その為に前座3名を張り倒して一等星の横で光ってる北極星を張り倒す必要があるわけで。
「じゃあまぁ、ちょっと頑張るとしますか」
具体的には……そうだな、一夜漬けするくらいの勢いで行こっか!!
「はっ…………寝てた」
パッと目を開けて時計を確認すれば時刻は午前2時を少し回ったところ……おかしいな、エナドリを摂取していたはずなのだが。
(飲んだのが無印だったのが良くなかったかな……やっぱ俺の体質的に合ってるのはバックドラフトだったのか?まぁ慣れない格ゲーなんてジャンル研究してれば脳細胞も疲弊するか)
とは言っても日頃から平気で3時4時までゲームしてる身だ、何故こんな急に…やはりエナドリが原因だろうか。
だが無印とはいえ海外製、普段飲んでいるものより余程
「…………んーー、ちょっとランニングでもするか?なんかエナドリ効かないならもうこれしかないし」
あとついでにコンビニ行こう、ちょっと離れてるコンビニ。なんというかやっぱりここの雰囲気は落ち着かない……気疲れが原因説、これが1番有力なの何らかのバグでは?
幸いにもランニングウェアは持って来ている、本来であればキョウの大会当日いつものルーティンであるキョウとのランニングをする為のものだがまぁどうせ明日は着ないし問題ないだろう、着て出て走って帰って洗濯機に放り込んで乾かすだけだ……いやはやさすが高級ホテル、部屋ごとに洗濯機まで完備されてるのかと驚いたものだ。
サッと着替えて部屋を出て施錠してロビーに向かいながらサクッと遠目のコンビニを確認、うん、ちょっと離れた位置に一軒あるね。近場にもあるが今回の主目的はランニングなので今回は除外しておこう。
(まぁ本来なら対戦相手の過去試合とか見たり自分のプレイング磨いたりシステム検証とかをするべきなんだろうけど……そのための集中をってことで多少はね?)
パッと不夜城へと呼ばれるに相応しい街灯が灯る屋外へと飛び出て目的地へと一定の速度を保ちながらランニングを開始する。
まだまだ暑い夏の盛りだがやはり夜ともなれば多少は……多少は……ほんの少しは涼しいと言えなくもない、そんな中を風を切って駆けていくのは何とも言えない爽快感を俺にもたらしてくれる。
「ふっ…………ふっ…………ふっ…………」
一定のペースで呼吸と歩幅を保ち背筋を伸ばして走る。淡々とリズムを刻みながら走り……走り……あれ、なんか変な足音が混ざってる?
(何だろ、俺と同じくランニングしてるのか?)
それ自体はまぁ、深夜帯でも珍しいことではないだろう。というか暑い昼間を避けて走るのは夏である以上よくある話だが、今回少し不思議に思ったのはそのペースが俺とほぼ同等だということだ。
俺自身あまり自覚はないが俺のランニングペースはかなり早いらしく、合わせられるのは俺が知ってる中だとキョウくらいなものだ。他は大体5分そこそこで息が上がってペースを落とす。だと言うのに後ろの足音の主は俺の後ろをずっと張り付いてくる、まるで影か何かのように。
(………………まぁ、大して気にするようなことでもないか。どうせコンビニ入ってしまえばそれまでな訳だし)
その時点で俺は後ろの足音の主に対する興味を完全に失くして走ることのみに集中することとなった……コンビニにたどり着くまでは。
(…………なんか着いてきてるんですけど…………?)
いや偶然だろ偶然、流石に。あーージャンクな雰囲気最高だ、あのホテルやっぱり居心地が悪いんだよなぁ……やっぱりネカフェの方が気が楽だったぜカッツォ。
エナドリ……は、部屋に大量に常備されてるから良いとして……軽食?いやホテルのルームサービスがあるな、え?じゃあ俺マジで何のためにここ来たんだ?いやまぁ主目的はランニングだけど。
「まぁ、帰りにラテでも飲もうかな……?」
というわけでドア付き冷蔵庫を開けて最近ハマっているカフェラテのボトルを取り会計へ向かおうとすると深夜のコンビニにしては明らかに場違いな大声……いや、怒声が耳に入った。
「お前良い加減にしろよ!!!!こっちは疲れてんだよ一々そんなくだらねぇこと言わせんな!!」
「は?」
まさか先程後ろについてきていた人間だろうかとラテを手に持ち見てみればそこにいたのは作業服を着たちょっとはっちゃけてそうなお兄さん……少なくとも先程考えていた人物ではなさそうだ。
「申し訳ありませんお客様、ですが規則ですのでどうか年齢確認の為身分の証明が出来るものをご提示ください」
「だからァ!!俺の見た目で年確する必要あんのかって話だよ!!」
キレ散らかしている男とそれに対して若干の怯えを見せながらも店員として気丈な対応を見せるレジ店員の女性が言い合っている、いやこれ……流石に口出した方が良いか?
「良い加減にしろやテメェ……店長出せ!!!!店員の教育どうなってやが……!!」
『ーーーーーーー?ーーーーーー』
聞こえてきたのは明らかに本場の人だろう中国語。それを操るのはランニングウェアを着込み、右手にエナドリを携え左手で騒ぐ男性の腕を掴む女性。フードをかぶっているもののチラリと除く黒髪がやけに印象に残った。
「あ"ぁ!?何だテメェ!?」
「ーー?〜〜〜〜……あぁ、ソう、英語も中国語も通ジないこともあるカ。少しintonationがオカシいだろうが、構わないか?」
「何言ってんだお前ってか離せよ!!?」
「迷惑をかケているのはキミの方だろウ?今すぐそこノ彼女に謝罪シなさい」
「………………!良い度胸じゃねぇかクソアマ……!」
そう言って抑えられた腕とは真逆の腕を振り上げ女性に振るおうと……おっと、それはダメだろうが。
「ストップだよお兄さん、人に手をあげちゃいけないってのは猿の時代から決まってる。ましてや男ならよっぽど女性に手をあげちゃいけない」
「い……っでぇ…!テメッ、手ェ離せよ……!?」
はいはい静かにしましょうね。取り合えず腕を捻って押さえつけて、と。
「すみません、この人流石にあれなんで警察……」
「それナら私が通報しておいた、スぐ来てくレルそうだ」
「あ、そうですか……日本語お上手ですね?」
「ふふ、ありがとう」
「いてぇいてぇいてぇ離せよボケが!!?!やめろって!!?」
お前離したら暴れ出すやつじゃん、誰が離すかよ……っと、思ったより速かったな警察の到着。やっぱ首都圏だと仕事速いのかね?
「通報受けて来たんですが……この人ですか?」
「あぁはいそうですそうです。なんか騒いでた上に暴れ出したんで」
「あぁそうですか……はいお兄さんちょっとお話聞かせてねー」
「テメッ、くそッ……ざけんなァ!!」
「ちょっ、おまっ……!?」
無理矢理力任せに抑えていた腕を抜いて自由になった男が黒髪の女性を睨め付け拳を振りかぶった。マズイ、間に合わない……っ!?
このままいけば女性の頬が男の拳によって打ち抜かれる、そう思った次の瞬間。
「日本の男は
「ガッ!!?」
男の手が届く前に女性が顎を正確に打ち抜き昏倒させた。
今の……そこまで詳しいわけではないが、中国拳法?
「あ、あのーー…………」
「あぁ、ところデこれハ正当防衛とやらに入ルのかな?」
「あ、そうですね。中々警官の前で暴れて暴力振るう人間なんてそうそういないんですけどねぇ……あ、もう行ってもらって大丈夫ですよ。本来ならいろいろ話を聞かなきゃダメなんですが今回は暴行の現行犯で問題ないので」
「そうなノか?すまないね。こちらもチームメイトに迷惑をかけないか心配だっタんだ」
「マジっすか、ありがたいです」
「あ、あの!!助けてもらってありがとうございます!!代金は私が払わさせてください!!」
「え、それは流石に……」
「受け取っておこう、感謝はキチンと受け取ルのも礼儀のヒとつだよ」
「まぁ確かに……それじゃ、お言葉に甘えて」
ラテを受け取り、女性店員と警官数名に見送られて俺ともう1人の女性が店を出る。
…………なんか、どっと疲れた。ランニングで行った先のコンビニでこんなこと起こるとは思わなかったな、何だかヒロイックな夜だ。イベント進行でもあるのか?
歩きながらチラリと女性の方を見るとエナドリを一気飲みして……ライオットブラッド、しかもバックドラフトだと?中々わかってるじゃないか。すると見られていることに気づいたのか女性がエナドリを飲む手を止め話しかけてきた。
「ふふ、何か用カい?」
「……あぁ、いえ、ライオットブラッド飲んでる女性ってあんまり見かけないもので」
すると少しきょとんとした後女性がくすくすと笑って何事か呟いていた。中国語、それもかなりの早口だったから聞き取れなかったがなんだろうか、馬鹿にされたとは少々考えづらいが。
「確かニ、中々見かけナいものだろうね。私としてはもう少しcaffeineが濃い方が良いのだがね」
「ははは、中々なライオットブラッドユーザーなんですねー……」
「………………」
やばい、会話が通じないぞ。いや通じてはいるがここからどう会話を広げればいいか分からない。そこまで中国に詳しいわけでもないし………会話しなければ良い話だがあの短時間でもそれなりに濃密な体験しちまったからなぁ。
「…………キミは」
「はい!?!」
驚いた俺の様子を見て少し眉を顰めたように見えたが彼女が再び口を開く。
「キミは、何故あの場デ何の
「何故、何故って………」
何故、だろう?問いに対して考えてみる。考えてみるけど……本当、それっぽい答えが見つからない。何となくって言ってしまえばそれまでなんだが、何となくでもない。
じゃあなんで答えれば良いのか……あ、そうだ。ちょっとイタい奴に見られてもおかしくないし間違いなくそう思われるのだが今出せる答えはこれしかない。
「…………ジャスティスダイルならそうすると思ったから?」
「…………ッ!!」
女性が目を見開き、俺を凝視した。かと思ったらいきなり笑い出した。や、ヤバい思ったよりもイタい人間に見えたか?中国の方の感性が分からないからめっちゃ怖い!!
「あ、あのーーー……」
「はははははは!!!ははは!…………いや、何でもなイよ。私でもきっとそんな風に答えただろうからね。ジャスティスダイルならそうすると思ったか、ギャラヒロファンかいキミ!!!!ははは!!」
「えっ、もしかして……?」
「あぁ、私もギャラヒロファンさ。まさカこんな所デその名を聞くとハね!」
「じゃ、じゃあ好きなキャラの名前伺っても……?」
「私かい?私はバッドテイルさ、まさカのキミの好きなジャスティスダイルとのライバルさ!!ところでキミは55巻の戦闘は好きかイ?お互いの能力をフルに活かしタあれは……!!」
「あれですか!大好きですよ!!!バッドテイルの能力を捌きながら攻撃していくジャスティスダイルも良いんですけど敵ながらバッドテイルのクレバーな戦い方も良くて……!」
「そういうジャスティスダイルだって面白い能力の使イ方で……!!
「ふぅ……喋った喋った。おかげで退屈シない帰り道ニなれたよ!!ありがとう!!」
「こちらこそですよ!本当にありがとうございました!」
いやまさかこんなところで中々通なギャラヒロファンに会えるなんて夢にも思っていなかった。気づけばホテルの目の前だ。というかこの人俺と全く同じ帰り道っぽいんだけどもしかしてホテル同じだったりする?
「…………おや、キミもこのホテルかイ?私モなんだよ」
「マジですか。凄い偶然っすね」
「…………ふむ、ギャラヒロファンで、このホテルか。面白いね……実に面白い。最初はてっきり
「………………え?」
そこで突如上がったテンションに冷や水が浴びせられた。このホテルに宿泊していて、英語と中国語を操る、黒髪の、女性?
点と点が繋がって一気に像が形作られていく。違うかもしれない、全くの別人かもしれない。だが俺はその条件全てに合致する人物を1人知っている。
女性はフードを取り、顔を伏せて目に指を当て……いや違う、あれは、カラコンを外す手の動きだ。
そして、次に顔を上げた時そこにいたのは。
「…………マジですか?」
「改めまして、私の名前ハ
スターレインの
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。