シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
◇
「……これはこれは……お会いできて光栄です……?」
「今更ジャないかな?さっきノようにフランクにきてほしいナ」
いやすんません、無理っす。2日後にやり合うであろう対戦相手と知らずにエンカウントするなんて想像してなかったんです。マジで。
「あれだけ喋れタんだ、キミも2日後の祭りニ行くんダろう?キミの目当ては恐らく「K」だとは思うガ……うん、そうだネ。折角だかラこれを」
「え?あ、はいありがとうございます……」
いきなりウェアのポケットから取り出してきたのは紙……
と思っていたけど受け取ってみたらこれ違う、名刺だ。しかもサイン付きの。…………サイン付きの!?!
「え、これ、え??」
「当日、これを会場に持って行って係員ニこれを見せるといイ。話は通しテおくよ」
「話って何の???????」
困惑する俺を見て声を上げて笑う彼女……ランファンは真紅の瞳を真っ直ぐ俺に向けてこう言った。
「キミに最高ノヒーローを……
そう言ってランファンはホテルに颯爽と入って行った。
「…………えぇ?」
どうしようこれ。…………取り敢えず1回寝る?いやスターレインのマッチョ3連星の動画でも見て研究した方が良いか?
◇◇◇
『あら?どうしたのラン、そんなに嬉しそうな顔して』
『何でもないよシルヴィ……と言いたいところだけど、少し面白い青年に出会ってね』
『青年?』
部屋に戻ろうとした彼女は隣室のチームメイトとばったり遭遇した。チームメイトは普段クールなのに今はやけに嬉しそうな彼女が気になり何かあったのかと聞いてみると、嬉しげに先程起こった出来事を話してきた。
曰く偶々ランニング終わりにエナドリを買おうと立ち寄ったコンビニで暴れている客がいた。
曰くそれを取り押さえた自分と同い年くらいの青年がギャラヒロの、それも自分の好きなバッドテイルのライバルたるジャスティスダイルが好きだと言う。
(あぁ、道理で嬉しそうにしてると思った)
それを聞かされたチームメイトは彼女が何故嬉しそうなのか察した。ギャラクシアレーベルの中でも異質と呼ばれることが多いバッドテイルとジャスティスダイルが出てくるシリーズはその異質さから敬遠されることが多い。序盤の展開が重く泥ついたものである為読み続けるには少々ハードルが高いのも敬遠される原因の1つである。
だからこそ自分と同じ人間がいたことが嬉しくて仕方ないのだろう。
『良かったじゃない!どんな子だったの?』
『何というか……日本ではイケメンで通る顔付きだと思う。私も割と好みの顔だった。背も日本人にしては高かったね……それとどうも明後日のGGCには彼も行くようだったよ』
『そうなの?まぁ日本の子ならケイが目当てでしょうけどね』
『私もそう思ったさ。だから名刺を渡したんだ』
『名刺?』
『VIP席を開けさせる。サイン入りの私の名刺を持っている彼をスタッフに見つけさせて……特等席で試合を見させてあげようと思ってね』
それを聞いたチームメイトは一瞬そんな強権を振り翳せるのだろうかと思ったが即座にそれを頭の隅に追いやった。そんなことを言えば目の前にいる彼女をがっかりさせてしまうかもしれないし何より
それにしても随分と入れ込んでいるなとほんの少し苦笑を漏らしながらチームメイトはそれで良かったのかと問いかける。
『よくやるわね、VIP席なんて8000ドルはしたはずじゃない?』
『何を言う、私は碌に貰ったお金を使わないから何かに使ってみたらと言ったのはシルヴィ、君だよ?』
それもそうかと納得したチームメイト……シルヴィア・ゴールドバーグの興味はまだ見ぬ
『それじゃあ、私はここでお暇させてもらうわね?明日は朝からガッツリトレーニングに励まなきゃだし!』
『それなら多少今のうちにやっておいてミーティアスの感覚くらい確かめても……は、君には不要な言葉だったね。じゃあおやすみ、シルヴィ』
そうして会話を終了させたシルヴィア・ゴールドバーグは内心で謝罪しつつ待ち受ける理想郷への期待は止まることを知らず跳ね上がり続けている。
◇
「このゴリラ……やたら立ち回りが嫌らしいな。とは言ってもあくまでデータありきって感じの動きで……寧ろ誘導しやすいか?でもブラフまで看破された隙が無くなるし…………ならサンラク式全カウンターを採用するか。それでこっちのゴリラは…………ええいどいつもこいつもゴリラゴリラゴリラ!!どうなってんだスターレインの男メンバーは、こいつら見てると
というわけで色々考えた末に出てきた結論がまさかの「超真面目に対策を考える」だった己の頭がひどく恨めしい、なんでここでその結論に至ったのか時々マイブレインが分からなくなる……こういう地道な努力は好きだから特段辛いと言うわけでもないし何ならあのゴリラ共見てて動きが堅実だったりカッコよかったりするから飽きがないんだよ……ランファンにシルヴィア・ゴールドバーグ?あの2人は多分怪物か何かのハーフだと本気で思ってるよ。シルヴィアのやつは見てて参考にならないし対策もクソもあったもんじゃない、「これならいけるか?」みたいな対策を立てて次の動画を見てみたらその隙が潰されてるのに気付いて諦めた。多分妖怪ギャラクシア・ヒーローズだよアイツ。
かたやランファンの方は参考になる部分も多かったが……時折見せる覚醒モード、海の向こうのアメリカじゃ
「対人戦……カッツォとはやったし……夏目さんとか?」
動画サイトを落としてフルダイブ、誰か殴り合いはできんものかと確認する。カッツォはもうやったからお腹いっぱいで鉛筆……は……精神衛生上非常によろしくない、やるにしてもやつとはトレモだけだ。となれば夏目さんなんだが……あ、これカッツォと対戦してるのか。
(あの様子からして多分
夏目さんの想いが成就することをそっと胸の内でお祈りしつつさてそれではどうしたものかとどっかり待機エリアに座り込……クソ、デフォルトをカスプリにしてたせいで座りづらい、膝の装甲部分が邪魔だ……!
悪態を吐きながら立ち上がりログアウト、仕方ないもう1回動画サイトでスターレインの対戦動画を……お?
「これって………おいおいマジかよ、出来ちゃうの?」
俺の目の前に表示された
◇
SIDE:abyss
「あーーあーー…………来ちゃった……来れちゃったよ……」
「何を言っているんだビャッコ、先程の鳥頭……サンラクと言ったか?も似たようなことを言っていたが」
「は?サンラクも来てんの?あいつ対策すっぽかしてシャンフロやってやがるのか……まぁ俺も今や人のこと言えなくなっちまったけど」
対戦相手の動画を見て、使用キャラのある程度の予測と対策、自身の使うキャラ練習システム検証etc etc……それら全てをある程度こなしやることがなくなり始めてどうしたものかと頭を悩ませた俺の目の前に現れたのはそう、「シャングリラ・フロンティア」のダウンロード版だった。
基本的にシャンフロ……というより今のご時世オフラインゲーでない限り大体のゲームはセーブデータを1つしか作ることができないのだが、例えばフルダイブシステムが何らかの故障なり何なりを起こした場合の対策として他のフルダイブシステムでログインすることができる。
そもそもシャンフロにログインするにはユートピア社にあるサーバーに保存されているユーザー情報を参照し、それを認証する為のシステムに登録された機体コードとユーザー自身の肉体情報……それとタイプ式パスワードの3つが必要なわけなのだが、まぁその辺は今回とはあまり関係がない。今回は自分のフルダイブシステムとホテルの部屋にある最新モデルを俺の携帯端末を中継地点にして接続し機体コードを最新型に反映させて認証させたわけだ。
そしてそんなこんなでやってこれてしまったシャングリラ・フロンティア……いやまぁ音ゲーも1つの手としてあったんだが……今優先すべきは流石にシャンフロだよなと言うことでこっちを選んだ。
え?何?1番優先すべきなのはギャラヒロだろって?HAHAHAこれは必要な寄り道なのであって決してギャラヒロと無関係なわけではないよそもそもギャラヒロ云々の前にやり残した心残りを少しでも消化することによってパフォーマンスを向上させる目的もあるわけで何なら実質これはギャラヒロの為の行いってことになるまぁつまり何が言いたいかって言うと。
「どうせ本格的な練習なんて明日からだし今日くらい良いよね?」
「何言ってるんだお前は……」
「アーラムは気にしなくて良いんだよ、他のメンバーは……まぁ、サンラク以外は全員寝てるよな。当然」
もしかしたらを期待していたがやはり全員健康的に睡眠をとっているらしい、大半のNPCは寝ていて起きているのはアーラムと……アラバだったかの2人だけだ。
「んじゃそうさな……サンラクも大方外に飛び出して行ったんだろ?俺もちょっと行こっかな」
「サンラクにも言ったが君も寝ているか駆け回っているかの2択なのか?」
「アイツよりはマシだよアラバさん、というか人のことマグロ扱いしないでもらって良い?」
危ない咄嗟に背中についている立派な背鰭を毟ろうかと腕が動きかけた。
「否定はしないのか……それよりもビャッコ、アラバで良いぞ。落ち着かん」
「そう?じゃあアラバで。それに……ちょっと、早いところケリつけないといけない奴がいるみたいでさ?」
そう言って壁に空いた穴から外へ抜け出し屋根を伝ってルルイアスを駆け抜ける。ところでルルイアスってクターニッドの謎パワーで物理的に反転させられてるのにどうやって光源確保してんの?メタいか、けど昼夜の概念はちゃんとあるらしい。地上でもお馴染みの昼と夜で出現するモンスターのテーブルが切り替わってるからな。
「これまたファンタジーしてるな……屁理屈が理屈になってるってのは納得いかないけど」
昼間のルルイアスが「半魚人達が蠢く腐臭漂う深淵都市」なら、今の……夜間のルルイアスは「魚達が繁栄する楽園都市」ってところか?
「っつーかあれよく見たらアジじゃねぇ……
たった今目の前を通り過ぎて行ったアジの群を何気なく観察してみたらそこにいたのはアジによく似た全くの別物だった。似通った特徴を持ち、されど決定的に違うデザイン……魚にそこまで詳しいわけじゃないからアジの近縁種という線もないわけではないが。
「それくらい別にそのまま持ってきたって良いだろうに……何でそんな細々したものまで作っちゃうのかねぇ……?」
改めてこのゲームの作者の気狂い度を疑いつつ、周辺を見渡す……いやまぁそりゃ昼間があれだけヤバいのに夜が平和なんてことあるわけないよなぁ。
「なるほどねぇ……昼間はゾンビパニック、夜間は巨大モンスター達の狩場と」
何故魚のような小さな生き物達はやたら群れたがるのだろうか。集まって大きな生き物に見せるという威嚇行動もあるのだろうが今回の場合は「自分達がくじ引きのくじ扱い」であることをきちんと理解しているというのがミソだな……単刀直入に言うと他のやつを身代わりにするには群れてた方が都合がいいって訳だ。
ある1つの群れが電車ほどの大きさの巨影におよそ4分の3を喰われて消えていった。あれは確か、昼間サンラクが倒したとかいうモンスターか。
正直戦ってみたい気持ちもあるにはあるが、今回の本命はまた別だ。
「…………暴れようからして、喪ったアイデンティティはよっぽど大事なもんだったらしいな?」
巨影が酷く見覚えのある雷光に灼き尽くされ、
かつてはそこにあった己の象徴を失い自暴自棄になった荒れ狂うそれは俺のことを生き絶えるその瞬間まで決して忘れないのだろう。
回転するチェンソー吻は今や黄金に輝く刀じみた細く鋭い吻へ変貌を遂げ、本来水中であれば絶対に存在を許されることのない稲光がそこから漏れ出ているのが視認できた。
お互いがお互いを認識し一瞬の膠着……だがお前の目がありありと語っている、俺をこの世から消し去りたくて仕方ないって目だ……!!
だがな、そりゃ俺もおんなじだよ。
「お互い決着つけたかったよなぁ……覚悟しろよチェンソーカジキ改めポン刀カジキ!!!」
握り締めるは呑世村正、救世正宗。
天と地を睨め付ける二振りが荒れ狂う神の怒りを傍若無人に振り回す怪物を討たんと言わんばかりにギラギラと危険な光を刀身に乗せて輝いた。
余談ですがチェンソーカジキもといポン刀カジキの吻はメスに対する重要なアピールポイントだったりします。これが折れてる=男として失格みたいな判定を下されて中折れカジキ君は生涯子供を残せません。
そのショックにより体内で滞りなく循環していた筈の魔力が暴走、失った吻の似姿を取るようになるのです。