シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
「密度が足りてねぇぞポン刀野郎!!」
家屋の屋根を駆け抜けながら雷撃の雨を躱し突撃、足場には困らないなぁなんせフィールドリセットを気軽にやってくる怪物がここの主人なんで。
(主目的はこのポン刀カジキをぶちのめすことなんだけど……出来ることならちょっと検証してみたいこともあるんだよな)
具体的には深淵のクターニッドによるフィールドリセットの規模を。というかどのレベルまでこの都市は破壊可能なのかというのも気になってくる……あと本当に出来たらの話なんだがこのポン刀カジキを例の「封将」とやらにぶつけてみたらどうなのかだな。
「っつってもまずは斬りかからないと話にならないわけでぇ……!!」
普通に反転して逃げを打ってもこいつは追いかけてきてくれるという確信はあるがそれはそれでなんか嫌だ。敵前逃亡は死よりも恥って言うだろ?
降り注ぐ黄金の雨の中を縫うように駆け回り、マッハレッグ起動。屋根を踏み切る直前で遮那王憑きを起動し……今。
「
効果はシンプル、地面に足が触れていない場合ダメージボーナスが付与されクリティカル成功率が上がるというもの。この際地面から足の位置が遠ければ遠いほど……つまるところ、高空であればあるほどその付与率と成功率はアップする。
エフェクトを纏った刃をポン刀カジキに向かって振り抜く……クリティカル、世の全てを呑まんとする暗い刃の貪欲な食欲が不可視の牙となって喰らい付き追加でダメージを与える……が。
「クリティカルが成功した判定は出ても
クリティカルの発生条件は攻略wikiで見た、その条件というのは「攻撃角度と幸運値を参照して算出される」か「モンスターごとに設定された弱点部位に的確に攻撃を入れる」の2種類があるとのことだった。
今まで接敵したモンスターの中にもクリティカルをどれだけ叩き出そうが効いてる気がしないのはいくらでもいたが……それはいずれもボス格だった。少なくとも通常湧きのモンスターにそんな怪物は存在していない。
つまるところ、俺が数時間前にこいつに下した「ユニークモンスタークラス」という評価は適切だったということを補強する材料なわけで。
(いやでも、前回こいつとやりあった時はまだ刃が通ったぞ!?つーかこの合金か何かの強度の鱗どうやって剥がせば良いっていうんだ……ッ!!)
刀が弾かれ、無防備な姿勢で空中を漂う俺をポン刀カジキがそれを見逃す訳もなく。金色の刀身が稲妻を迸らせ……不味い、インベントリアに退避――――――いやいける!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
迫り来る滅殺の光が顔面に迫り来る。秒速340mの殺意を海老反りで回避し頭から落下するような体勢に移り追撃を回避する為に咄嗟にインベントリからポーションを取り出し俺の足が届く位置に放る、回復アイテムを1つ失うのは痛いが死ぬよりかはマシだ。
遮那王憑きの効果はまだ発動している、ほんのコンマ1秒でも俺の支えになってくれるなら……それは足場だ。
空中に漂う俺の生死を分けるにはあまりにもちっぽけなそれがどうか消し飛ぶだとか吹き飛ぶだとかしませんようにと祈り可能な限り最速でポーションを蹴り抜き一気に下へ向けて跳躍、いやこの都市だと上へ向かって落ちていってるのか?今どうでも良いか。
地面に着弾し全速力で都市を駆け抜ける。後方から襲いかかってくる未だ止むことのない追撃により吹き飛ぶ土砂やら元家屋現瓦礫を足場に各種バフスキルを総動員して跳躍、全力で距離を稼ぎつつ屋根に飛び乗り体の向きを反転させる。
次の瞬間視界に飛び込んできた雷を紙一重で回避しノンストップで突っ込んでくるポン刀カジキの下をすり抜け腹の下を掻っ捌くように刃を突き立てるものの刃と鱗がギャリギャリと火花を上げるだけに終わった、マジでどうなってんだあの鱗。いや、それも驚くべきことなのだが何よりも驚かなくてはいけないことは……
「今の、自分でもやれるかどうか自信なかったんだけどなぁ……?」
今の回避挙動及び反撃は正直言ってあそこまで完璧に実行できるとは思っていなかった。いやまぁ成功させるつもりではあったけどどこかしらでかすり傷なりなんなりは喰らうだろうと思っていた……んだがなぁ?
今の俺が使用しているVRシステムは通常のヘッドギア型ではなく、業務用とまで渾名される最新型フルダイブVRシステム……あまりにもパフォーマンス面に確たる差がある。めちゃくちゃにリアルの調子が良いかつエナドリを使っていればあるいはヘッドギア型の方でもこのパフォーマンスは出来ていたかもしれないがそれでも「かもしれない」レベルだ。
元々他のゲームよりも遥かに動くアバターの挙動、思考が発令した命令に対するレスポンス速度……それに加えて若干世界の解像度が上がってる気もしなくもない、成る程これは業務用だわ。
(マジの業務用フルダイブVRシステムはそれこそレントゲンみたいな感じの物々しいやつらしいが……このVRシステムでこのレベルならそっちだとどうなるんだか)
雷を避け、攻撃を叩き込む。可能な限り様々な箇所に攻撃を叩き込みどうにか刃が通りそうな肉質の柔らかい場所を探りはするが今の所なし……大体弾かれて終わりだクソッタレ。ギリギリなんとかなりそうなのは吻の近く、鼻先だがあそこに安定して斬り込むのはちょっと難しいな。
「とはいえ有効打が今の所ない以上ジリ貧なのはこっち、攻撃が通るチャンスがあるならチャレンジすべき……!」
どんな世界にも不壊の物質は存在しない、いやまぁ破壊不能オブジェクトとかならあれなのだが少なくともプレイヤーが扱う武器や防具に不壊のものはない、バグったやつは除く。つまるところどれだけ耐久値をケチっても救世正宗も呑世村正もいつかは限界が来る。そして今目の前にいるポン刀カジキはボスじゃない、結果的に最後に倒さなくちゃならないのはクターニッドである以上ここで全てを放出するわけにはいかない。
攻撃が入るのならまだ希望は見えたが今の所有効打になり得るのは呑世村正の追加定数ダメージのみで、それだけでこの怪物を討伐するのは無理がある。だからこそ博打に出なければならない。
ビビるな、躊躇うな、恐怖を捨てて前を向き、唯己が超えるべき壁を見据えろ。
迫り来る雷撃の波濤の隙間を縫い合わせルートを組み上げる……さぁ行ってみようか?比較的広めの屋根に飛び移りバックステップ、助走距離確保、スキルリキャストよし、「
「レッツゴォォォォ!!!」
「タチキリワカチ!!!」
瞬刻視界により全てが低速化した世界を駆け抜け、世を呑まんとする黒き刀身を振り抜く。狙うは雷がそのまま刀の形に押し込められてできた吻の根元、どう考えても危険なデッドゾーン。エフェクトを纏った斬撃がクリティカルの判定を叩き出して刃が相対する敵を喰い千切り刃そのものも確かに通った。
…………いやこんな博打何度も繰り返してられるか!?
「だが有効打は見つけた!!!!その刀の根元は柔らかいんだな……!?」
まぁ柔らかいって言っても今までの敵と比べたらだいぶ硬い、鋼鉄の鉄板数枚重ねと合金製の鉄板1枚程度の些細な差だ。だがその些細な差が俺の勝利への明暗を分けるわけで。
ポン刀カジキに傷をつけた次の瞬間、雷撃が密度を増して襲い来る。慌てて回避に専念しようとした次の瞬間今までの雷撃とは異なる
渡影……ダメだ、影に触れてない。慌てて右手首と一体化した無尽蔵の倉庫に手を翳す。俺の脳細胞が稲妻の如き速度で弾き出し、最高レベルの速度でVRの肉体がそれを実行する。だが……速い!!!間に合うか!!?!!!いや違う間に合わせるんだよッ!!!
眼前まで迫り来る黄金の刃から目を逸らすことができない、逸らそうと思ってもそれより速く俺は消し炭になるだろう。
「【
電熱が感じられる距離、削れるHPバーがぼんやり見えた。
◇
「ま、間に合ったぁ〜〜〜〜!!!」
インベントリア内に避難し、HPが2桁を切っていることを確認して心の底から震えた。【
面をずらし、HPポーションを呷りつつここから出た後のことを考える。インベントリアから出ても恐らくあのポン刀カジキは俺のことをしつこく狙っている……カーケスカブの時もそうだったが、出た瞬間を狙い撃ちにされると考えた方が良いだろう。攻撃は……雷撃、吻による斬撃、範囲攻撃で逃げ場を無くしてからってのも考えておくべきか。
(…………呑世村正や救世正宗じゃジリ貧か?
「――――――まだそこまで慣れたわけじゃないけど、やってみる価値ありか……!」
息を整え、マナポーションを飲み干しもしもの時またインベントリアに頼れる様にMPを回復させておく。スキルリキャストとスタミナも問題なし、それでは行こうか……
「【
「GyuAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!!!」
は?目の前が暗い?いやどっちかって言ったら赤黒い……?まさか大口開けてポン刀カジキのやつ俺のことを待ち構えてたのか?口腔内に入ったことによる空気が押し潰されるような感覚に一気に襲われる。このままなら俺は容赦なく食い殺されるわけだが……そんなのはごめんだ。
「
咄嗟に影を操り口内の影と俺を繋げ、渡影で影に侵入した後街中の適当な影に移動して回避する……危ない、転送直後に着地狩りじみたやつが来るとは思っていたがここまで気合い入ったやり口だとは考えてなかった。
(っていうか、街が修復されてる?この辺一帯雷でめちゃくちゃになってた筈なんだが)
ふと街が修復されてることに気づく、あ、これもしかしてクターニッドの反転効果だったりする?マジでめちゃくちゃだなクターニッド……ん?
「なんだあいつ、なんであんな固まって……」
いや、身を縮こまらせてる?なんだ?知らない……新モーション?吻をまるで抜刀するみたいに……抜刀?
「まさか居合抜――――」
上空を浮かぶポン刀カジキが何をしようとしているかに気づいてしまった俺はつい先ほどMPを回復させた自分に感謝を捧げながらインベントリアへ避難しようとした。だがポン刀カジキは
「あっこれ間に合わな――――――」
「何を惚けているんだ馬鹿者……!!」
「ゔぇっ??」
首を引っ掴まれて一気に上方向からの強烈なGが俺に叩きつけられる。そして次の瞬間俺がいた部分は周囲の建物ごと吹き飛び、焼け跡以外何も残っていなかった。
「は!?アーラム!?!なんでいんの??!」
「アラバに付いて来てみたらこれだ……!!何をどう考えたらあの化け物とやりあってるんだ!?人魚どころか深海の王達でもあの状態の奴には迂闊に手を出さんと言うのに……!!」
どうも助かったらしい。
怨雷閃火
超高密度の雷の力を帯びた魔力を更に圧縮して質量を得るまでに練り上げ放つ一撃、大体通常の雷撃に混ぜて発動する思考ルーチンの為非常に悪辣。雷が刀になって襲いかかって来たと考えてもらえれば。
怨殺神雷
最速、最強、最大範囲。溜めこそ必要なもののその一閃は須くを両断してみせる。神殺しの雷は怨念纏いて高みへと上り詰める、故にこそ深海の王達すらもかの斬雷が鳴り響く海域は避けるのだ。
影操と渡影の制約
渡影は自身が影に触れているないし自分の影と何かしらの影が重なっていないと発動不可能、影操は視界に入った影全てを掌握できるが距離が離れているほどコントロールが複雑化する。
あくまで権能のカケラ、かの狼には程遠い。