シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
思い出せあの頃の日々を。あの幽霊じみた挙動で相手の一撃をぬるりと回避し面に、小手に、胴に一本叩き込んでいた誰よりも偉大な漢の竹刀の鋒と足運びを見つめていたあの時を。バグった影響で超超高速化したノーツをひたすら捌く苦行じみたゲームを。開発陣のお遊びで追加された周年の曲が正直クリアさせる気ないだろクラスの難易度だったりサ終するからどうにでもなーれと実装してきた難易度ルナティックハイパー楽曲を有志と研究し攻略してきた俺の青春(現在進行形)を。
「何はどうあれ、光速より速いってことはないだろ……ないよな!?」
レトロなディスプレイ型ゲームが主流だった頃は光速すら遅いと言い切る修羅がそこら辺を何食わぬ顔で歩き回っていたとも聞く、果たして実際に光の速度で戦っていたのかどうかは俺の知るところではないがそれでもそういう話が出回る以上強ち嘘ではないのだろう、そしてその先人達も俺と同じ人間というカテゴリに属する以上俺だって問題なくやれるはず。
「っしゃァァァ…ッ!!来いやポン刀カジキィ!!!」
目を限界ギリギリまで見開き、次に閉じるのはあの刃先から電雷の斬撃が放たれ俺がそれを無事に回避し終えるまでと心に強く強く誓う。そもそもVRの体に瞬きなんてものは不必要であるからして何も問題ない、生物としての本能を捩じ伏せ口を聞けないようにするだけだ。
ポン刀カジキは既に身を竦め抜刀体勢、放出していた雷光が吻……いや、刀身に集められ危険な輝きを放ち始めた。
気付けば雷華も、斬雷も止み周囲には何の音も……いやなんかほんの微かに何かが戦闘しているような音もしている気がするけど今はどうでもいい。
さぁもうここまで来たらどう頑張っても回避もクソもない、後は己の勘と運と……俺の滑舌だけが全てだ。これで噛んだりしたら笑えんぜ。
(見てから避けるなんて出来っこねぇ、
――――――――今!!!
「【
極光が襲い掛かってくる、世界を焼き払いながら、超高速の電雷の刃が。周囲一帯纏めて俺を焼き斬り裂かんと迫り来る。
腕と同化した無限の倉庫がその機能を行使せんと輝くのが横目で確認できた、そして俺の身体は世界から消える。
「――――――ッ、はーーーっ!!はーーっ!!っしゃこら成功したぞォ……!!!」
無限とも思えるような時間も第三者から見れば一瞬でしかない、だがその一瞬において俺は命を賭けた大博打に打ち勝った。
壁に張り付いて攻撃を待ち構えていた体勢そのまま格納空間に転送された俺は大きく息を吐き片腕を天に掲げ勝利の雄叫びを上げた。
だが……まだ終わっちゃいない。
「さぁ、結果の確認と行くか……!!【
斬撃自体は消えても電撃の判定自体はある程度残っている、であるからして数十秒の待機を経てインベントリアから現実世界へ戻る……あの時出来ることはやれるだけやった、これでダメなら……そうだな、アーラムを全力で逃す撤退戦に於ける殿の役目を存分に努めさせていただこう。
そしてその結果は…………どうやら上々だったらしい。
「だいぶ苦しそうだなぁ、今楽にしてやっからよォォ!!!行くぞアーラムゥゥゥゥ!!!」
「斬雷の怪物を討てるとは思っていなかったなぁ……!!お前が消えたり現れたりするのは意味わからんが!!!!」
「見て感じて聞いたものがこの世界の全て!!!!事実を事実として受け入れろォ!!」
読み通り!!!!どのようにして当たったかは定かではないが明らかに悶え苦しんでいる……何より鱗の間から金色の魔力が迸っていやがる、これはつまり、立派な直撃だってことだ!!!!
万象を焼き、破壊せんと放出されていた雷撃。それを圧縮した斬撃を喰らったポン刀カジキはその左半身から夥しいポリゴンが溢れ、それ以外の箇所からも決して良いとは言えないだろう量の魔力が漏出していた。そしてもしやジークヴルム並の硬度を誇るのでは?と疑問視していた鱗が焼け爛れている……自分の攻撃で自分を壊すことになるとは思ってなかったか気狂いカジキめ。
「…………おいおいまだやれるってか…………!!」
だが、折れない。奴は未だ破壊を諦めちゃいない。少なくともその眼はまだ憎悪に飲まれ眼に映るもの全てを焼き払うという意思が爛々と輝いている。
いいぜポン刀……いや、アトランティックス・マールィアン。お前のそれに引導を渡してやる。
「ビャッコ!俺は何をすれば良い!?」
「俺に合わせられるか!!?」
「そうしたいのは山々だが獲物がない……!!」
「これ使え!!」
高空から急降下してきたアーラムに半ば叫ぶように問いかけるとそう返事が返ってきた。
咄嗟に救世正宗を投げ渡し覇兎【金龍】、【赫竜】を展開する。装備欄に武器が装備されていたとしても手から武器が離れていればオブジェクトとしてなら武器は展開できるのか、駄目元でやってはみたものの上手いこといったらしい……これで武器出せなかったら塔にぶっ刺したままの呑世村正を引き抜くなんて醜態を晒す羽目になるところだった。
「この手の武器は……愛剣で慣れている!!「
「何そのスキル!!?!!!」
刀に指を沿わせたアーラムが何やら唱えた瞬間黒い……竜気?が刀身に纏わり付くように展開された、え、何それクッソかっこいいじゃん。
「これはお前達開拓者が扱うようなスキルではないぞ、
…………俺達プレイヤーが扱うスキルとは似ているようで別物、と。なるほどねぇ……どうにかして覚えられないものか。効果云々は知ったこっちゃないが少なくともデバフの類ではないはず、見た目だけでもかっこよすぎて習得したくなってくるスキルだ。
「っと、それはまた後でだな……!!オラ喰らいやがれ!そしてくたばれ!!」
頭を振って雑念を消し、屋根を蹴って一気に跳躍しポン刀カジキへ肉薄する……おうおう随分ヘタレてやがんなぁ!こんな密度の雷撃で俺を落とせると
「思ってんのかァ!!?」
いっそ気持ちいいくらいにあっさり刃が通り、思い切り振り抜けばポン刀カジキが悶え苦しむ。そうかそうか今楽にしてやるからな、せいぜい苦しんどけ。
「…………ッ、これは業物だな……!?」
「それ打った鍛治師が胸張って喜ぶだろうから今度あったら伝えとくよ!」
アーラムもアーラムで救世正宗の切れ味に驚いているらしい、何せ余り物とはいえ恐らくほぼオンリーワンの敵の素材をふんだんに使っているからな。丸一晩かけて討伐した甲斐は間違いなくあった。
さて、とはいえなんかこれタフネスお化けな気がするぞ?数回切りつけた程度じゃくたばらないのは当然なんだがなんかこう、ダメージちゃんと通ってるけどHPバーが4、5本くらいある感じというか……ええいどんなモンスターだって殴れば死ぬ!!!!どんな曲にも終わりがあるように!!!!俺は!!!!諦めずお前をどつき回す!!
(そういえば前にサンラクが「恨みをモチベーションにすると強くなれる」って言ってたな?恨み……恨みかといえば――――――)
「何をどうしたら!!!音ゲーで!!無限リピート再生なんてバグが発生するんだクソッタレぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
何が何だかわからんかったわ当時!!!!AP取ったかと思ったら2週目!!終わったと思えば3周目!!ふざけてんのか運営ふざけてたんだなだってお前らあのバグ結局修正しなかったもんなぁ!?仕様って言い切っちゃったもんなぁ!?
あのあとキレたユーザーが結託し怒りのメール爆撃を運営に浴びせたのは今では懐かしい思い出、音を上げた運営がバグを修正したら今度はノーツは流れてくるのに曲はいつまで経っても流れてこないなんていう訳のわからんバグが発生したところまでがワンセットだふざけやがってこの野郎。
「ああああ思い出したら腹立ってきたァァァァァァァァァ!!!!」
恨みを力に変えてひたすらポン刀カジキを斬りつける……あれ、これこいつがやってたことと何ら変わりないのでは?まぁいいや、はよくたばれ。
斬りつける、斬りつける、ひたすら斬りつける。抵抗の意思はまだひしひしと感じるポン刀カジキのありとあらゆる箇所に可能な限り刀傷を入れ続ける。時折反撃を試みようとするも恐らく暴れ狂う魔力に自らが苦しめられ怯みモーションが誘発し身動きが止まる。それでも尚苦心して放った雷撃は悲しいかな、元気な頃とは比べ物にならないほど精度も密度も甘いし薄い。
次第に高度が落ちていくため攻撃を叩き込むため屋根から跳躍して一々斬りつける手間も短縮され……遂にポン刀カジキは陥落した。
だが地に伏して尚その殺戮衝動は一切の衰えを見せない、ありとあらゆるものを破壊しようと身を捩り周囲の家屋を粉砕しまくっている。
「うーむ、あれが子供を成せないと確定した生物の辿る末路か……末恐ろしいものだなアーラム」
「そうしたのはお前だと聞いているが?というか自分で言い切っていたな?」
過去のことなんかとっくのとうに忘れたよ、今を生きることが大事ってそれ縄文時代くらいから言われてるから。
さぁ、いい加減苦しみまくってる彼を楽にして差し上げましょうかね?
「タチキリワカチ……!!」
タチキリワカチ起動、そこら中を破壊しまくっているポン刀カジキ……いや、アトランティックス・マールィアンの上空へ跳躍しその脳天へ向けて致命兎の剣術、その秘奥を放つ。
そしてそれがとどめとなりアトランティックス・マールィアンはその巨体を今までの暴れ具合からは到底考えられないほどあっさりと硬直させ爆散したのだった。
「………………精々に安らかに眠れってな」
所詮はただのモンスター、0と1で構築されてガワを貼り付けられたmobだ。だから特にこれといった感慨も浮かばないしほとんど意味すらなさないが、それでもかけるべき言葉は言う必要があるだろう。
「あーー、疲れた。楽しかったけどさ」
「今の死闘を楽しかったか……開拓者とは皆そういうものなのか?」
「まぁ大多数はそうじゃねぇかな?楽しめない
「クソ……ゲー?」
「あぁ通じないよなそりゃ……えーと、苦行って言えばいいのかな……」
そんな軽口を叩きながら俺とアーラムは周囲に警戒を払いつつ拠点への帰路を辿っていくのだった。
ちなみにその時点での時刻は午前6時、ほぼ徹夜である。
もちろん翌日……もといその日、とんでもない寝坊をかましてしまったのは言うまでもない。