シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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先取りカボチャとくっ殺しない女騎士、それとキメラ

「…………じゃあ、行ってくるよ」

 

現在時刻午前7時、俺達より1時間ほど早く開催されるRwH6の世界大会決勝のためカッツォは俺達より早くホテルから出発することになっていた。俺達全員の顔を見渡し、何か言いたげな顔をするもそれを全力で喉元辺りで押し留め、嚥下し……そして口を突いて出てくる前にカッツォは俺達に向かってエナドリを1本ずつ投げてよこした。

 

「もともと向こうが無理を通してきたんだからね、これくらいは融通させた」

 

「エナドリ1本の融通……って待て。()()()()()()()()()()()()()()()

 

表記はライオットブラッドなのだが……それ以外には何もない、本当に何も無い。無印でも破壊槌を抱えたデフォルメキャラがプリントされているのにそれすらない。待て、つまりこれは…………

 

「まさか……発表すらされていない?」

 

「そう、どの媒体にも発表していないガトリングドラム社の最上位機密……俺、1度試飲させてもらった時のコネで引っ張り出させたんだよね」

 

「そんなバカな……」

 

「カフェインレベル6.5ぐらいの友達が欲しがってるって言ったら「モニターしてください」って言われてもらっちゃった」

 

「俺達まだカフェインレベル5.8ぐらいだっつーの……ありがたくもらっておくけどさ」

 

うーーわ、マジでなんの表記もないから凄え怖い!!成分表すら無いぞ!?クァンタムもアンデッドも割と早い段階で試したけど!!試させていただいたけど!!

戦々恐々とした顔でこの真っ黒な下地の上に燦然と輝くライオットブラッドの表記を食い入るように見つめていると鉛筆がいまいちピンときていない顔つきで俺達に問いかけてきた。

 

「エナドリ1本に何そんなにビビってるの?」

 

「…………正直ことライオットブラッドにおいては若干の警戒を持った方がいいってのは周知の事実なんだよ。その上で成分表すら書いてない全くの未知……それも、どう考えても日本じゃなく米国産のブツ」

 

「つまり?」

 

「「飲んだらワンチャンキマリすぎて死ぬかもしれない」」

 

「………………合法?」

 

「いつもなら成分表見て確認するんだけどな、今回はそれすら無いから……」

 

「…………私は遠慮しとこっかなぁ」

 

「わ、私は貰おうかしら」

 

 

「…………どうするサンラク」

 

「どうするって……まぁ、飲むにしろなんにしろもうちょい後でも良いんじゃねぇかな。俺は一応別で1本持っていくけど」

 

「俺も勇気出なかった時用にバックドラフト持って行っとくか……」

 

 

 

 

飲むのはまぁ、ちょっとまだ勇気が俺には足りない。というわけでゴソゴソ……すっ、ぽい。このコスプレ衣装良いな、大体の物が放り込めるぞ。するとサンラクもカシャコンと()()()()()()()()を閉じてエナドリをホルスターに無理矢理突っ込んだ。

…………おやカッツォ、何か言いたいことがおありで?

何か言いたげな顔でこちらを見つめていたがやがて諦めたようにヒラヒラと手を振ってタクシーに奴は乗り込んでいった。

 

「全く、言いたいことがあるならはっきり言えばいいのにな」

 

「本当、その通りだねぇ」

 

「まぁ今更言い出せなかったってのもあるだろうな」

 

「口では何も言ってないけど目が全てを物語っていたように私には見えたけど……?」

 

「夏目ちゃん、私らの()()じゃ発言しなきゃノーカンだから」

 

目は口ほどに物を言う、とはよく言うが残念俺達の中じゃそんなものは通用しない。いかに目で物語っていたとしても口にしなければそれはモーマンタイであるということだ。口を大きく開けてちゃんと喋れよ、じゃなきゃ意思を汲み取ることなく……いや、汲み取って尚やって欲しくない方に俺達は全力で舵を切るからな。

 

「……………………」

 

ヴィィィィィ……と静かに響く駆動音を引っ提げてタクシーがホテルの前から姿を消した。それを見送った後俺達は一瞬静寂に包まれる。それは俺と鉛筆とサンラクにとって「何か言いたいことがあるなら口にしてもらってどうぞ」という待ちの静寂でもある。そんな中で夏目さんがモゴモゴと口を動かし……ついぞ開くことはなかった。

 

「流石に今から追加の仮装を用意するのは難しいかなぁ」

 

「私は! 着ません! から!!」

 

そりゃ恥ずかしいよねぇ。おっと()()()暴れるな、ステイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁペンシルゴンさんや、ここでクイズです」

 

「よっしゃどんとこい、私の灰色の脳細胞が黄金に輝くよ」

 

「脳細胞って既に黄金色じゃなかったっけ」

 

「それな。……さてでは問題です、今我々は周囲からなんだと思われているでしょう」

 

「愉快なコスプレ集団」

 

「あっはっはっ、せめてボケろよ畜生」

 

「絵面だけ見たらワンシーズン先取りのハロウィンだしな俺達」

 

「あ、こっち銃構えてもらえますかー?」

 

「ほらほらオーダー来てるよー? レイヤーたるものちゃーんと応えないと。はいはいそこローアングルならもっと右よってねーー!」

 

カッツォが現地入りしておよそ1時間後、今度は俺達も待ち受けるエキシビジョンマッチに向けて会場を訪れていた……んだがカメラを持った来場者に「撮影良いですか」と聞かれた結果がこれだ。何より普段から撮られてる人間がノータイムで「いいよ!!」と言い放った結果かれこれ十数分ほど拘束されている。この怨み晴らしておかねば。

そう暗い思いを抱きながら被った面越しにノリノリでポージングを取る「女騎士」に目線を向ける。

 

「んで、いつまでこの撮影会やるわけ?」

 

「そうだぞ、なんだかんだここで拘束されて遅れましたは笑い話にもできんし」

 

「んー?ほら職業的に撮影には快諾しちゃう性質(タチ)だからね、うっかりうっかり。すいませーん! ちょっと行くとこあるんで撮影会はお開きってことでー!!」

 

こういう時ズバズバものを言える点は尊敬すべき点なのだろうか、顔が隠れているとはいえ何枚も何枚も写真撮られる経験はそう多くはなかったので慣れないものだな。何度も経験するものかと言われたら「NO」と答えざるえないが。

 

「んっふふー、どうよサンラク君ビャッコ君。これから全世界規模でオーディエンスに見られながらゲームするわけだし、予行練習がてら撮影会してみたけど、パフォーマンスは維持できそう?」

 

「…………ヤンキーが猫を拾うといい奴に見える現象を狙ったか、策士め……っ!」

 

「あっれぇー結構私善意でやったんだけどなー……?」

 

「そりゃもう日頃の行いがアレだからな」

 

「唐突な正論言うのやめよっか、私何も言い返せない」

 

そういえば夏目さんどこ行ったとサンラクに聞いてみたらどうもさっさと会場入りしたらしい、この場合における最適解って他人のフリすることだから正解択だな……人としてどうかとは思わないでもないが相手は俺達だ、対処法としてはむしろ今回に限り満点の部類に入るだろう。

 

「それじゃ、いこっかカボチャ君に……キメラ君?」

 

「なあ、これ季節外れって言われないかな」

 

「コスプレに季節なんてものは関係ないのさ、冬でも水着みたいなコスをしてポーズをする。それがコスプレイヤーってものだよ」

 

「さいですか」

 

「これ一応配信するって聞いたけどこんなもん着てんのに大丈夫?見てる子供とか泣かない?」

 

「配信見るくらいの子供ならある程度耐性ついてる子いるでしょ……はずれ値は気にしない方針で」

 

「可哀想に……悪いの全部コイツだぞみんな」

 

俺は全身を覆う大量の動物の一部分を模した衣装を見下ろし面の下でため息をつく、どうか泣かない子が出ませんようにと祈るばかりだ。何がどうしてこんなごた混ぜキメラ以上になったのか……君ら俺の扱いちょっと酷くないか?

カボチャのお化け(ジャック・オー・ランタン)を模したマスクを顔部分に装着した奇妙な兵士のコスチュームと、Rが18に指定される方のそれではない肌の露出を限界までなくし、陶磁器のような無機質な仮面をつけた女騎士のコスチュームと、大量の動物を混ぜてこねたような見た目をした文字通りのキメラコスチュームが白熱するコンペティションの会場へと足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポリューション・アース:アポカリプス。

 

フルダイブVR黎明期より少し進んだ……特大の地雷がホイホイリリースされなくなったVR中世紀における名作ゲーム。オンラインで他人と汚染され滅んだ世紀末の地球を開拓するというコンセプトの作品で、当時では考えられないほどの操作性とグラフィック、バグの少なさで大絶賛された。そしてそのゲームにおけるシナリオ……オフラインであるストーリーモードで登場する敵キャラこそが今俺がコスプレイしている「キマイラ」だ。

汚染された地球に適応した汚染動物達の皮を被り、どういう原理か被った動物達の能力を行使するこいつの異質なキャラクター像に文字通り汚染されたプレイヤーはかなり多かったらしい。らしいってのは当時は音ゲーにすら興味を示さず毎日毎日竹刀を振りまくってたからだな。

 

「皮隠しの君にはピッタリでしょ?」

 

「なんでこんなピンポイントな衣装引っ張ってこれたんだか……」

 

「んでサンラク君はレクイエム・フォー・アーミーズってゲームの名脇役たるジャック、私は亡国の城を死して尚守護する女騎士「名無し(ネームレス)」のコスプレ。通には分かるチョイスってやつですよキミィ」

 

「こんなメジャーなイベントでこのコスプレに反応する人間はVR黎明期から遊んでる疑惑がある歴戦のVRゲーマーって篩にかけてるってことね……」

 

「…………なんというか、図太いのね貴方達」

 

係員に化け物か何かを見るような目つきをされたりすごい怪訝な顔つきをされたり色々あったがなんだかんだ通された「爆薬分隊(ニトロスクワッド)」のメンバーに用意された控室の中で夏目さんが呆れたような声を出した。まぁガチガチに緊張してる夏目さんと比べて俺ら凄い朗らかに談笑してるからな、あと数十分もすればアメリカトップクラスのプロゲーミングチームとやり合うと考えればそれは当然の反応だろう。

 

「私はほら、視線が多いほどパフォーマンスが上がる……的な?」

 

「……貴方は?」

 

「俺? まぁ緊張してるにはしてるけど……フルダイブしたらそこまで気にならないんじゃね?」

 

「それじゃ、貴方は?」

 

「してないわけではないけど……寧ろちょっと楽しみだったり?」

 

一生にそう何度もプロと戦う機会なんて訪れない、だから緊張こそすれ萎縮はしない。なにより衆人環視の目に晒されるのってどうせフルダイブ下じゃ関係ないし。剣道の大会で観衆に見られながらのほうが寧ろよっぽど緊張するまである。

 

「あとちょっとしたルーティンがあるかな」

 

「ルーティン?」

 

「掌に神って書くやつか?」

 

「そこ人だと思うけどね……なんていうか、アイツにだけは負けたくないとか、そういう誰かを目標にしたら良いと思うよ。それこそ……カッツォとかさ?」

 

「なっ!!?!」

 

「良いねぇそれ採用、ついでにサンラク君のも採用しとこっか、それで夏目ちゃん、チワワみたいに震えてないでこっち寄った寄った、作戦会議と行こう」

 

「チワッ…………!?!」

 

「小型犬に例えるのはやめてやれよ……」

 

哀れ夏目さん、鉛筆に絡まれたらめんどくさいのは気づいてたろうがここまでとは思ってなかったろうに。小型犬に例えられたことに対する異議申し立てを夏目さんが並べ立てる中俺達は貸し出されているタブレットを覗き込んだ。

 

「ゲーム方式は勝ち抜き戦、勝てばそのまま相手チームの次のプレイヤーとやりあう……つまり私達の裏目標たる時間稼ぎ達成には一勝一敗を時間をフルに使ってやるのが最善策、だったんだけど……まさかビャッコ君の直感がほぼ当たるとはね」

 

「シルヴィアが4番手、ランファンが5番手……まぁ、こいつらどうせカッツォ目当てで先を争うのは見えてたからな、とはいえほぼ時間稼ぎ自体は上手いこといくんじゃないか?」

 

「だね、ビャッコ君の直感じゃどちらかが3番手ないし4番手に来ることだったから……これで私達が2タテされることはほぼなくなったと言って良いと思う。というか私がマッチョ全員狩れるまであるよこれ」

 

「言われてるぜ先鋒夏目さん、コイツに全部掻っ攫われるくらいなら1人倒してきて」

 

「が、頑張るわ」

 

「私が立案したとは言え笑っちゃうくらい難易度ハードだけど……それでもやるって決めた、その為に準備もした。やるだけやって遅刻したお馬鹿さんを間に合わせよう!」

 

「……ええ!!」

 

「よっしゃ、やるか!!」

 

「応とも!」

 

スタッフがやってきたのだろう、ドアがノックされる。さぁあの馬鹿の為にも一肌脱いでやろうじゃねぇか……あ、この格好だと一枚脱いでも無駄か。

 

 




ライオット・ブラッド【Code:C】

表向きに発表されているトゥナイト、現在制作中の【RL】のどれとも異なる超極秘ライオットブラッド。成分表はないが合法。

ただし飲んだものはその有り余るカフェインに一歩間違えずとも破滅の道を突き進む可能性がある究極のエナジードリンク、合法。

社内会議では結論として「ある一定のラインに達した人間にしか提供しない」ことで意見が合致した、合法。
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