シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
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千載一遇だと思っていたそのチャンスは悪鬼と悪魔と悪獣が横並びになる茨の道でもあった。
夏目 恵の今に対する率直な感想はそれであったし、なんならその上で道にガソリンが撒かれ篝火も大量に設置されダメ押しと言わんばかりに爆弾まで大量に用意されてるような気もしていた。
(なんで私はスターレインのレギュラー選手相手に舐めプじみた事をしないといけないの……)
結局のところ何が原因だったのだろうか、そもそも慧に頼まれたことが嬉しくて態々家族旅行をキャンセルしここに来た……昨晩は時差など知ったことかと言わんばかりにグアムから両親からの電話がかかってきたりもした……が、それ自体は構わない、何せ好意を寄せている男から頼られたというだけで嬉しいので。
本来頼まれたこととしたら自分は
一体何をどう間違えたらカリスマモデルと謎のガスマスクと謎のイケメン(尚慧に比べたら劣ると夏目自身は考えている)の3人組と共に全米トップクラスのプロゲーミングチームに挑まなければならない羽目になったのか。これがわからない。最初はアマチュア3人を連れてきたのかと思っていたが今は違う、あの3人は様々なプロと戦ってきた夏目をして相当高い実力を持っていると言わざるを得なかった。
ただここで待ったをかけたいのが息を吐くか何かのような気軽さでお互いを煽り、ビルを破壊しNPCを人質にとりよく分からない名状し難い挙動をするような人間達と無茶無謀な作戦を決行し完遂しなければならなくなったのかという……要するに、今の現状を作り出した人間に一言文句を言いたいのだ。
(それって要はケイに文句を言いたいんじゃないの?)
そう夏目 恵の冷静な部分は指摘した。なるほど確かにその通りだ、この現状を生み出したのはそもそもケイが中途半端に目立って、この土壇場で離脱なんてことをしたから悪いわけで……そこまで考えた次の瞬間夏目 恵の冷静でない部分が全て否定した。
あの3人の燃え上がるような「熱」に充てられた激情が、保っていた冷静な部分を焼き尽くす。限界ギリギリまで可能な限り詰め込まれたユグドライアのバックボーンが脳裏に駆け巡り、教え込まれたロールプレイの心得が彼女に全く違う結論を弾き出させた。
「――――――つまりそれって、大体運命が悪いってことじゃない」
何故アマチュア3人と組むことになったのか、運命のせいだ。
何故両親に文句を言われなくてはならなくなったのか、運命のせいだ。
何故慧は離脱したのか、勿論運命のせいだ。
それでは何故、今自分は笑っているのだ??
私が
「私は………………!!運命になんて、負けない!!!」
ユグドライアの本質は設置技主体のカウンターキャラ、だがそれはあくまでゲームとしてのユグドライアだ。近接タイプのDr.サンダルフォン相手に有利に立ち回れる?知ったことか、私はユグドライアだぞ。
数日前の自分とは全く別物と化した思考により彼女が辿り着いた結論はこうだ。
「…………病院」
目の前にはお誂え向き、ケイオースシティのあらゆる住民が訪れる病院がある。自らの生い立ちを思い出して
◇
「うーーん、流石は軍師
「それを言うならあれだけ大量のユグドライアバックボーンを仕込んで共感させて極限まで思考をユグドライアに寄せた
「あれはどちらかと言ったら夏目さんの適性が高かったから出来たことだし……本人も割と途中からノリノリだったし」
「共感できるキャラは相性良いらしいよねぇ……」
お前は共感どころかほぼ合致してたから笑えんわ、こいつはこの後何をした?って問題で正答率ほぼ100%だったの控えめに言って恐怖のそれだったぞ。
「邪悪女……」
「それを言うなら「病院とかならより邪悪感増すんじゃね?」とか言い出したお主もワルよのうって話じゃない?」
俺達3人による仕込みで夏目さんは立派にユグドライアになった、何せこのゲームにおいてモラルだとかマナーだとかは即座に切り捨ててドブに叩き込むなり焼却炉に放り込むなりすべきなので……それがこと使用キャラがヴィランになると余計にな。
より悪役らしく、よりヒーローらしく。このゲームに求められていることはこの2つであり、これが出来ない人間は残念ながらこのゲームに勝つことはできない。いやまぁ出来はするがロールプレイが出来るやつと出来ないやつでは恐らく勝率に大きな差が生まれるだろう。
そしてユグドライアは原作読んでも分かる通り文字通り頭のネジがぶっ飛んでるキャラが故にキャラ性能そのものは玄人向けだがロールプレイ初心者にとっては優しいという評価だ。
一口にヴィランと言ってもいろいろある、そうせざるを得なかった、何か悲壮なことが起こった結果堕ちていった、自分の悦楽のため、悪の道を歩みながらも己の信念を曲げない者……ヒーローにもそれぞれ正義の理念があるように、ヴィランにもそれぞれ己が掲げる悪の理念がある。
そんな中でユグドライアの行動原理はいたってシンプル。即ちモラルが欠如した自己中心的思考、自分がハッピーになるためならどんな行動も躊躇わない。
「このゲーム、よくできてるよねぇ……ヴィランが有利に見えるけど後半になるほどヒーローが有利になる」
「自発的に長引かせる腹積もりの俺達にとっては最悪じゃねーか」
「それならそれでやりようはあるのだよカボチャ君、そのための
「……顔も名前も割れてる夏目氏に同情するわ」
「それでもあの場に立っている夏目ちゃんを私は賞賛するけどね」
「だからこそ俺達が出来る限りのレクチャーを施したわけだろ……っと、そろそろ接敵する頃か」
俺も鉛筆もサンラクも、中身が割れていないので一切問題ないのだ。どうせ何やったって叩かれるのは今被ってるこのガワだけなのだから。
だがプロとして名前も顔も割れている夏目さんは違う。所詮はゲームと言っても一部からは叩かれるだろう、それを理解してなお俺達のレクチャーを受け入れ、こなそうとしている。そして今あそこに立っている。その度胸は鉛筆が言う通り称賛すべきものだ……ついでに同情もするが。
「こんなに頑張ってもらって本人はトイレとはねぇ……」
「しっかもあの野郎あれだけ好意向けられといて一切なにも気づいてないらしいぜ?」
「やはりあのヤローは一度〆るべきでは?」
「シメサバならぬシメカツオ?」
「「「あっはっはっ」」」
その後しばらく経って知ったのだが、画面内で突如始まった凶行を見ながら朗らかに談笑している俺達はそれはもう不気味がられていたらしい。
…………強キャラ感出て良いんじゃないかな?うん。
そしてサンダルフォンが病院内に侵入しユグドライアを捕捉、捕捉したが……
『ほら!!!私の為に盾になって頂戴ーーーっ!!』
『オイオイ、役作りにしたってやりすぎじゃあねぇのか…………!!?』
画面の中でユグドライアが老人1人と子供1人を触手で絡め取り前に押し出すことで文字通りの肉壁を作り出している。バベルは確かにゲーム内では問題なく機能するもののゲーム外にまでは適応できないらしくルーカスのセリフがリアルタイム翻訳されてディスプレイに字幕として映し出され……それも十分に凄くないか?
「どう見る」
「恥じらいはほぼ捨てきってるね、出来るならもうちょっと痛めつけてからの方が良かったかもしれないけど流石にそこまで求めるのもアレだし85点」
「幼子と老人を人質に取ってる上に攻撃させにくい様にキチンと肉壁を作ってる、90点……皮隠しは?」
「教えたのもあるけど病院確認してほぼノータイムで動いたところとか含めて92点」
『あ、あのー…………』
現在進行形で時間稼ぎを試みる夏目さんに向けて鉛筆が言動と行動面を見て行動に少し甘いところがあるとほんの少しの辛口評価……それでも高得点だが、を下しサンラクが行動面単体で十分すぎるほどだと高評価、俺が突貫工事でもここまでやる心意気とノータイムで行動に移ったことを評価して92点と言い切った後に恐る恐ると言った具合で実況の……えーと、そうだ笹原エイトさんが話しかけてきた。
『その、お話聞いてもいいですかー?』
「え? あー……」
「名前隠し頼んだ」
「どうぞどうぞ! 謎の助っ人(美しい方)が知ってることならなんでも答えちゃうよー!」
ここまで一切の緊張も何もない自然体となってくるとやはりこいつはカリスマモデルなんだなと思い出させてくるな。朗らかに応対し始めたペンシルゴンを見て俺は素直にそう思った。
(まぁ応対はペンシルゴンがやってくれるだろうし、今は夏目さんの勇姿をちゃんと見ておこうかな)
あれだけ頑張ってたんだ、努力は報われる。それが例えどんなに畜生な行為だったとしても。
◆◆
「良い加減……離してやれっ!!!」
「チッ…………!なら、これでどうかしらぁ!?!」
人質を盗られた、本当ならもう少し時間を稼ぐつもりだったけど……!!けどゲージを切らせた、なら、ここは!!
人質を捕らえていた触手でサンダルフォンに向けて攻撃、それはあっさり回避され……予想通り!!!!1本目と2本目はダミー、3本目と4本目のそれぞれ潜ませていた触手を左右から叩き込む!!
「ぐっ…………!?」
「ありがとうビャッコ君……!!」
私はユグドライアの性能は把握していたがコミック自体はそこまで読み込んでいなかった、というより今までのシリーズではあまり必要がなかったから読む必要もなかった。だけど、ビャッコ君に教えてもらわなければこれは出来ない芸当だった。
人質を取り除いたことで容赦無く攻勢に転じようとしたサンダルフォンの意識外から放たれる触手攻撃は完璧に決まり、中途半端に近づいた距離を――――!!
「ぐっ…………!
「射程範囲よ!!」
一気に拘束、けど直ぐに離脱されるでしょうね。
(けど問題ない、可能な限り罠種子を撒いてる以上また直ぐに拘束できる。今はゲージを温存してゲージアドバンテージを――――)
――――――――本当に?本当に、それで
「…………良いわけないでしょ!!」
ラウンド?知ったことじゃない。今!目の前にいるヒーローを!!ここで間違いなく落とす!!!
ゲージ技起動、大地と病院の床を数枚ぶち抜き哀れな犠牲者を絡めとる荊棘がDr.サンダルフォンの体力を大幅に削る、そしてそのまま……!!
「ぐっ…………がぁ…………!!」
コンボを叩き込みラウンドをもぎ取る。さぁ第2ラウンドといきましょうか?
2ラウンド目……人質作戦をもう1度?いえ、愚策ね。サンラク君に言われたことを思い出そう。
「1回目で成功した行動が2回目に通用するわけじゃない、何より私の相手は時間が経てば経つほど厄介な相手……だから、こうする!!」
触手を伸ばして手頃なビルに取り付き移動、病院は読まれる可能性が高い……というより、建物に入ること自体が読まれるかしら?なら、弱点を長所に変えるまでだし、ユグドライアとしてのポテンシャルを引き摺り出すまでよ。
◇
「夏目さんちゃんと分かってるな、建物に入ること自体がルーカスの読みだから建物外の人間を襲ってる」
「ゲージをイーブンにまで戻すことを先決した感じだね、最悪2ラウンド目を取られても3ラウンド目に取り返す狙いも勿論あるんだろうけど……」
「夏目氏にはまだほんの少し人質作戦に対する迷いがあったからな……それにつけ込まれたら最後ってのをキチンと理解してる」
「確かその辺教えたのサンラクだよな?その点から見て今の夏目さんどんな感じ?」
「1回目の人質作戦を2回目でも使い回すかどうかって判断で言えば多分夏目氏は満点解答してるよ。かつ時間稼ぎも考えるなら……多分これが最善だ」
だよなぁ。ただ何というか、本人がそこまで楽しそうじゃないっていうか……んん??
「もしかして俺らやりすぎた……??」
「え?」
「は?」
『おぉーーーーーっと!!何だこれは!!?!!!ユグドライアの触手が……
「あっ」
うわマジか、ほんと欠片くらいしか教えてない部分だぞそこ……というよりそこまで再現するのか。
ユグドライアの4本の触手が増えていく、その中心部にいる彼女の目はまるで本物のユグドライアの様で……すまんカッツォ、夏目さん魔改造しちまったかもしれん。
ポテトちゃんの運命のくだり書く為だけに書いたまである