シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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開演

あーあーあーあー、皆呆然としてるよこれ。流れる様に、それがさも当たり前かのようにさらりと娘を人質にとってNPCを脅迫してみせたクロックファイアの動きに観客どころか実況解説も言葉を失っている、うーん残当。

分かるよお前ら、最初はそうなるよな……ゲームだとしてもそこまで吹っ切れることが出来るやつはそういない、いたとしたら大体はリアルでも似た様なことをやる。だがあいつの素性は日本どころか世界をも引っ張るカリスマモデルで、その危険すぎる中身を見事なまでに隠蔽し尽くしている……相変わらず恐ろしいやつだ、全く。

 

「自らの作り出した爆弾で平穏が吹き飛ぶのが大好きなサイコボマー……設定と中身のシナジーが高すぎるんだよなぁ」

 

『あ、……その、えと……は、果たしてアレックス選手は、どう打開する……でしょうか……ひぇ』

 

あ、エイトさん多分もうこいつの実況はしない方がいいと思う。頑張ってフォローしたそうだけどさっきのなんて序の口も序の口だから。

もう流れる様にタクシー運転手脅し始めてフォロー追いついてないじゃん?ほら今からでも遅くないから2画面分割で映してるハイドロハンズ側を主体に据えた方がいいって!!悠々と街の水栓機開けてる奴の画面の横で暴れてる女は世界に映しちゃいけない文字通りの爆弾魔なんだから!!

 

「あれが世の少女達の憧れ、だなんて……」

 

「うちの妹、あれの信者なんだよな……世の中って残酷」

 

「俺、知り合いの服のコーディネートする時あいつ参考にしたりするんだけどやめた方がいいのかな……」

 

任意かもしくは一定の衝撃を加えることで起動する最大で20個同時にフィールドに展開可能なクロックファイアの人形爆弾……「プリティーBB(ベアーボム)」。ゲージを切ることでその他にも幾つかの特性を持った爆弾を生成することができるが、今重要なのはそこじゃない。威力自体はプレイヤー目線から見たら大したことない、だがここで問題なのはフィールドに存在するオブジェクトやらNPCやらにとってはさながら原作そのままの火力を発揮するのだ。

 

「GH:Cは全年齢って聞いたんだけどさ、R-15指定くらい入れたほうが良くない?」

 

「そりゃあんまりだろ……ユーザー層だってどちらかと言えば小中学生向けだろこれ。やってもNPCや建造物に対する威力の軽減、ってところだな」

 

えーと、さっきNPCの少女に貼り付けたのが1つ、タクシーにさっきベタベタ貼り付けてたのが14個……じゃあ残り5つは?多分ペンシルゴンは今頃こう言ってるだろうな。

 

――――――仕事の時間だよママン。

 

『あぁっ!!ハイドロハンズに母親がしがみ付いて……爆発したぁ!?ぁぁぁあっ!!?!タクシーが!タクシーが突っ込んで……っ!やっぱり爆発したぁぁ!!?!』

 

『いっそ清々しいレベルでNPCを使い潰してますね……うわ凄い、もうヴィラニックゲージが半分も』

 

娘を人質にしてから初期ゲージの分を惜しみなく切って透明化したカメレオン人形(爆弾)を貼り付けた母親をしがみつかせ起爆、ついで感覚で「家族が大事ならここで死ぬわけにもいかないもんね?ならちょっとアクセル踏み込むだけでいいからさ」とサクッと脅迫したタクシー運転手にハイドロハンズを轢かせてもちろんそのタイミングで起爆……合計19の爆発を喰らったハイドロハンズが宙を舞って地面に転がり込む中で本人は別のタクシーを捕まえ「あの同僚の人と同じ目には遭いたくないよねぇ」と脅して優雅に戦線を離脱する。

 

「別ゲーやってるみたいだな、あいつ」

 

「実際鉛筆的には格ゲーっていうよりはシミュゲーよりの感覚なんだろうな……っと、そろそろエナドリどっち飲むか決めておくか」

 

「俺も決めておくかぁ……うわすげぇ、ブーイング飛んでくるかと思ってたけど一周回って悲鳴しか聞こえねぇ」

 

バックドラフトと黒いライオットブラッドを引っ張り出して真剣に吟味する中ボソリとサンラクが呟いた。

 

「あれって設置順で起爆するんだからさ……母親が吹っ飛んだ瞬間娘も吹っ飛んでるわけで」

 

「鬼か悪魔なんじゃないのあの人……」

 

「ははは、夏目さんや。豆やら十字架やらで対処できるなら俺達がやらないわけないでしょ?」

 

「その程度で何とかなるなら俺達だって苦労しねーんだよなぁ……」

 

「「ははははは」」

 

さて、ギャラクシア・ヒーローズ:カオスが何故1ラウンド10分などという他ゲームに比べて1ラウンドの時間がかなり長く設定されているのか、何故コロシアム型のシンプルなバトルフィールドではなく広大かつ複雑なシティ型をしているのか。そして最も重要な部分、何故NPCが格ゲーに存在するのか。

それら全てに対する回答がペンシルゴン先生が今から存分に講義をしてくれるぞ。

 

「外道劇場、開演……ってな」

 

俺の耳では今やシューベルトの「魔王」が高らかに鳴り響き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、何だありゃ地獄か?」

 

「悪鬼羅刹が裸足で逃げ出すレベルの地獄はもうそれ別の何かだろ」

 

画面の向こうで展開される惨劇に観客が揃って目を背け、悲鳴を上げる。辛うじてブーイングを飛ばす勇気が出た奴は可哀想に、吹っ飛んだNPCの山をまざまざと見せつけられてまた目を背けた。

そして生き残った……いや違うな、()()()()()()()NPC達がハイドロハンズに群がり、まるで爆弾アリか何かの様にまとめて爆ぜ飛んだ。

 

「このゲームは今までの格ゲーとは訳が違う、まず大前提としてあいつらは賑やかし要因なんかじゃなく立派なフィールドギミックの1つだってことだ」

 

流動的にその用途が変わる汎用フィールドギミックとでも呼べばいいのだろうか、今鉛筆がやってみせている様にヒーローを選択した人間には攻撃しづらいアクティブ爆弾として、俺やサンラクがよく使う様に相手プレイヤーの位置情報補足のドローン役として。

その気になれば相手プレイヤーを攻撃する敵性エネミーにすることだって可能かもしれない、そんな賑やかし以上に厄介な存在こそが今作におけるNPCだ。

 

「技術が進歩した結果NPCはより人間らしくなった……そして引き上げられたリアリティは脅威になった」

 

「人間くさいくせに()()()()()()()()N()P()C()、か。人心を操る名前隠し(ノーネーム)にとっちゃ格好の操り人形だな」

 

そこら中に撒き散らされるファンシーな爆弾。晒した間抜けヅラはヒーローを嘲笑う様に、民衆(NPC)を恐怖の底の底に陥れる為に爆ぜる。飛び散った爆炎がアスファルトを砕き建物を倒壊させる。阿鼻叫喚の地獄絵図、その中で高らかに笑うペンシルゴンの声だけがやけに響いて聞こえてくる。

哀れな一般市民達よ、警察は助けにやってこないぞ。何せタクシー数台が警察署に突っ込んで吹き飛んだからな。

外回りしていた警官も等しく爆破されて頼れる相手はヒーローだけ。

 

助けてくれヒーロー、助けてください消防官さん、貴方なら――――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「NPCは単純だ、単純すぎて自分たちが何をしているかに気付いてない。いや、中途半端に再現された人間くささが自分達が今ハイドロハンズの邪魔をしていることに気づいていない」

 

「ハイドロハンズの動きを阻害して被害の拡大を抑える動きをさせてくれない、そして止めきれず生まれた被害からまた助けを求めるNPCが……自分達がブレーキになってるのを気づいてない」

 

肉壁とも呼べないな、最悪その気になれば肉壁は吹き飛ばしてしまえば良いがこれは削った側から壁役が補給される。これじゃ気付くわけもないわな……助けを求める声の中に

 

「はーーい、これ取って取ってーー」

 

なんて悪魔の声が混じってるなんて。

 

『きゃぁぁあ!!!』

 

あぁもう見てられないよ、エイトさん頑張って実況しようとしてるけど擁護出来ないくらいの爆殺の嵐に耐えかねて悲鳴あげちゃった。助けを求める人々の中に混ぜられた一滴の悪意、その数瞬後にNPCに気づかれることなく貼り付けられた爆弾が起動し諸共ハイドロハンズが空中を舞った。

 

『っはぁー……確かにこれは格ゲーではないですね……どちらかといえばシミュレーションゲーム、でしょうか』

 

ペンシルゴンの手に掛かれば混沌の都市などまだ生温い、カオスを通り越してハザードと成り果てる。

鬼が笑い、悪魔が笑う。だがペンシルゴンはそんな悪鬼羅刹が真顔になる所業を平気でやる。

観客からは「気づいて!」なんて半ば悲鳴の様なコールが放たれるが残念ながら向こうはゲームの中なので気付くことはない。攻撃不能の無双ゲーにアレックスが強制参加している中ペンシルゴン本人は悠々とヘリに乗っかって空中から全てを見下ろしているのだ。

 

「昨日あいつに付き合わされてヘリが上空を通る軌道とか検証しまくったんだけどここまであっさりヘリって乗り込めるもんなんだな……」

 

「いつの間にパイロットに爆弾貼りつけたんだか……」

 

脅迫だけでなく、NPCを操り人形か何かの様に自在に操り、弄び、誘導するその手際は悪辣という他ない。これ見せられたらさっきの人質戦法取ったユグドライアなんて可愛げがある、少なくともこいつよりかはマシだと断言できる。

 

「良かったね夏目さん、あいつのおかげでさっきのユグドライアなんて可愛いもの扱いされるよきっと」

 

「そう、ね…………」

 

素直に喜べないよね、そりゃそうだ。でもあいつ面と名前さえ割れなければ無敵だからなぁ。

 

「あーあー、ラスボススイッチ入ったぞ」

 

「呵々大笑ってのがしっくり来る笑い方してんな」

 

ニコニコと笑いながらパイロットに向かって手を振りそのまま飛び降りる……次の瞬間何が起きるかを察したパイロットの顔が絶望一色で塗り潰され、ヘリごと弾け飛んだ。

煙と炎を吐き出しながら金属の塊が落下していく。

 

「これ、テロというよりハザードじゃ……」

 

「おっ、夏目さん気づいた?それ大正解だよ」

 

かんっぜんに弄ばれてるからなアレックス、あぁ、今ビル必死に階段で登ってるけどペンシルゴンはエレベーターで悠々降りてら。

屋上に出てペンシルゴンがいないことを認識、下を見てみれば屋上へとにこやかに手を振るクロックファイアがそこにいる。散々弄ばれた自覚がある奴はこの辺りで冷静さを失う。いや、仮に冷静さを失っていなかったとしても思考にノイズくらいのものは走る。

 

目の前にそこら中を地獄色に染め上げた悪魔がその気になれば今すぐに手が届く範囲にいる。散々自分を弄んだ悪鬼が、いる。

溜まったフラストレーションが「今すぐに飛び降りて奴を叩きのめせ」とアレックスの脳内で吠え……あっ降りた。はい、お前の負け。

 

「落下ダメージがないのも考えものよな、あんな風に短絡的に突っ込めてしまう」

 

不用意に飛び降りたハイドロハンズの目の前で「カマーン!」と手を振りなおも挑発するクロックファイア、そして怒りのままに突っ込んできたハイドロハンズは気づいていない。

燕尾服の狂人が背後に隠したデコイ爆弾(ゲージ技)の存在に。

 

「さて、算数の問題です」

 

「よっしゃこい顔隠し(ノーフェイス)

 

「100-30と20-30、先に0になるのってどっちだ?」

 

「見りゃわかる」

 

爆殺されたハイドロハンズを見遣りつつ俺達2人は夏目さんを見て……

 

「「な?」」

 

「いや、な?って言われても…………」

 

ある程度の思考ができるNPCが絡んだ場合のやつのウザさは俺達がよく知ってる。強くなるんじゃなくてウザくなるんだから救えない。というかシャンフロシステムが使われてるって聞いた時点で多分格ゲーやることを放棄しただろうからな。

しっかもあいつあれだけ自分のやりたいことやって試合時間は9分42秒…果たすべき仕事のことまで計算に入れた上でやってやがったな?やっぱあいつ稀代の策士で超が付くほどの外道だよ。

 

「普段ならあんな単純な挑発、アレックスが引っかかるわけないと思うんだよな。それがやつのウザさに脳みそをやられて思考が単純化した結果その可能性を見落とした」

 

この1ラウンドだけでどれだけコケにされたろうか?度重なるNPCを使い潰しながら行われた嫌がらせの数々、自らが取った行動の1つ1つが全て徒労に終わるというストレス、シンプルにウザい煽り…………キレるのもやむなしだなぁ、合掌。

 

「結果としてアレックス氏は軽率な行動をとった。ありとあらゆる行為から生まれたほんの少しの油断を名前隠し(ノーネーム)は決して逃さず首元に向けてナイフを突き立てる」

 

さて、普段なら絶対にありえない負け方をしたアレックスが冷静さを取り戻せるかどうかだな……冷静さを取り戻せていないなら先ほどよりも簡単に、あっさりとラウンドを取れるだろうが残念なことに俺達がやるべきことは時間稼ぎであるからして。

 

(冷静さを取り戻せているなら……まぁ、さっきよりも酷い目に遭うだろうな)

 

少ない検証時間の中奴が見つけ出した最低最悪の裏技が全世界に公開されなければ良いんだが……さて、外道劇場第二幕の幕開けってな。

 

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