シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
『さぁ、2ラウンド目が始まりましたが……あぁっと!?アレックス選手これはーーっ!!』
「あぁ、やっぱ気付くよね」
「ちゃんと冷静だな、流石はプロゲーマーってところか」
画面の先では助けを求めるNPCを申し訳なさそうな目で見ながらもガン無視し、時には押し除けてでもクロックファイアの姿を探すハイドロハンズの姿があった。
「ぶっちゃけあれされるとアイツ弱いからなぁ、シンプルな実力だけで言えば夏目さん以下なわけだし」
「持ち前の策略だけでそこをカバーしきってるあたりがアイツのすごい所なんだけどやっぱ単純な力押しが1番刺さるわな。とは言っても……」
「あぁ、それすらもどうにかしちまうのが奴だ……ここから本領発揮だな」
「まだ本領じゃないの!?!」
『まだ本領じゃなかったんですか!?!!』
おっと……いたのね?多分このラウンドは劇的な死に様を演出しながら負けるっていうつもりだったんだけどそれを全世界に向けて言ってはおしまいな訳で……うーん、何と返せば良いのやら。
クッソサンラクのやつ完全にテンパってやがる、俺も人のこと言えないが……ええいままよ!
「そう…………ですね、あいつ自身の実力はそこまでなんですが、それを先程もやってみせた……あーー、策略でカバーしきってるんです。だからその分今やられてるみたいなシンプルな力押しをされると正直キツイんですが……ぶっちゃけ言いにくいですけど、1ラウンド目以上のことをこれ以降のラウンドでやってきます」
『これ以降……つまり、どういうことでしょうか?』
「極論2ラウンド目を捨ててでも勝ちにいくってことです」
よし、これで2ラウンド目遅延しまくった上で負けてもそこまで怪しまれなくなった。力押しに弱いからこそ2ラウンド目を仕込みに使い負けることに違和感を無くす、おらサンラクリカバリーしてやったぞ!!
というかキマイラから理知的な話が飛び出すのがそんなにおかしいか諸君、バッチリ見えてるぞなんか物珍しそうに見てるお前らの顔が。
「って言いますか……うん、このゲーム直接戦闘を前提にしてるヴィランが少ないんですよね。裏工作メインにしてるヴィランが多いと言いますか……あ、今作をヴィランキャラで遊びたいと思ってる方安心してください何もあのレベルのことをやりましょうって言ってる訳じゃないんで」
『と、言いますと?』
おら代われサンラク、さっきは助け舟出してやったんだから今度はそっちの番だろ。あからさまに無視しようとしてきたのでスッとヘルメットに手をかけたら諦めた様に話し始めた、お前の負けだよ!
「ヴィランは序盤有利、街に被害を出すことでゲージが貯まるわけですからこれは当然……です。だから壊し尽くした後半はゲージが貯めにくくなってくる……ます。逆にヒーローは後半になるにつれ序盤でヴィランが出した「被害」を解決しやすくなっていくのでゲージが溜まりやすくなっていきます」
兎と亀の競争の様なものだ、ヴィランは亀でヒーローは兎。亀は全力で距離を離してアドバンテージを稼がなければ負けるが逆に兎が動き出しづらい様に立ち回れば今度はゲージが足りずにあっさり負ける。という旨の話をしておくとエイトさんは納得した様にカメラと一緒に離れていった。
「…………慣れてるのね?」
「勘弁してください、これでも緊張してたんですから……」
(そもそもヴィランはヒーローと殴り合っても大してゲージが増えないくせにヒーローは増えるってのが中々面倒臭いんだよな……)
だからこそ今ハイドロハンズが取った戦術はクロックファイアにとってはかなり辛いものだ。
「そもそもあれってぱっと見簡単そうにやってるけど実際のところはかなりカツカツの綱渡りだよな?」
「だな……あれ成立させるのはかなりの曲芸だぞ」
『おぉーーーっと!!アレックス選手、
おや、思ったより早かったか?鉛筆のことだからもう少し引っ張ると思ってたんだが。
◆◆◆
「はーー、流石はプロゲーマー様だねぇ困った困ったー」
ペンシルゴンが扱うクロックファイアの「お人形」は任意起爆の条件として視界内……もとい、厳密に言うならば「左眼に埋め込まれた
1ラウンド目に使用したヘリの様な全体を見渡せる最高級の移動方法があるのならば話はまた変わってくるのだがあれは2ラウンド目以降ハイドロハンズに位置を捕捉されてしまう可能性があった為爆砕させた。1度堕としてしまえばリポップすることはない為それによる捕捉はないと切り捨てる。
だが問題はそれよりもラウンド開始直後の用意が整っていないタイミングで浮き彫りとなる弱点である。
移動すらままならないラウンド開始直後に爆発音が聞こえたとしたら?少なくとも爆弾に目が届く範囲にクロックファイアが存在するということであり、であるならばあとはシンプルである。
「さっきはよくもやってくれたな爆弾魔ァァァァァァァァァ!!!!」
「ブチギレじゃーん!顔真っ赤にしてやーんの!!」
「捻り潰してやる!!!」
爆弾も、助けを求める
(
だがそれを許すほどこの男……スターレインの前身、アトラスにおける元最強プレイヤー「アレックス・テイラー」は甘くはない。
「くたばりやがれ!!」
「ちょっと速すぎ…………ッ!!?」
「さっきのラウンドの礼はたっぷりさせて貰うぞ!!」
「お断りだよこんちくしょーーっ!!」
咄嗟にインパクトの瞬間犬型爆弾を取り出し間に挟み込む。任意起爆による妨害を不可能と判断し、己の体力が削れることを代償に距離を離すことを選択した。
「ぐっふ……!流石に0距離爆破になると多少は痛むねぇ……!!」
素早く周囲を見渡し微かに見えたNPC達を逃さず爆破、連鎖的に響く3つの爆破音にクロックファイアは笑みを浮かべた。
「ラッキー誘爆!」
現在プリティーBB設置可能数13、既設置数7。
(爆弾そのものが圧になる!攻撃してきたら爆風の反動で出来る限り距離を稼いだ上で……とは言ってもさぁ!)
「その程度で俺が怯むかぁぁぁぁあ!!!」
ハイドロハンズは水を操る。故に爆風を事前に操作した水の膜で出来る限り相殺しひたすら直進する動きをとっていた。思わず舌打ちしながらチラリと視界内に映り込んだNPC、その背に貼り付けた爆弾を炸裂させてフィールドに設置していた7つの爆弾の内の2つを回収する。
「おいおい余所見か!?随分余裕なんだな!!」
「余裕も余裕超余裕……!!」
口ではそういいつつ内心では中指を立ててあらん限りの言葉でハイドロハンズを罵倒する、その内心を文章に書き起こした場合あまりにも汚くなるので割愛しておくが一言で言い表すなら「くたばれ」である。
(予定ポイントは……くっそ、遠距離恋愛を抜かなきゃか。我ながら改めて綱渡りだね……!)
アーサー・ペンシルゴンという女は己の実力を正しく見極めている。少なくともいつもつるむ他外道3人組の変態的なPSは持ち合わせておらず、そこらの人間よりは上手いだろう程度のもの。
であるからしてこの女は自らの武器を最も活かせる土台で勝負をすることに決めた。
「ところでこんなところに人質がいるんだけど」
「…………それがどうした?」
「見殺しにする?大好きな彼女さんが見てる中で」
「……………………!!!」
即ち外道戦術、一切の躊躇も遠慮も見せずクロックファイアはハイドロハンズの中身を攻め出した。
◇
うっわ、最低だあいつ。
多分会場中の全ての観客及び相手チーム、実況解説、ついでに自チームたる俺達の気持ちは共有されたと思う。
「あいつあの様子じゃ無事に勝ち進んだ場合
「勝つ為ならあいつはやるだろ」
困った、否定できない上に現在進行形でリアル方面からの攻撃を敢行してるバカが暴れてるから肯定するしかない。
「よかったね夏目さん、ヒールプレイが霞むどころか消し炭になったよ」
「…………もしかして、その為にわざと?」
「残念、平常運転です」
夏目さんが頭を抱えて動かなくなった、南無三。
というか、それよりもだな?
「時間はなんとかなりそうだな」
「だな……夏目氏と名前隠しが頑張ったお陰で多分2時間……俺が30分持ち堪えれば2時間半で、なんならお前もいるから3時間ってところだ。割と余裕出てきたな?」
「やっぱ夏目さんが初戦をきっちり勝ってくれたのがデカかったな、安定感が違う」
綱渡りがまだ多少マシになった気がするぞ、それでもなおベリーハードからハード程度になっただけだが。
っつっても思ったよりペンシルゴン相手にあれが出来るってのも中々凄い、やはりプロはプロってことか。
ペンシルゴンの今回の試合における絶対条件の1つである徹頭徹尾全力で直接戦闘を避ける、を2ラウンド開始からものの数十秒で瓦解させているのはやはり高い対応力に舌を巻かざるを得ない。
「気合い入れてけペンシルゴン、リアル方面引っ張り出してきた時点でだいぶキツイんだろ?」
負けたら死ぬほど笑ってやるよ、イキリ散らかした上で無様に負けたカリスマモデルがいるってな。
◆◆◆
(おっとなんだろう今盛大にバカにされた気がするなぁ)
ほぼ同時刻、何かしらのマインドを察知したクロックファイアは何となく誰がそんな思念を放ったのかを察知し何かしらの形で制裁を下すことを決意した。
「ほらほらほらほらそこを退けなよヒーロー!!!!さもなきゃ爆破しちゃうよ?人質を見殺しにするヒーローなんて彼女さん幻滅しちゃうんじゃないかな〜〜〜!?!」
「ぐっ…………くっ!!!」
ジリジリと位置関係を変え、己の目的地の方向へと足を進める。ゆっくり、ゆっくりと、己の目的を果たすが為に状況を動かす主導権を手繰り寄せていく。
「さぁさぁ、立ち位置入れ替わってくれてありがとねヒーローさん。お陰で視線が通る通る」
素早く視線を動かし周囲に散らばる爆弾を起爆、これによりフィールド既設置数は1となり、展開可能数が19となった。
「…………なんだ?降参宣言か?」
「んふふ、そんなわけないじゃーん……!」
第二ラウンド終了まで残り35秒。
人質を拘束したままクロックファイアは高らかに笑う。その様はさながら本物の道化であり、これから先何が起こるかを知っている
「さてさて、クロックファイアちゃん監督による3部構成劇の第二幕が幕を閉じ、間も無く最後の幕が上がろうとしております」
「…………?何を言ってやがる?」
第2ラウンド終了まで残り20秒。
「大詰めのクライマックスを迎えるにあたりワタクシめはこれにて1度暇を頂こうと思うのですが……よろしいでしょうか?」
「ふざけやがって……!!遊びの時間は終わりだ!!」
ハイドロハンズが周囲の水を操り、圧縮して炸裂させようとする。
第2ラウンド終了まで残り8秒。
「あーあ、死なせちゃった」
「なっ…………!!」
トンッ、と。あまりにもあっさりとクロックファイアは人質を解放した。だがその人質はハイドロハンズが圧縮し放った高圧縮水弾により弾け飛び……衝撃が加わったことで爆ぜた。
現在プリティBB設置可能数20、フィールド既設置数0。
ラウンド終了まで残り0秒。
互いの体力は削りきられていない、だがクロックファイアの体力がハイドロハンズより大幅に削れていた為体力差により2ラウンド目はハイドロハンズの手に渡った。
だが……ハイドロハンズ、いや、アレックスにはいい知れない悪寒が全身を包んでいた。
「タイムアウトか……チッ。勝った気がしねぇな」
正直かなり苦労させられた。特にリアル方面から殴り込んでくるあの戦法には。正直いまでも腑が煮え繰り返っているし次のラウンドで確実に擦り潰す、擦り潰すつもり、ではあるのだが……。
(なんだ……?何が、俺にこんなに嫌な予感を告げてやがる?踊らされているのか?この俺が?)
そんな悪寒を振り払い意識を切り替える、自らの実力であれば力押しで通せる。2ラウンド通して本人のバトルセンス自体はそこまで高くないことは看破した、何をしてくるかは知らないが所詮は初見殺し特化であり冷静さを失ったところにつけ込む……そんなプレイスタイルなのだろう。
「俺がその程度の初見殺しで冷静さを欠くわけがないだろう……!」
そう、アレックスはそう結論を下した。
果たしてそれだけのプレイヤーであるならばどれだけ良かったことだろうか、これより数分後、彼は悪夢を見ることになる。