シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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滅ぶは悪の定めが故に

「うーーん、何というか、調子乗った奴の脳天は叩かれるまでがワンセットなんだなって」

 

「勧善懲悪のお手本だろこれ」

 

どっちかっつーと因果応報とかの方が適切じゃね?まぁそれは1度脇に置いておくとして。

 

『正義の流星が駆け抜けるぅーっ! 名前隠し(ノーネーム)選手為すすべもない!』

 

『これは完全にコンボが入りましたね、ここから巻き返すのは難しいでしょう』

 

実況解説も実にイキイキしてらっしゃる。無理もないか、誰だって奴の1時間弱に及ぶあの悪行を面白おかしく解説するのは難しいに決まってる。

 

(痛快っていうか惨劇の方が適切か)

 

何がまずいってあれがデータとして残り続けることだよな、あれだけのジェノサイドが未来永劫それこそ世界が滅ぶか保存媒体が全て消滅するかしない限り残り続けるのか……今この瞬間だけ文明が発達したことを恨まざるを得ないな。

 

「あれとあれ見せられた後だから正直もう4回くらい2人ともボコられてくれないかな、とは思うけどな」

 

「わかる」

 

両方とも試合が終わった後彼女さんと嫁さんが現れて死人のような顔をしたアレックスとジョンソンを慰め砂糖を数キロ単位で吐くかと思うほどのゲロ甘ラブコメシーン始まりやがったからな、心の底からあと4回は爆殺されてほしい。

 

「いやぁにしても栄枯盛衰盛者必衰の理を表すとは言うけど……見事なまでにボコられてんなぁ」

 

フルボッコ、というかフルボッコオブフルボッコだな。それ以外の言葉がもはや見つからない。

 

街中の至る所で爆弾が起爆し華が咲く、だがそれら全ては……周回遅れと言わんばかりに回避された。

 

壁柱道車、そして空。スーパーボールが意思を持って暴れ出したらちょうどあんな感じになるだろうか、蒼の軌跡がケイオースシティを駆け抜ける。ペンシルゴンだって下手じゃない、だと言うのに捉えることができない……いやあれ、まさかとは思うんですけど。

 

「通過地点を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?」

 

「それだけじゃない、シンプルに見てから回避してる。…………いや冗談じゃないぞ、あの女の予測爆破なんでぶっつけ本番で回避できるんだ?」

 

ペンシルゴンのマニュアル操作が入った地雷原を完全に回避しきることは俺もサンラクもカッツォも口を揃えて至難の業だと言い切ることができる、半分乱数の領域に足を突っ込んでいるからだ。銃火器を扱うのが下手だからとか抜かしてグレネードだけで25キル0デスを完遂した女の爆撃地帯をいとも簡単に?

 

「どうやら()()()()()ってのはカッツォの誇張表現でも何でもなさそうだな」

 

「あぁ全く……見事なもんだ」

 

「まぁ確かに見事なボコられっぷりかもしれないけど……仮にも負けてるんだからもう少しオブラートに包むべきじゃないの?」

 

「ん? あー違う違う。絶頂期からドン底まで急降下するのはあいつのお家芸だから」

 

その上でしれーっと予防策を用意した上で負けていくのがペンシルゴンというゲーマーだからな。

 

「ほんと、魔王みたいな奴だよあいつは」

 

「全くだ……さて、そろそろこれキメるか」

 

「おっ遂にか」

 

割と大分待ってたからな、キマる時間的にもう少し早いかと思ってたが。

 

ディスプレイの先で流星が宙を駆け抜けミスなんて単語は存在しないとばかりに完璧なコンボを叩き込みガリガリとクロックファイアの体力を削り取る様を眺めるのを1度止めて俺はサンラクの方を見る。

 

「…………それでは!!いざ!!」

 

そう言って覚悟を決めたように一気にプルタブを開けてぐいとその液体を飲む。その次の瞬間。

 

「んぐ、お"ぉ……!?!」

 

「え、何!?どうしたお前!!?」

 

なんかサンラクが変な声出したんですけど!?おいおい待て待てこのエナドリやっぱりなんかヤバいもんでも入ってんじゃねーの!?なんてもの取り寄せてんだよカッツォ……!

 

「…………い」

 

「え?何どうした?」

 

「これ…………ヤバい」

 

「いやそんなの分かりきってることじゃ……」

 

「思ってたレベルの3段上をぶち抜いてきてる」

 

「…………そんなに?」

 

あれ、それかなりヤバくね?

ヘルメットで隠された奴の目がどんどんキマっていくのが手に取るようにわかる、あれなんか速くない?こんな即効性あるのこれ?えっ、ちょっとこれなんか、ヤバい?

 

「なんてもん持ってきやがったんだあの野郎…………!過去最高レベルのキマリ方してやがる……!!く、くく、くはははは……!!!」

 

カフェインに呑み込まれたかとうとうおかしな笑い方をし始めたサンラクを1度殴って正常に戻すべきか心底悩んだ。

それと俺は果たして本当にこれを飲んで良いのか再び悩む羽目になった。漆黒の缶、燦然と輝くライオットブラッドの表記がまるで俺を合法の海に堕とそうとしているかのように怪しく光ったような…………そんな気がした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

サンラクとビャッコが黒いライオットブラッドに戦慄する中、指向性の爆破効果を持つエリマキトカゲ爆弾人形が起爆した。しかし届かない、真横から蹴り飛ばされて不発に終わる。

 

「キャットファイトならフルボッコにしてもいいってわけじゃないよね……」

 

ネコ科はネコ科でも種類が違う。ライオン(シルヴィア)マンチカン(ペンシルゴン)が殴り合っても勝敗は見えているしその過程でライオンがマンチカンに傷をつけられることすら万に一つもない。

これは先程クロックファイアがハイドロハンズにやってみせた不平等な戦いと同質なものでありながらより圧倒的な力による蹂躙である。

 

時間稼ぎ?10分持ち堪えれる技量があるならもう少し戦いという様相を成せたかもしれないが残念なことにその技量がないので不可能である、というか仕込みを全て真正面からぶち抜かれている以上どうしようもならない。

 

(確かにミーティアスは素早さ重視のキャラだけど、それもあるけど動きが最適化されきってる)

 

ならその最適解を逆手に取れば、と思えばなんと最適解をわざと崩してフェイントを仕掛けてくるという狡猾さも兼ね備えている、どうなっているんだとクロックファイアは心の中で悪態を吐いた。

仕込んでいた最後の人形爆弾を起爆するも事前の呼びかけによりNPCが避難していた為建物が倒壊した分のヴィラニックゲージしか貯まらず結果的に見込んでいたより遥かに少ない量のゲージしか回収することができなかった。

 

(いやこれ勝ち目ないなー、最高にノッてる時のサンラク君くらい強いんじゃ……)

 

これが全米一、これが最強。シルヴィア・ゴールドバーグ。墓守のウェザエモンが振り抜く超高速の居合と似通ったものを感じたペンシルゴンはしかして神速の断頭などウェザエモンでいくらでも体感してきた、つまり慣れている。

だからと言ってその断頭を行う下手人が超ハイスペックな高速機動を行ってくるとは聞いていない、というか聞いていたとしても対応できない、よって勝てない。

 

視界に映った瓦礫の中から槍がわりに使えそうな鉄パイプを引っこ抜いて構え、放つ。何やら言語化し難い挙動を持って回避された。

 

故にクロックファイアに残された抵抗手段は無い、だが果たすべき仕事は残っている。

 

(後は託すしかない、か……)

 

果たすべき仕事は3つ。

夏目 恵がそうしたように敗北を先延ばして時間を稼ぎ、少しでも後続を楽にする。

これまで行ってきた数々の暴挙の清算として華々しく敗北する。

そして可能な限り現在のシルヴィアの力を真打に伝える。

 

(最終的に目標さえ達成できれば――――……!!)

 

「特上寿司!!ぐわーーーーーーーーッ!?」

 

「…………何で今寿司の話?」

 

ミーティアスの超必殺技「ミーティアストライク」が放たれ、もろに直撃を喰らったクロックファイアが断末魔と共に今まで起爆してきた他の爆弾同様盛大に爆ぜる。

満足げであったことに対してミーティアスは理解を示している、勝敗に拘らずヒールプレイによって観客を楽しませることがメインのエンターテイナー的ゲーマーは存在しているのだから。…………とはいえ今吹っ飛んだ名無しのプレイヤーは少々やりすぎの部類に入るのだが。

だからと言って何故今ジャパニーズフィッシュオンザライスを断末魔の叫びに選んだのか、そこがわからない、いや本当(マジ)に分からない。

 

その叫びが誰に向けて放たれたのかはチームメイト以外知る由もない、具体的にはたった今叫んだ寿司が食べたい次鋒と焼肉が食べたい中堅と中華料理が食べたい副将と特段希望はないが強いて言うなればパスタが食べたい先鋒、そして結局どれが選ばれることになっても確実に全額を支払うこととなる大将にしか通じない叫びであった。

 

 

 

 

日曜の朝に放映される特撮の怪人か何かのようにそれはもう派手に爆発四散したクロックファイアではあるがあれは結局のところゲーム、中身たるペンシルゴンはピンピンした様子でVRシステムからログアウトしムクリと起き上がって笑いながらこちらに近づいてきた。

 

「いや強いねーー!ありゃ怪物ですわ」

 

「強いていうならどれくらい?」

 

「もっと分かりやすく」

 

「ウェザエモンにAGI+100」

 

「戦闘機か何かであらせられる?」

 

最後の方なんかもう酷かったからな、こっちは非道いではなく正しい方の酷いで。リフティングされるサッカーボールの気分が味わえそうだった。

 

「私としては割と粘れた方だと思うけど、どう?」

 

「……正直、()()で行く以上ゲージさえ何とかなれば喰らいつけることは出来る、かな」

 

「そっか、うん。じゃあ私せめてもの時間稼ぎに行ってこようか…………」

 

「あーー、その心配は要らなさそうだぞペンシルゴン」

 

「へ?」

 

そう言って振り向いてきたペンシルゴンに俺はサンラクに向けて指を差した。今のコイツは緊張とか一切ない、例のライオットブラッドにカフェインがどれだけ入っていたのか定かではないが……そう、キマりまくっている。

 

「…………ぶっちゃけ今中途半端に時間が生まれても途中でガス欠起こす可能性があるから、さっさとやりたい」

 

「えぇ…………カッツォ君私達になんてもの渡してんの……?」

 

俺もそう思う。そして予定通り早々とインタビューを終わらせたエイトさんが次の試合の開始を宣言し……サンラクがシステムに横たわった。

 

 

 

 

 

『さぁエキシビションマッチ、シルヴィア選手の出番となったことで爆薬分隊は厳しい状況になったのではないでしょうか?』

 

『そうですね、現状顔隠し(ノーフェイス)選手の実力が未知数ですのでシルヴィア選手に対抗できるのは――――…………』

 

「ねぇねぇビャッコ君、ぶっちゃけサンラク君勝てると思う?」

 

「…………わからない、かな。本当にわからない。ただ少なくともシルヴィア・ゴールドバーグが前回の試合より進化を遂げてるってことだけはハッキリしてる……お前が体を張って俺達に見せてくれたからな」

 

ミーティアス自体には一切のテコ入れは存在していない、ということは詰まるところ中身たるシルヴィア・ゴールドバーグの本体性能がさらにアップグレードされたということだ、そんな気軽にアップデートできるものなのかはさておいて。 

 

「お前が負けたのは実力もそうだけどシンプルに相性が致命的なまでに悪かった……ブレーキが存在しないんだから予測からの設置爆撃も困難だったんだろ?」

 

「まぁそだね、あそこまで捉えられないってのは衝撃だったけど」

 

1度止まって状況確認って思考が存在していないのだろうか、走ったが最後ノンストップ……壁走りと空中ジャンプと単純なダッシュを組み合わせたあのスーパーボール挙動は恐らく重心制御だけでなく、ずば抜けた即興ルート算出能力と判断力が可能にしているんだろうが……あれを相手にするのはキツイ。

 

「勝てるかどうかを別問題にして、あれ相手に時間稼ぎってのはまぁお前が体感した通りとんでもないくらい難しいだろうな……マジで何やってんだよバカッツォは」

 

夏目氏が稼いだ大体45分、鉛筆が2試合目で稼いだ大体25分+3試合目の口にするのも恐ろしい地獄の29分、そしてつい数分前まで繰り広げられた邪悪撲滅の10分そこそこを足してなおあのアホは来ない。ふざけてんのかあのアホは、いくら俺が最後の最後、最終ラインに残っているとしても下手をせずともあっさり俺とサンラクがボコられてしまう可能性だってあるというのに。

 

「俺達は極論時間稼ぎに徹すればいい……そしてサンラクは時間稼ぎの為に1ラウンドは確実にもぎ取る腹積りだ。だからその過程で何か起これば……勝てる可能性が出てくる。っつっても俺達の最終目標って「シルヴィア対魚臣 慧」のマッチアップの成立だからサンラクは絶対に負けるんだけどな」

 

ただし……奴のテンションが振り切れた場合だけはその限りではない、が。

あいつ多分今頃カッツォに向かって唾でも吐きかけたい気持ちになってるんじゃなかろうか、偶々とは言え八百長じみたことをさせられる羽目になってるんだから。

 

『ところで爆薬分隊(ニトロスクワッド)の皆さん、魚臣選手はどうされたんでしょうか?』

 

「ちょっとお腹の戦場で衛生兵が撃たれたそうなので苦戦するそうでーす!」

 

この場に居ない人間の腹の具合の事情をお前がどうして正確に把握しているんだ、というツッコミはしない方がいいんだろうな、うん。

 

そうしてサンラク……いや、顔隠し(ノーフェイス)対シルヴィア・ゴールドバーグの試合が始まる。

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