シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
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シルヴィアの扱うミーティアスに攻撃を当てることができて初めて一人前、なんて言葉が存在するらしい。
カッツォが言うにはあまりにも強く光を放ち続け今なおその無敗伝説を更新し続ける彼女の扱うミーティアスは「当たらなければどうということはない」という浪漫を大真面目に実行する為生まれた格言……とのことだ。
「匿名掲示板にシルヴィアミーティアス対策スレなんてものが存在するんだけど、どう考えたってアマチュアじゃない奴の書き込みがあるレベルなんだよね」
そうカッツォは言っていた、そこまでするレベルで全世界の格ゲーマーどもはシルヴィアを打ち倒すことを目指しているわけだ。
「…………その結論こそが、カウンター」
「………そうよ、ミーティアスという捉えること自体が非常に難しいキャラが相手である以上こちら側が出来る動きは「カウンター」、だからシルヴィアミーティアスに一撃当てられたら一人前なの」
「それって要は「超高速機動で放ってくる攻撃に対処してカウンター決めれたら一人前」ってことじゃないの?」
「だから今まで最適解とされてきたのがアムドラヴァなんだろ……掴みさえすればスリップダメージ、高い防御性能っていうミーティアスが苦手とする要素が多いから」
「じゃあ…………事前に聞いた時にも言ったけどさ、
「あぁ……まぁ、そうだな」
アムドラヴァの様な高耐久と高いカウンター性能こそがミーティアスに対するメタ、となればその対極は当然不利となるわけで。
具体的には「近距離型に弱くて」「ミーティアスの速度に追いつけない」キャラになるわけだが……今回サンラクと俺が話し合って結論に至ったキャラはこいつだ。
『さぁシルヴィア選手は変わらずミーティアス!そして
人を煽るにも色々ある、例えばシンプルに馬鹿にするだったり手袋地面に叩きつけたり果し状送ったり道場の門を蹴破って土足で踏み入るとかだったり。
そしてシルヴィアミーティアスに対してカースドプリズンを選択するということはそれらと同等のことをしているに等しい。
カースドプリズン、呪われた監獄。
ミーティアスにとっての宿敵。
シルヴィアミーティアスを相手にカースドプリズンを選択した勇者は過去何人もいたが……その誰も彼もが情け容赦のないあまりにも圧倒的で純粋な力により捩じ伏せられ、2度と立ち上がれないのではと思う程に叩き潰されて散っていった。
「シルヴィアミーティアスにカスプリを使うってことはつまるところ
さぁ、存分に暴れてこいよサンラク。
◆◆
時間稼ぎがしたいならカースドプリズンは違くないか?そうペンシルゴンは問いかけてきた。
だが俺とビャッコがこの2日間という短い時間の中で3時間というそれなりに長い時間を費やして話し合いを行なった結果出た結論としては「カースドプリズン以外のキャラを
「シルヴィア・ゴールドバーグにお前がなんとか喰らい付くには確かにカースドプリズンを選択する行為はほぼ自殺行為に等しい」
と予め宣告されたし俺も自覚している、実際もっと扱いやすいキャラは何体かいたし何ならミーティアスのミラーマッチでも良かった。
だが今回の俺の目標は勝つことではなく時間稼ぎをすることだ。ここで問題になってくるのはただ単純に勝つよりもそれが難しいということというだけで。
(例え突如ゼンイチを大きく上回るプレイヤースキルを得たとしても、突如カスプリのパンチ1発がミーティアスの体力を4分の1くらい削る超高火力になったとしても。時間だけは唯一不変……!)
勝ちは諦めよう、だが初っ端から諦めムードでやったって時間稼ぎにはならない……いいとこ時間稼ぎとすら呼べない短い時間でトレモのサンドバッグよろしく袋叩きにされ続けるだけだ。
全キャラ使って、カスプリ以外にも確かに扱いやすいと感じたキャラは何枚もいる。ランゾウ、ティンクルピクシー、PSYボーグ・ロード……だが、それら全てを差し置いてでもこの呪われた監獄を選ぶ意味はあった。
前作……というより、ギャラクシア・ヒーローズ歴代作品全てを通してダイアグラム3:7の最早宿敵とは何なのかレベルで悲惨な戦績を残すカースドプリズンだが……俺とビャッコが注目したのはその圧倒的有利不利の差ではない。
いつだってカースドプリズンはその3割だけは譲らなかった。
今回の時間稼ぎにおけるワンチャンはその3割にかかっている。
俺がケイオースシティに現界し、初期スポーン地たるトラックに偽装した輸送車から身を降ろす。
そしてその感覚を確かめる様に拳を開閉し……ビャッコから教わった決め台詞を叫びながらトラックに偽装した輸送車に拳を叩き込んだ。
「さァ…………!!暴君の時間だ!!!」
横方向から加えられた凄まじい衝撃はいとも容易く輸送車を粉砕し金属片を撒き散らす。そして呪われた牢獄に囚われた俺に未だ許された権能を解放し、纏う。
右手にガトリングガンを、左手にショットガンを。両脚に俺の鈍足を補うタイヤを装着し、
「破壊は暴君の嗜みィ!!!」
路地裏から素早く大通りへ飛び出し手頃な店のショーウィンドウを叩き割る、衝撃はガラスを殺傷能力の高い狂気へと変貌させ辺り一帯に被害を撒き散らさんと飛び散った。
「しゃあコラ逃げ惑え
そう叫び再び破壊作業に従事、どうせその内来るものはやってくるんだから今のうちにゲージを可能な限り溜め込んでおかないとジリ貧になって結局負ける。
両脚のタイヤが唸りを上げて俺の鈍重な肉体を豪速で駆動できる様に回転数を上げ、蹴りを叩き込んだトレーラーがサッカーボールか何かの様な手軽さで吹っ飛んでいく。
「いぃぃぃってこぉおおおおおおい!!!」
そして次は適当に目に付いた軽自動車を持ち上げその規格外の膂力を持って放り投げる。向かう先は真っ直ぐ、ビルの壁。突き刺さった軽自動車からは黒煙と炎が立ち上りそして爆ぜた。
「ふぅぅぅう…………!!今俺は、過去最高にキマってる!!」
「へぇ?私の前にソレで来るだけあって……舐めプの類じゃあないみたいだね」
「…………出たな?
そしてそれは現れた。
燃え盛る業火を背に腕を組んでこちらを見定める様に見つめる1つの人影。白系のスーツの各所に金のアーマーを装着し、五芒星の形を模したゴーグル。
宇宙創生の神ギャラクセウスから流星の力を与えられたその男の名は。
「ミーティアス…………!!」
「いいね、その名前で呼ばれるのは大歓迎だよ……さぁ来いヴィラン!!!!この「ボク」、ミーティアスが君に引導を渡してやる!!」
「受けて立ってやるよこの野郎、そう簡単にいくと思うんじゃねぇぞ!!この「俺様」…………カースドプリズン相手になぁ!!!」
青の流星と赤黒い凶星の激突が始まる。
◇
「うーん、改めて思うけど跳ね回るスーパーボールだねあれ」
「ウェザエモンにAGI+100……だったか?」
「比喩表現無しでね」
ウェザエモンの更に上と聞くと本当に人間と戦ってるのか疑わしくなってくるな。画面の先ではカースドプリズンの右腕に取り付けられたガトリングガンから放たれる弾幕をまるで空中を泳ぐかの様に駆け抜ける流星が鉛筆をボコった時同様「どういう思考回路をすればそんなことが可能なんだ」と思わざるを得ない一部理解不能な立体機動を持ってカースドプリズンを急襲……が、鉛筆と同じ手が通じるほどアイツは甘くないし何よりその挙動には
『奴は俺達5人の中でも最弱ゥゥゥゥゥゥッ!!!』
「間違ってないんだけど後でお仕置きだね」
「間違ってないって認めてるじゃねぇか。それにしても……本当にミーティアスが大好きなんだなゼンイチ様は、原作で見たことある挙動が多い」
サンラクに教えたのはミーティアスのバックボーンではなく、その戦闘。ミーティアスはその特性上線のみで行動を再現することが可能かつパターン化した攻撃のルートを辿ることが多いため
両脚のタイヤがそれぞれ逆方向に回転しカースドプリズンの身体が滑らかに回転し、空中にガトリングの弾がばら撒かれる。だが当然それは回避され……よし、狙い通り。
壁を蹴って近づいてきたミーティアスが空中で回避をするならばそれは空中ジャンプの他にない、そしていくら無敗のゼンイチ様でもゲームシステムに逆らうことはできない。
「だからカウンターが最も効果的な対抗手段だって言われてるんだけどな」
そしてカースドプリズンが放った散弾が僅かだとしても、それでも、それが意味することは余りにも大きい一撃が入り…そしてHPバーが削れた。
「1発、当てた……!!」
夏目さんの驚愕の声が横から聞こえる、そりゃそうだ、プロですらないぽっと出のアマチュアがプロに伝わる格言をあっさりと達成してみせたのだから。
(だけど………
結構雑に弾幕貼ってたからな、無駄撃ちとまでは言わないが。ミーティアスが気付いてない……なんてことはないだろうな、多分。格ゲーやってる奴は誰も彼もやたら相手のコンディションを予測するのが上手い。
「アレが早い段階で来てくれるならそんなこと気にせずとも問題ないんだけど……結局条件を絞り込むまでには辿り着けなかったからなぁ」
「色々試してみたけど不確定要素が多すぎるもんね……ハッキリしてるのは大規模な戦闘が起こった時ってくらい?」
こうなって来ると1ラウンド目をサンラクが持っていくのは難しいか……?
そんなことを考えながら俺はカースドプリズンとミーティアスが殴り合う方ではなく、混沌の街の空を睨みつけていた。
◆◆
「――――――だから、シルヴィアミーティアス相手に消防車やらダンプやらの火力を上げるだの耐久力を上げるだのする取り込み方をするのはやめた方がいい、シンプルに中身のスペックが追いつけるわけない怪物なのにキャラステータスの方でも不利を背負う必要はないからな」
ビャッコにそう言われた。
あぁわかる、何せ相手はスパコン何台繋げてるのかさっぱりなとんでも挙動をなんてことない顔で連発してくる怪物だからな。俺も回数を重ねればあるいは……だが、それも試行回数を何度も積み重ねて起こせる結果でしかない。
(何より俺とバトルスタイルが似通っている以上その面での巻き返しも難しい……っ!!)
俺と同じテンションファイター、メンタルがそのまま動きに直結する手合い……ついでに言うならば大体の攻撃を直感でなんだかんだ捌ける手合い。カッツォやらペンシルゴンやらが理詰めで対策するなり何なりで進むところをゴリ押しできるタイプ、謎解きあたりで盛大にすっ転ぶまでがワンセットな。
さっきの弾幕も多分「銃口」と「弾速」と「発射音」から「着弾時間と着弾地点」を予想した上で回避行動取りながら突っ切ってたんだろうな、TASであらせられる?
(元々のゲーマースペックの高さに加えてこのシリーズにおける造詣の深さが……強さのタネかっ!!)
俺の様な様々なゲームを渡り歩くわけではなく、ただ1本。これだけに情熱と心血と愛を注いできた結果生まれたのが今目の前にいるこの怪物……シルヴィア・ゴールドバーグ!!
そう結論が弾き出された瞬間俺の頭が横からものの見事に蹴り飛ばされ、数十メートルほど吹き飛ばされた。
「軽いオブジェクトを優先的に取り込んだのは評価点、ただでさえ鈍足な脚の上に行動範囲を狭めなかったのはナイス判断だね……とは言っても、対応できるかは別、でしょ?」
「…………ぐうの音も、出ねぇ……」
あぁ確かにその通り、誘導に負けじとカウンターを狙ってみたりこちら側から攻勢に出ようとしてもその全てを封殺され逆にカウンターを叩き込まれた。そもそも誘導方針が途中から切り替わって防御力やら火力やらが削り取られる、そういう装甲を取り込むしかない形に選択肢を狭められた感覚がする。
教え込まれた基礎的な機動ルートも悍ましい速度で矢継ぎ早に繰り出されては対処のしようがない……いやビャッコ、これ無理だわ。俺らがやり合ってるの人間じゃねぇ、人間の皮を被ったTASだわ。
(このラウンドを勝ちに行くのは……難しいだろう、な。時間稼ぎとしちゃまぁ……上等か?5分か10分は粘れたろうし最低限のノルマは鉛筆が稼いでくれたしビャッコに引き継いでも……俺は余興の余興な訳だし)
そう思って目を閉じる、所詮は「魚臣 慧 VS シルヴィア・ゴールドバーグ」がメインなのであって俺は前座、であるからして俺の役目は……あぁモチベーション下がってきて……ない?
俺の身の内で高らかに何かが燃え盛っている。俺の血液の中を何かが凄まじい速度で循環している。
頭は信じられないほど冷静で、感じられないはずのリアルの体が燃え盛る様に熱いのを感じる。感覚は研ぎ澄まされ、未だ若輩の俺が見るはずもない暴徒の血で出来た海を幻視し――……
「はぁ、カースドプリズンで挑んでくるからには自信か何かのサプライズでもあるのかと思ったけど……ただの時間稼ぎか」
そして次の瞬間腹に蹴りを叩き込まれる。
「あれだけ時間が経ってたのにケイが来ないなんて……トイレにしたって長すぎるでしょ。何かのトラブルがあったのはほぼ確実、貴方達の目的は時間稼ぎ」
壁に叩きつけられたところを首筋に回し蹴りがめり込み地に伏せることになる。
「つまり……貴方がそれを選んだのも、パフォーマンス。ただの時間稼ぎ……そうでしょ?」
首筋に入った一撃が怯みモーションを誘発し動けなくなったところにミーティアスが跳躍、宙を蹴って宙返りと共に飛び蹴りが放たれ……その顔は恐らくディスプレイで見ている人間には窺い知れず、俺だけが見ているだろうもの。
(あぁ、この顔見覚えあるな……そうだ、俺が浮かべる表情とそっくりなんだ。あれはそう、ゲーム内での長時間作業が確定した時の俺)
そこまで辿り着いて初めてシルヴィアの現在の心情について考えてみた。
なるほど、確かに時間稼ぎだと理解した上で勝つつもりが一切ない相手と対戦させられることになるのは確かに不快だろう、なんならその相手に舐めプまでされて。そこに対して思うことはない、というか何言っても向こうのほうが正論言ってるので何も言い返せないし何か言い返したとしても「お前舐めてんの?」と返されるのがオチだ。
だからそれは世間一般的に見れば「正しい」に分類されるだろう。
(――――――ふざけんな)
だがそこで俺の意識の中でカチッと何かのスイッチが切り替わったような感覚がした。身体の中を巡る燃え盛る何か……いや、カフェインが俺に熱を与えた。
頭は変わらず冷静で、思考はクリア。そのクリアな頭の中でやけに簡潔な指令だけが全身に鳴り響く。
(ふざけんな、ふざけんな。ふざけんな!!!)
わざわざ遠くから出張ってきて、ゲームシステムを数時間で頭に叩き込み、キャラの対策やら何やらに頭を抱えて、頭おかしいサイズのパフェを食う羽目になり、下手すればウェザエモン越えの人類を超越した怪物相手に接待プレイ。外道がやりやがった畜生プレイが先に全世界に公開されたせいで奴の同類扱いされることとなったのがほぼ確定な上全世界に俺のサンドバッグシーンが中継され……挙げ句の果てにそれだけやった末の怪物が俺に向けてきた反応は何だ?…………そうだな、あの顔をしている時の俺の心情に当てはめて考えてみよう、「うんざり」と「がっかり」ってところか?
「あーー、うん。なるほど、なるほど、なるほど……ははっ、はははっ」
第2ラウンドに移行するまでの10数秒で結論に至った俺は全てを放り投げた。