シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
右脚の膝蹴り、掌底、肘打ち、肘打ちから繋がる垂直回し蹴り…………全部見える、見切れる、だってそれら全て
「ようやく映像と体感が一致してきた…………!!」
「バカな……
俺の強みは数多の音ゲーから培った以前見た動きを記憶し、それらに対する対応を高精度で行えること。他のプレイヤーだって映像を見て、対策を考えるなんてことは当たり前にやっているだろうが俺が覚えるのは攻撃の発生だ。どんな動きにだって大なり小なり必ず何らかの予備動作が起こる、完全ノーモーションでの攻撃なんてものは存在していないのだから。そして、俺はその攻撃の起こりを決して見逃さない!!
(蹴りは基本一瞬溜めがある、肘打ちからの派生は手からではなく脚、拳にほぼ溜めはない、気合いで捌け!!!)
【執行】でSTR偏重ステータスになっている上にフォクスライによる加速と
「お前のHPバーが消し飛ぶまで!!!」
「やってみろぉ!!」
俺の右肩を狙って放たれたハイキックをわざと受ける、多少のダメージは許容圏内だ俺のHPより先にお前のHPを削り切るのみ!!攻撃を喰らわなかった方の腕で脚を思い切り掴み地面に引き摺り落として拳を振りかぶり顔面狙って振り下ろす、前に拘束から逃れたバッドテイルの拳が逆に俺の頭を砕かんと振るわれ……想定内の挙動だ。
最速で拳がどこに向かって振るわれるか認識できた以上後は最小の動きで回避を行いカウンターを叩き込む、それだけなのだから。
「なっ……ぐぅっ!!!?」
「読めている」
頭を傾け拳を逆に掴んで引っ張る、目の前に殴りやすそうな腹が出てきたからアッパーを叩き込む。
ほんの少し浮き上がった体を地面に叩きつけ……ヴィラニックゲージは足りない、か。ならばこうするまでだ。
「【
振り下ろす。
「【
◆◆◆
迫り来る全てを簒奪せしめる刃を見た瞬間、
今自分と戦っている宿敵がどうだとかこれからの試合がどうとか諸々全てが頭の中から綺麗さっぱり削除され彼女の思考は今や「どの様にしてこの局面を乗り切るか」に先鋭化される。
(怯み、体力、受けるべきではない。
怯み、
解除、間に合う、間に合う、
ならばむしろカウンター?
難易度が高い
力を抜け 脱力しろ―――…………)
「今」
簒奪の刃が地面に突き刺さる、だが使い手が望んだ結果を得ることはできなかった。
「………………股抜き、まさかあの状態から出来るとはな」
「死ぬ程積んだ修練の成果、だよ」
「修行の一言で済まされるとこう、なんか腹立ってくるな」
「ふふ…………さぁ、続きだ」
彼女はバッドテイルを、ジャスティスダイルを、ギャラクシア・レーベルを愛している。何処かに自分の目指す理想の英雄がいると信じて、いないのであればその理想を自分自身が体現してみせるという想いを持って。故に彼女は笑う、戦意を漲らせる。
(その想いは、きっと君も同じなんだろう?)
そんな少し場違いなことを考えながらも、3度目の激突が始まった。
「ここォ!!!」
「この程度で……!!」
黒い閃光が混沌の街を駆ける、白い灼光が黒を喰らい尽くさんと言わんばかりのラッシュを仕掛けながら猛追する。
街が砕け、光が通り過ぎた跡が惨状という形で示される。
「ケイオースキューブは考えないのかい!?」
「どの口が言いやがるッ、お前だって一切考えてないだろ!!」
「尤もだ……!!」
ジャスティスダイルの強烈な裏拳をバッドテイルが受け止め一瞬の停滞、その中で行われた少ないながらの言葉の応酬からお互いに「こいつを叩きのめす以外の勝利無し」という形で一致した。
お前には負けられない、キューブ確保なんて生温いことは考えない、お前を、お前を叩き潰す以外に己が己足らんと証明する手立てはない。
「ギアを、上げる……!!」
「なっ!!?」
ジャスティスダイルが動く。STR偏重ステータスと化していたが故に不足していた機動力を上げにかかる。
ジャスティスダイルというキャラは短期決戦は基本的に不利とされている、元々のステータスがそこまで高く設定されていない為【正義執行】による補正をかけなければスペック差による不利を背負うことが多い為である。だが長期戦においてことジャスティスダイルを上回るキャラは存在しない、全てのステータスを理論上全キャラ中最高クラスにまで上げられるという強みは長く苦しい時を経て相対する存在に示される。
「【
瞬間、ジャスティスダイルの輪郭がブレたかの様に……その実そう見える程に速度が急上昇した。
速度補正の【執行】の2回宣言、【執行】ゲージをひたすら溜め込みこのファイナルラウンドにまで持ち越したことにより起こる急激な速度変化はいくら対ジャスティスダイル勝率100%を誇るランファンと言えども即応は叶わない。
(見え――――だが、捉えてみせる!!!)
一点狙い、勘、生存本能。負けたくないという心の内で猛り今までもこれからも消えることはないと断言できる業火を原動力にバッドテイルが迎撃に備える。
「遅い――――――!!!」
「そうか、なら
「――――【
白い光が全てを置き去りにした。
◆
自分の認識よりも早く体が速く動く、バッドテイルが構えているのが見えた、もう止まれない、だから「もっと」を欲した。
一切合切を置き去りにして放った拳に確かな手応えが伝わる前に何とか体に追いついた思考が「追撃しろ」と絶叫する、任せろマイブレイン俺の体を俺が扱えなくてどうするって言うんだ。
ここでめり込んだ確かな感触、しかしその余韻を味わうこともなく身体は既に追撃の準備を終えていた。回転をかけた全力の回し蹴りが俺の想像を遥かに超える速度で炸裂、……制御が効かない、2段階速度急上昇は事故リスクが高すぎてロマン枠とすら呼べないだろうな。エナドリを決めているからこそ何とか成立している様に見えるが実際のところはカツカツだ。多分あの黒いライオットブラッド以外のエナドリをキメても今のパフォーマンスが出来るかどうかは非常に怪しいところだが。
「もう一撃…………!!!」
まだ足りない、まだ、まだ出来る。バッドテイルが吹っ飛ぶまであとコンマ何秒だ?何秒あれば問題ない?物理演算によって空中に浮かぶバッドテイルが慣性に従い吹っ飛んでいくまで――――いや、気にする必要は、ない。
今の俺なら、できる。
回し蹴りの体勢から即座に両手貫を行うべく両腕を引き絞り腰に添える。狙うは胴体、決まる決まらないの問題じゃない。決める。五指をピンと伸ばし肋と肋の間をこじ開けんと一切の迷いなく放ったそれが炸裂した次の瞬間。
「――――――…………ころす」
黒い狐の本性を引き摺り出してしまった。
矜持も、怒りも、想いも、執念も。何もかもを注いで
次回「黒:覚聖」