シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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聖義Ⅴ:なすべきこと

本来ならこんなところで聞くはずのない声、振り返り、視覚でそれを認識することで空耳でないことをしっかりと目が伝えてくる。そして得られた情報を脳が処理し酷くシンプルな2つの結論を提示してきた。

 

見捨てるか、護るか。

 

駆け巡るありとあらゆる言い訳、勝負を諦めるのかという俺自身に対する疑念、NPCだぞという酷く客観的で残酷な思考、ヒーローキャラを使っていない以上助けても何の得にもならないという冷静で冷徹で合理的な思考から生まれるそれら全てを。

 

「たすけて……だれかぁ!!」

 

「――――ッソがぁ!!!!?」

 

一瞬で放り捨て、助けを求め伸ばされた手を掴む。

 

 

 

 

 

 

 

看破された、私の奥の手の弱みを。

 

実家に伝わる秘伝の術、生命を薪に焚べて敵を屠る藍家に伝わる実践式気功術の最大にして最悪の弱点を。

 

(だが知ったことではない、私は今()()()()()

 

看破できたから?だからなんだと言うのか。対処はされている、だが完璧ではない。私のこれにも限界はあるがその限界が訪れる前に削り倒す。

私が(バッドテイル)である為に、お前にだけは負けられないんだジャスティスダイルッ!!!

 

 

(繰り出したラッシュは捌かれたがまだ押し込める、まだ、まだ……!!!)

 

「――――――たすけて、ママ……!」

 

「………………!!!?」

 

声がした、ジャスティスダイルのほんの少し後ろ、瓦礫の中。蹲り涙をこぼす少女の姿が私の視界に確かに映る。

研ぎ澄まし張り詰めた神経が情報を脳に伝え脳が情報を処理し終えた後に出た結論は「何故そんなところにいる」、そして次に脳はこの状況に対するアンサーとして戦闘続行を言い渡した。

 

(言われるまでもない…………!!)

 

「勝機!!!」

 

ほんの少しの乱れが見えた。すぐ真後ろのイレギュラーに対する対応にほんの少し迷いを生じさせたジャスティスダイルを見て私は拳を振るい……見た。

 

 

 

 

 

「………………ッソがぁ!!!!?」

 

悪態をつけども、私は微塵も視界に映っておらず。その手は闘うための形を作らず誰かを救う為に差し伸べる為に大きく、大きく広げていた。次の瞬間私が放った正拳をマトモに受けども抱き抱えた少女を落とすことはせずバックステップでジャスティスダイルは離脱していく。

 

「っぶねぇ……下手に強攻撃だとかだったら怯んでボッコボコにされてた……!!」

 

何を言っている、あのラッシュ攻撃の後は強攻撃がフレームの関係で出せないのは知らないわけがないだろう。いや、あるいは本当に知らないのか?いずれにせよ……

 

「……何故そんなことをした?」

 

「理解できないって顔してるな、ヒーロー。そりゃそうだよな……見方によっちゃ試合放棄みたいなものだもんな」

 

「…………あぁ、その通りだ。何故、何故そんなに一切の躊躇いなく手を伸ばせたんだい?」

 

疑問は尽きない、所詮NPC、所詮は虚構。ましてやヴィランを使う以上救う意味も価値もないはずだ。何故そんなことをしたのだ。だからその問いに対する答えは、私にとっては衝撃的だった。

 

「…………ジャスティスダイルなら、そうすると思った。俺が思うジャスティスダイルならきっと見捨てない、見捨てられない。そう思っただけだ」

 

「………………!!」

 

「もちろん、迷いだってあった。負ける可能性が十分すぎるほどにある以上決してやってはならない行為だとわかっていた」

 

言葉が出ない。

 

「けどあの一瞬、この子を護る以外には俺の頭は何も考えちゃいなかった」

 

体が震え、熱くなる。

 

「伸ばされた手を握れないジャスティスダイルなんて、俺は見たくない」

 

息を呑む。目の前にいる純白の鎧を纏った男の中身があの夜の彼とどうしようもなくリンクしていく感覚。

マスクで声がくぐもっていて聞き取りづらかったが、その一言はなぜか鮮明すぎる程に私の耳に飛び込んできた。

 

そうかい、そんな所に居たのか、君は。

 

1つ言葉を紡ぐ度、彼の体から何かが立ち昇っている気がした。熱が発され、周囲を焼け焦がしていくような強い強い光が見えるような気がした。

 

「だから俺は手を伸ばした。なすべきことをやる為に、俺が…………(ジャスティスダイル)である為に」

 

わたしのヒーロー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、

 

(あっッッッッぶねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???)

 

ヤバかった!!強攻撃飛んできてたらマジで死んでたんじゃねぇの!?いや落ち着け落ち着け、結局強攻撃は振られなくて俺のHPはまだ心許ないにも程があるにしろ残っているんだ、まだ慌てる時じゃない。まだ!!大丈夫!!

さてここからのプランを確認していこう、まずは幼女のこれからについてだ。腕の中にすっぽりおさまる大きさの小さな女の子を覗き込み声をかける。

 

「もう大丈夫だぞ、……あー、無事か?」

 

「お、おじちゃん……」

 

「おじ……まぁ見た目だけ見ればそうか。……お母さんは?」

 

「しらない……」

 

しらないかーそっかー。もしかしたらここら一帯のどこかで瓦礫に潰されて……はあまりにも酷か、僅かな希望を込めるならば反対側のスタジアムだろうか?確かこの試合でも避難先はあそこだとどこかでNPCが叫んでいたような。

 

「そっか……わかった。いいか?1回しか言わないからよく聞いておくんだ。これからおじちゃんは……そう、大事な用事がある。それこそ君がお母さんと一緒にいることぐらい大事な用事だ。だから君とは一緒にいてあげられない」

 

「…………やだ……」

 

「ごめんな、けど、本当に大事なことなんだ。だから君は火事とか落ちてくるものだとかに気をつけて、まっすぐ向こう……スタジアムの方に走って行きなさい。そして必ずお母さんを見つけるんだ」

 

「おじちゃんは……?」

 

「言っただろ?大事な用事があるって」

 

そっと腕から幼女を降ろし、地面にしっかりと立たせた後涙と泥と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を可能な限り優しく拭う。マジでごめんな、このゴツい装甲じゃどれだけ丁寧にやろうとしてもちょっと痛いかもしれないけど我慢してくれ。

 

「君がお母さんの所にたどり着くまで、ここで戦う。決して振り向くな、決して足を止めるな。泣いても良い、こけたって良い。ただ絶対にお母さんを見つけるんだ……いいな?」

 

「わ、かった……」

 

「良い子だ。さぁ、行け!!!」

 

「…………!!」

 

パッと飛び出した幼女を見送り再びバッドテイルを睨み付ける、次の瞬間。

 

「おじちゃん!!!!」

 

 

 

 

 

 

――――ありがとう!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

思わず振り向く、少し離れた先でこちらを見ながら手を振る幼女が居た。

全く、振り向くなって言ったはずなんだがな?

 

「任せろ、絶対に約束を守ってやる」

 

足を大きく広げ、中腰、そして右手を腰に添え左手をそこにあるべきものを握りしめる為に前へ。

 

「隠し球だ。最後の締めに取っておくつもりだったが、なりふり構っていられない。約束しちまったからな。……【罪武器:(ギルティウェポン)傲慢の刀(スーペルビア)】!!!!」

 

紫電が大気を焼く。正体不明の煙が渦を巻き、それを象る。豪奢な細工が施された刀が顕現し、柄を握り締め抜刀。

 

抜き身の刀身は外側の絢爛さと裏腹に見窄らしく、まともに抜けたことすら不思議なほど錆び付いている。これこそ傲慢の刀、上面を塗りたくったプライドで固めた……七大罪の名前を冠する武器が1つ。

 

「どうしたどうした、ヴィランの俺が応援されてヒーローは応援されないなんて……立場が逆だぞ?まるで一般人、そこら辺のモブじゃないか」

 

「はは、言ってくれる……というか君こそ、個人を助けるような在り方ではなかったと思うんだけどな」

 

「言っただろ、俺が(ジャスティスダイル)である為に。ってな。俺が俺であることを貫く為にあの時手を伸ばしたんだ」

 

刀の鋒を向け、告げる。

 

「ここは俺達の世界だ。向こうの世界(ギャラクシアコミック)じゃない。在り方云々は論外…………はっきり言ってやるよ。世界線(ユニバース)が違うんだ」

 

「…………なら、私も……()()も、バッドテイルである為になすべきことを成す。それで良いか?」

 

「知るかよ、ところで待たせて悪かったな?調子はどうだ?」

 

「心配しなくて良いさ、今ちょうど最高潮を迎えたところだ」

 

「そうかよ、なら遠慮なく…………行く、ぞっ!!!」

 

何度も似たような会話をこの1時間の中でやった。前回は何分前にやったんだかもう随分と昔、それこそ何年も前の会話のように感じるそれを済ませ、踏み込み、加速。一気に肉薄し懐へ潜り込み逆袈裟を放つ。指2本で止められたことを認識し1度手を離してディレイを挟みそちら側へ対処しようとしたバッドテイルが伸ばした腕をグラップ。

 

「しまっ……!!?」

 

「やっぱガタついてんじゃねぇか!!」

 

空中に放り投げ、すぐさま手元に刀を再展開。抜刀の構えを取り、叫ぶ。

 

「傲雷!!!」

 

傲慢な雷を刀身から放つファンタジック抜刀術。

空中で身を捻りその一撃を回避したバッドテイルを……俺は待ってた。

 

「サンラクよりかは劣るが……見取り稽古は俺も得意なんでな?」

 

再度納刀、強化したステータスはあのカースドプリズンを超え、あの絶技の完全再現とまでは言わずとも可能な限り近いレベルまでパフォーマンスを引き上げること自体は可能!!!

抜刀時スーペルビアは刀身に紫電を纏う、だからこれは断風であって断風じゃない!!

 

「紫光煌めけ」

 

「…………来い!!」

 

あくまでも受け止める、と。上等だ。後で文句言うんじゃねぇぞ!!

 

天断風(アマノタチカゼ)!!!!」

 

紫の電光が、遍くを断つ風と共に鳴き荒ぶ。

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