シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
◇
(えーーーっと……?あ、ここから2駅先が最寄駅ね。いやぁホテルから案外近かったなぁ……試合会場)
現在この国の首都の交通を担う環状線を走る電車の中、2駅先の試合会場……つまりは、キョウの応援に向かっている真っ最中である。
「…………最後に会ったのが2日前……なんだよなぁ……間違いなく怒ってるよなぁ」
内心が漏れ出た声に思わず口を塞ぎ周りを確認、大体の人はイヤホンしてたりそもそも無視してたりだったので気にしすぎだと開き直る。
が、それはそれとして2日ぶりのキョウである。
(マジでどういうリアクションされるか予想が付かないんだよな、怒られる……いや、大会前だし無視される、とかか?それは嫌だな……)
おや、なぜ俺は無視されることに対して拒否感を示したんだ?
それを探るべく心の深い部分まで理由を探ろうと思考の海に飛び込もうとダイブする「次は〜、◯◯駅〜、◯◯駅〜。お乗り換えは〜……」直前で目的の駅に到着した為中断を余儀なくされた。
「とりあえず、顔合わせてから考えるか」
スマホのマップアプリを立ち上げ道を確認しながら俺は誰に言うでもなく呟き歩き出した。
「おや?奇遇だね」
「え?」
◇◇◇
「京極さん!!そろそろ試合会場です!!!」
「…………あ、うん。わかったありがとう……」
「………………」
ほとんど上の空、本当に聞いているのかどうかも怪しい少女を心配そうに見つめた後声をかけた少年は他のメンバーが待つ集団の中に駆け込んだ。
「どうだった?京極さん」
「……どうっつーか、やっぱどう考えても変だよなって言うか……」
「龍宮院先輩、ここ数日ずっとあんな感じだから心配……」
話の内容は言わずもがな、自分たちが敬愛する少女のここ数日の明らかな異常及び不調の原因である。
「昼休憩の時飯は食べないし……食べても栄養補給食だし」
「普段は信じられないくらい盛られた昼飯平気な顔して美味そうに食べてるもんな」
「稽古に身が入ってないって怒られたのなんて私、京極ちゃんとは結構長いこと一緒に剣道やってるけど今まで聞いたことないわよ」
「他にも――――」
ここ数日の明らかな不調、もしや大会前の緊張か?とも考えたものの
「夏バテ……の線は?ほら、京極ってそういう体調不良結構黙りがちだし」
「夏風邪引いたの黙って練習参加して虎堂さんに連れ戻された時そういやあったな」
「でもそれ以来体調管理はちゃんとしてるし休息だってちゃんと取ってたぞ」
「じゃあ本当に原因は何なんだ……?」
後輩同期先輩に心配される中当人の心境としては。
(こーくん……こーくん……早く……早くぅ……)
想い人に思考領域のおおよそ8割を占有されていてそれどころではなかった。
楽しみにしていた冷しゃぶは1人で食べる羽目になり物心ついた時からほぼ毎日顔を合わせている少年がそもそも身近にいない、ありとあらゆる事象に対しての関心がゼロに近い水準まで落ち込むのも仕方ないと言えば仕方ないものである。あえて言及するならば自分の敬愛してやまない祖父が亡くなった時とほぼ同レベルに近い落ち込み具合だ。
加えてタイミングも悪かった、夏休みに突入してから連日連夜白石家に入り浸り寝泊まりもほぼ白石家、朝昼晩と虎堂製もしくは紗奈製の食事を食べ続けていた為普段であればそこまでではなかった(それでも甚大なことには変わりない)であろう精神的ダメージも大きくなる……人間、慣れ始めた生活が元通りになる方が辛いのである。
そんな彼女に事件が起きたのはここから数分後のことであった。
「…………僕、ちょっと、水でも買ってくるね……」
「え?水ならここに……」
「お前ちょっと黙っとけ!!!!はい!俺達試合会場の方で待ってるんで気をつけて行ってください!!」
察しろ。ほぼ全員の意思が合致し野暮なことを言いかけた男子が1名粛清されたがテンションが底の方を彷徨いている京極にとっては最早些事というものであった。
何をするにも気が乗らないが流石に試合前には切り替えねばならぬ、普段自己管理を徹底している京極にとって今回の事象は1度無理矢理にでもテンションを上方向へ引き上げねばならぬということでコンビニにでも立ち寄ろうと少し前に通り過ぎたコンビニ目指して行くことにした。
(こーくん……バッタリ会えたりしないかな……応援来てくれるって言ってたし……東京にいるって言ってたし……こーくん……うぅ)
歩いている最中でもテンションと心中はシャレにならない程低く、思考の8割がいつも隣にいる少年に埋め尽くされている。だからこそ。
「――――?……こー、くん?」
東京の、周囲100メートル以内に3桁人はいるであろう人混みの中。やけに目立つ彼を見つけて、京極はフリーズした。
日本人にしてはかなり……どころか浮く程に高い身長。
いつも見慣れている緩くセットされたアップバングの髪。
初対面の人間なら「モデルやってます」と言われても容易に納得できる整った顔立ち。
想い人。心臓が高鳴る、景色が一気に鮮やかになり、体温が上がって行く感覚。顔が熱い、体が熱い、全身から火が吹き出るのかと訝しむほどに熱くなっていき衝動のままに駆け寄って行く。
「ちょっと……すみませんっ!!通してください!すみません……こーくんっ……、??」
人混みを何とか押しのけ、謝罪を述べながら強引に進んでいく。進んで、進んで……見た。
「キョウ!??!お前大会は?!会場入りってもうあと10分後とかそこら辺じゃ……!?」
「キョウ……?こどー君、この女のコは知り合いナのかい?」
想い人にやたら密着している女を。というか腕をガッツリホールドしている、あ、今胸当てたな。
――――――――は?????
「…………こーくん?その
「誰っていうか何というか……ここで言うとちょっと不味いっていうか……お願いですからもうちょい離れません?」
「私の背はそこまで高くナいから人混みに押し流されてしまいそうでネ……断らせてもらうよ」
「えぇ…………?」
やめろ。心の中で何かが叫ぶ。やめろ、そこにいていいのはお前じゃない。心の中で何かが叫ぶ。
何だお前は、何でお前がそこにいる、何で、何で、何で何で何で何で――――?
心の中の龍が叫ぶ。僕の
◇
いやぁ困ったマジでどうしよう、左右からの妙なプレッシャーが怖くて怖くて仕方がない。
「あの、ランさん?貴女確か元は東京観光って言ってましたよね?どうして俺達に着いてきてるんですかあと暑いんでもうちょい離れてもらえたら嬉しいんですけど」
「日本の剣道?とやらには興味があったからね、であればこれも観光のようナものさ」
「…………なら普通に来場者用の一般席ですよ、
「それは残念だね、同伴者ということで私も入れてくれたりしないかな?」
「は?」
「とりあえず2人とも落ち着いて!?あとランさんそれは流石に無理なんで諦めてください。というか俺どっちかっていうと応援もですけどサポートメインなんで構えないです」
流石に部外者を関係者席に通すわけにはいかないしランさんには構えなくなる旨を伝えると残念そうな顔をされキョウからはなんか凄い視線を向けられた。ちょっとこわい。
「こどー君、私達はあんなに激しくやりあったんだからもう友達みたいナものだろう?ファンで良いと言ったじゃないか」
「言われましたけど……待て。待てキョウ、今のはランさんの言い方が悪かったんだだから落ち着け、違うから!!!!もうそろそろ試合会場なんだから切り替えてくれ頼む!!!」
「やり……?はげしく……??や……ヤ?」
こいつにもそういう知識があったんだなと思う反面ランファンは精神攻撃でも仕掛けてるのかと疑いたくなった。
「ふふ、アメリカンジョークってやつだよ。ちょっとゲームを一緒に遊んだだけさ」
いやあんた一応アメリカ国籍取ってるらしいけど元は純中国人じゃん。アメリカンジョークにも限度ってものがあるでしょ。
「…………それじゃ、仕方ないし私は失礼するとしようかな?美味しい和菓子のお店があると聞いていてね、行ってみたいと思っていたんだ。……それとこどー君。
掛けていた恐らく変装用のサングラスをズラしてウィンク、鮮やかな紅い眼が一瞬キョウを捉えたがその後は颯爽と人混みの中に溶け消えていった……いや、駅で出会して絡まれただけで何でこんな疲労感が強いんだ?
「こーくん」
「ハイナンデショウカ!?」
「返事って何?」
……それね。あの時スターレインに誘われて、俺は「少し考える時間をくれ」と返しておいた。自分自身これからどうしていきたいのか……というか、特段好きでも無い格ゲーのプロとして活躍できるのかが全くわからない上ただの高校生の一存で決められる規模の話でも無い為保留にしておくのはほぼ確定事項だった。そしてそれを正直にキョウに伝えるのは……何故か嫌だった。
「……あー、まぁ、こっちの話だよ。あんま気にすんなって。それより試合だ試合、お前の大事な連勝記録がかかってるんだから俺も気合い入れてサポートするからな」
「…………そっか。うん、ありがとう」
「気にすんなって。姉弟子の為なら当たり前だろ?」
「うん。…………ねぇ、こーくん」
「ん?どうした?」
「今回の大会、優勝したらさ。1つだけ、
なんだなんだ、優勝したら?まぁ別に……
「良いけど……何でまた急に。基本的にお前のお願いなんて俺断らないだろ?」
「…………うん、わかった。僕今回ちょっと本気で頑張るよ」
その宣言は何かヤバいモノを突きつけられた感覚がした。
何?俺殺されるの?
全力で外堀を埋める女さん「今回のエンカウントは本当に偶然」(ガチ)
湿度が高い女龍さん「ふざけるな今日は私の為に来てくれたんだぞ」(ガチギレ)
何も知らないアホ「なんか左右から妙な圧が…バグか?」
ちなみに名前はえげつない速度で距離を詰めて聞き出しました。偶然をモノにしにいく速度は間違いなく格ゲーマー