シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
「いやーー……まずはキョウ、大会2連覇おめでとう!!ちゃんと見てたぞ、頑張ってたな」
「ありがとうこーくん、正直決勝はちょっとヒヤッとしたけど勝てて良かったよ」
大会が終わって、その翌日。俺とキョウ以外の他メンバーは大会の日の夜にそのまま新幹線に乗って帰って行ったが俺達2人は1泊して、1日観光して帰ることにしていた。
「にしても良かったのか?大会の翌日なんて疲れてるだろ、何も昨日の今日で遊びに行かなくても……」
「良いの!僕が今日こーくんと遊びに行きたかったんだから!!それに、なんでも言うこと聞いてくれるんでしょ?」
「…………あぁ、そうだな。そういう約束だった」
用意周到なことに俺の分の着替えも用意してくれていて助かった、元々以てきていた服を着回すつもりだったのだが「替えを持ってきたよ」と言われたしなんだかんだ荷物は嵩張るので最初に持ってきていたものを引き取ると備前さんが申し出てくれたのでありがたくお言葉に甘えさせていただいたのだ。
………………?
あれ?ところでキョウさんや、あれだけ終わり散らかしていたファッションセンスから鑑みて俺クソダサTシャツ着せられると思ってたんだけど……あれ?
「俺の服もキョウの服も……まとも、だと……!?!」
いかん、脳が追いついてこない。どういうことだ?どういう心境の変化が起こった?あれだけ改善の見られなかった、こいつのファッションセンスが……?
「き、奇跡だ……奇跡は確かにあったんだ……!!」
「あのねぇこーくん、僕だって最近はそういうのもちゃんと気にしてるの!普段は楽だしかっこいいからアレ着てるんだよ!」
感性が小学生なことをひとまず傍に置いておけば正直もう言うことは何もない、今はただこの奇跡を神様に感謝しよう。あぁこれでやっとキョウの服選びから解放――――……?
「…………じゃあ俺はもうキョウの服を選べないのか?」
何だか少しだけ嫌な気持ちがした。何故だか、心の内がざわつく様な……?首を捻っているとキョウが俺の服の袖を引っ張り上目遣いでこちらを見てきていた。
「そんなわけないよ?僕は君が選んだ服を着たい。僕は君に全部任せても良いと思ってるくらいなんだよ?」
「…………そう、か?」
そう言われた瞬間また心がざわついた……だが先程のざわつきとはまた違う感覚がした。
(何で、こんなに)
その先は何故か自分でも言語化できなかった。その先に踏み込んではいけない、踏み込んだら、ダメだと。
何かが俺を制止しているように思えた。
だから俺はその言語化不能の何かに蓋をして、忘れることにした。
「そうか、うん、じゃあこれから少し服でも見に行くか?今日はお前の言うことなんでも聞くって言ったからな。好きなとこ言え」
「なんでも…………なん……そういえばお腹減ったね、まずは腹ごしらえと行こう!!」
なんか一瞬変なラグあったな、というのは野暮なのだろうか。
◇◇◇
(なんでも)
脳内で何度もそのフレーズがリフレインする。頭蓋骨を何度も叩き、反響し、記憶として焼き付いていく。どこまでを虎堂は想定しているのか定かではないため表面上はにこやかながらも内心京極は凄まじく鋭い目つきで獲物を見つめる。
(こーくんの態度からして……変な内容じゃないって信じ切ってる感じ、だね。これ)
お互いどうもしない。少し仲のいい幼馴染くらいにしかきっと思っていない。
冷静に、そして少し悲しさを覚えながら前に座る青年の顔を見る。ここ数日食事を共に出来ていないという無意識の欲求から最初に食事を行うことが選ばれ、「だったら」と虎堂に連れてこられた最近評判の店の味を堪能する余裕は最早京極にはなかった。
(ダメだ今すぐ好きだって言いたいでもこーくんから拒絶されるのが怖いいやだ嫌われたくないいやだいやだいやだいやだ)
次の瞬間脳裏によぎった女の顔。
「…………ねえこーくん。結局昨日の女の人、あれ誰なの?知り合い?やたらくっついてたけど」
「んぐむっ!?」
「ちょっ、そんなに驚くこと!?」
ちょうど運ばれてきたハンバーグステーキを頬張っていた虎堂が思い切りむせ返り、慌てて京極が水の入ったコップを手渡す。立て続けに2度水を飲みやっとつかえていたものが喉から除去されたあたりで虎堂は言語を発するに至った。
「いきなりすぎてびっくりしたわ……そんなに気になるか?」
「うん。すごく」
「…………じゃあ、ちょっと耳貸せ。あんまり大っぴらに言えるような人間じゃないんだよ」
そう言って身を乗り出してきた虎堂に面くらい心拍数が少し上がったがそれを表に出すことは一切なく、耳を近づけた。
「あんまり驚くなよ……プロゲーマー、スターレインって格ゲーチームの
そこで京極は己の記憶領域を探り該当人物をヒットさせ……
「なんでそんな人と関わり持ってるの!?」
「声大きい!!ちょっと色々あったんだよ!!!!」
そのちょっと色々を盛大に問い詰めたい衝動に駆られたがここは冷静な対応を取ろうと決めた、もういい、目の前に座るこの男がことあるごとに1人2人引っ掛けるのはもう長い付き合いでわかっていたことだ。今回のは釣り上げた規模が今までとは比較にならないほどの大物だっただけで。
「…………まぁもうこの際良いや、いつものことだし。……こーくんそれちょっとちょうだい」
「いつものことって何がだよ、というかお前自分の分あるだろ」
「お腹減ってるんだよ」
気持ちを落ち着かせるついでに虎堂の肉を1切れ強奪し頬張る、口の中に溢れる肉汁、確かな噛みごたえと暴力的な肉の味を堪能する。なるほど確かに評判になるだけのことはあるな、と評価を下した。
「…………美味しいね、これ」
「だな、予約待ちになるだけのことはある」
「…………?」
そこで京極は1つ疑問が浮かんだ。虎堂は先ほど「だったら良い店近くにあるぞ」と言った。そして一切の躊躇いなくこの店に足を運び、ほぼノータイムで席に通された。予約の素振りはなかったと言うのに、いつの間に?
「ねぇこーくんこのお店いつから……」
「ん?それよりキョウ、口汚れてるぞ」
「えっ何ちょっえっみゃっ!!?!」
京極の口を見た虎堂がナプキン片手に再び身を乗り出した。先ほどは自分から近づくという京極からしてみれば覚悟を決める時間が与えられていたものの今回は違う。一気に距離を詰められ顔が近づいてくる状況に先程から跳ね上がっていた心臓は暴発寸前まで心拍数が上がった。
(まって今何されてる?口拭かれてる!!?!!!恥ずかしい恥ずかしいというか心臓の音聞かれてない?僕の心音今機関銃よりも爆音出してるけど!?)
さらりとはぐらかされたことに少女は気づいていない。
跳ね上がった心音と顔からほんの数センチ先の想い人の対処に手一杯になっている。そしてそのことに気づいたのは今日が終わって布団に入った時だった。