シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
◇
(さて、上手いことはぐらかせたかな?)
なんだかんだ気にするところあるからなこいつ、これで誤魔化せるかはさておき今日はこいつの為の日なんだからあんまり気遣わせるのもな。
食事が終わってひと段落ついた後はそのまま繁華街の方へ歩いていく、うーーん流石日本の首都人が多いこと多いこと……
「はぐれるなよ、キョウ」
「みゅっ」
何今の鳴き声。
女子にしてはそれなりに高い身長を持っているキョウだがそれでもこの人混みだ、普通に人の流れに持っていかれかねないということで手をがっちりホールドしてはぐれないようにする。
というか目的地とか特に決めてなかったけどいいのかこれ、マジで今繁華街の中心地に向かってるだけだぞ?
ちらりと見下ろせば案外楽しそうに周りを見回していた、まぁこういうのもたまにはいいもんだよな。それにしたってお前。
「ここでも相変わらず人目は引くなぁ」
「そうだねぇ……京都の方だと慣れてるけどやっぱりここだと見られてる量というか規模が違う気がするよ」
そう、がっつり見られているのだ。いや確かに京都でも大概見られてたよ?だけどちょっと見られてる規模が違う。振り返る人の数が違うってのは中々ないぞ、これじゃ落ち着いて歩くのだってままならない。
さてどうしたものかと悩んでいる中袖が引っ張られる感覚、するとキョウが少し恥ずかしそうな顔をしてこう言ってきた。
「…………えーと、僕達、これってどういうふうに見られてるのかな」
どういうふうに……?男女の2人歩き、いや、この場合俺の主観じゃなくて他人から見た今の俺たちの現状のことを聞かれているのか?そんなもの言われるまでもなく――――
「こ、これってさ。もしかして――――」
「デートみたいだな、確かに」
周りから見たら確かにそういうふうに見られるんだろうな、まぁ実際は別にそういうわけでは一切ないんだが。
◇◇
「デートみたいだな、確かに」
ひゅっ。(期待していたワードがこーくんの口から発せられたことによる臨界点を振り切った音)
よく外に漏らさなかった僕、偉いぞ僕。
少なくとも、少なくともこーくんから『デート』なんて単語を引きずり出せたことはきっと天国のお祖父様も褒めてくれる筈。
というか僕が今全力で自分のこと褒めてる。
心拍数はさっきから跳ねまくってるし昨日の大会の決勝戦なんて目じゃないくらいに緊張してる。でも、でもそれ以上に。
(楽しい。こーくんが横にいる、それだけで、嬉しい)
手を握ってくれている男の子から目が離せない僕がいる。
周りの景色を見ても、やっぱり視線は勝手に横顔を追いかけている。
君は気付いているのかな?僕の目線はずっと君に釘付けなんだよ?
(好き。好き、好き。大好き)
言葉にして、面と向かって言えるだけの勇気は出ないのに、気持ちだけは溢れそうなくらいに――――いっそ溢れてこーくんまで届けば良いのにと思うけど。それは叶わないから。
「――――?おーい?キョウ?」
「ッ!?な、なにこーくん!?」
「いや話しかけても返事が無かったから……やっぱ疲れてるんじゃないか?今からでも戻って休むか?」
「大丈夫だよ、ちょっと考え事してただけ!…………それよりもさ、こーくん。ついてきて欲しいところがあるんだけど」
「ん、何だ?なんか興味あるものあったのか?」
そう、今回の旅行で僕は1つ決めていたことがある。それは、つまり。
「うん。…………水着、欲しくて」
「なんて?」
こーくんと一緒に水着を買うことだ。
◇
いや、うん。確かにうちと龍宮院の道場は毎年盆に龍宮院家が持ってる所謂プライベートビーチに遊びに行くが。
「なんで俺と買いに行くんだよ、そういうのって普通女子が集まって買うものじゃないのか?」
「まぁ実際いつもはそうしてたんだけどね……今回はどうしてもみんなのスケジュールが合わなくてさ」
だからって野郎と行くのはどうなんだろうか、と思うことは間違いなのだろうか。そう思わずにはいられない。
(…………というかこのままいくと俺キョウの水着のレビューすることになるの??)
ウキウキと気に入ったらしい水着を片っ端から引っ掴んでは物色を繰り返す幼馴染の後ろ姿を見つめながら俺はぼんやりそんなことを考えた、いや特に今更何にも思わんが。小さい頃とは言え普通に一緒に風呂にだって入っているのだ、そんな下手したら家族同然の女に思うところは……ない、うんない。ないったらないのだ。
「それじゃ僕ちょっと今から試着するからさ、ちゃんと評価してよ?」
「精一杯頑張らせてもらうな」
心の中の師匠に土下座、ついでにどうか國綱さん達をお鎮めくださいとお願いをして速やかに覚悟を決める。さぁ用意は出来た、女性物の水着売り場に1人ぽつんと取り残されるメンタルダメージすら……ちょっと痛いな?
まぁいいか、そんなものはこの際気にもならない。問題は諸々が終わった後に國綱さんあたりが謎の直感で襲いかかってくるかどうか……あの人
何着かの水着を手に取りフンスと何やらドヤ顔を決めながら試着室に入っていくキョウを眺めながらそんなことを思わずにはいられなかった。
〜〜〜〜〜〜以下ダイジェスト
1着目
「これどうかなぁ」
「良いと思うぞ、キョウらしいスポーティーなやつで。それはそれとしてその“極”のプリントは何ですか」
「あったからつい」
「ネタで置いてたのかガチで置いてたのかわからんなぁ……」
2着目
「これは?」
「ワンピースタイプ?珍しいなそういうの選ぶの。……でもお前、バチバチに動くつもりじゃないのか?」
「その時はその時だよ」
「…………その水着で動けるわけないからな?やめとけよ?」
「…………はい」
3着目
「キョウ」
「はい」
「やめなさい」
「いやでも、その」
「お父さん許しません、今すぐカーテン引いて別のにしなさい」
「お父さんは他にいるよね!!?」
◇◇◇
「…………なかなかこれだ!ってのは見つからないね……」
「だな、今何着目だっけ?」
「良さそうなの片っ端から選んじゃったしもうほぼ覚えてないかなぁ……」
「俺はキョウの色んな水着見れて割と眼福物なんだけどさ、いくら空調効いてるとはいえ寒いだろ?そろそろ締めにしようぜ」
「だねぇ……ちょうど最後の1着だしそうしよっか。適当に見繕うかな……」
1時間ほど試着と虎堂に見せることを繰り返したあたりで
(はぁ……えっちなのも試したけど……なんでこーくんはあんな朴念仁なの……??)
今着ている水着を脱ぎ、片付けながら悶々と考える。そもそも当の意中の男は鋼の理性を重ねがけした上で共通の師に心中で常時土下座を行い表情筋に全力で力を込めながら可能な限りまともな対応をしているだけであって内心はそれどころではないことを明記しておく、本人の中では家族同然の女という認識ではあるもののそれでもどうにもならないものがあるのだ。
彼は現在カーテンの向こう側で静かに悶絶している、己が出せる可能な限りのボキャブラリーを振り絞って褒め称え続けた果ての反動ダメージ及び周囲の生暖かい視線に晒され続けた結果である。
そんなこともつゆ知らず、京極は最後の最後まで何となく後回しにし続けていた水着を手に取る。
(最後の1着……か。そんなに派手じゃなくて、大人しめのやつ……僕個人で言うならこういう水着が1番好きなんだけど……こーくんはこういうの好きなのかな……)
そんなことを考えながら水着を着て、鏡に映る自分を見る。白のハイネックタイプ、フリルがあしらわれたそれは少しガーリーで、しかしどこかボーイッシュ味も感じさせる。
少し暗い色を含んだ己の顔を1度ぺしりと叩き、いつも通りの自信に満ち溢れた顔へ。そして少し躊躇いを見せた後――――京極は意を決してカーテンを開けた。
「お、用意できたか―――――」
少し驚いたように目を見開いた虎堂を見て京極は少し落胆して、顔を伏せた。そしてあぁ、これじゃなかったんだと思い「似合ってなかったね〜」なんて言いながらまたカーテンを閉じて着替えようと「綺麗だ」したところで、その一言で手が止まった。
「…………え?」
言われたことが信じられずに、顔を上げて虎堂を見る。その顔は、今まで見たどんな表情よりも恥ずかしそうで、それでも目が離せないといった様子で。いつも飄々と、カラカラと笑っている男が、耳まで真っ赤にしたその顔は。
きっと、京極が1番見たかった顔だ。
「いや、今までのやつもどれもこれも可愛かったりカッコよかったり……ちょっとアレだったり?色々あったけどさ。なんつーか……綺麗だって、ただただそう思った」
「…………そう?」
「あぁ。本当に、それしか言えなかった。綺麗だよ、キョウ」
「…………そっか!!じゃあ、これにしよっかな!!」
ここ数日の不安も、噴き上がった重い重い執着も、京極は今この瞬間を持って全てが洗い流れていく感覚を覚えながら、満面の笑みを浮かべた。
「………………ところで、結構な時間過ごしてたわけなんだけどさ。新幹線の時間とか諸々考えたらあと遊べるのってどれぐらい?」
「………………あっ」