シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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狐は諦めることを知らず、故に道は拓かれる。

「オルト!!!!ボスの情報とかってあるか!?」

 

泥掘り(マッドディグ)と呼ばれるモンスターです!地中から飛び出す攻撃に注意を!」

 

「了解……!!」

 

先ほどの轟音の発生源と思しき大沼に到着した俺はそういえばとオルトにボスの概要を聞いてみる。どうも飛び出してくる系のモンスターらしいが困ったな、まさかのAGIメタとは。

 

「どうしますかビャッコさん!」

 

「背中に乗れっ!!」

 

俺と同じく沼地に飛び込めば確実に体の半分以上を沈める事になるだろうオルトを背中に飛び乗らせ勢いに任せて沼に飛び込む、うぉおやばいぞこれ。靴の中に泥が溜まり込んでめっちゃ気持ち悪い、こんなところまで作り込む運営は変態か何かか?

 

「…………!ビャッコさん!」

 

「わかってるよ……!」

 

素肌に沼の泥が当たらずともわかる確かな振動、まず間違いなくボスが出てくるんだろう。

沼が真下から押し上げられ、膜を破るかのように()()は現れた。

 

「シァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「えっ何この面白フォルム」

 

鮫の頭を持った土竜……?いや、ヒレの代わりに四肢が生えてきた鮫か…………?まぁとにかく仮称鮫土竜の無機質な眼差しが確実に俺とオルトを捉える。

 

「来ます!!」

 

「見りゃ分かる…………!」

 

あ"ーーーっ!動きづらいなぁもう!どう考えても動くよりこいつ弾いた方が良いか!!?

取り敢えずレペルカウンターで相手の攻撃を体ごと弾き飛ばすことで逸らす。

というか物理的な潜航とかでは確実に無いな、俺の脛か足首ちょっと上くらいまでしかない泥で俺以上の巨体を持ってるお前が地面に潜り込めるわけがない、面白パワーか?面白パワーなのか?

うっわなんてベタな、鮫にお約束の背鰭だけ上に出して迫ってくるのか?

 

「どうしますか…………!!?」

 

「どうもこうもねぇなぁ、ジャンプレッグ!」

 

どうもこのゲーム音声認証の方が誤作動とか不発が少なくて良いらしい。というわけでジャンプレッグを音声認証で発動させてカチ上げてくる泥掘り君の大顎から回避を図る。

まだまだ回避系は充実してあるんだ、存分に攻撃しに来てくれ……そんな暇があればの話だけどなぁ!!

 

「スラッシュラッシュ!!」

 

これまでなかなか発動することのなかったスラッシュラッシュ君を泥掘りの鼻先に叩き込む、あぁ素晴らしい、どこぞの超合金みたいな硬さの金ピカ鱗持ちドラゴンに比べて死ぬほど柔らかい。

 

「おら喰らわせてやれオルト!」

 

「マジックエッジッッッ!!」

 

強NPC(オルト)に頼るのも何だかなぁとは思うがいる物も者もフルで活かす方が好きな主義なんでね、遠慮なく喰らってどうぞ。

 

オルトが魔法を唱えた瞬間空中に半透明な半月状の刃が展開され、放出される。瞬間それは泥掘りの鼻先に着弾し再びのけ反らせる。

 

おっしゃいけるねぇ、どんどん行こうか!!?

 

 

 

◇◇◇◇

「物理法則への反逆を体感させてくれ……!!」

 

振り落とされてしまったので再び接近してくるのを待ってスキル、エッジクライムを発動。沼潜の短刀と致命の包丁を交互に突き刺して言葉通り登っていく。

ジークヴルムの喉元にどうにか近づくためとは言え致命の包丁を二本ともぶっ刺して登ろうとしたのは頭がおかしかったな、ピッケル感覚で刺そうとしたけど超合金じみた硬さの鱗には傷一つ付くことなく寧ろこっちが欠けるとは思わなかったが。

 

だがそれに比べてこいつはやはり圧倒的に柔らかい、サクサク刺さってくれるぜ。

 

「…………再び天辺に登られたわけですが、これからどうなさるおつもりですか?」

 

「はっはっはっは!なーんも考えてねぇや!ぶっつけ本番と行こうじゃねぇか!」

 

「無策ですか……!!?」

 

悪いな、馬鹿と煙は何とやらってやつだ。

そもそも今の俺は耐久するような気分じゃない、ソロだの何だのの矜持は早い目に投げ捨ててさっさとサードレマに行きたいんだ。着いたら後で拾おうかな……。

ホホジロザメの鼻先に近い泥掘りの鼻先をひょいひょいと飛び、大顎から避け続ける。足場としては確かに良くて中の下……厳しく見るなら下の中程度。まだマシな方だな、綱渡りしながら音ゲーをするなんて言う経験をしたことのある俺からすれば怖くない。

 

「バランス取っておくから魔法攻撃デカいの叩き込めない!?」

 

「わかりました、30秒ください」

 

「よっしゃ分かった!!」

 

「【加算詠唱(アッド・スペル)】」

 

 

魔法を唱え始めたオルトを意識の外に追い出して泥掘りに注意する、怯み状態から復帰した泥堀りが猛然と暴れ出すが残念。その程度で振り落とされてパックリ食われるわけにはいかないんだよ。

目、鼻、牙、に……安定した足場なんていくらでもある。軽トラ並みの大きさを誇っているだろう泥堀りの鮫頭という環境は俺の味方をして、過去の経験(落下しながら音ゲーする)は俺に心強さをプレゼントしてくれる。

 

「用意完了しました!」

 

「ぶった斬れ!」

 

「そこまではいきませんよ……!マジックエッジ!!」

 

ジャンプレッグ発動、早い段階で体制を整えオルトが確実に攻撃を当てられるように角度を調整する。続いて飛び出した半月形の刃は先ほど見たよりも確実に大きいそれは正確に泥掘りの鼻先に直撃した。

 

「シギィィィィァァァァァァァァァア!!?」

 

威力が上がったであろうマジックエッジは確実にこいつに大ダメージを叩き込んだのだろう、絶叫をあげて小さく跳ねながら横たわる。どこかで俺の脳が警鐘を鳴らしたような気もするがまぁ、気のせいだろう。そう思っていたらその警鐘は正しかった事を俺は即座に思い知らされる。

 

「やりましぶべぁ」

 

「だよなぁべぶ」

 

倒れた泥堀りのすぐそばに俺とオルトが落下、落下ダメージ自体はそれほど無く体力がほんの少し削られただけ……まぁ経費だな、まさか経費として全身泥まみれを体験する羽目になるとは思わなかったが、これが最近流行りの泥パックってやつか……。

 

「まぁこれで倒せたんなら問題は…………待て、待て待て待て待て待て!!あの野郎(泥掘り)どこ行った!!?」

 

 

泥堀りがいない?馬鹿な、どこに……波紋?潜った?

 

不意にオルトが話したボスの概要が頭をよぎる。

 

――――――地中から飛び出す攻撃に注意を。

 

――――――地中から、飛び出す攻撃。

 

死にかけ……HP残量、攻撃発動条件?削りきれていなかった?というか沼が揺れてる、範囲攻撃?まさか沼地全体とか言わないよな、それは単なるクソゲーだぞ。

 

「オルットォォォ!!!」

 

「えっ!!?な、何を…………!!?」

 

情報を精査する前に頭が最速でそれを伝え、全運動神経がそれに全力を注ぐ。オルトを抱き上げ全力で沼外へ投擲振る、ついで自分も抜け出そうとしたところ……

 

「足っ、動かな…………!!?」

 

次の瞬間沼地が迫り上がる。俺の真下で土竜叩き(土竜では無い)の土竜が俺を全力でカチ上げた。

 

 

 

 

 

泥掘り(マッドディグ)

 鮫の頭、四肢が異様に発達した土竜の胴体、そして鯰の髭(・・・)を持つ広義のキメラに分類されるこのエリアボス最大の特徴は体力が20%を切ることで発動する特殊行動である。

 地中深くに潜行し、沼を震動させる事で沼に足を踏み入れたプレイヤーの動きを強制的に止め、そして沼の中にいる者達からランダムに一人を真下から鼻先で思い切り吹き飛ばす。

 一人で挑戦した場合、沼の中にいると確定で攻撃を受ける上にかち上げられた高さから落ちる事でほぼ確実に落下ダメージでHPを全損させられること、沼に入っていなければソロでもこの攻撃を不発させることはできるが動きが制限されたこのエリアでダメージ調整と沼からの離脱を両立させることの困難さから、このモンスターはプレイヤー達から二つの名を渾されている。

 

 地形によるAGIへの露骨なメタっぷりと薄い装甲程度では難なく押し切ってしまうことから「軽戦士殺し」。

そしてもう一つが、一人で挑めばほぼ確定で即死攻撃を受ける事から……

 

 

 「ソロ殺し」と呼ばれる。

 

 

 

◇◇◇◇

人に翼は無い。故に古来から人々は飛ぶことを夢見てきた訳だが……良かったな先人の皆々様方、めちゃくちゃ簡単な飛び方があったぞ。すなわち「()()飛ぶ」だ。

いやこれ飛ぶ(Fly)でも跳ぶ(Jump)でも無いんだが??

 

(HPにほぼ変化はなし……なるほど?落下ダメージってことね?)

 

どうもこのモンスターの制作者は悪意を持ってこのモンスターをデザインしたらしい。

4、5階くらいの高さなら確実に死ぬ、後数秒後には俺の体はフードプロセッサーに雑にかけられた何かに早変わりする羽目になるだろう。

 

下を見ればオルト、泥掘り、ただの泥……なるほどここから更に追撃をすることは無いらしい。温情といえば温情なのか?

 

(考えろ考えろ、死にたく無いなら思考を回せ……!どうにかしてダメージを軽減?いや、リスキーな賭けだな。それにダメージを軽減したところで恐らく俺のHPと VITを加味して間違いなく死ぬ……!オルト……座標転移?いやダメだなあれ多分条件付きだわ、マジックエッジで横から弾き飛ばしてもらう……?)

 

そこまで考えたところで俺に着弾したところから真っ二つになることが容易に想像できたのでこのアイデアは棄却だな。もし仮にマジックエッジで死なずともそれ以降のどこかで確実に死ぬだろう。

 

(万策尽きたか…………?)

 

覚悟を決める?死を受け入れる?

果たしてそれはゲームを楽しんでいると言えるのか?

 

「…………そんなの答えはノーに決まってるな」

 

落ちる時間は恐らくもう目の前だ、だがしかし。だがしかし……!

 

「諦めてたまるかァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!」

 

「その通りです、ビャッコさんっっ!!!【再構築(イノママニ)】!!!」

 

…………は?

 

オルトの声が、やけに耳に残る。

次の瞬間下から土の柱みたいなのが伸びてきた。それに俺は咄嗟に着地、そのまま泥掘りに向かって…………一閃。

 

「ギシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

泥飛沫が跳ね上がって、沼が粟立って荒らされていく。運動エネルギーが働いたのは上から下ではなく、上から落ちてきたプレイヤーを下から()()()()()()()()土柱が受け止めそのままの勢いでの()()……。

 

【再構築】がなんなのかどうかとかはこの際置いておこう、今オルトに言えるのは一つだけだな。

 

「オルト…………お前最高の相棒だよ」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 




【再構築】《イノママニ》
世界に充満し、各所を巡るマナに干渉する魔法。
森羅万象全てに宿るマナの流れを一時的に変えることにより環境の書き換えができる。
つまりはこいつ空中のマナを「固めて」空中を駆けることすら可能。

本来これは《ーー》のヴァイスアッシュのみが持つ『権能』であったが、オルトがその権能の一部を引き継いで生まれてきてしまった為の措置。創造神すらも予期していなかった権能の譲渡はシナリオをともすれば根本から破壊する可能性があったため、本来の権能からは遥かにデチューンされマナの書き換えの為に魔力を消費し、干渉によって起こる変化も一時的という形となった。


本来であれば白一色、黒一色、或いは灰色となるはずのヴァイスアッシュ直系眷属の中でも唯一黒と白の二つを混ざり合うことなく共存させたのはオルトだけ。


故にオルトは創造神出ずからシナリオを個別に組まれている。発生条件《ーーーーーーーーー》、名を【白き致命はゆるりと廻りて黒き致命となる】
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