シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
なんだかんだ(鎧騎士を除いて)「誰にも気づかれる事なくサードレマを抜け出す」という目標は達成できてよかった。唯一の残念ポイントは化かしの枝葉が思いの外クソ高かった事だな……いろいろ出費が重なってもう300マーニくらいしかない。
そういえばあの鎧騎士、サンラクを探してるようだったな……何やったんだか。
「ヴォーパル魂が迸っていました……開拓者さん達の中でも恐らく最上位の方でしたね」
「だろうなぁ、多分だけど俺が今突然4、5人に分裂して一斉に襲い掛かっても負ける」
「分裂…………?まぁビャッコさんもヴォーパル魂では一切劣っていませんでしたよ」
「へぇ、そりゃありがたい」
人と話すことは別に嫌いじゃない、むしろ好きな方なんだが……何故かあの鎧騎士は話し方というか……声かな、声の方にどことなく聞き覚えと違和感があった。まぁ気のせいか!ただ妙に疲れたんだよな……知り合いに1人話してるだけで疲れるやつがいるけどそれに近い感じだった。異常に強いわ異常に頭が切れるわカリスマ性は抜群だわで…………確か今は出版社だかなんだかに勤めてるんだったか?
「ま、良いかそういうことは深く考えないで」
リアルのことはリアルで考えよう、今俺は
サードレマの喧騒が遠ざかっていき、ようやく一息つけると考えて頭に載せていた化かしの枝葉をぽいっとそこらへんに捨てて変身状態を解除、千紫万紅の樹海窟に到着だ。どうもアイテムは基本採取っぽい感じだし目欲しいものをひょいひょい採取していくスタンスでいこうかな。
インベントリにアイテムを詰め込みすぎるとAGIにも影響が出るらしいし、そこら辺は注意しておこう。
◇◇◇◇
草木生い茂るトンネルを抜ければそこは超絶ファンタジー……色とりどりの花が咲き乱れる樹海だった。トンネルを抜けたら綺麗な景色なんてシチュエーションはゲームやってたら結構遭遇するもんだ、まぁトンネル抜けた瞬間足元のトラップに引っかかって爆殺されたなんてこともあったが。
一番酷かったのはサンラクに誘われて軽くやってみたクソゲーだろうか、トンネルを抜けたら目の前を隕石が通過するとかいうアホほどシュールな光景だった。まさかまさかの超至近距離の隕石でも当たり判定の関係で死ぬことはなかったので「そういうところはちゃんと作り込むものじゃないのか」と訝しんだ次の瞬間隕石の後ろから超高速で突っ込んできた他のプレイヤーによるドロップキックが命中してリスポーン、うん、音ゲーがいかに平和か身に染みて理解させられる今となってはいい思い出だな。まぁ一部は平和じゃなかったりするんだが。君のことを言ってるんだよ音響地獄君。
にしても…………
「光る苔とはね、中々分かってる」
まさに千紫万紅、軽く見渡すだけでも数十種類近くの花が鮮やかな花弁と蜜の香りを周囲に振り撒いている。洞窟内だというのに森と言うには少々深すぎる樹と樹、植物と植物、樹と植物同士が長い年月をかけて作り出したのだろう樹海……リアルでは確実にあり得ない幻想風景を鮮やかに照らし出すのは洞窟の壁や天井一面を覆う光る苔。確かリアルの方のヒカリゴケは太陽の光を反射して発光するはずだったが……この感じ、恐らく苔自体が自ら光を生み出しているな。エリアの特徴を把握しておくのはどのゲームでも必須だ、時々エリア特性を利用する必要のある音ゲーもあるんだからこのゲームでもやっておくに越したことはないだろう。
「さて、と。今回は速攻でエリアボスに突っ込む必要もなさそうだしゆっくり探索しますかね……おっ?」
なんか、いる。いやまぁ十中八九モンスターなんですけどね。
それは腹に巨大な……球?いやあれ袋かな。なんか透けて見えるけど中に入ってるのは液体、というか蜜だ。そしてよーく目を凝らせばバスケットボールサイズの
「はーーー、なるほどなぁ……そんなにたぷたぷお腹を揺らしちゃって……」
こう…………滾って(ドロップアイテム欲しい的な意味合いで)来ないわけがないんだよね、うん。というわけで沼潜の短刀と致命の包丁を取り出し、ダッシュ開始。
こちらに気づいた様子を見せる蝶……なんて呼べばいいんだこいつ、とりあえず仮名称で蜜袋とでも呼ぶが蜜袋は腹に大量の蜜を抱え込んでいるにも関わらず存外に軽快な動きで飛び去ろうとするが……ドンマイ、遅い。
勢い余って追い越しそうになったものの翅に一太刀叩き込む、蜜袋が翅を失ったことにより空中姿勢を保てず思いっきりバランスを崩したことで晒した隙を見逃さずに頭と胴体の接合部分を攻撃する。腹に一切のダメージを入れる事なく攻撃を加えると蜜袋はポリゴンを撒き散らしながら爆散、その中からたぷたぷとした蜜袋(胴体)が物理法則に従って落ちてくるのをキャッチする。
「よしよし、あんなに見せびらかしてたんだ。レアドロップとしてあるんじゃないかと思ったよ」
「お見事ですビャッコさん」
…………うーん、触り心地はなんというか水風船を少し分厚くして水をパンパンに入れたような感じ、と言えばいいんだろうか。ただ少し強めに指を押し込むだけでもすぐに割れてしまいそうなのでさっさとインベントリに突っ込みつつアイテム説明を見てみる。
・ストレージパピヨンの蜜袋
ストレージパピヨンが集めた蜜を貯蔵する腹袋。衝撃に弱く、蜜が溜め込まれた状態のものを手に入れるのは非常に困難。
食べて楽しむも、投げて楽しむも正解。
「…………ほう?投げて楽しむ、と」
いやまぁあんなにぷよぷよしてるやつ、投げるのは確かに楽しめそうだな……まぁ試すとしてももう2、3個回収してからだろうが。
「さて、次のモンスターいってみようか?」
花の蜜を集めるのは蝶だけ?そんなわけない、寧ろもっとデンジャーでメジャーなやつがいる……例えばそう、こういうやつとかな。
「そりゃいるよなぁ、蜂型モンスター」
「…………エンパイアビー、のワーカー種ですね」
エンパイアビー・ワーカーとでも呼べばいいのかその場合は。まぁいいや、取り敢えず狩ってみてドロップアイテム確認といこうかな……レアドロはその針かな?引っこ抜いてでも採取してやるよ!…………残念、針は出なかったか。ん?
――――――バシュッ。ヒュルルルルル……パァン!
「おっと?」
エンパイアビー・ワーカーの体から何かが射出された。それは上へとぐんぐん進み……花火の如く爆ぜた。わぁ綺麗、集めた花粉か何かがそこらじゅうに……いや待て。そういうモーション、
――――ブブブブブブフブブブ…………
「わぁ、随分と結束力のお強い軍隊なんですね」
「言ってる場合じゃありません、エンパイアビー、ハンター種ですね。逃げるかここで皆殺しにするかしないと鼠算式にみるみる数が増えていきます」
「オルト?聞き間違いじゃなければ今とんでもなく物騒なこと言った?」
「さぁ……それよりも、お手伝いしましょうか?」
「いやぁ、今回は1人でやろうかな。そこらへんで素材回収とかしててもらっていい?」
「わかりました」
なんて聞き分けのいい有能兎なんだ……はっはっはっ、サンラクが散々食い散らかされたあのマジョリティハウンドに比べればよっぽどお粗末な連携で突っ込んできやがる、オルトよこんな雑魚敵にお前の手を借りるまでもないのだよ……いやまぁ、司令塔を失ったへっぽこワンコ共よりかはまだマシな動きか。
「数は8体……というかお前ら俺よりレベル高いの?なんで突っ込んでくるの?」
おかしいな、呪いは低レベルが逃走を選択するようになるらしいんだが。もしかして群れだとレベルの判定変わったりするのかな?まぁいいか、今はそんなこと気にしている場合じゃないな。8名様ごあんなーい!
「しゃあっ!」
真正面から律儀に突っ込んできて尻の針で突き刺しにきたビー・ハンター1を回避、蹴りを叩き込む。ビー・ハンター2は上から鋭角に切り込んできたので自前テクニックでパリィし弾き飛ばす。5、6、7はどうも様子見しているのか少し距離を離しているので放置、3と4と8の対処に専念する。ロターテムーブ…………文字通り回転しながら動くこのスキルはどうも回転という条件を満たせば普通にどんな回転の仕方をしてもいいらしい、しかもスキルアシスト+獣の子の自然フィールド滞在時のモーション補正によりとんでもない変態軌道……そう、たとえば全身を凄まじく気持ち悪い感じでうねうね動かして攻撃を回避しつつダメージを与えることすら可能だ。
「ギチギチギチギチ歯ぎしりうっせーよ!黙れ!」
スタートはそっちの方が早い?残念、出だしが遅くとも先に当たった方が正義なんだよね。
沼潜の短刀を上に突き出す。グチャっという嫌な音が響いた。ちらっと見ればどうやら思いっきり口から胴体にかけてを串刺しにしてしまったらしい。力任せにビー・ハンター3から短刀を引っこ抜いてポリゴン爆散、やぁおまたせ4君、8君、あれ君達も来たのかい1号アンド2号。上等だ全員爆散させてやる!
「アクセル!!」
一時的にSTRとAGIを向上させ向かってきたビー・ハンター1号アンド2号を迎撃、そのまま4と8に向かって突撃する。おやお二方2体同時攻撃ですか、浪漫ですなぁ……まぁ俺に本気でその攻撃を通したいと思うのならもっと面制圧で来てもらわないと困るがなぁ!直線攻撃で俺が避け(られ)ないのは超ロングノーツか超高速縦連だな。
アクセルのレベルは既に取得時の4からなんだかんだヴォーパルコロッセオの連戦により使い込み続けて今や8、素のステータスの1.5倍近い上昇率を叩き出した今ならば……!
「よっしゃ成功!」
アクセル発動中にスピンスラッシュを起動する。慣性の法則がしっかりと適用されたこの世界ならば
だがこれにより無事1、2、4、8は無事撃破。あと残るは5、6、7だが……あれ?あいつらどこ行った?
「まさか逃げた?」
「そんな筈はありません、エンパイアビー・ハンターは執念深く巣を脅かす脅威を自らの命に変えてでも排除しようとしますから。そうで無いとするならば……」
そうで無いとするならば、その言葉の続きは目の前に降って来やがった
「まさか……巣から殆ど離れる事のないエンパイアビー・タスクフォース……!?」
特殊部隊、ねぇ……いやまぁ一目で確実にそこらへんのやつとは別格だなとは思う、なんだあの腕、いや腕とは言わねーわ、発射口付いてる腕って何?にしてもサイズがおかしいだろ、さっきまでの奴らの2.5倍はあるぞ?
たださぁ…………
「巣から殆ど離れない……レアエネミーじゃん!素材寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
あ、オルトごめんそこらに散らばってる素材回収してもらって……あ、もう始めてる。有能!