シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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刹那、されど永き時の墓守に終止符を望む 其の三

「ふっ、ふっ、ふっ…………いや、やっぱり継続は力なりだよな。素振り300回程度でバテてくるとは」

 

以前までなら1000だろうが2000だろうが問題なくこなせたというのに今の俺では300本程度の素振りで竹刀を握る手に力が入らなくなってきた。

ゲーマーというのは基本的に脳みそだけ動かしていれば良いと思われがちだが大間違いである。フルダイブゲームの特性上筋肉が落ちやすく、プレイヤー自身のリアルの肉体の方があまりにも弱すぎるとゲームパフォーマンスにも影響が出てしまうのだ。

それを防ぐ為に俺は家の横に併設された祖父が道場主を務める剣道場で基本的に竹刀を振ったりランニングをしたり筋トレしたりしている。正直道場の中はクソほど蒸し暑いからさっさと切り上げてコンビニに行くがてらランニングをしよう。

 

トレーニング用のジャージに着替え、財布をポケットに突っ込み家を出る。ここから2週間はあまり外にも出れないし色々買い込んでおこうかな。…………にしても

 

「あっついなぁ………確か今日は最高気温を更新するんだったか」

 

照りつける日光は最早凶器として全身に突き刺さり、ついで熱と光を地面に叩きつける。それに負けじとアスファルトが熱を反射して上と下からのダブルパンチが俺に襲いかかってくる。わかったからせめてどっちかにしてくれ、一生上から殴られるのも下からカチ上げられるのも辛いんだよ。

120%幻聴だろうが体から水分が失われていく音を感じつつ俺は家から1.5キロほど離れたコンビニへ到着、即座に突撃を敢行する。

 

「は――――――……」

 

クーラーは間違いなく人類が作り出した発明の中でも最高傑作ではなかろうか、とはいえ汗で濡れた体であまりクーラーに当たるわけにもいかないしとっとと買い物して帰るべきかな。

ジャージで額の汗を軽く拭いながら店内を歩く、んーー、やっぱりエナドリか……?いや俺別にエナドリに頼らなくても問題ないんだけど。やっぱり本気で取り組みたいし普段は使わない外付けのニトロも悪くないかもしれないな。

 

「なら何本買うか…………」

 

2週間ともなると1日一本としても14本、ただそれだけで済むかと少々疑問が湧いてくるんだよなぁ……いっそ2ダースいくか?

 

「や、こーくん。珍しいねエナドリなんて」

 

「…………何でいるんだお前」

 

エナドリの詰まった箱を手に持って少し悩んでいたら後ろから軽やかな声。振り向いて見ればそこには我らが幼馴染たるキョウが学生服を着てそこにいた。

 

「え?僕はあれ欲しくってさ」

 

「あれ?」

 

キョウが指差した方向を見てみればそこには雑誌コーナー……目当ては「週間VRフルダイバー」かな?この雑誌は主にゲームの情報やらプロゲーマーのインタビューが載っている。音ゲーのプロやら音ゲーの情報やらも載っていることがあるから俺も時々買うことのある雑誌だ。

 

「シャンフロの夏の大型アップデート、情報見ておきたいんだよね。僕もシャンフロやってるし。ほらこれ見てよ、新エリア「断絶の大海」、「開拓船団」、その先にある未知なる「新大陸」に新職業「ライダー」……僕一応シャンフロじゃちょっと名が通っててね、この開拓船団の第一陣に乗船できるんだよ」

 

「へぇ…………」

 

キョウが手に持つ雑誌を肩越しに覗き込んでみればゲーム内のスクリーンショットらしき何枚かの写真も一緒に掲載されていて、その中には人の手が明らかに入っていない大自然や遠くに微かに映り込んだ奇妙なシルエットの人影。何か巨大な物体が浮上しようとしている海面などなど見るものの好奇心を強く刺激しにくる光景が煽り文句と共に掲載されている。

夏にこういう大規模なアップデートを加えるところが上手い。俺やサンラク、カッツォのような新規プレイヤーを引き摺り込むやり方を熟知しているな。音ゲーは曲を作った方との折り合いがついて譜面が完成次第アップデートを繰り返すやり方が主流だから俺的にはこういうドカンと大きなアップデートは普通に楽しみだったりする。ウェザエモン戦が終わったらゆっくり新要素を楽しむのもありかもしれないな。

 

「へぇ…………ふぅん、こんな調整が……」

 

「…………こーくん?そろそろこの体勢キツいんだけど……っ」

 

「あ、すまんすまん」

 

つい読み込んでしまうのはやはり神ゲーだからか?身長の関係上ずっと肩より上に雑誌を持ち上げて俺に見せてくれていたキョウに謝る。

というかさっさと家に帰らなければ。すぐに色々用意してレベリング開始だのなんだのと鉛筆が入っていた覚えがある。というわけで迷うくらいならやれ、の理論の元エナドリを適当に買い物カゴの中へガッシャガッシャと放り込んでいく。あ、菓子類とかも買い込んだ方がいいかな?

 

「これで」

 

「9885円になります」

 

あっぶねー、諭吉で済んでよかった。諭吉さん一名を犠牲にそこそこの重量を内包したビニール袋と釣り銭を受け取る。最近は電子マネーが主流なんだろうが俺はリアルマネー派だな、紙切れ一枚がその数倍、数十数百倍に迫る重さの物体に変わるというのはなんとも言えないが、良い。

 

「さて帰るかぁ」

 

「僕も昼ごはん食べさせてよ」

 

「別に良いぞ…………急いでるからちょっと走るか、キョウ悪い。これ持てるか?」

 

差し出すのはエナドリやら菓子が大量に詰まった袋、持たせるのは申し訳ないが少し急ぐ関係上恐らく()()()の方が早い。

 

「え?別に構わないけど何するつもひゃぁっ!?」

 

袋をしっかり持ったことを確認、脇腹と膝裏に手を回して横抱きに移行しそのまま全力で家路を駆け抜ける。

 

「これっ!普通にお互い走った方が速いんじゃないの!?」

 

「トレーニングついでだったんだ!これぐらいの負荷が欲しかった!」

 

「………………それ僕のこと重いって言ってる?」

 

 

 

 

……………………失言だったかもしれないな、今度何か詫びスイーツでも買っておこう。

 

◇◇◇◇

昼食をキョウと食べ終えた後爆撃の如く送られてきていたメールに少々イライラしながらログインする。目が覚めればベッドの上だ。

 

「おはようございます、ビャッコさん」

 

「ん、おはようオルト」

 

テンションは普通からローテンションの域を行ったり来たりしてる黒斑兎に挨拶しつつ俺は鉛筆戦士に言われた言葉を頭の中で反芻していた。

 

――――NPCはリスポーンしない。

 

リスポーンシステムはゲームというカテゴリにおいてあって当然の権利である。まぁ確かに俺がやっていたクソゲーのように負けたらデータ全ロスなんてゲームは他にもあったらしい。

世間からの評価?察しろ。

至極落ち着き払った様子で花瓶の水を取り替えているオルトを見る。俺が2週間後挑むのはユニークモンスター「墓守のウェザエモン」……天覇のジークヴルムと同列として扱われる七つの最強種だ。

もしそんな危険地帯にオルトを連れて行ってあまつさえ殺されましたって?その前に俺が死にそうだよ。というか大前提人数まで加味して調整された攻略戦をNPCが邪魔する必要はないだろう。となれば事前説明は大事だな。

 

「おいオルト」

 

「…………なんでしょうか?」

 

「2週間後に墓守のウェザエモンと決着を付ける必要が出てきたから一時的にパーティーを抜けてもらう」

 

その時のオルトの顔をスクショしなかったことを俺は死ぬほど後悔した。

それぐらいの芸術的な変顔だった。

 

 

 

 

 

さて。

「怖すぎるなぁ」

 

ヴァッシュから無事お呼び出しがかかったぜ。

こっっっわ。僕たちなんか悪いことしました?……墓荒らしという形でなら悪いことしてるか、の?

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