シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
まぁ、なんというか見たくない現実……いやまぁここ現実は現実でも「仮想」現実なんだが。現実において大きな失敗をしてしまった場合、つまりは精神的に大きく崩れてしまった場合どうすれば心の均衡を保ち冷静さを保持していられるだろうか?
俺の場合は竹刀を数千回ほど振ったり数キロランニングしたり……要は単純で、それでいて集中できることをすることが一番手っ取り早い。
サンラクもどうやら俺を煽りこそしたものの自身に全て跳ね返ることに気づいたらしく途中からは死んだ目になっていた。
そして俺たちが取った手段は酷くシンプルだった……即ち、釣って釣って釣って釣って釣りまくり時折鮭に釣られる鰻を解体する作業に従事することであった。その過程で数度サンラクと俺とカッツォの3人のうち誰かが死にかけ、死にかけた奴以外の2人がなんとか救出し、最終的には挙動も把握しレベル差も縮まっていき……夜になった。
「さて、目の前の半壊した湖の件はまた今度じぃっくりお話を聞かせてもらうとしてぇ……うーん、私の見立てではあと2日はかかると思ってたんだけど、もうレベル40台かぁ………君達生き急ぎすぎじゃない?」
「違………あのバカ2人が……揃いも揃って現実逃避して……」
「そもそも
「いや、うん……ちょっと頑張り過ぎた」
「右に同じかなぁ……」
途中参加だから最初から3人で釣っていたらどうなっていたか定かではないがライブスタイド・レイクサーモン……もとい鮭141匹、ライブスタイド・レイクサーペント11体……もとい鰻を解体したことにより俺はレベル48、サンラクはレベル45、カッツォがレベル42になった。
これが本日の現実逃避である鮭釣りと鰻解体ショーを敢行した俺とサンラク(に付随してとばっちりを受けたオイカッツオと時々オルトとエムル)による本日のスコアだった。
「動きが単純とはいえライブスタイド・レイクサーペントは平均レベル45はあったはずなんだけど、よく倒せたねぇ」
「はぁ?お前ウチのエムルさんはレベル56だぞ?」
「なんならうちのオルトなんてレベル90手前なんだよなぁ」
「困った時のエムルちゃんとオルトちゃんマジ強いのなんの……」
終盤になってくると俺とサンラクよりレベルが低い鰻が増えたせいで効率が死ぬほど落ちてきやがった。オルトとエムルちゃんが湖付近でマジックエッジをぶち当てて怯ませていなければここまでのスコアは叩き出せていなかっただろう。
「君達は本当、馬鹿だねぇ……いい意味でも悪い意味でも。まぁいいや、ほら立った立った、今日は満月なんだから……君達にユニークシナリオEXを受注させに行くよ」
「……一旦ログアウトしちゃダメ?」
「駄目です、そのセーブテントだって馬鹿みたいに高いのに回数制限付きとかいう畜生アイテムなんだからね!というか割と時間押してるの!」
オイカッツオが悲壮感を漂わせながら見つめる先には直方体の布によって面が構成された所謂レジャー用テント……を中世ファンタジー素材で組んでみました!的なそこそこしっかりした作りのそれがでんと地面に鎮座していた。
ペンシルゴン曰く「廃人でもおいそれと買い占めはできない即席のセーブポイントアイテム」らしいそれは本来であるならばサードレマやセカンディルのような街やラビッツなどの拠点に存在するベッドの上でしかログアウト処理が出来ないシャンフロのゲームシステムにおいて殆ど唯一の例外的にモンスターが出現するようなエリアでのセーブを可能とするアイテムなんだとか。
どうも有難いことにこの隠しエリアは鮭を釣り上げ続けてレイクサーペントをおびき出さない限りは敵Mobが出ることがないらしいので思う存分くつろいでも問題ないと言うわけだ。
「つまり少しばかり休んでもバチが当たったりは……いてっ」
サンラクが溢したその言葉に対するペンシルゴンからの返答は無言で顔にこう……スパンっと投げつけられた、システム的に譲渡されたマジックスクロールだった。
◇◇◇◇
真夜中だろうが真昼間だろうが千紫万紅の樹海窟の壁や樹にびっしりと生える苔共は光を抑えるという概念を持ち合わせていないらしい。下手をしなくとも真昼間の外よりも明るい樹海窟を4人と2羽が進む。
「しかしよりにもよって俺が攻略したエリアに隠しエリアが実はありました、ってのは個人的になんか悔しい」
「なんかわかる気がするよ」
「時間指定タイプの隠しエリアだから運ゲーだよ、見つけられなくても仕方ないよ、うん」
それは見つけた奴が言う台詞では無いと思うんだがなぁ……オイカッツオはどうやらまたしても持病を再発したらしく鳴き声か何かのように「いいなーユニークいいなー俺も自力で見つけたいなー」と繰り返しているので放置という結論が満場一致で決定された。
「満月の夜、千紫万紅の樹海窟の壁に生えた蛍光苔の中で極一部だけ
ペンシルゴンが触れたのは周囲の苔の光によって上手い具合に隠された光を放っていない苔。その苔はボロボロと崩れ落ち苔の生えていないなんとかギリギリ頭をぶつけない程度の高さのみが確保された細く暗い道が顕わになる。
「いや、こんなのよく気づいたなオイ」
樹海を洞窟の中に限界ギリギリまで詰め込んだようなこのエリアは兎にも角にも広い。少なくともクアッドビートルとの追いかけっこでもその全貌を明かせなかった程度には広い。そんな中で壁中に光源があるわけだから意図的にこんなわかりづらいものを見つけられるとは到底思えないんだが……
「見つけたのは私なんだけど、ぶっちゃけると偶然。ここで取れるアイテムを獲りに来た時に見つけたんだよネ」
「そういうことだオイカッツォ、ユニーク発見は運ゲーだから天に祈れ」
「鰹が祈ってもあんまり意味なさそうだしいっそのこと供物になれば見つけられるんじゃないかなオイカッツオ」
「………その目をやめろお前らぶっ飛ばすぞこのやろー」
なんだよカッツォ、俺達2人の「大海の中で踠く阿保鰹のことを天より憐れみと慈悲とざまぁという表情で眺める天帝の眼差し」に対してなんて不敬な態度を取るんだ、無礼だぞ不敬だぞ。
「もー、君達はすーぐそうやって漫才を始めるんだから。ほら、武器はインベントリにしまったら行くよー」
◇◇◇◇
「わぉ……これは中々に壮観な」
「ユニーク抜きにしても私はこのエリアが好きなんだよねぇ」
「いや、さっきの樹海窟も綺麗だったがこっちもそれに負けず劣らずじゃねぇか……」
暗闇とじめじめとした湿気が籠る道、どうも少し上り坂になっているらしいそれを進むこと数分。漸く見えてきた淡い光が差し込む出口を抜ければそこは一面が赤い花に覆われた空間だった。
先程の樹海窟のように苔が光源になっているのかと想像していたがそこには洞窟の天井も苔も無く、現実の月と比べてかなり巨大な満月が柔らかい光を少し涼やかな夜風と共にこの赤い花畑へと注いでいる。
地面が浮くとか色とりどりの花が狂い咲いているとかでなく、物理的にあり得ない光景でもない……なんなら少し頑張ってみれば現実でも十分再現可能な景色な筈だというのに、本当に何故だか今まで見てきたどんなエリアよりも幻想的に見えた。
「綺麗な花ですね、なんでしょうかこれは」
……彼岸花かな、これは。実物を幾度となく見た俺からすればここまで立派な彼岸花は早々ない。一面に咲き誇る赤は恐らく全て彼岸花なんだろうな……死者に手向ける花がこんなに咲いているという光景はここが死者の世界かもしれないという錯覚を齎すものだ。
「さ、行こうか。セッちゃんがお待ちかねだよ」
遠慮なく彼岸花を踏み躙り進んでいく光景を見て「もうちょっと情緒とか無いかな……外道だし無いよな」という感想を抱きつつ、ペンシルゴンに続いていく。歩いて行くと見えてきたのは枯れた一本の大木と……根本には、女性か?
「す、透けてますわ!」
「本当だ、バグかな?」
「何故第一候補が仕様じゃなくてバグなのかな……」
「やっぱりこいつの目一回外してフィルター洗わないと不味くないかな」
ここでまず飛び出てくる発言がバグというのは流石に無いだろうサンラクさんよ、まぁお前的にはジョークのつもりだったんだろうが。…………さて、ペンシルゴンの反応的にあの半透明の女性が恐らくユニークシナリオの受注に重要なNPC「遠き日のセツナ」で間違いなさそうだ。
「やぁやぁセッちゃん、一ヶ月ぶり」
「あら……アーサー、久し振りね」
聞いていた情報では既に死んだ人物……つまり幽霊であることからもっとこうかすれるとか、吹けば飛んで消えてしまうような儚いものだと思っていたんだが意外にハキハキと喋り笑みさえ浮かべる「遠き日のセツナ」。そこにも興味は尽きないがそれよりも気になることが1つ。
「なぁオルト」
「はい?」
「あの女性が着てるような服……お前が今まで見てきた人の中で似たようなの着てる人居たりする?
「…………いえ、心当たりがありませんね。あのような服を着ていれば少なからず印象には残るので間違いないです」
いやまぁ、だろうな。としか思えんなぁ……「遠き日のセツナ」が着ているあの服、なんというかファンタジーらしさが薄い。ファンタジーで中世チックなシャンフロで今まで見かけたNPCは誰も彼もが植物性や動物性の衣服を身に纏っていたし、生物の皮や甲殻由来のものとも違う……画一的な大量生産品に近い印象だ。ただ安っぽい感じでは無いな、あまり服には詳しくないがあの服には仄かな気品と高級感を感じる。…………俺のようなプレイヤー、つまり
「神代文明とやらかな……」
シャングリラ・フロンティアにおいて重要な世界観的要素として度々その名が浮かび上がってくる「神代」。旧文明とも言えるだろうそれに恐らく類しているNPCが絡むユニークシナリオか……ミサイルだのビームだのが計画書には記載されていたしつい数時間前にやり合ったあのクソゴーレムの件もある、やる気が上がってきたな。
と、暫くセツナと談笑していた(これだけでも十分快挙に値する」ペンシルゴンが不適な笑みを浮かべ俺達の方を振り向く。
「紹介するよセッちゃん。このバカ3人があいつ……ウェザエモンに引導を渡すための切り札だよ」
その言葉に俺とサンラク、オイカッツオを見つめるセツナの目に映る俺達に対しての感情は、期待と悲哀が半々と……ほんの少しの諦念を加えたような何とも言えない眼差しだった。
心が折れた時あなたはどうしますか?
僕の場合は直近で受験に心をへし折られたので小説を書いて投稿することで心の均衡を現在進行形で保っています。
皆様の感想とUAが勇気をくれるんだ…