シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
ガシャン、地面に膝をつく音が響く。サンラクではない、半裸だし。カッツォやペンシルゴン、俺も膝と腰のみではあるが中々にVITの高い金属製の脚甲を付けているわけだが……それでもこんな音はしない。
じゃあなんだよ騏驎が膝をついたの?いやいやいや、それならばもっと轟音だろうし地面だって揺れるだろう。従って今この場で膝をついた人物とは。
「…………」
「倒した……というわけじゃなさそうだな」
「そもそもこれで倒れるんなら……阿修羅会とやらが攻略してるでしょ」
膝をついて今までの暴れっぷりが嘘のように静まり返る墓守のウェザエモン。一見「わーいボーナスタイムだー!」と叫びながら殴りかかっても良さそうな状態だが……こいつがそんな甘っちょろいモンスターか?否、これはどう考えても距離を離し次なる一手に備える必要がある
どうも俺の考えは合っているらしく、天秤をインベントリにしまったペンシルゴンが警戒しながらゆっくりと立ち上がる。
「来るよ3人とも……こっからがヤバい」
墓守のウェザエモンの静止に連動するかのように今までの暴れ馬っぷりはなんだったのかと言いたくなるほどにピタリとその全ての動きを停止させた騏驎の上、なーにをとち狂ったのか自分で自分をギッッチギッチに騏驎の首に縛り付けているオイカッツォが遠目で見てもキョトンとした顔で戸惑っているのがよくわかる。…………うん、この際お前にそう言う趣味があったのかどうかは聞かないでおいてやるからさ?せめてこの場ではやってほしくなかったかなぁ笑いそう。いい感じに緊張してんのに台無しだよ……?
「まだメンバーがマシだった頃の阿修羅会でもここまで来たのは一度っきり。便宜上第三形態と呼ぶけど……その時は墓守のウェザエモンの
「だからお前でも最初に何をしてくるかしか知らない、と」
「でもそれってさぁ……裏を返せば、
俺達4人は知っている。
第一形態はウェザエモン単体との10分間の戦闘、第二形態は召喚された騏驎とウェザエモンを同時に対処する複合戦闘。
そして第三形態……墓守のウェザエモンが「自壊」をトリガーとして発動される初手のフィールド全体攻撃だ。
墓守のウェザエモンの体が周辺の空気を取り込み大きく膨らむ、それによりウェザエモンを中心とした風が吹き荒れる……あれ、これ本当に大丈夫だよな?
「おっま……これやばいぞ!?ペンシルゴンこれに関してはなんか秘策があるって言ってたよな!?!」
かつてたった1度だけペンシルゴンが辿り着いた時、墓守のウェザエモンが鎧に大きな亀裂を入れながら咆哮した瞬間に発生したという衝撃波。それによって消耗していたとはいえ、生き残ることに成功していた阿修羅会上位5名の体力を一撃で全損せしめたフィールド全体を覆う攻撃……それに対してペンシルゴンは計画説明段階においてとある「秘策」を用意したと言っていた。
まぁ俺とサンラクのステータスじゃ、防御をどんなに頑張ってガチガチに固めようが確実に消し飛ぶ訳だどうにかしてくれないと俺達にはどうにもならん。
「カッツォ君! 騏驎も動きが変わる可能性があるから気をつけて!」
「了解……っ!」
馬擬きに自分を縛り付けてロデオするという危ないプレイ(ライトな意味でもディープな意味でも)を敢行していたオイカッツォがポーションを文字通り浴びるように飲み干しながら緊縛状態を解除し距離を取る。
「ここから先は前人未到の領域、覚悟を決めてね」
「初見攻略はゲームの基本だ、覚悟なんて最初からできてる」
「音ゲーなんて大体は初見で攻略するもんだし慣れてるねぇ」
「ならよし……!」
インベントリから……ん、なんだありゃポーションか?何やら青色の液体が入った瓶を取り出したペンシルゴンは怯えも恐れも迷いも一切感じさせない足取りで未だ空気を取り込み続けその場で不動を貫く墓守のウェザエモンへと近づいていく。
「あ、もしこれダメだったら自力でなんとかしてね?」
「おい!」
「ふざけんなよお前!」
俺とサンラクの抗議の声とこれまで何をやっても欠けることすらなかったあまりにも驚異的な強度を持っていたウェザエモンの鎧に亀裂か入るのと、ペンシルゴンがウェザエモンに向かってポーションを投げつけるのはほぼ同時だった。
パリン。そう小気味良い音を立てながら墓守のウェザエモンに瓶が直撃して砕け散ったことで中の液体が墓守のウェザエモンにぶちまけられた。
そして溜め込んだ空気を解放するかのように……メタ的に言うならば咆哮モーションを取ろうとした墓守のウェザエモンだったが、果たして――――
「ォォォオオオオ………ッ、ガッ!?」
そのモーションは強制中断され、今まで何をやっても一切ダメージを受けた様子がなかったウェザエモンから白煙という形でダメージを与えることができたことを示された。
「よっしゃビンゴォ!」
「何したんだ!?」
「いや中身あれ何!?」
身体はこれからやってくるであろう戦闘に対して準備を整えつつ口では今何をやったのかと言うカラクリをペンシルゴンに問いかける。
「このゲームさ、世界観や設定が攻略の鍵になるわけでさ。私はずっと墓守のウェザエモンは「神代の技術で身体を機械化したサイボーグ」だと思ってたわけよ」
まぁ確かに見た目だけ見れば完全にパワードスーツを纏ったロボットにしか見えないウェザエモンの正体を推測しようとするならば、「遠き日のセツナ」の話やシャンフロという世界における「神代」というSFな設定を加味すればサイボーグだと考えるのはなんらおかしくはない。寧ろ妥当なところだろう。
「だけどさ、ソースがどこなのかは知らないけどサンラク君とビャッコ君が持ってきた「死に損ない」って単語から大体ウラが見えてきたわけで……要するにあいつ、過程はなんであれ分類的には「アンデッドモンスター」なんだよ」
つまり、と言いながらペンシルゴンは己が武器を……それ即ち、本人が最も得意とする武器である槍を構えながらこう続ける。
「シャンフロのアイドル聖女ちゃんが丹精込めて作った「聖女ちゃんの聖水」……裏ルートで大枚叩いて手に入れた最強クラスの対アンデットポーション、さすがの威力だね」
聖女ちゃんの聖水(意味深)かぁ……いやいや、そんな悪い考えではないですよほんとほんと……それにしたって裏ルートで流通する聖女ちゃんの聖水(意味深)ってどう考えてもアレなやつじゃ……
「言いたいことは分かるけど、アレなアレじゃないよ」
「大概ヨゴレ系だよな花形モデル」
「本当にモデルかどうか疑わしいよな」
「清濁吸い上げて花は美しく咲くのだよ……そこ、私はちゃんとしたカリスマモデルだからね!?ともかく、全体衝撃波は阻止した、ここから先は私もぶっつけ本番だよ!」
どうも聖女ちゃんの聖水(意味深)の力を持ってしても全体攻撃を妨害した程度で致命的なダメージを与える、とまではいかないらしいのが残念なところか。悶え苦しんていたのが嘘のように落ち着いた墓守のウェザエモン。だがしかし腕や腰、肩………各部の装甲が割れるように弾け飛び全身の亀裂から血が噴き出すように青い炎状のエネルギーが噴出する。
ついさっきまでのサイバーチックなウェザエモンの姿はどこへやら、SF感を強く感じさせる機械で覆われた姿はあっという間に変わり果て、全身に亀裂を広げ、崩壊が進んでいく体がゆらりと立ち上がる姿はまるで蒼炎を纏う幽鬼。遥か悠久の過去の亡霊……という言葉が相応しいな。ところでペンシルゴン、戦う気満々なところ悪いがちょっと横を見てもらって構わないだろうか。
「…………やる気満々なところ悪いんだけどさペンシルゴン、墓守のウェザエモンよりもオイカッツォを……正確には騏驎をなんとかして欲しいかな」
「え?そりゃアシストくらいならするけ、ど…………は?」
まぁ、うん。なんだ。俺も
「勝利条件は時間制限説はほぼ確定っぽいし、多分30分がリミットなんだろうな」
サンラクがそう言う。
そして俺達が視線を墓守のウェザエモンから逸らし横に向けた先。変形し、頭と胴体が無い中途半端な甲冑のような姿へと変貌を遂げた戦術機馬【騏驎】、その前でその変貌に困惑しながらもファイティングポーズを取るオイカッツォが目に映った。はー成る程なぁ、あそこにウェザエモンが入る事で巨大甲冑のような状態になるわけか。…………あのサイズ感で断風やら大時化やらが来る?はははおいこら運営クリアさせる気があるのか。
「付け焼き刃のステアップをしてるとはいえ、レベル制限がある状態で完全体の「アレ」と戦うのは無理だろ。少なくともあの、元は馬だった現巨大甲冑をウェザエモンと合流させちゃあダメだってのはさすがに分かるよな?」
サンラクが言ってることはつまりこう言うことだ。つまりは、俺達4人の役割分担は残り何分とも知れない耐久の中で奴らを合体させないことにある。騏驎甲冑とウェザエモン本体、どういった風に人数を割り振るのか、ウェザエモンに誰をぶつけるのか……普段が外道で畜生すぎるが故に分かりづらいが基本聡明なペンシルゴンならすぐさま最適解が出てくるだろうさ。
「だろうね、私の知るウェザエモンと騏驎の合体はケンタウロスみたいな姿だったんだけど、第三形態じゃ別フォームがあったわけだ………」
本当に苦々しげに動き出そうとする騏驎甲冑を見つめるペンシルゴン。俺とサンラク、オイカッツォ双方のアシストという役目こそ変わりはないが、俺達とオイカッツォどちらにバランスを傾けるかなんてバカでもわかるだろう。
「………………サンラク君、ビャッコ君。一応アシストはするけど
「「
強がりなんてもんじゃない。そもそもこっちはこっちでやりたかった検証は終わっているし、何より考えてきた予想が当たっていたことで勝ちの目が見えてきた。
ペンシルゴンがオイカッツォの支援へと向かうのを確認した俺達は炎を纏う幽鬼へと歩みを進めつつ、向こうが答えることはないと分かっていても口を開いてしまう。脳みそバックドラフトだ、ゲームにのめり込んでくるとテンションとパフォーマンスが上がる手合いなんでな……
「……ペンシルゴンからお前の戦闘パターンを聞いた時から、ずっと疑問に思っていたんだ。「それつまらなくね?」ってな」
「確かにゲームとしては王道も良いところだよ、強敵相手に自壊まで耐え抜く……実力の足りない敵と戦う時なんかこれ程分かりやすいものなんてないよな」
目の前に立っている化け物はそれに確かに相応しいだろう。当たればどころか掠れば……下手すりゃ風圧だけで殺しにかかってくる刃を全力で避け、死の圧力から逃れ、しかして戦いからは決して逃げることがない。王道も王道……小説アニメマンガあたりならつまらないが来るより先に面白いが先行するだろう。
だがしかし、これは「ゲーム」なのだ。脅威と戦おうが耐えようがそれは俺達プレイヤーの勝手なのだ。で、あるならば「30分ひたっっすらに耐え続けるだけのボス」って面白いか?
断言するよクソつまんねぇ。
5分10分ならまだ構わないさ、が、30分逃げて逃げて逃げ続けるなんてのが前提としてデザインされたボスなんてクソだ。例えイベント仕様だろうが許されるわけがない。もし仮に(というかほぼ確定だが)ユニークモンスターがゲーム性よりもストーリー性を優先していたとしても、それだけはない。そう俺は信じている。
「神ゲーなんだろ?そんなクソ調整するわけないよな」
世界観とゲーム性を両立することを目指した結果無事失敗し、「ゲーム性優先でストーリーがクソ」、「ストーリー性優先でゲームがクソ」、「どれもこれもクソだわ畜生!」……そう言われてきたクソゲーがどれだけあるのやら、もちろん音ゲーの中にもそんなゲームは腐るほどある。アプクソ?あれはなんというか……リメイク元が良かったからまだアレだったけど……なんなら両方クソだった音ゲー普通にいくつか持ってるけど……それはそれ、これはこれってやつだろう。
そして、このシャングリラ・フロンティアというゲームにおいてはその両立を必ず高水準で満たしてくれている、そう信じている。例えどれだけストーリー性を優先しようが20分も耐えさせられた俺達プレイヤーへのご褒美……アプクソにおける「報酬の約120秒」に相当する憂さ晴らしのターンは必ず回ってくると。
だからこそ俺はちゃんと用意した。「耐久性優先で装備作ってね」と言われたのにも関わらずこの脚甲と腰帯を作った。もしもの可能性を……ほんの僅かな可能性を信じ切った。だからこそ今俺はこうすることができる。
蒼炎を全身から噴き出し、刀にすら纏ってみせた墓守のウェザエモンの攻撃をサンラクが何やら兜でパリィする。おっヘイトがこっちに来たな。
「
迫り来る即死の刃。蒼い刀身に更に蒼い炎を纏ったその即死の一撃を俺は脚で
「…………!」
「虫ってほんとすごいよなぁ、
蒼炎纏う刀を止める俺の脚装備……名を
「
本来の用途としてはおそらく一式装備による砲撃のための踏ん張りなんだろうが……今回はこういう使用用途でいかせてもらおう。
「あぁそうそう、断風でも斬れないのは簡単な理由だよ……砲台が壊れるなんてあっちゃダメでしょ?つまりそういうこと」
これは効果にも書かれていなかったから驚いた。以前ロブスター野郎に脚を掴まれて脚を斬り落とされそうになったのだが、こいつはそれに耐えたのだ。つまり隠し効果という形で脚限定で、踏ん張ることによって脚限定ではあるが部位欠損を克服したと言える。
さて、踏ん張りが効くならやることは一つだな。
片脚で強引に刀を振り下ろし一閃、続いて歴戦の音ゲーマーたる俺をして笑顔から発せられる無言の圧力に屈し……くっ殺せ!いや今は死にたくないので殺さないでください。兎も角購入したスキルの秘伝書から会得したスキルを使う。無用な出費分の働きをどうか見せてくれ。
「ほらほら、同じ刀使いとしてしっかり切り結んでいこうじゃないの……!
上げていた片脚を強く踏み込み、振り下ろした刀の軌道をなぞるかの様に振り上げる。
「…………ッ……!!」
全く同じ軌道の斬り上げは確かにウェザエモンを揺らした。
「ハッハーーー!ちゃんと仕事できそうで何よりだわ!!」
致命剣術【半月断ち】というものは非常に有用なスキル、だがしかしその扱いに若干のクセがあるスキルというのが使ってみた時の感想だな。
このスキルは直前の攻撃とは逆の軌道で放った場合ダメージボーナスが発生する……今回の場合で言うならば、斬り下ろしからの斬り上げを行った場合だな。更に直前の攻撃とより近い軌道になればなるほどダメージボーナスが上昇されるというオマケがついてくる。
にしたって本当にクセが強いと言うか扱いづらいと言うか……この脚で止めてから【半月断ち】を完璧に決めるコンボの練習台に一体どれだけの鰻が捌かれたのやら、ちなみに成功確率は半々ってところだ。
「…………
「んなっ」
えっ嘘でしょ発動するの!?てかダメージ本当に入ってるの!?
「後方注意ってなぁ!!」
「!!?」
不意にウェザエモンの背後が
その隙を見逃さずにバックステップで一気に距離を稼いだ俺は大方さっきの下手人だろうサンラクに問い掛ける。
「あれ何!!」
「
「あーー……さっきの大時化空振りってそう言う理由か。助かったわ」
「いいって事よ、さぁ!背中の傷は恥だったらごめんな!存分に恥じてくれ!」
サンラクが一気に肉薄し、敵mobに気付かれていないもしくはヘイトを向けられていない時攻撃力が上がるスキル、アサシンピアスを発動する。エフェクトを纏った刃が正確にウェザエモンのエネルギー吹き出す亀裂に突き刺さり、ポリゴンを撒き散らしながらゴリゴリと削っていく。
ヘイトがサンラクへと向けられ、後ろを振り向くために身体を回そうとするウェザエモンに対し「ドリルピアッサー!」と叫びながらアーマーの亀裂に再び刃が直撃した。
「さぁ、補正に急所にクリティカル……今のお前に
螺旋のエフェクトが自壊によって生まれた
「「憂さ晴らしさせてもらうぜ!!」
ここから先は俺達2人のターンだ、どんだけ攻撃しようと一切揺らぐことのなかった第一、第二形態とは違う……20分耐えて耐えて耐え忍んだ結果回ってきた俺達のターン……覚悟しやがれウェザエモンてめー、ボコボコにしてやるからな!!
「ふはははははははははははは!!合わせろビャッコォォ!」
「おっしゃ任されたァァァァァァァァァァァァァァァア!!」
テンションは最高潮を天井知らずに更新中だ、グラついた墓守のウェザエモンに向かって俺たち2人は両膝に同時にオプレッションキックを叩き込み高らかに笑うのだった。
エンパイアビー種の中でも特別な任務…即ち「砲撃手」であり「砲台」の役目を果たすエンパイアビー・タスクフォースの素材から作られた腰装備。
砲撃の反動を軽減する為の
エンパイアビー種の中でも特別な任務…即ち「砲撃手」であり「砲台」の役目を果たすエンパイアビー・タスクフォースの素材から作られた脚装備。
砲撃を正確無比なものにする為にとてつもない力で踏ん張るエンパイアビー・タスクフォース。その強靭な脚を使って作られた装備であるこの脚甲は装着者の踏ん張りに呼応し凄まじい強度となるだろう。