シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
サンラクとビャッコが墓守のウェザエモンの30秒間ノーリキャスト攻撃の嵐に必死に食らいついている時。
同時刻、オイカッツォとペンシルゴンは騏驎甲冑との戦いにおいてクライマックスに突入していた。
「いやまさか腹を砕いたら中からビーム砲出てくるとは思わないよねぇ!?」
「お陰様で発狂モードだよどうすんのこれ!?」
ついに打ち破られた堅牢な騏驎甲冑の装甲が隠していた中身が露出した……ところまでは良かったのだが、その中身というのは莫大量の光熱を撒き散らす他武装のミサイルやらとは比べ物にならないほどの特大のレーザー砲であった。
更に運の悪いことに、このレーザー砲自体がこの騏驎甲冑の切り札だったらしい。腹部の走行の破壊の為に腕部や脚部などに巻き付けられていた縄を強引に引きちぎり、全身に備え付けられた武装を何も考えていない……否、考えられないのか適当とすら呼べる挙動で大量に解放し始めた騏驎甲冑。墓守のウェザエモンが己を中心に刃の嵐……サンラクやビャッコに倣って命名するならば暴刃圏を展開していたのに対し、こちらはミサイルやレーザーを己を中心に展開する弾幕圏を生み出している。暴れ狂う弾幕の嵐を生成する機械と化した騏驎甲冑、狙っているかすら不明の腕のぶん回しや踏みつけ、レーザーやミサイルなどの対処の為バックステップや跳躍を駆使しつつオイカッツォとペンシルゴンは「この化け物を止めるにはどうすれば良いか」を思案する。
「唯一の救いはヘイト関係なく暴れてるから距離さえ離せばこっちも休憩やら準備やらできる事だけど、下手したらサンラク君とビャッコ君の方に乱入しかねないね……」
「だとしたらやることは1つ、あの発狂アーマーが黙るまでやるよペンシルゴン」
「はいはい。で、何か策はあるわけ?」
オイカッツォほど顔には出ていないがペンシルゴンも全く同じ気持ちを抱いている。そもそも本来の目的というのは「墓守のウェザエモンの討伐」であってあくまでも騏驎は足止めするだけで十分、むしろ大局を見て考えるならばウェザエモンさえどうにかすれば良いのだからここで無理して戦い、万が一にも死んだ場合そのツケがサンラクとビャッコの方へ回っていってしまう。
故にこそ生存が絶対条件なわけだが……いかんせんこの2人は酷く諦めが悪かった。せっかくこのまま行けば押し切れそうなところまで追い詰めたというのに「やめろ」と言われて素直に「はい」と頷き受け入れることなど到底できないくらいには諦めが悪かった。ついでにこの2人が騏驎甲冑を倒すことを諦めていない理由がもう1つある。というのも……
「……俺の予想ではサンラクは「ペット一頭抑えられないんですかぁ?」で、ビャッコが「プロってよく名乗れるよねぇ?w」と見た」
「私的にはサンラク君は何も言わずに鼻で笑う、ビャッコ君は……うん、ニヤニヤしながら肩を叩いてくる、かな」
恐らく、というよりはほぼ確実にさぞかし腹が立つ顔をしてくるだろうクソゲーマーと音ゲーマーの姿が脳裏に鮮明に浮かんだ。これに関しては2人とも確信がある、何せ自分達がサンラクとビャッコの立場であるならば間違いなくそういう顔をするから。
「時に軍師ペンシルゴン殿、俺からちょっと耳寄りな情報があるんだけど聞く?」
「閣下、伺いましょう」
ミサイルとレーザーを撒き散らしながら腕を振り回し足を踏み鳴らす騏驎甲冑の攻撃を回避しながらオイカッツォは不敵な笑みを浮かべこう言った。
「
◇◇◇◇
「さーて……ちょっと調べ物してみますか」
墓守のウェザエモン討伐戦の3日程前、オイカッツォは再び涙光の地底湖を訪れていた。
目的は美しかった地底湖の天井に大穴を開け、大量の瓦礫や土砂や機械類を撒き散らした上に例の多腕ゴーレムをデリバリーしてきたビャッコ曰く「研究所」を訪れる為である。オイカッツォのサブジョブは考古学者、神代の未知を縄と僅かばかりの魔法を駆使して照らし出す職業であるが故にビャッコでは見つけることのできなかった何かしらを得ることが自分ならできるのではないかと考えたのだ。天井に開けられた大穴に向かって瓦礫を踏み台に跳躍、内部に進入しどうにかこうにか土砂を掻き分けながら登りつつ時折崩落時に露出したのであろう岩を掴み力技で強引に進んだ終着点……研究所にオイカッツォは辿り着くことに成功した。
「うーわ……殆ど下に落ちちゃってるねこれは。収穫無しの匂いがするなぁ」
辿り着いた先の研究所は完全に床部分が崩落したことにより地面に接していたほぼ全てが落下し、壁や天井に取り付けられていた機器などもビャッコがエンカウントした多腕ゴーレムのミサイルなどにより殆どが吹き飛んでしまっている。
これでは碌なものは残っていないだろう……半ば諦めながらも「もしかしたら」を期待して所々に残っている通路の残骸をオイカッツォは進んでいく。
進んで行く先々には様々なものがあった。例えば画面に大きくヒビが入り火花を散らすモニター、何らかの液体を保管し、今は砕け散ってしまったアンプルらしき何か、ノイズが絶え間なく走るが時折何らかの形を形どるホログラム……そんな中オイカッツォは偶然破損していないモニターを発見した。そこにはたった1つのファイルのみが映し出されておりそれを閲覧する為に苦労すること数十分、漸くそこら辺から見つけてきた破損していないコンソール的な何かを接続し操作することに成功。閲覧したところそのファイルの題名はこうであった。
「………………戦術機操作マニュアル?」
◇◇◇◇
「戦術機操作マニュアル……何それ」
「どうも神代にあったロボット?パワードスーツ?多分どっちかの操作マニュアルらしくてさ。その中にあったんだよ……
そんな大層な情報があるのならば何故もっと早い段階でそれを実行しなかった?という顔をしたペンシルゴンを見てオイカッツォは苦笑いを浮かべつつこう言った。
「その停止方法がどう考えても
「あーもうわかったわかった、何でも良いからさっさと教えてよ」
「この野郎……あー、それで、その停止方法なんだけどどうも背後にあるリアクターってのをぶっ壊すか引っこ抜くかしないといけないんだよね」
「あ、それなら私良い案があるよ?」
ペンシルゴン発案の作戦というのは基本的には「ロクデモナイ」と「ウサンクサイ」が頭につく上に実行役が8割方死ぬものが殆どである。勿論今回のウェザエモン討伐戦のようにおふざけが一切入っていないものは除くが。
今オイカッツォから齎された情報を下に元々自分が考えていた作戦を即興で構築し直し、ニヤリと少なくともリアルでトップモデルと呼ばれる女がしてはいけない笑み(平常運転)を浮かべつつオイカッツォに「騏驎甲冑を屠る必殺の策」を説明を行い、それを聞いたオイカッツォは非常に複雑な表情を浮かべた上でそれを承諾した。
「ちなみにカッツォ君縄の方は何本残ってる?」
「さっきの発狂で全部一撃全損だよ、元々耐久の低い武器だってのは分かるけどもう少し頑丈にして欲しいかな……ただ、ちょっとした
「サプライズ?……あ、そだ。ネタバレだけどテンバートで現時点最高耐久の縄武器作れるよ」
「ははは、今使えないんじゃ絵に描いた餅以下の価値しかないって言うの!」
最後の1つとなったMP回復ポーションを一気飲みしたオイカッツォがこの戦闘が始まってから何度目かさっぱり忘れてしまった自己強化を施し、ペンシルゴンは素早く残りの槍のストックを確認、今の状況において最適な槍を取り出す。
「ああ勿体無い勿体無い、これ一本作るのにどれだけのお金がいるのやら……確か百万は越えてたかな。まぁ私のお古だから使い潰すのに抵抗は…………ないよ! うん、ない!」
「葛藤が見えたねぇ……よっしゃ、やろう!」
策は決まった、覚悟などとうの昔に決まっていた。緋色に輝く拳を持つオイカッツォと禍々しい黒い槍を構えたオイカッツォがミサイルとレーザーが降り注ぐ地獄の渦中へと駆け出していき、不敵な笑みを浮かべながら2人は宣言する。
「「さぁ……!
そして最後の作戦が始まる。ミサイルとレーザーと振り下ろされ続けた拳と脚によって粉々に粉砕され荒れ果てた地面、白い夜空に浮かぶ黒き月が照らす反転世界で尚漆黒を維持している騏驎甲冑の影。持ち主の大きさと同じく巨大なそれにペンシルゴンが投擲した槍が突き刺さる。
「汝、縫い留めしもの。我、繋ぎ止めしもの。万象に寄り添い、しかして相容れぬ万有の黒を穿つ。【
「確かフル詠唱だと威力に補正が入るんだっけ?」
「普段はやらないけど今回はほんの1%でも可能性が欲しいからね……!」
武器そのものの耐久値を消費することを代償とする
ちなみに武器の耐久値の減少という点に目を瞑れば突き刺すだけで相手の動きを制限できるこのスキル、実装当初は突き刺してしまえばゴブリンだろうがワイバーンだろうが何だろうが問答無用で縛る効果があまりにも強すぎるが故に弱体化が施されたという過去を持つ。
「このサイズだと、保って5秒! チャンスはこの1度だけだよ!」
「オーケー! タイミングはこっちで合わせるから、外すなよ!」
騏驎甲冑の狂奔がぴたりと止まった数秒、2人はたった1つの目的を果たす為に異なる動きを取る。オイカッツォは騏驎甲冑へと肉薄し、ペンシルゴンは逆に騏驎甲冑から距離を取る。
「こいつで私の武器は尽きる……最後に残ったのがこれとはまた何とも運命的というかなんというか」
素早くインベントリを操作し取り出したるは最後に残った槍。必要となる素材の全てがプレイヤーより巨大なモンスターから入手出来るものであるという銘通りの武器種、シリーズ名「
「頼むよ
両手で
「ペンシルゴン!避けろ!」
「なっ……!?くっ…………!」
未だペンシルゴンは折れていない、目に宿った決意の輝きとここで確実に仕留めるという執念の炎は更に燃え上がり強く輝く。左半身にミサイルが着弾し使い物にならない?それがどうした右手があるではないかと言わんばかりにありったけの力を込めて槍が軋むほど強く握りしめ振りかぶり、狙うは騏驎甲冑の背部、リアクターが格納されていると思しき部分。
「いっけぇ……!
その言葉は投擲スキルの名称であり、何より今のペンシルゴンの心情そのものでもある。持ちうるありったけの力を全て詰め込んでペンシルゴンが放った確実に仕留めると言う殺意が籠った槍がエフェクトを撒き散らし尾を描きながら空を真っ直ぐに裂き、騏驎甲冑へ向かって突き進む。そしてインベントリから何やら紙切れを取り出し拳に貼り付け呪文を唱えながら槍に追随する影が1つ。
「赤、黒、黄……三色混合【拳気・過重黒しょ……!?」
ほぼ同時に起こった全ての出来事を順番に並べてみようとするならば、こう言うことになる。
まず、オイカッツォが騏驎甲冑背部のリアクターがあると思しき場所に向かって最大強化の拳を叩きつけようと跳躍した。
次に背部に
だがオイカッツォはその更に上を行った。
「多少のダメージ上等なんでね!!」
ミサイルの雨に晒されながらも屈することは決してない、ミサイルの着弾時の爆風を利用し跳躍距離を稼ぎ騏驎甲冑の上空を通過、素早く体勢を整え背部を再び視界に捉える。狙うは一点、突き刺さった槍の石突き。
「これがサプライズだよ……!
「
その効果は【拳気】系の魔法に超強力な追加バフを付与するというもの。ただしその代償として拳気によるバフは一撃で解除され全ステータスが半減されてしまう上にデバフ作用がある拳気……この場合であれば【拳気・過重黒衝】のスタミナデバフが2倍となって課せられる。
しかしその一撃の威力は凄まじいものとなり、オイカッツォの今出せる最高火力が騏驎甲冑に突き刺さった槍の石突きを殴りつける。
「名付けて人力パイルバンカー!」
「いい加減……沈め
本来であれば罅が入るまでがやっとであった槍がオイカッツォというブーストを得て再び息を吹き返し深く深く騏驎甲冑を穿つ。無理な運用ではある、腹部の装甲程の堅牢さはなくともやはり硬い騏驎甲冑の背部にあるリアクターを破壊する為進む
騏驎甲冑の前面からひび割れた穂先が顔を覗かせ、そのままの勢いで盛大に貫通し、騏驎甲冑の動きが止まる。そして青白い発光が痙攣と共にゆっくりと消え失せ……2人がほっと息を吐いた瞬間。最後の意地と言わんばかりに腹部に今までとは比べ物にならない程の光が集まっていく。まさかまだやれるのかと2人が驚愕に目を見開いたその時。
「「――――――――ッ!!」」
耐えきれなかったか、騏驎甲冑の腹部が盛大に爆発した。
到底許容できない規模の爆発に騏驎甲冑が今度こそ完全に停止する。最後にオイカッツォとペンシルゴンを握り潰そうと伸ばしただろう手はそのままに騏驎甲冑は崩れ落ち尋常でないほどのポリゴンを撒き散らしながら消えていった。
「…………死んだ、よね?」
「寧ろ死んでもらわないと困るんだよねぇ……」
先ほど放たれようとしたビームへの警戒が未だに2人に残り続ける。そこから更に数秒、完全にポリゴンと化して消滅したことを確認してから過重黒衝+「黒き渾沌」の反動により戦闘どころかみじろぎ1つ取れないレベルで体が弛緩してしまったオイカッツォが地面にへたり込み、大きく息を吐いた。ペンシルゴンもまた息を吐いて地面に座り込むが、未だ本命は終わっていないことを思い出し表情を引き締めて視線をサンラクとビャッコの方へ向ける。
(サンラク君もビャッコ君もまだ生きてるけど……逃げている?何故、時間稼ぎ……そうか)
全てを断ち切る嵐、地を這う全てを叩き落とさんと振り下ろされる雲の巨腕、溶岩の竜が八岐に分かれ襲いかかり上空から灰の竜が死の灰を伴って襲いかかる。
絶え間なく猛攻を仕掛け続ける墓守りのウェザエモン、そしてそれら猛攻全てを避ける……否、
「サンラク君! ビャッコ君!
それに対してビャッコの答えは単純、されど明確なものであった。
「あと30……いや、15秒でいい!サンラクが立て直るまで俺とやるぞ!」
「スイッチ!」
サンラクが叫ぶ。
「いけんのか!?」
「やるんだよ!」
「おら早く立て直せサンラク!」
◇◇◇◇
致命剣術【水鏡の月】でヘイトを消したサンラクがペンシルゴンと入れ替わり、ペンシルゴンが魔法と思しき炎を墓守のウェザエモンに浴びせかける。ペンシルゴンがやると言ったんだからサンラクお前意地でも立て直せよ……!
俺もその為にやるべきことをやるしかない。
「金龍のゲージはあと少し……!あと13秒、ペンシルゴンとこいつを押さえ込……」
「あっ、……えっ?」
入れ替わって2秒しか経ってねぇじゃねぇか馬鹿野郎!
ただまぁ例の分裂技、あれは分かっていても対処がとても難しいので今死ぬのはわかる気もしなくはない。
墓守のウェザエモンが2人に増え、ペンシルゴンの正面に立っていたウェザエモンがペンシルゴンを掴み超高速で地面に叩きつけた瞬間後方に出現したウェザエモンが刀を振るう。するとペンシルゴンの全身が細切れになった。
…………喰らっていなかったから分からなかったが、あれ直撃すると多段ダメージ判定入るのかよ。即死攻撃を連打するだけならまだしもそれはやっちゃダメだろウェザエモン。
仕方ない、どうやら俺がやるしかなさそうだ。それにもうすぐあの斉天が来る訳だしな。
蘇生アイテムをペンシルゴンに叩きつけ俺が墓守のウェザエモンの前に飛び出しながら金龍をこの野郎の顔面に向かってフルスイングする、よっしクリティカル、ゲージMAX!
「下がれ下がれペンシルゴン、俺がやる!」
「ごめーん!」
「初見技だろうししゃーない!」
実際俺もサンラクも何度も死んでいるしな。
ペンシルゴンが後ろに下がったことを足音で確認し再び斉天戴世最後の技、斉天に挑む。
(あと10、8…5、3、2、1)
足が黒く染まり身動きが取れなくなる。
どうも何度か喰らってみたところこの斉天、入道雲や大時化、分裂技、時止め(としか呼べない)などの刀を介さない技以外の技の性質を持って放たれるらしい。しかも何が酷いって性質が直前までわかんないことだよ、選ばれた技以外の幻影が消えるんだが今回のは……えげつねぇ大顎門じゃねぇか!
「実質三連撃じゃねぇがふぁ」
振り下ろされた刃が俺を切り裂き大顎門が俺を喰らう。
ふはは残念だったなこの野郎俺は再誕の涙珠を口に含み攻撃を喰らった瞬間HPが全損するタイミングに合わせて噛み砕くことでセルフ蘇生を可能にしたのだ!
サンラクは投げてセルフ蘇生を実行していたが正直あれはちょっと出来る気がしない、タイミング管理が凄まじくシビアになるが俺にとってはこっちの方がまだ幾分か楽だ。コツ?再誕の涙珠ごとぶった斬られないように首傾けておくこと。
「よっしゃ準備完了、金龍も赫竜もゲージMAXだ!」
「こっちもだビャッコ、いけるぞ!」
気合い入れていくか?カッコつけておこう。先程までズラしていたウカの狐面を被り直し刀を構え直す。俺とサンラク、両方とも準備は整った。先程のセルフ蘇生で俺の蘇生アイテムは尽きた、サンラクも同じくだ。これで最後………ラストチャレンジだ。
「勝負だ墓守のウェザエモン……!」
「ここからが正真正銘クライマックスだ!!」
次で終わらせます。終わらなかったら水晶巣崖に縛って投げ捨ててもらっても構わないです。