シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

64 / 184
古き英雄と今の英雄達

確かに事前に告知され、情報もかなり出回っていたとはいえシャンフロでも中々ない規模の大規模アップデート……新大陸や新職業、システム周りの変化に多くのプレイヤー達が湧き立ち深夜だと言うのに賑わうシャングリラ・フロンティア。その賑わいの中、それは本当に唐突な出来事だった。

 

突如各エリア、そして各街にカラーン、カラーンと荘厳な鐘の音を響かせる鐘が出現した。夏休みというタイミングで増えた新規プレイヤー達が序盤の街で何事かと目を丸くする一方、中盤ないし後半の街にいる熟達したプレイヤー達はこの鐘がゲームマスターによるアナウンスであることに思い至る。

 

『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します。』

 

「なんだ?」

 

「アプデ内容に不具合があったとかじゃないか?」

 

「あー、それか」

 

大半のプレイヤーがつい30分ほど前に行われた大規模アップデートに何かしらの不備があったのでは、そう予想する中アナウンスから告げられたその内容は全プレイヤーを驚愕させるものであった。

 

『現時刻を持ちまして、ユニークモンスター「墓守のウェザエモン」の討伐を確認いたしました。討伐者はプレイヤー名「サンラク」、「オイカッツォ」、「ビャッコ」、「アーサー・ペンシルゴン」の4名です。さらにユニークモンスターの討伐に伴い、ワールドクエスト「シャングリラ・フロンティア」の進行を報告させていただきます』

 

「えっ、はぁぁぁ!?!」

 

「ちょっ、ユニークモンスターってマジで言ってんの!?てか4人で?!?」

 

「アーサー・ペンシルゴンって……阿修羅会の廃人狩り(ジャイアントキリング)!?襲撃があったって聞いたんだけど……?」

 

天覇のジークヴルム、そして夜襲のリュカオーン。これら2体を始めとした7体のモンスターのみがカテゴライズされることを許され、未だほとんど全容が知られていなかったこのシャングリラ・フロンティア最大のブラックボックスの1つ……残りのユニークモンスター。

他ゲームで言うところのワールドエネミー、即ち世界に唯一無二であり例外なく強大なモンスターである筈のユニークモンスターをたった4人のプレイヤーの手によって攻略されたという事実は瞬く間にシャングリラ・フロンティアのプレイヤー達の間で広まり、世界の壁を超えて現実世界でも広く知れ渡った。

そうなると今度はどうなるか、言わずもがなこの偉業を成し遂げたプレイヤー達の特定である。

 

「アーサー・ペンシルゴン……阿修羅会のあいつだろ?」

 

「阿修羅会はトップクランや中堅、弱小クランの超大規模連合に跡形もなく壊滅させられたって……」

 

「サンラクとビャッコって確か「兎連れ」の2人じゃ……」

 

「2人とも最後に発見されてたのサードレマだろ?なんでユニークモンスター討伐に参加できるんだよ!?」

 

「ていうかオイカッツォって誰?」

 

「変な名前だな……追い鰹?」

 

「カッツォ!なんて挑戦的な名前なんだろうねぇ!」

 

「何言ってるんすかディプスロさん……」

 

討伐者の特定に盛り上がる者達もいればそうでない者達もいる。

 

「おい誰か「教授」にリアルで連絡できるやついないのか!?」

 

「確か黒狼に奥さんいるんだろ、誰か奥さんに頼んで呼んで来てもらえ!」

 

「ここに来て「七つの最強種」の不明枠が明らかになるとは……」

 

「今判明してるのはリュカオーン、ジークヴルム、クターニッド、オルケストラ、そして今回判明したウェザエモン……不明枠は残り2体、か」

 

「何言ってるんだ、「荒ぶる蛇神(ジャシン)」が居るだろ?不明枠は残り1体だ」

 

ここはクラン「ライブラリ」。シャングリラ・フロンティアという広大な世界を構成する世界観の考察を掲げ日々フィールドワークや卓上での議論を行い、時に情報の取引なども行うことで世界の謎を解き明かすクランである。そんなクランに所属しているプレイヤー達もまた、唐突に明かされた新たな考察要素に胸を膨らませ議論を展開していく。

 

「今奥さんのところへ使いを出した、ログインしてればいいが……」

 

「というかユニークモンスターはこの大陸に全ているのか?」

 

「いや、出現したからって実際に倒すフィールドがこの大陸とは限らない。それにオルケストラとクターニッドはNPCの話から明らかになったユニークモンスターだから、どこにいるかも定かじゃないしな。「荒ぶる蛇神」も同様だ」

 

「実際に目撃されてるリュカオーンやジークヴルムもランダムエンカだし、新大陸にいても不思議じゃないか」

 

「いや、それよりもワールドクエストを調べるのが最優先だろう。グランドクエストとは別なのか?」

 

「普通のストーリーとは別扱いとみていいでしょうね、大まかなストーリーが「NPCと協力して世界を開拓する」なら、ワールドクエストは……「世界そのものが次のステージへ進んだ」とも考えられるわ」

 

「だとすれば何らかの変化が起きている可能性があるな、黒狼辺りに頼んで調べてもらうか?」

 

「いやそれよりもまずは墓守のウェザエモンの考察だ、討伐したプレイヤーとのコンタクトを……」

 

「奥さん、教授を叩き起こしてすぐ呼んでくれるって!」

 

「よし! ありがとう教授の奥さん!」

 

「叩き起こされる教授可哀想……」

 

 

 

 

 

 

そして当然のことながら、その情報は阿修羅会壊滅に湧き立っていたトップクラン達にも届く。

 

「アーサー・ペンシルゴンがいないと思ったら……ユニークモンスター討伐だと!?」

 

「というかサンラクってリュカオーンの呪いを喰らったっていう……」

 

「ビャッコってプレイヤー、確かそのサンラクってやつと同じ「兎連れ」のプレイヤーでしたよね?」

 

「団長!」

 

「団長!」

 

「…………どうされますか?」

 

クランメンバー達が一斉に視線を向けた先、そこには動きやすさを重視しつつもそこら辺の重装甲より遥かに防御力は高いながらも見た目の良さも両立した装備を見に纏い、腰に青色の刃を輝かせた女性。女性は僅かに沈黙した後静かに立ち上がる。

 

「やれやれ、まさか我々より先んじてユニークモンスターを倒すプレイヤーがいたとは……トップクランも形無しだな」

 

「どうしますか? 新大陸行きの件もありますし……」

 

「新大陸行きは変わりないが、私を含めた何名かはこっちに残そう。リュカオーンの呪いの件もあるし俄然彼らに話を聞きたくなった」

 

「アーサー・ペンシルゴンはどうするんだ? 逃げたオルスロットよりも厄介だけど?」

 

クラン「黒狼」を統べるクランリーダー、サイガ-100は話題に上がった人物の1人……たった今超大規模連合により完膚なきまでに壊滅させたPKクラン「阿修羅会」のサブリーダーであり、恐らく……否、十中八九()()()()()()()()犯人であり、自らにとって激しく見覚えのあるとてもトップモデルと呼ばれる女とは思えない笑みを浮かべるプレイヤーを思い出す。

 

(トワめ……阿修羅会を売ったのは恐らくこれが目的だな?…………ということは阿修羅会はかなり前からユニークモンスターの情報を秘匿していた可能性がある、それの討伐の為に私達は体よく使わされたわけだ。まんまと一杯食わされてしまったな……)

 

「黒狼」は今シャングリラ・フロンティアという世界で最も名を馳せるトップクランである。しかし「黒狼」のクランメンバーの()()()が掲げる最終目標は「夜襲のリュカオーン」の討伐である。

が、それはそれとしていいように利用され、あまつさえ初のユニークモンスター討伐の栄誉を取られた挙句に現在「重要人物」という形で捜索が続けられていた「サンラク」、「ビャッコ」なるプレイヤー2人すら手元に置くアーサー・ペンシルゴン。

サイガ-100にとって様々な形で因縁深き彼女が数手上回っているという事実に表には出さないものの内心ギリギリと歯噛みするが、持ち前の切り替えの速さですぐさま思考を切り替えこれからについて考えていく。

 

(とりあえずどうにかしてやつとコンタクトを取れればいいが、場合によっては「ロンダリング」による交渉も視野に入れて……ふふふ、楽しくなってきたじゃないの……!)

 

普段は抑えられているものの肉食獣のような笑みを浮かべるサイガ-100に怪訝な顔を浮かべるクランメンバー達。そこでふと自らの妹であり、今この場にいる筈の人物がいないことに思い至る。

 

「ん? れい……ゴホンゴホン、サイガ-0はどこに行った?」

 

「そういえばいないっすね」

 

「なんかさっきフレンドがピンチだからとか言って【朋友救助(フレンドワープ)】してましたよ」

 

「フレンド……? あぁ、確か気になる人とフレ登録したとかなんとか言ってたな……」

 

今までゲームとは一切無縁な生活をしていた妹が自分がやり込んでいるゲームを始めたと聞いた時は年甲斐もなくはしゃいだしその妹もやり込み今やトッププレイヤーの1人に数えられている。ただゲームを始めた理由が気になる異性に近づく為だ、と知った時には男日照りな自分よりも先をいく妹に愕然としたものだ……と斎賀(さいが) (もも)はほんの少しだけ遠い目をするが、ここは姉として素直に妹の恋路を応援しようと思い至りクランメンバーにはあまり気にしないように、と告げておいた。

 

 

 

まさかそのフレンドが、というかその気になる異性がサンラクであることなど、サイガ-100は知る由もないのであった。

 

 

 

とある船内の一室。和装で、日本刀を腰に佩いた少女がGMアナウンスに示された1人の名に強く興味を示す。

即ち。

 

 

「こーくん……?」

 

 

◇◇◇◇

呆然に唖然に愕然…………それを表現する言葉は多種多様である。が簡潔に一言で説明するとするならばオルスロットは茫然自失としながら表世界の秘匿の花園においてGMアナウンスを聞いていた。

 

「墓守のウェザエモンを……倒した?」

 

悪名ではある、確かにそうなのだがプレイヤーキラーとしてシャンフロでも屈指のプレイヤーであるということを自負していた自分を僅か数秒で斬り殺したあのウェザエモンを、認めたくはないが自分より遥かに優れた姉ですら1分持つかどうかというあの鎧武者をたった4人で討伐した?

突きつけられた事実はオルスロットがつい数分前まで抱いていた怒りを困惑とショックで吹き飛ばし、ついでにプライドもベコベコにされる程度には衝撃的なものであった。

 

「サンラクとビャッコって確かあの……」

 

「何でペンシルゴンさんとそいつが?」

 

己の後ろでざわつくクランメンバー達を気にする余裕もなく、オルスロットはただ口を開けて呆けたように地面にへたり込んだ。

今までコツコツと積み上げてきたもの全てが一夜にして崩壊し、トップクランである「黒狼」や考察クラン「ライブラリ」すらも把握できていないユニークモンスターを自分達だけは知っている、と言う優越感はプライドと共に粉々に砕け散り、今やオルスロットは感情が表現に追いつけていない状態となった。

 

と、その時秘匿の花園の中心部の空間が歪み、オルスロットがこうなった原因達4人が姿を現した。

 

「おー、ペンシルゴンの予測が当たったね。アレが3人が言ってた「赤点のオルスロット」?」

 

「なにそのショボそうな二つ名、ウェザエモンかよ」

 

「まぁ確かに俺達2人への襲撃のかけ方は赤点だったな」

 

「あはは、ウチの愚弟にそんな仰々しい名前はいらないよ」

 

見るからに消耗の色が隠せず、姉に至っては武器すら持っていない。だが4人の顔には確かな達成感が浮かんでおり、もっとトドメを刺すとするならば通常ウェザエモンに敗北すればセーブ地点でリスポーンするところこうしてこの4人がエリア外に現れたという時点でこの4人がウェザエモンを討伐したことは正解であることとなる

 

「お、おま、お前ら……!」

 

「なによ愚弟、文句があるなら言いなさいよ。あんたがクソつまらない方法ばっかとるから私が先に倒した、それだけよ」

 

「………!……っ!」

 

言いたかった罵声も怒声もあまりに簡潔かつ理不尽な回答に苛立ちが頂点を迎え彼は一周回って何も言えなくなってしまっていた。

 

「なぁペンシルゴン、クラン陥れてそれはちょっとないだろ……?」

 

「何言ってるのさビャッコ君、こいつら全員PKの()ってものを理解してない3流だよ?やったことをやり返されるのが怖いからって溜め込むだけ溜め込んでチキンになっちゃってさぁ…だからこそ、私が腹パンして中身全部ぶちまけてやった、それだけだよ」

 

「うわぁ、ガチギレペンシルゴンって割とレアじゃない……?」

 

「PKに一家言姉貴怖いですわぁ」

 

「黙って聞いてりゃクソ姉御……! どうせお前ら全員消耗してんだろ……?この場でお前ら全員ぶっ殺してやる……ウェザエモンのドロップアイテム根こそぎ接収してやるからな…!」

 

その言葉を皮切りに生き残った阿修羅会のメンバが一斉に武器を構え4人を取り囲む。しかしそれすら予想通りだと言わんばかりに件の4人は落ち着き払って自分達を眺めている。

その表情や行動の一々が全てオルスロットの癪に触り、神経を逆撫でする。あの上裸と半裸は一体何なんだ、明らかに舐めた装備の癖に誰も知らないユニークを持ち自分達が成し遂げられなかったウェザエモン討伐のメンバーに入っている。事実も含めた全てが気に入らない。

元々数多のクランに狙われ、運営からも厳しい調整を受け

ていた阿修羅会の戦力増強の為にシャンフロのシステムを碌に把握していないような初心者を少しばかり脅しつけてユニークシナリオを奪い取ろうとしていた訳であったが、自分達が手を出したこの半裸と上裸は間違いなく手を出してはいけない存在であったと今更ながら気づく。

1番の敵は身内であった。水面下でゆっくりと、そして着実に広げられた蜘蛛の巣に気づいた時には手遅れで自分達は糸に雁字搦めにされもう逃げ場などどこにもない。「なんか違う」だの「こういうことじゃないだの」というオルスロットにとって意味不明な理由でクランを辞めていったメンバー達。

 

何もかもが自分の描いた理想図の通りにならない事実にとうとうオルスロットがブチ切れ、自らの所有する殺戮者の魔剣(スローター・ブリンガー)に強化魔法を付与する。

 

(まずはあの半裸(サンラク)、次にあの上裸(ビャッコ)だ。そこからそこのオイカッツォってやつ、そして最後はこのクソ姉御を全員で袋叩きにしてやる……!)

 

オルスロットの頭には完全に血が上りきっており、気づくことができない。(ペンシルゴン)がため息をついていることに。ペンシルゴンはオルスロットより頭が優れている。であるならば当然ここにオルスロット達がここにいることを了承済みのはずで、それでもなお自信満々に出てきた理由がある筈なのだ。

 

「全く……大局的な視点を持てといつも言ってるのに、目先の利益に釣られるんだから……」

 

「ありゃFPSとかで砂のスコアにされまくりながら味方が無能だとキレるタイプだな」

 

「あー、なんかわかる」

 

「FPSゲームにはそんなに詳しいわけではないけど絶対に地雷だと言うのはわかる」

 

何故この三人はこんなにも冷静なのか、なにを理由にこの状況でその態度が取れるのか。頭に血が上りきったオルスロット以外のプレイヤー達が怪訝な表情を浮かべた直後。

 

「いやはや、まさかのサンラク君の意外な交友関係ではあるけど、この場合は好都合だったね」

 

4人の……もっと厳密に言うならばサンラクの眼前に魔法陣が出現する。本来ここには絶対にいない筈の存在が足先からゆっくりと現れ、この場に固定化されていく。

光り輝く白銀の鎧は邪なるものを許すことなく神々しさを備えた白銀の聖騎士……サイガ-0。

 

以前にあったアップデートから追加された要素の1つにこんなものがある。プレイヤーがPKに襲われた時、そのプレイヤーとフレンド登録を行なっているプレイヤーに「救難信号」が送信、そしてそのフレンドの中に【朋友救助(フレンドワープ)】というスキルを習得しているプレイヤーがいる場合…

 

「なんでMMOで何もかも思い通りになると思ってるんだか……何度も言うけどあんたには、1人向けのオフラインゲームが向いてると思うよ」

 

「あ、一人プレイでゲームするならフェアリア・クロニクル・オンラインってのがオススメだぜ」

 

「サンラクお前、鬼かよ……」

 

「個人的にはアポカリプス・オンラインの方もオススメだぞ」

 

「ビャッコ、お前もか……」

 

「サイガ-0……!?」

 

忘れもしない、忘れられるわけがない。つい先ほどたったの一撃で派手に阿修羅会の拠点を吹っ飛ばした悪夢が、まごう事なき本物の最大火力(アタックホルダー)が目の前にいる。

 

「………「アポカリプス」」

 

阿修羅会がアーサー・ペンシルゴンを抜いて全滅するまでおよそ50秒。それが牙の抜けたプレイヤーキラー達の限界だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。