シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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切腹どころか塵すら残らない、それってつまりオーバーキル

「…………えぇ……何あれ……」

 

いや確かにサードレマで1回見ましたよ?プレイヤーキラーが凄まじい角度で折れて街の壁まで吹っ飛んでいったの、確かに見ましたよ?

ただ今回のはちょっとベクトルが違う、ペンシルゴンの弟だかいうオルスロット君含め後ろに居た他のプレイヤーキラーがものの5、6発で全員ボロ切れか何かのようにボッコボコにされて消し飛んでいったぞ……?ここまで来るともはや哀れみと同情の念すら抱けてくる、今日だけでも自クラン壊滅にプレイヤーキラーキル……PKKによる多額の負債。なんならプライドあたりもぐちゃぐちゃにされていそうだ。

 

阿修羅会の残党共が消し飛び、彼らが抱え込んでいたアイテム達がそこらじゅうに散乱する。

 

「あーあー、阿修羅会の保有してたアイテムをこんなに溜め込んで、夜逃げかっての全く……」

 

ため息を1つ吐きながらオルスロットが先程までいた場所に落ちた何やら禍々しい存在感を撒き散らす黒い剣を蹴り飛ばすペンシルゴン。

可哀想なオルスロット君達が何故こうなったかという経緯を説明するとすればこうなる。まずウェザエモンと騏驎と戦った反転した秘匿の花園からこちら側の秘匿の花園へ戻る直前、十中八九手ぐすね引いて待ち構えているであろう阿修羅会をどうするのかという問題が浮上した。そのことは計画に入っているのか?とペンシルゴンに聞けばそんなものは全くないとの回答を得たのでどうすればいいか頭を抱える羽目になった。

だがしかし、そこは我らがペンシルゴンというか何というかあっという間に解決法を提示してみせた。その内容というのが「強いフレンド呼んでなんとかして貰おう作戦」である。

俺とオイカッツォは現状今集まっている4人以外フレンド登録をしていないのでこれに関してはサンラクとペンシルゴンに頼るしかない。さてどんなプレイヤーが来るかと思えば何をどうしたら()()なるのか、例のサイガ-0とサンラクはフレンド登録していたらしく、サンラクが救難信号を出すに至ったのだ。救難信号を出した瞬間ほぼノータイムでやってきたサイガ-0……あまりのレスポンスの速さに呼んだ本人が軽く引いてるんだが?

 

「えぇと……」

 

「あー、サイガ-0さん。わざわざ来てくれてどうもありがとう」

 

「い、いやっ、気にしなくて……いい。それよりも……ユニークモンスター討伐……おめでとう、ございます」

 

サイガ-0に向けてサンラクが感謝の意を示すところをぼんやりと眺めつつ、そういえば派手にGMアナウンスで晒されてたなぁと考える。これはいよいよ本格的に化かしの枝葉が足りなくなってくる予感がするぞ、ピーツに頼んで仕入れて貰おう。とはいえまぁ、そもそもラビッツに雲隠れしようと思い至った根本的な原因たる阿修羅会がたったいま消し飛んだわけだし問題ないか。

 

「「………………」」

 

サンラクとサイガ-0の間に沈黙が訪れる。サンラクが何考えてるのか何となく分かる、「呼び出しの案件は終わったからさっさと帰って」とは言いづらいよな。特に目の前でPK消し飛ばしたやつには言いにくい。

 

「あー、サイガ-0ちゃーん? 来てくれたところ悪いけどもう一つお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

「……なんだ?」

 

うわぁ、すごい頑張ってる……。「やってる」感がひしひしと伝わる粗野な口調をしながらペンシルゴンへと振り返るサイガ-0。…………んん?なんか何処かで聞いたことのあるような感じの声だな……?どこで聞いたか思い出そうと頭を捻っている俺を尻目にペンシルゴンはとてもあっさりとこう告げた。

 

「ついでに私のこともキルしてもらえる? 報酬は再誕の涙珠二つを含んだ()私の持ってるアイテム全てとここに落ちてる阿修羅会が保有してたレアアイテム全てで」

 

「……いいのか?」

 

「いいのいいの、私だけノーリスクなんて愚弟以下のマンチキンだし? いい加減PKも飽きて来たからここらでスパッと罪を清算しようかなってね」

 

えっ、それ結構重くない?思わず思考を中断してそう思った。確か聞いた話だとPKKされた時のペナルティは自身の保有する全アイテムの没収及び莫大量の罰金……廃人狩り(ジャイアントキリング)なんて素敵()な異名をつけられるほどPKを繰り返し続けていたペンシルゴンが仮にPKKされたらそのペナルティは一体どうなるのか……少なくとも想像もつかないほどの多額の負債を背負わされることは確定だろうが、どうもこの様子からするとハナからこうする気ではあったらしい。

 

「とはいえ、私もプレイヤーキラーの端くれ、首切り介錯を大人しく待つほど良い子ちゃんじゃなんだないわけでぇ……」

 

オルスロット君が持っていた黒い剣をひょいと持ち、サイガ-0へとその切先を突きつけながらペンシルゴンは宣戦布告(オネガイ)する。暫く俯き、沈黙していたサイガ-0がちらとこちらを見た後ゆっくりと頷く。

 

「……分かった。廃人狩り(ジャイアントキリング)が相手なら、こちらも本気で行く」

 

サイガ-0が背中に背負っていた漆黒の大剣……どう考えても人の手だけでアレは造れない、何かしらの人知を超えた超常の力を無理矢理こねくり回して大剣の形に整形したようなそれを構え、静かに唱える。

 

魔王天帝(サタナエル)……反転、天帝魔王(サタン)

 

その瞬間、大剣がまるで生き物かのように強く脈動しその色を変える。どこまでもドス黒い大剣が剣先から徐々に白に染まり始める。色や質感そして……恐らく性質も。その全てが文字通り反転して白く輝く純白の大剣が現れる。先程までの禍々しさはどこへやら、神々しい刃が月光を受けて静かに光り輝く。

となれば先程まで大剣に纏わりついていた邪悪な黒はどこへ行ったのか?剣が輝きを増していく中で大剣から解放された黒が今度は聖騎士を思わせるサイガ-0が装備している鎧へと纏わりついていく。白銀の聖騎士が黒に塗り潰され、邪悪に染まるが如くその形状も変えていく。最終的に現れたその姿は聖騎士などではなく、魔王と呼ぶに相応しいものであった。

 

「これが噂に名高い最大火力(アタックホルダー)のユニーク武器、「神魔の大剣(アンチノミー)」か……反転まで見せてくれるなんて太っ腹だねぇ」

 

「姉さ……ゴホンゴホン、団長から貴女のことは聞いている。油断しているとロクな目に合わないし、すぐ逃げるので見つけ次第一撃で確殺しろ、と」

 

「私はゴキブリか何かか」

 

「「「ぼっふぉあ!!」」」

 

団長さん、何も間違っちゃいないよ。あまりにも妥当すぎる評価を受けた本人から繰り出されたあまりにも酷い例えは俺達3人の脇腹にボディーブローを叩き込んできた。

 

「ちょっと待ってて、先にこいつらぶち殺すから……よぉし最後のPKおねーさん頑張っちゃうぜぇ」

 

「誰だやつに武器を持たせたのは!」

 

「自分から持ったんだよ!いやでも待てよ?その武器持ってきたのオルスロット君か……」

 

「サイガ-0だっけ?はやくその危険人物をボコって!」

 

「え、えぇと……」

 

まぁ俺達のこの芸風に慣れてもらうのはそこそこ難しいからね、そういう反応になるのもしゃーないよ。だがしかしペンシルゴンが剣を構えた瞬間戸惑いは一切の鳴りを潜めサイガ-0もまた臨戦態勢へと移る。

 

「………「ハイエスト・ストレングス」「業魔の抱擁」「雷光閃華」【エンチャント:ヴァー・ミリオン】……「カタストロフィ」」

 

「うわぁ、なんだあれ……」

 

俺もそう思う。凄いとかエグいとかそんなのを通り越してもはや悍ましいレベルの強化が大量に施されていくサイガ-0。夥しいスキルエフェクトを纏うその姿はプレイヤーとは呼べない、ヒト形のレイドモンスターだと言われた方がまだ幾らか納得できる。レベル制限とかなかったらウェザエモンとも真正面からタイマン張れるんじゃないだろうか、アレ。

 

「ふぅー……確か起動呪文は「血を啜れ、肉を喰い千切れ、死を噛み締め命を吐き捨てよ。汝は殺戮者、屍の山で高らかに謳え」……だったかな?」

 

ペンシルゴンが唱えると、その手に握りしめていた元オルスロット君所持の剣が比喩表現抜きで脈打つ。なんだか生物的にとても雑に牙が生えた肉の塊がペンシルゴンの右腕に喰らい付き、元から黒かった刃を更にドス黒く染め上げ形状を変えていく。

 

「うぇぇ……夢に出てくるタイプの怪物……」

 

そうして出来上がったそれは何と言えば良いのか……釘バットを平らにした上で、釘を牙に挿げ替えたらこんなふうになると思うが……少なくとも剣と呼ぶにはあまりにも歪すぎる、そんな剣であった。

 

「さぁ、いざ尋常に勝負といこっか」

 

「………いつでも、どうぞ」

 

「んじゃあ遠慮なく……「シリアルキラー」、【影絵の嘲笑】、【エンチャント:ヴォーパル】、「マサクル・バイト」!」

 

右腕に巻き付いた剣を構え、ペンシルゴンが飛び出す。直線的でなく、蛇行に近い動きでサイガ-0との距離を詰めたペンシルゴンが待ち構えていたサイガ-0の振り下ろし攻撃のタイミングで急停止、真後ろまで一気に回り込んで剣を突き出す。

通常なら必殺となっていた攻撃だろうその一撃はサイガ-0の纏う禍々しい漆黒の鎧から噴き出した黒い何かによって阻まれ鎧にすら届かない。サイガ-0が振り返りながら大剣を振り薙ぐ。ペンシルゴンが迫り来る純白の大剣を回避しようとするが、鎧から噴き出した黒い靄が突き出された剣に絡みつき、剣と一体化していたペンシルゴンがそれ故に一手出遅れる。

 

「くぁ……!」

 

「イグジスト・レクイエム」

 

回避し損ねたペンシルゴンの右腕が容赦なく斬り飛ばされる。強制的に剣を体から分離することとなったペンシルゴンだが左腕で斬り飛ばされた右腕を掴み武器を取り落とすことだけは回避する。だがそんなペンシルゴンの動きは精彩が欠けている。ペンシルゴンは右腕一本吹っ飛んだ程度じゃあそこまでパフォーマンスが落ちるようなやわなメンタルはしていない……というか、あいつの場合ここから更に片脚をもがれようがなんだかんだそこそこパフォーマンスを維持できるはずだ。となれば原因は1つ。

サイガ-0の鎧から発せられた謎の黒い靄……あれかどうかは定かではないがサイガ-0がペンシルゴンに向けて何かしらの干渉を行っているのは確定と見ていいだろう。

 

「……これで、終わらせる」

 

「ははは、やっぱ私程度じゃレベル差を覆すのは難しいかぁ……とはいえ、()()()()でヘタれた真似はできないんだよねぇ!」

 

ペンシルゴンがほんの一瞬だけ、秘匿の花園に鎮座するもう枯れ果てて命を失った枯れ木とその根本にひっそりと存在する墓標に目を向けたかと思うと、左腕で握りしめた剣を大きく振りかぶりサイガ-0へと肉薄していった。

 

「………だったら、とっておき。相反する摂理、反発する光と闇、拒絶を否定し、断たれし運命を縫い繋ぐ。我が身は光に染まり闇に浸る、混沌よ世界を喰らえ……【ケイオス・ヴォイド】」

 

一閃。サイガ-0がやったことと言えば、振りかぶった剣を全力で振り抜き切り掛かってくるペンシルゴンに対して一歩踏み出し、すれ違いながら剣を横薙ぎに振るった……ただ、それだけ。たったそれだけのことだというのに、ペンシルゴンの上半身はものの見事に綺麗に蒸発し、次の瞬間上半身を失ったことをようやく認識した下半身が上半身の後を追いかけるかのようにポリゴンとなり爆散した。

 

「…………」

 

「えー、ちょっとタンマ」

 

「多分すぐ終わると思うんで」

 

俺、サンラク、オイカッツォが全力でサイガ-0から不審に思われないギリギリのラインまで距離を離しヒソヒソ声で相談をスタートする。

 

(え、どうすんのこれ。思った以上にえげつねぇ方法でペンシルゴンが消し飛んだんだけど!?)

 

(コミュ力お化けのペンシルゴンがいなくなったらアレとどうコミュニケーションとればいいのさ、サンラクのフレンドでしょ何とかしてよ!)

 

(俺の作戦を読んで待ち伏せした挙句に突如フレ申請送ってくる相手だぞ!? 俺の中ではまだ危険人物扱いですけど!!)

 

(じゃあなんでフレ登録したんだよお前!!)

 

(しなかったら殺されそうだったんだよ!)

 

一瞬先程の消し飛んだペンシルゴンや一撃で吹き飛んだ阿修羅会の残党達がフラッシュバックした。

 

(ふぅー……よし分かった、先ずは俺がプロゲーマーとしてのコミュちからを……)

 

(しゃーないから、俺行くわ)

 

コミュ(ちから)とは何なのか割と気になるところではあるが話さなくては何も始まらない。ここは俺が話そう。いつの間にか白銀の鎧に戻っていたサイガ-0に出来うる限り自然な笑みと口調を心掛けコンタクトを図る。

 

「あーー……うん、サードレマの門前以来ですよね?あの時は助けていただきありがとうございました。あの馬鹿(ペンシルゴン)の我儘に付き合ってもらってほんとすみません」

 

「…………い、いぇ……いや。こちらこそ……中々、面白かった」

 

「それなら良かったんですけど……あ、そこに散らばってるアイテム類はあいつの言う通り、全部持っていって貰って構いません、重ね重ね本当にすみませんでした」

 

「あ、あぁ……たす、かる」

 

うし、こんなもんでいいだろ。…………あ、そういえば。

 

「失礼ながらお伺いしたいのですが、多分さっきサンラクの方見てましたよね?なんか聞きたいこととかあったんですか?」

 

「えっ…………あっ、いえ、いや、その…………それは……」

 

「それは?…………おいサンラク、なんか聞きたいことがあるらしいぞ」

 

「は?何だそりゃ……」

 

「ヒトツ、オキキ、シタイコトガ」

 

さっきまで割と流暢に喋れてたのにサンラクと話し始めた瞬間どもりやがったこいつ……なんかネナベっぽいしもしかして……うーん?いやまさかな。

 

「……その、あの、ペンシルゴン…氏とは、どういった、ご関係で……?」

 

「ペンシルゴンと? うーん……ゲーム友達?」

 

間違っちゃいないが少しばかり内ゲバと裏切りと罵倒が多すぎる気がするがそこは言わぬが花というやつだろう。

 

「そ、そうですか……友達、トモダチ、フレンズ…………………」

 

ふとプレイヤーネームをよーく見てみた。正直先ほど見せつけられたあの強さと今見せつけられているこのどもりっぷりを見ると知り合いが頭をよぎる訳だが……あそこのお嬢様がゲームするとも思えん、名前はかなり似ているが、というかまんまだが流石にそんな安直な名前の付け方はしないだろう。

 

そしてポイポイと阿修羅会、オルスロット、ペンシルゴンがばら撒いたアイテムをサイガ-0へと渡している時、最後の1本……気持ち悪くてあまり触りたくなかったので後回しになっていた剣、もとい「殺戮者の魔剣(スローターブリンガー)を拾い上げた瞬間サイガ-0の体が突如として透け始める。こっちにきた時も似たような感じだったし魔法の制限時間が来たというやつだろうか。

 

「あ…………もう、時間……」

 

「え、あー、じゃあ改めまして、この度は助けてくれてありがとう。このお礼はいつか」

 

「そ、その、でしたら、機会があれば……その、是非いっし……」

 

最後まで言い終わることなくバシュンッとサイガ-0が消え、渡しそびれてしまった剣を抱えたままどうするべきか考える。

 

「……オイカッツォ、これ……」

 

「なんか生臭そうだしいらない」

 

「サンラク……」

 

「右に同じ」

 

「うえぇ……しゃーないか……」

 

片手で扱うには少々無理がある上になんだかヌメヌメしててとにかく気持ち悪いのではっきり言ってインベントリにすら入れたくないんだが、まぁゲームだと自分を誤魔化してインベントリへ突っ込む。

 

「じゃあ帰るか」

 

「そうだね、あー今日はぐっすり眠れそうだよ」

 

「ぐっすりというかぐったり昏睡の間違いじゃねえか?」

 

「違いないね」

 

「最後が1番疲れたまであるんだけど……」

 

「「それはそう」」

 

さっさと寝たいなぁまったく……

 

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