シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
墓守のウェザエモン戦を終え、ヴァッシュに挨拶した俺はログアウトした瞬間かつて経験したことが数回しかないレベルの疲労を感じヘッドギアも外さずにそのまま意識が暗転した。何やら大慌てのキョウに揺すり起こされ時計を見てみれば何と驚き、明け方にログアウトしてそのまま眠って夕食時まで寝っぱなしだったのだ。
これは流石の俺でもなかなかに珍しいことである。ゲームのやりすぎで朝食を抜くこと自体はそれなりにあるものの昼まで抜いた上に夕食時……それもかなり遅めの時間帯に揺すり起こされるまで寝っぱなしというのは。その状態で放置されていたら一体自分はどうなっていたのか、死にこそしないだろうがそれなりに危険な状態には陥っていたことだろう。
「………………ごちそうさまでした」
趣味がゲームである以上断食じみたことはよくやるのだが、昨日の夜から数えて殆ど3食まるまる抜くというのは身体にとってやはりかなりキツいらしく危険信号をガンガンと全身に響き渡らせている。兎にも角にも置いてあった夕食をかっこんで栄養を補給、速やかに身体に響く危険信号を切って一息つく。
「エナドリはしばらく良いかな……」
「エナドリ?珍しいねこーくんがエナドリなんて。大事な時以外は殆ど飲まないくせに」
「ん?あぁ……ちょっと頑張らなきゃいけないことがあったんだよ」
「ふーーん…………あっ、そうだこーくん!これ見ようよ、「被疑者Yの心情」!」
「あーーー……今日の映画ってこれなのか、よっしゃじゃあ見るか!取り敢えずコーラ用意してくるよ」
テレビで流される有名な小説の実写版を見ながらぼんやりとシャンフロのことを考える。まぁログインは明日……早くとも昼頃で良いだろう、もう一度しっかり眠って頭をスッキリさせておきたいしな。そういえばウェザエモン戦の報酬があったなぁ、ぱっと見では確認したけど殆ど流し見みたいなものだったしログインした時にちゃんと確認しておかない…………と…………
「ちょっ、えっ?こーくん?こーくん!?」
なんだよきょう、おれいま、ねむいんだけど?
自分の意思とは全く無関係に瞼が落ちていくのを感じる。キョウの声が遠くに感じる。まぁ良いやと俺は近くにあった手頃な……こう、もちもちとした質感の何かを枕と認識してそこに頭を載せ再び眠りの海に頭からダイブするのであった。
◇◇◇◇
さて、現在ウェザエモン戦から2日が経過した朝である。頭はぐっすり眠ったことでスッキリバッチリ調子を取り戻しいつも通りのパフォーマンスでゲームが出来そうな感じがする。する、のだが…………
(何で俺キョウの膝の上に頭載っけてんの!?!?!)
ぶわっと噴き出した大量の汗が俺の背中をコーティングする。拙い、キョウの親父さんに殺される……いやその前に龍宮院流門下生からの刺客が……!?いや刺客は流石にないか、俺がいた頃もそんなの無かったし……でも親父さんは……深く考えない様にしよう。いやそれよりもだ。
必死に何故こうなったかの経緯を前日の記憶からサルベージする…………あっ良い匂い…………じゃない、何でだ?さっぱり思い出せん。確か2人で映画を見てたはずだ、それで……うん、もちもち……違う、いや違わないが。
あぁ、何だそういうことか。俺寝落ちしたのか。
(いやそれでも!
いくら幼馴染とはいえやって良いことと悪いことがある、しかもこの感じから察するに俺のことをどかすわけにもいかずどうして良いか迷った挙句にキョウも寝落ちしたんだろう、風邪でも引いたらどうするんだ。
俺は横になっていたからまだ良いがキョウはずっと座ったままの体勢を維持しながら寝ていたはず、申し訳なさを感じつつ起こさない様に出来るだけそっと膝上から頭を持ち上げて抜け出し、さてどうしたものかと考える。いやまぁ結論なんて1つしか出ないんですけどね?
「最近お前のこと抱えすぎな気がするなぁ……」
今日は練習が休みということは事前に聞いているので和室に敷いた敷布団の上にキョウを乗せ、その上にブランケットをかける。ごめんなさいと謝ってあんまり居すぎるのも良くないかと思い自室に引き上げる。さて、昼頃にログインするつもりだったが予定を繰り上げようか。
「おはようオルト……」
「おはようございます……どうかなされましたか?」
「え、何俺なんか変な感じに見える?」
「変というか……疲れているというか……」
「あぁ……うん、気にしなくていいよ」
オルトの答えに少々苦笑いしつつステータス画面を開く。さてと、色々と調べてみますか。なにせアイテムもステータスも前回ログインした時は碌に確認してなかったもんな。さぁどんな感じになったのやら…………はは、これは中々に凄いんじゃないか?
「すげぇ……とんでもなくレベルアップしてる……」
————————————
PN:ビャッコ
LV:83(250)
JOB:戦士(二刀流使い)
98,600マーニ
HP(体力):30
MP(魔力):10
STM (スタミナ):60
STR(筋力):90
DEX(器用):60
AGI(敏捷):100
TEC(技量):65
VIT(耐久力):5
LUC(幸運):74
スキル
・
・ブレイブナックル→バスタードナックル
・マッハレッグLv.MAX
・ドリフティングフット
・パリングプロテクト→セツナノミキリ
・
・
・八艘跳び→遮那王憑き
・アサシンピアスLv.6
・オプレッションキックLv.9
・黒衣武装【戦角】
・ベストステップ→ムーンジャンパー
・
・オフロードLv.6
・致命剣術【半月断ち】→致命剣術【半月断ち】肆式
・リミットオーバーLv.1
・ゴルドフィニッシュLv.1
・
・アサルトセンスLv.1
・
装備
右:覇兎【金龍】
左:覇兎【赫竜】
頭:ジークヴルムの呪い
胴:ジークヴルムの呪い
腰:
足:
アクセサリー:ウカの孤面
————————————
おいおいおいおい、レベルが56から27も上がってやがるぞどういうことだ?ポイントもレベルアップ分だけじゃない……まず間違いなくボーナス的な何かだろう。あまりにも美味しすぎる、これは阿修羅会が秘匿するのも納得だな。
スキルもせっかく整理したばっかりなのにまたゴチャゴチャとしてきたし、どこかのタイミングで銭ゲバ……もといエルクのところへ行かないとだな、タスクが多いっていうのは疲れるが良いもんだと思う。
「ま、ステータス云々よりもやるべきことはこっちだよな」
ウェザエモン討伐報酬……ユニークモンスターを倒したんだ、普通のユニークシナリオですら莫大な恩恵が得られるというのにしょぼい訳がない。
「くっくっくっくっ、楽しみだなぁ?」
「かつてないほどビャッコさんが悪い顔をしています……」
「欲望に忠実なだけだから多分今俺が浮かべてる笑顔はピュアもピュア、純度100%の綺麗な笑顔だよきっと」
「じゃあ私達と会う前に出会ったヴォーパルバニーに首を斬らないとピュアな笑顔で言われてもビャッコさんは信用できますか?」
「出来る訳ないだろ、寧ろこっちが首斬りに行くわ」
全く………さて、気を取り直してここからが本命の墓守のウェザエモン討伐報酬のアイテム確認だ。えっと、まずは【斉天秘伝書】からかな。
・斉天秘伝書
神代の剣豪が残せし天を斉する術の極致を記した記憶媒体。解読には星の海を泳ぐ獣の叡智が必要であり、体得には天の剣術を修めなければならない。
その一太刀は風を断つ嵐を起こし、大地より赤き八岐の龍を顕現させ、巨いなる雲を振り下ろす。
「えっ、天斉ってもしかしなくても使える?使えちゃうの?」
冗談だろう、必死に攻略したあの地獄の技の数々を使える時が来るかもしれないというのはあまりにも
・晴天流奥義書
神代の剣豪が残せし天の剣術の奥義を記した記憶媒体。解読には神代の設備が必要。
その一太刀は天を斬り、大地を穿ち、暗雲を晴らす。
「天斉だけじゃなくて普通の技も使えるようになるのか……!」
うん、ただこちらも何やら神代の設備とやらが必要らしいし中に入っているだろうスキル達はまだお預けかな。
「えーーっと、次これか。「世界の真理書「墓守編」」?
…………成る程ねぇ、運営サイドからの答え合わせってとこかな?」
軽く目を通してみればウェザエモンの
「ま、暇な時にでもじっくりゆっくり読みますかね。………ん?サンラクからメール?何々……「至急格納鍵インベントリアを確認せよ」?どういうことだ?」
いやまぁ元から確認するつもりだったから言われなくともそうする的なあれだったのだが、まぁ確認しろとまで言うくらいなんだからそれなりに凄いものらしい。さてさて、どんなものなんだか。
・格納鍵インベントリア
格納空間への鍵であり扉でもある神代の時代においても一部の者のみが持っていた特殊な腕輪型アクセサリー。
装着した時点でアクセサリー欄を一つ消費するが、装着者がPKされても略奪されない。
魔力を消費することで格納空間内へと転移可能。
空間拡張術式携帯アクセス装置。神代において、肉体情報と同期することで一体化し装着者の
容量制限:無し
格納限界:縦横高さ50mまでの非生物
内容
規格外戦術機鳥【
規格外戦術機虎【
規格外戦術機龍【
規格外戦術機亀【
規格外特殊強化装甲【
規格外特殊強化装甲【
規格外特殊強化装甲【
規格外特殊強化装甲【
規格外武装:太刀型【ハービンジャー】EMPTY
規格外武装:鋼線型【キープアウト】EMPTY
規格外武装:穿拳型【バタリングラム】EMPTY
規格外武装:撃槍型【ファランクス】EMPTY
規格外武装:轟鎚型【エレバス】EMPTY
規格外武装:双剣型【ヒエロス・ロコス】EMPTY
規格外武装:大砲型【レグルス】EMPTY
規格外武装:双銃型【カストル・ポルクス】EMPTY
規格外武装:長銃型【サジタリウス】EMPTY
規格外武装:収束機構型【コメットカタパルト】EMPTY
規格外武装:拡散機構型【メテオディフュージョン】EMPTY
あっこれ駄目なやつだ。
「…………………………………………………………」
「ど、どうかしましたかビャッコさん!!?」
「オルト」
「は、はい?」
「俺は力を手に入れてしまってちょっと脳がキャパオーバーしそうだ。だから……」
「だから?」
「ちょっとモフらせて」
「はぇ?ちょっ!あっ!?」
ただひたすらに無心でモフる、モフる、モフるモフるモフるモフるモフるモフるモフるモフるモフる…………
何だ何だ何なんだあれらは。俺1人でシャンフロ全プレイヤー相手取って戦争でもしろって言うのか?少なくともファンタジーな世界に持ってきちゃいけないSF武装が大量にあったぞ?というか地味にこいつも呪われた装備アイテム枠じゃねーかよ、この世界のユニークなアクセサリーは大体呪われてるのか?
とっとと取り敢えずサンラクに返事を返そう。
件名:何これ
差出人:ビャッコ
宛先:サンラク
本文:ぇつ何だのれ、いくらなんでもやぅていいこととわるぃことがありゅだろ
送信…………あっ、なんかめちゃくちゃ誤字ってる。普段はこんなことにならないのに!
さらに帰ってきた返信からは「昼にサードレマの蛇の林檎集合」と書かれていたので昼まではインベントリアのことを忘れられるらしい、取り敢えずはスキルとステータスの整理をしようか……うん、忘れよう!今この一瞬を冷静に過ごすために忘れるべきだ!
モフモフとモフりまくっていたオルトから手を離し俺はため息をつく。下手すれば墓守のウェザエモン戦よりも疲れたかもしれないぞこりゃ……
◇◇◇◇
最早あまりにも便利すぎて「いつもの場所」として認識され始めたNPCカフェ「蛇の林檎」に集まった俺達はどうも全員テンションがバグっているらしく何故か不平不満など一切なく満場一致でバースデーケーキを注文した。店主からは珍獣か何かを見る目つきをされたがごめんな、今それに反応する余裕ねーんだわ。個室に入ってバースデーケーキを囲みやっと一息。内容があまりにもアレなのでオルトにはお留守番してもらっている、これはちょっとNPCに聞かせられる内容じゃない。
「えー……3人も見たとは思うけど……どうしようか」
「どうしよう、って言われても……ねぇ」
「フルに活用すれば割とシャンフロ全プレイヤー相手取れそうな
「それに関してなんだけど、私ここに来る前に格納空間に行っていろいろ調べて見たんだよね」
まぁ眺めているだけでは頼んだ意味がないと言うわけでバースデーケーキを4等分に切り分けていると若干引き攣った笑みを浮かべながらペンシルゴンはその検証の結果を話し始める。
「結論から言うと、今の私達にとってはあれは観賞用以上の価値はないね」
「その心は? ほい、これペンシルゴンの分ね」
「えー私そっちの果物が多い方がいいー。簡単に言うと、動力源がない」
「動力源? オイカッツォ、フォークくれフォーク……投げるな!」
「しれっとキャッチしてるくせに……つまりただの置物?」
「そこまで見てなかったから気づかなかったな……なんてアイテムが必要なんだ?」
雑に甘いバースデーケーキをパクつきながらペンシルゴンに話の続きを促す。
「うん、特に戦術機系のゴーレムやパワードスーツなんかは「規格外エーテルリアクター」ってアイテムが必要みたいなんだけど、入手方法がサッパリ分から……」
「俺それ持ってるんだけど」
「ぼっふ!」
「うっわ汚ねぇ! 俺の顔に向けて吐くなよ!」
「きったねぇな反省しろよ鉛筆!」
「ゲッホゴホ! ゲームなんだから実際に飛び散ってないでしょ! 反省はしてるっての!!ってか持ってるぅ!?」
バースデーケーキを口から凄まじい勢いで噴き出したペンシルゴンがいつもの不敵な態度が消し飛んだ様子でオイカッツォへと迫る。
オイカッツォはオイカッツォで困惑したような様子をしつつ自身の言葉を裏付ける為に口を開く。
「ほら、俺ってあの戦いでほとんど騏驎と戦っていたからなのか、報酬で「規格外エーテルリアクター(破損)」ってのを貰ったんだよね」
「でかした馬に縛り付けられてた人」
「見直したよ緊縛しながらロデオしてた人」
「ナイスだ緊縛プロゲーマー」
「場合により俺はモデルでも顔を重点的に殴るよ?」
歪み散らかした男女平等、俺は嫌いじゃないよ。それにしても……壊れた神代文明の道具って……うん。
「なぁサンラク、もしかしなくてもさ……」
「俺もおんなじことを思ってるよ」
「え、何々どうしたの?」
「先に言っておく、口の中のものを飲み込め」
「オッケー」
「確証はできないが、破損した神代のアイテムを修理できるアテがあるかもしれない」
「んぐ、ゔぇ………ふぅ、私達に追い風吹き過ぎじゃない……?」
仮にもトップモデルがゲームの中とはいえ
まぁいっか。ヴァッシュの持つ「神匠」なる職業、その段階が確か「古匠」で、その職業は確か神代文明の道具を扱う職業だったはず。俺とサンラクが辿り着いた考えは要するに、ヴァッシュならばオイカッツォの持つ「規格外エーテルリアクター」を修復できるかもしれないということだ。
「と言うわけで俺達にそのアイテムを預けて欲しいわけだが」
「……条件が1つある」
「条件?」
「聞くだけ聞くよ」
オイカッツォがバースデーケーキの苺っぽい果物を口の中に放り込んで俺達へと告げる。
「お前等が隠してるユニークの発生条件を教えてくれ、そしたら俺はアイテムを預ける」
あーーー、成る程ね?
「カッツォ君それは……」
「はぁー? どうせ俺はユニーク自発できないですしぃー? 他人のユニークに乗っかるしかないわけでぇー?」
「この人面倒臭いこじれ方してるよ!?」
「仮にもプロゲーマーとは思えない駄々のコネっぷりだ……まぁいいけど。ビャッコも良いよな?」
「別に隠そうって考えはそんなにないしな。別に良いんじゃない?」
「えっ」
ふっかけた側が驚くな、どうせ断ると思ってやがったなこの野郎。まぁ俺もサンラクもあんまり明かしたくはないって言うのは事実だが、友達とはいえユニークモンスターに由来するアイテムをホイホイホイホイ預けられるほどこの4人はピュアで真っ直ぐな性格はしちゃいない。であれば誠意は必ず見せるべきであって……オイカッツォとペンシルゴンに俺達2人は厳かにこれまでずっと黙ってきた真実を打ち明ける。
「とは言ってもこれ、って確証があるわけじゃないが……俺の場合はランダムエンカしたユニークモンスター「夜襲のリュカオーン」相手にレベル20以下で五分間ノーダメかつ二百回ほど「
「俺も確証はないけどな。こっちはランダムエンカのユニークモンスター「天覇のジークヴルム」相手にレベル30以下でノーダメ貫き通して「
「はい解散!」
「持ってけバカヤロー共!」
「あいたぁ! んぎゃあ!」
「流れ弾ァ!?」
オイカッツォが投げつけてきた缶詰型のアイテムがサンラクの顔面に直撃、跳ね返ってきたそれが今度は俺の額にクリティカルヒットした。いってぇ……ちょっと体力削れたぞ。
「なんで俺達がキレられるんだよ!」
「そうだぞ!ちゃんと教えたじゃねーか!」
「どうやったら空を飛べますかと聞いたら大胸筋を鍛えようって答えられた気分だよ! くたばれ曲芸お馬鹿!」
「理不尽すぎる!」
「横暴って言うんだぞそれはぁ!!」
うんうんと頷くペンシルゴン、どうやら投げつけてきやがったオイカッツォと同意見らしい。くっっそふざけやがって……譲渡処理を済ませたサンラクが格納鍵インベントリアに規格外エーテルリアクターを放り込み椅子を立て直して座るとペンシルゴンは思い出したかのようにサンラクに問いかける。
「あ、そうだサンラク君」
「なんだよ?」
「預かってた例のもの、返してくれる?」
預かってた例のもの……あぁあれか。反転した秘匿の花園から出る直前そういえばペンシルゴンはサンラクにあれを手渡していたな。恐らくこの4人ともウェザエモン戦以降初めて顔を合わせたってとこだろうから返していないのも当然か。
「ほいよ」
そう言いながらサンラクが自分のインベントリを漁ってゴトリと