シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜   作:トレセン暮らしのデュエリスト

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魔王によるロンダリング講座(受講料15000マーニ)

「なんだっけ? これ借り物なんだっけ?」

 

「そうそう、多分シャングリラ・フロンティア全アイテムの中でも最高クラスのアイテムだと思うよ。何せ金さえ積めばユニークモンスター以上の力だって手に入るからねぇ」

 

国家予算全額ぶち込んでもそのラインまで届くかは微妙だけど……そんなことを宣いつつペンシルゴンは自らの手元に引き寄せた「対価の天秤」を何やら操作し始める。うん、ところで軽く流したけど国家予算全額ぶち込みさえすればユニークモンスター並みのステータスが手に入るのは十分頭おかしいね?

 

「えーと……『天秤は均衡を保つ、経験を価値に、捧げし対価の返却を』…………あれっ、違うか。じゃあ……『天秤は均衡を保つ、過去を価値に、捧げし対価の返還を』……こっちか、うっかりうっかり」

 

いつも見るようなウィンドウとは違い、何やらフレーム部分が豪華になったウィンドウを弄っていたペンシルゴンが操作を終える。その次の瞬間ペンシルゴンの身体から光の粒子が出てきて天秤へと吸い込まれ、一瞬の発光を経て目の前に小さな花飾りと本が現れた。

 

「極論インベントリアは取られても構わないくらいの心構えだったんだけど、呪いの装備じみた装備欄潰し効果なだけあって、PKKのペナルティでも没収されなかったんだよねぇ……とはいえ、これだけは絶対に取られたくなかったからさ、()()()()()()しちゃった」

 

「ロンダリングって?」

 

「んー? まぁ要するにPKのペナルティから自分の所有物を守る小技的なものだよ」

 

「あぁ、それが前に言ってた抜け道ってやつ?」

 

プレイヤーキラーがプレイヤーキラーキルされた場合、つまりはペンシルゴンがサイガ-0にキルされたのがこれに該当するのだが、こうなった時にその時点でプレイヤーキラーが持っていたアイテムはその瞬間倒したプレイヤーに所有権が移る。ただし落としたものをその場で回収しなければその内アイテムの所有権は誰のものでもなくなり、そのタイミングでプレイヤーキラーが倉庫に預けていたアイテムやら含めて丸ごと勝手に売り出されてしまう……それがペンシルゴンが俺達3人に語った簡単なPKKの概要である。

 

「プレイヤーキラーのペナルティはだいたい2つ、殆どのNPCからの好感度が最低値になるのと、罪状……要するにどんだけPKしたかによって増えていく罰金があるわけ。罰金はPKプレイヤーのカルマポイントに比例する懸賞金と同じなんだけどこれは今は関係ない」

 

ここで最も厄介になるのが罰金制度、売り払われたアイテムの総額が罰金から差し引かれるのだが罰金が残っている限りはどんな手段で入手したお金(マーニ)であってもその全てが強制的に徴収されるらしいのだ。

 

「ん?あれ、となるとその装備はどこから調達してきたんだ?」

 

まさかもう既に何らかの罪を……?という疑念の目を向けた俺に対してペンシルゴンがないないと首を振る。

 

「いくら私でもPKKされた直後にPKなんかしないよ、それにはっきり足を洗うって言ったしね」

 

「それもそうか」

 

流石に地獄の悪鬼羅刹共も顔合わせた瞬間泣いて逃げだすような魔王でも出所してすぐにそんな非道は働かないよな……となれば今ペンシルゴンが身につけている装備はクエスト報酬とかその辺の類か?

 

「ちょっとセカンディルでNPC脅してモンスターのアイテムと物々交換しただけだよ」

 

「ペンシルゴンさん、殺してないからセーフじゃないんですよ。まず脅すなって話ですよ」

 

前言撤回、やっぱりこいつは魔王だ。生かしちゃおけない魔王だ。少なくとも生まれる時代を盛大に間違えている可能性はある。

まぁその話は置いといて、そういうPKを懲らしめる為に作られた徹底的な自己破産の差し押さえからアイテムを守る小技が「ロンダリング」と呼ばれる小技……というか、テクニックなんだそうな。

 

「でもまぁこれがなかなか複雑でね、他者にアイテムを譲渡するだけじゃあ普通に売り払われるんだよね」

 

つまるところサイガ-0にキルされる前の時点でペンシルゴンがサンラクに天秤どころか自分の所持しているアイテムの所有権全てを譲ってもPKKされて暫く時間が経った時点でそのアイテムは差し押さえの対象となり消えてしまうと言うことだ。まぁその程度で逃れられるペナルティなら実装しないほうがまだマシだろうしな。

 

「じゃあその天秤は? なんで消えてないのさ」

 

「そもそもこれは私のじゃないから。所有権は「黄金の天秤商会」ってNPC組織にあるからね、仮にあの時私が持っててもオブジェクト化自体はしてもサイガ-0ちゃんのものにはならなかったんじゃないかな」

 

ペンシルゴンが言うにはここから先こそが「ロンダリング」のミソらしい。要約すれば譲渡程度では履歴を辿られてアイテムを容赦なく売り払うらしいのだが、「PKKされた時点で完全に所有権を放棄したものはその対象外となるらしい。つまり強制売却のイベント自体が発生しなくなるとのことだ。

 

「この「遠き祈りの花飾り」は今さっきまで対価の天秤の効果で捧げられた状態……つまり私の手からは離れた状態だった。遠き祈りの花飾りを捧げた対価として適当に幸運の追加パラメータを貰っていた私は、花飾りの所有権をこの天秤に譲っていたわけ。さらに言えば天秤に捧げられたアイテムは一週間の間は対価を支払えば返却が可能とはいえ、物質としてこの世界に存在していなかった。だからアイテム差し押さえの影響を受けなかったワケ」

 

「……成る程ね、それを今の操作で返して貰ったわけだ」

 

「これと「真理の書「墓守編」」を取り返すために過去(レベル)を40も消費しちゃったけどね……全く、飛んだ暴利を吹っかけられたよ」

 

「残念なお知らせだペンシルゴン、真理書の方はネタバレ込みの攻略本だ」

 

「マジかよちくしょう!!」

 

心中お察ししますぜ。

 

頭を抱え机に突っ伏していたペンシルゴンだったが、切り替えたのか真理書をしまって花飾りを装備する。

 

「ついでに言えば、そもそも私は全財産をウェザエモン戦のために天秤(こいつ)にぶち込んだからなくなるアイテムも殆ど無し。さらに言えばこれを借りるために担保として「黄金の天秤商会」に預けたメイン武器は天秤を返すまで所有権は完全に商会にあるわけでぇ……要するにペナルティの差し押さえって完全に市場に流しちゃうか、この世から物質的に消してしまうかすればすり抜け可能なんだよねぇ」

 

「うーわ、やり口が姑息だわ姑息」

 

あの時の足を洗ってまっさらに発言はどこに行ったんだお前、肝心のメイン武器と重要アイテムだけはがっちり守ってんじゃねーか。

 

「ちなみに罰金はどれくらいあるの?」

 

「ざっと五億マーニかな」

 

「ひぇっ、ごおく……」

 

「お金は貸さないぞ」

 

「借りない借りない、頑張れば返せない額でもないし。ウチの愚弟なんか多分兆とか行ってるよ、あいつレベルの低いプレイヤーしかいないクランとかも調子乗ってリスポンキルしまくってたし」

 

兆かぁ……そっかぁ……返済し切る前にゲームが終わらないかなそれは。まぁ5億マーニを簡単に返せると言い切るペンシルゴンも大概な気がするが。

 

「今回のウェザエモンとの戦いで分かったんだよね私……ユニークモンスターは()()()()

 

「…………ふぅん?中々簡単そうに言うなぁ?」

 

まぁ実際問題それは事実だ。インベントリア内に入っているアイテム1つでも売り払えばペンシルゴンの背負っている借金の4割くらいはあっさり返済できるだろう。ウェザエモンと同列の残りのユニークモンスター6体も今回と同等かそれ以上の報酬があるのはかなり期待できる。

 

「それを踏まえて私から提案があるわけ」

 

「インベントリア内の奴の売却に関しては要相談な」

 

「サンラク、こいつに交渉させるとか敗北確定じゃん」

 

「何でわざわざ負け戦に手を出すのか……鳥頭だからか」

 

「いっぱいお話ししようねぇ……? じゃなくて、私からの提案ってのはさ、この4人でクランを結成しない?」

 

ほう、クランとな。確かに何度か関わったことがあるが俺自身には縁遠い……というか、絶対にないと思っていたものだ。まぁそもそもクランクランと言われてパッと思いつくのが阿修羅会や黒狼などの大規模なそれこそ本物の組合(ギルド)ばかりだったので半分忘れかけてたがクラン自体は別に少人数でも全く問題ないんだよな。

 

「別にいいよ、俺は特にどこかに所属するわけじゃないし」

 

「俺も問題ないかな」

 

「俺も同じく」

 

「ハイ決まりっ! 話が早くて本当助かるよ」

 

さて、と俺達4人は1度休符を挟むかの如く息を吐き……

 

「クラン名を決めたいと思います。私からは「ペンシルゴンと便利なパシリ達」で」

 

「それでいいよ」

 

「何それ面白そう」

 

「クラン「ペンシルゴンちゃんと便利なパシリ達」結成だな」

 

「冗談として流して欲しいなぁ!!」

 

冗談として流して欲しいならまず口にすることを止めるんだな。うーん、そうだなぁ。

 

「取り敢えず全員外道だし「外道衆」でどうよ」

 

「どっかの特撮に似たようなのなかった?却下。……クソゲー連合なんてどうだろう」

 

それこそお前1人でやってろ鳥頭。

それ以降も色々と案が出た、例を挙げるとこんな感じだ。

 

ウェザエモン……武士を倒したので「打首獄門」、物騒すぎるので却下。

ユニークモンスターを倒した4人なので「ユニークハンター」、安直すぎるしシンプルにダサいので却下。

お金に困っているので験担ぎも含めて「ゴールドラッシュ」…………借金苦に悩まされてるのお前だけだろうが、NG。

 

「良いじゃんゴールドラッシュ……」

 

「借金背負ってるのはお前だけだ、やりたきゃ1人でやれ」

 

うーーん、なんか適当にかっこいい……うーん。どうせ俺達全員集まること自体稀だろうし……旅?それと………旅から来てかっこよくなる単語……あ、なんかあったなそう言えば。

 

旅狼(ヴォルフガング)なんてどうだ?」

 

「黒狼と被ってない?」

 

「なーに言ってんだ、ユニークモンスター倒してるこっちが完全上位互換だろ……しかもこっちはドイツ語、かっこよさと語呂の良さが大違いだろ」

 

実際黒狼って正式名称はヴォルフシュヴァルツって名前なのに語呂が悪くて黒狼(こくろう)って呼ばれてるらしいしな。クラン名くらいちゃんと覚えて欲しいって言うのが前提にあるんだよ。誰に覚えて欲しいってわけでもないが。

 

「成る程、いいねそれ」

 

やべ、外道がなんか邪悪(意味深)な笑みを浮かべてやがるぞ。兎にも角にも他の3人も特に反対理由を示さなかったので同意した。というわけで……

 

「奇しくもクラン誕生のバースデーケーキになったわけだ」

 

「結果オーライではあるけどなんで俺たちバースデーケーキなんて頼んだの……?」

 

「気の迷い以上の意味はないだろうねぇ……おっ、来た来た」

 

「んじゃま乾杯しますか……音頭はまぁ、ペンシルゴンで良いだろ」

 

いつの間にやらしれっと注文していたのだろう果実酒(ノンアルじゃない)が4人の手にそれぞれ渡り、ペンシルゴンが音頭を取る。

 

「それじゃあクラン「旅狼(ヴォルフガング)」の誕生を祝ってぇ……乾杯!」

 

「「「乾杯」」」

 

木のジョッキに注がれたそれをグイッと呷って出てきた感想をここで1つ……

 

「雑に甘い」

 

「果汁をガンガンぶち込んだ麦汁(ばくじゅう)?」

 

「何だそりゃ。聞いたことないぞ」

 

「ビールからアルコール抜いたもの」

 

何そのハンバーガーからパティ抜いたみたいなやつ。

 

「ところでクランを結成するにあたり、重要なことが一つ……誰がクランのリーダーになる?」

 

ここで4人の中でほぼ同時に全く同じリズムが刻まれる。即ち。

 

「最初は」

 

「ぐー」

 

「じゃん、」

 

「けん!」

 

俺、パー

サンラク、パー

オイカッツォ、パー

ペンシルゴン、グー

 

「3回しょ」

 

「却下」

 

「畜生!」

 

「諦めろよペンシルゴン、そもそも俺達に勝てるわけがない……そうだろ?」

 

「そうだった……そもそも君ら3人にじゃんけん(反射速度)で勝てるわけがなかった……!」

 

今更気付いたのかバカめ。この勝負はお前が確実に負ける出来レースだったんだよ。

 

「奇しくも「ペンシルゴンちゃんと便利なパシリ達」そのまんまな形になったな」

 

「押忍!ペンシルゴンの姉御ォ!」

 

「鉛筆の姉御ァ! 焼きそばパン買ってきましょうかぁ!?」

 

「肩お揉みしますよ鉛筆姐さん!!」

 

「ちょっ、カッコつけた愚弟みたいなこと言わないでよ恥ずかしい!」

 

悲報オルスロット君、生き恥扱い。

 

 

◇◇◇◇

暫く個室で騒いだ俺達がそれぞれの用事で解散という運びになった時に起きた事件が1つある。

 

「クランのエンブレムとかどうする!?」

 

「割と俺はその辺どうでも良いんだけど……」

 

「俺も同意かな、何でも良いっていうか」

 

「えー?せっかくクラン作るんだし考えようよー」

 

やけに乗り気だなこいつ……そんな時、蛇の林檎のドアがガチャリと開いた。

 

「うわ、この店人少なっ」

 

…………今まで俺達がここに足を運んでいた理由には、ペンシルゴンがプレイヤーキラーだったからというのともう1つ、俺とサンラクが追われているから、というのもあった。そしてプレイヤーが来ないこの店だからこそ、少々油断していた節がある。

 

「君達さぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。この前アナウンスされたユニークモンスターを倒したっていう4人組を捜しててね」

 

当確だなぁ……

 

「名前がアーサー・ペンシルゴン、オイカッツォ、サン、ラク……ビャ……ッコ…………」

 

恐らくこいつには俺たちのプレイヤーネームがばっっちり表示されているだろう。店内に一瞬の沈黙が広がる。さてどうする?こうする。

 

「知りませんねぇ!!そんな奴等ぁ!!!」

 

いざ逃走だコラァァァァ!!!

全速力で出口に向かって突進、その探しに来たプレイヤーを吹っ飛ばし屋外へ脱出し全速力でダッシュする。

 

「おいおいおいクランリーダー殿ォ!?貸し切りじゃないの!?」

 

「一言もそんなこと言ってないんだよねぇ!極端に人の出入りが少ないだけで!」

 

いや兎に角まずは逃げ切るしかない、オルトはいつもの転移門の近くで待ってくれているんだからさっさと視界からフェードアウトしてラビッツに逃げ込むしかない……!

 

「リアクターはサンラクに預けとく!先に離脱するぞ!」

 

「あいよぉ!」

 

「よろしくね!」

 

「んじゃまた」

 

あわよくばサンラクの方を追ってくれ……どうせお前ら黒狼はサンラクが1番のお目当てなんだろ!?

 

屋根を伝い壁を登り薄暗い路地を駆け抜け転移門へ辿り着く。木箱の上に丸まっている何か白いものを見つけ俺は全力で叫んだ。

 

「オルトッッ!何も聞くな、ゲートを開けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「…………?分かりましたが」

 

勝った、サンラクが間違いなく囮になってくれているだろうし確実に逃げ切ったぞ!!

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