シャングリラ・フロンティア〜音ゲーマー、神ゲーに挑まんとす〜 作:トレセン暮らしのデュエリスト
アイシクル・シープが吼える。少なくとも羊がモチーフになっている筈のモンスターではあるが今のは鳴き声とかそんな甘っちょろいものじゃなく、俺達を確実に叩き潰すという殺意がたっぷりと込められた紛れもない咆哮だ。
「来ます!全員回避を!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉ
視界のほぼ全てが白い今この状況において、全身が全く同じ
「っ………………!思ってたより厄介……!」
アイシクル・シープの角に体を貫かれるという最悪の事態、それに関しては俺はまだ何とかなるとはいえ他のプレイヤー3人とオルトがどうなるかわからない。
それに氷雲に覆い隠された身体がどれくらいなのかの判別が非常につきづらいので必要以上の回避を迫られる。
(
泥沼という移動を制限してくるエリアから放たれるピンポイントのカチ上げこそが泥掘りがソロ殺しとされている所以、それに対してアイシクル・シープは物理職であれば正面切って殴りかかるしかないという方向でメタってくるのか。
しかも氷雲という触れたら明らかにこちら側にデバフをかけてきそうなご大層な名前がついた雲を纏っているんだから始末に負えない……俺1人じゃ、間違いなく苦戦してたな。
「お願いしますリーナ氏!頼んだオルト!」
「「はい!!」」
「私達は2人の援護に回りましょう!アイシクル・シープを撹乱するんです!」
「「分かった!」」
本来ならばこれは野良で組んだ臨時パーティー、俺が指揮を取る必要なんか微塵もないんだが……割と頼られてしまっているからこういうこともした方が良いのだろう、少なくとも俺がこの3人組側なら割とありがたい、責任を全てそいつに押し付けられるからな。
「ビィラックに言われた素材にはなぁ……お前のその角も入ってるんだよ!最良の強化のために生贄になりやがれ……!」
アイシクル・シープの渦を巻きつつも正面に真っ直ぐと、そして長く伸びた角は更なる芯となるらしい。であるならば角を落とすまで永遠に殴り続けるのみだ。
アイシクル・シープの周りを駆け回り、俺を突き刺そうとしてくる角を飛んだりしゃがんだりスライディングしたりと躱していく。角折れたりしないかなとその最中に何度か攻撃を仕掛けたりもしてみたが思ったより頑丈で折れそうにない、強化の甘い沼潜の短刀君じゃある程度は仕方ないとはいえ覇兎を使いたくなってくるなぁ……!
(いや、覇兎見せたところで俺がビャッコだってバレることなんてないだろうし良いんじゃないのか?)
よくよく考えれば逆に何で使わなかったのか、そうじゃん覇兎は外道共以外には見せていないんだから使ってもビャッコだってバレないじゃん。
おっしゃ行くぜ!覇兎【金龍】、【赫竜】!!
「おっしゃ行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
アイシクル・シープの長く鋭い角を躱していく、あのウェザエモンの断風やらなんやらの超速即死攻撃を見た後だからか一切の恐怖は無い。
どれだけ大きかろうがどれだけ一撃が重かろうが、その全てはウェザエモンには遠く及ばないだろう。
「おら喰らえっ!!」
ん?なんかおかしいな……あっ、レベル!こいつ俺より下なのか、【赫竜】のゲージが増加しない!
今からもう1度黒染矛双に切り替える?いや、ここまで接近しているから展開中の隙に殺されかねない?だったらこのまま……あ、違うじゃん。
頭にスキルが1つ浮かぶ、ぶっつけ本番だが……やってみようか!
覇兎をインベントリアに放り込み、黒染矛双を取り出す。その展開中の隙をアイシクル・シープはしっかりと狙ってきやがった。良いAI積んでるねほんと……だが、これでも喰らえ。
「赫衣竜装……【戦燼】!!」
全身が赫いエフェクトに包まれる。
それに従って俺は躊躇うことなく両手を身体の前で交差し解き放った。
「メェェェェェェェェェェェェ!!??!」
「はっはっはっ!ここまで使いやすくなってるとはなぁ!?」
「えっ、何それ!?」
トーマ氏が驚きの声を上げる。無理もないな、今の俺の腕周りを見てノーリアクションで通す方がおかしいと思う。
今の俺の腕回りというか腕の前は何というか……うん、
正直俺もちょっとビックリした。スキル発動して補助に従って気合い入れて腕クロスしてバッてしたら目の前に竜の腕が出てくるんだもん、ビックリしない方がおかしい。
ただそれはバッチリ役目を果たしたようでアイシクル・シープの巨体がのけ反った。よっし、黒染矛双の展開完了!顔面ズッタズタにしてやるからな!!
◇◇◇◇
(何やってるんですかね
自らが今同行している狐の面を被った上裸の変態……今は化かしの枝葉を使っている為真っ当に誤魔化せている隠れ変態と言った方が正しいのか、少なくともそんなニンゲンが雄叫びを上げながらアイシクル・シープ相手に斬りかかり、かと思えば突然赫い竜の腕を顕現させたりとしている中オルトは半目になりながら詠唱を行なっていた。
彼は自分自身で何と言ったのか忘れてしまったのだろうか、魔法使いたる自分ともう1人のニンゲンに任せると言ってはいなかったか。そんなことを思いつつ、出来るだけ手早く倒したいという彼の意思も察してオルトは可能な限り迅速に詠唱を終わらせようとしていた。
今の自分だと、【
(【
「用意できました」
オルトが魔術を発動する為に指で方向指定を行い更に細かい微調整を目視で行う。
(【
「発射します……【マジックエッジ】!」
着弾を確認しすぐさまマナポーションを飲もうとするオルト、だがしかし。
「メェェェェェェェェェェェェッッ!!!!!」
「…………っ!!」
マジックエッジの直撃を受けたアイシクル・シープが苦悶の声を上げ地団駄を踏む。それにより波を形成した純白の雲が5人に襲い掛かり、それを諸に受けたオルトが雲に足を取られ尻餅をつく。次の瞬間手からマナポーションがすっぽ抜け雲に落下、そのまま沈み込んで行方がわからなくなり……
(今のっ、最後の1本…………!?)
不味い、そう思う暇もなくボフンっとオルトを中心として煙が立ち上った。
「――――――――あ」
「え…………兎!?」
己の正体を晒してしまったのだった。
◇◇◇◇
やばい。
初めに思ったことは単純にそれだった。オルトの【
オルトのサイズは正直言ってそこまで大きくない、というかここの他と比べて深い雲海では埋まってしまうくらいのサイズだ。つまりオルトの視界は今雲海によって封じられていると言って良い。そんな中でアイシクル・シープのヘイトを買ったんだ、オルトがいくら高レベルと言えども大ダメージは免れない……最悪の想定すらできてしまう。
「オルト!!!!」
俺のやるべきことは何だ?オルトをあの羊野郎に踏み潰されないようにすること!
その為にどうすれば良い?こうすれば、良い!
「お前より早く目的地に辿り着けば良いんだろ……!?」
マッハレッグ、アサルトセンス、リミットオーバー起動。
マッハレッグは言わずもがな、アサルトセンスは直線移動であればあるほど速度が上がるスキルでリミットオーバーは時間が経過すればするほど速度と攻撃力が上がるスキル!まだそこまで戦闘時間は長くないからバフもそこそこだが今はそんな贅沢を言ってられる時じゃない!
「ドリフティングフット!!!」
現実の人体なら絶対に不可能だろう挙動……本来人の足では到底不可能なはずの摩擦と慣性を利用して行われるF-1レースなんかで見られる軌道……まさしくドリフトを行い今にもオルトを踏み潰さんとするアイシクル・シープより早くオルトを抱き抱え、ついでに硬直していたリーナ氏も回収する。オルトはともかく何でこの人まで固まってるんだ?マジで何で?
「大丈夫かオルト!」
「すみません、あんな初歩的なミスを……!」
「しゃーない、お前がホイホイあんなミスしないのは俺が1番よく分かってるんだから。切り替えていこうぜ!」
「………………っ、はい!」
「えっ、あの、トラノスケさん………?何で上半身裸なんですか……?」
リーナ氏が恐る恐ると言った感じで俺に声をかけてくる。ん?上半身裸?
下を見下ろせばそこには見慣れた(見慣れたくなかった)俺の生まれたままの姿をした上半身……頭をスッと触ってみればそこにあった筈の化かしの枝葉がない。さっきのでどっかに吹っ飛んでいったか。
「………………あーーー…………うん、後でちゃんと事情説明します…………」
「あっ、はい…………」
やめてください、その何とも言えない顔で見られるのが1番キツいです。
こんな目で見られるのも全部あの金ピカドラゴンが全部悪いんだ……くっっそ何で呪いなんか付与しやがったんだマジであのクソドラゴン許さねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
「メェェェェェェェェェェェェ!!!」
「うっせぇこのジンギスカン野郎がぁぁぁぁ!!!」
全力で叫びつつ真正面から斬りかかる。もろに受けたアイシクル・シープが虚を突かれたせいか転倒状態に移行し、そこに容赦なく俺は攻撃を仕掛けていく。
「メェメェメェメェうるさいんだよジンギスカンテメェ!捌いて焼肉の肉にしてやるからなぁァァァァァ!!」
「えっ!?トラノスケさん!?なんで上裸なの!?」
「上裸……私達裸の人と会うこと多いね……」
なんか今クソほど面白い発言を耳にした気がするが気のせいだろうか、今はとにかくこのクソ羊に向かって
そのあと我に帰った他の3人も一斉に攻撃を叩き込んだことによりアイシクル・シープはあっさり倒すことに成功したのだった。
◇◇◇◇
「いやもうほんと、黙っててすみませんでした……」
「何も気にしてないので大丈夫ですよ!?顔上げてください!」
アイシクル・シープとの戦闘が終わって次の街に向かう道すがら3人に頭を下げる。いや、半分騙すような形でパーティー組んだから凄い申し訳なかったんだよな……呪いの影響で俺より弱いやつ(群れは除く)を散らせたから必然的に格上ばっかりと当たる羽目になってただろうし……なんなら自分で立てておいた計画自分から破綻させちゃったし…
「いや、それにしたって格上戦闘はきつかったですよね……素材渡すのでそれで手打ちってことに……」
「ビャッコさんのお陰でボスモンスター討伐できたようなものですから本当大丈夫なんですよ!?私達何も気にしてませんって!ねぇ!」
「俺も何にも気にしてないぞ!」
「私もです!それに以前半裸の人と出会ったので正直耐性が付いたと言いますか……」
話を聞いてみればこの3人組、以前サンラクと出会ったらしい。半裸からの上裸ってそれ普通に嫌じゃないかなぁとは思ったが……まぁ、そこら辺は別に良いのか?
その後テンバートに辿り着いた俺達は解散という運びになった。のだが、罪悪感を引きずったままゲームをし続けられる気がしない。一度ログアウトして……素振りかランニングでもするか。